アースラで事件が起きる数分前、海鳴市はまだ平和だった。
私立聖祥大附属中学に通う高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやての3人は、自分たちが謎の組織に狙われていることも知らず、友人のアリサ・バニングス、月村すずかと共に談笑しながら下校していた。
「でもいいの? 今日も時空管理局の任務があったんでしょ?」
アリサが言った。
「うん、最近早退や欠席が多くて先生から注意されてたから・・・」
「クロノや母さんもしばらくは学業に集中しなさいって言ってたし」
「テストの内容も最近は特に難しく感じるようになってきたしなぁ。・・・はぁ、勉強はいややわぁ」
学業と任務を両立させることは大変難しく、嫌でも早退か欠席せざるをえなかった。それは単位や内申に少なからず響いており、高校に進学する必要がないとは言え、卒業が危ぶまれるレベルにまで達していては悠長に構えて入られない。それを危険を感じたクロノは、任務に参加せず、しばらくは学業の方を優先するように3人に指示を出したのだ。
3人は任務がないことに些か物足りなさを感じたが、仲の良い友人たちと登下校を共にし、学園生活を過ごす事で青春というものを実感していた。
「じゃあ今日は皆で翠屋でも行くわよ」
「賛成っ」
談笑しながら下校する5人は、皆が皆美少女であり、世の男が放っておかないであろう美しさであるが、何故か5人揃うと妙に近づきがたい雰囲気があった。しかし、それでも遠慮なく彼女たちに近づく者が1人だけいた。
「すいません、ちょっと道を尋ねたいんだが・・・」
後ろからいきなり尋ねられ、少し驚きながら彼女たちは振り返った。
そこには長身の男性がいた。185cmくらいはあるだろう。肩幅も広く骨太な男は身長以上に大きく見えた。中学生で小柄な少女である5人は、首を大きく曲げて見上げる形になった。
男は整った顔をしている。学校でイケメンともてはやされる男子はなよなよした女顔のような印象を受けるが、それとは違う男前な顔をしている。しかしその顔付きは日本人というより外国人に近かった。
外国人風の大きな男性に突然話しかけられ、彼女たちは戸惑ってしまった。
「えぇ、構いませんけど・・・」
アリサが代表して、男の前に出た。大企業の社長の娘であるアリサは、社交パーティーなどで似たような男性を何度か見たことがあり、5人の中で一番早く戸惑いから回復できた。
「翠屋って喫茶店なんだが・・・知らないかい?」
「あ、それ私の家が営業してるお店です」
聞き覚えのある場所にいち早く反応したなのはが言った。
「そうなのかい? それはよかった。ちょっとこの地図にルートを書いてくれないか。ペンを貸すよ」
「えぇと、私たちも今からそこに向うので・・・よかったら一緒に行きませんか?」
「ちょっと、なのはっ」
「別にいいよね、アリサちゃん?」
「うっ・・・み、皆がいいなら・・・いいわよ」
アリサは条件付で渋々了解した。なのはは皆に確認を取ると、全員が良いと言った。
「みんなも良いと言ってますし・・・どうですか?」
「いや、でも、邪魔じゃあないか?」
「そんなことないですよ」
「そうかい・・・じゃあお言葉に甘えるとするよ」
「決まりだね。私は高町なのは、皆は左から順にアリサちゃん、すずかちゃん、フェイトちゃん、はやてちゃんだよ。お兄さんは?」
「名前まで・・・君は中々踏み込んでくるね。・・・俺はジョシュアだ」
「ジョシュアさん?」
「あぁ・・・『ジョシュア・空条・アナスイ』」
自己紹介を済ませた5人は、ジョシュアを交え、6人で一緒に翠屋を目指していた。
「空条って、日本の姓よね? ハーフ?」
アリサが言った。
「いや、ワンエイスだ」
「ワンエイス・・・?」
「8分の1ってことだな。祖父が日本人とアメリカ人のハーフ。母がアメリカ人と日本人ハーフのクォーター。そして俺は日本人クォーターとアメリカ人の子供だ」
「へ~、初めて知りました」
「中々見んからなぁ~」
ジョシュアを見る5人の目は、珍獣でも見つけたような目だった。
ジョシュアは、そういった目で見られることに慣れているので今更気にしなかった。
「ジョシュアさんって何歳なんですか?」
今度はなのはが尋ねた。
「15だ」
「「「「「えッ」」」」」
ジョシュアの一言は場を凍りつかせるには充分な破壊力を持っていた。
長身の子供なら多くいるが、ジョシュアの態度や顔を見ると、とてもじゃあないがなのはたちと同い年には見えない。低く見積もって19といったところだ。
「・・・・意外か?」
「い、いや、そんなことないです――――ないよ!」
「な、なのは、いきなり言葉遣い変えたら逆に変でしょっ!」
「いや、見えへんなぁ、ほんま」
「はやてちゃんはもう少し気を遣おうよ・・・」
ジョシュアとしてはこういった態度も見慣れているので今更気には留めない。しかしなのはたちは妙に気を遣っていた。
予想外なこともあったが、ジョシュアはこの集団に馴染んでいた。6人は楽しいひと時を過ごしていた。
しかし、それも長くは続かない。
なのはたちは気がついていない・・・この6人を、遠くから監視している者がいることを・・・!!
*
とあるビルの屋上。そこには3人の男女がいた。
1人は全身黒色の趣味の悪い革ジャンのようなものを着た上にエジプト衣装を着込んだ男、もう1人はタンクトップにロングスカートという奇妙な服装の女、そして最後の者は『人』ではなかった。王冠型の仮面が頭からすっぽりはまっている顔、一見すると中世の戦士風の服装、そして全身に走る塩基配列の描かれた包帯状のライン。そう、『人』ではない・・・『スタンド』だ。
「見つけたぜ・・・アレが高町なのはだ」
「フェイト・T・ハラオウン、八神はやても一緒・・・手間が省けていいわね」
「傍にいる3人は一般人か・・・どうしますかい、『ホワイトスネイク』?」
『ホワイトスネイク』と呼ばれたスタンドは、目標の3人ではなく、その傍にいるジョシュアの方を見ていた。
「やはり・・・現れたか・・・『空条ジョシュア』」
『ホワイトスネイク』はジョシュアから目を離すことなく、呟いた。
「え? なにか言いましたか?」
「なんでもない・・・目標の3人以外は好きにしていい。邪魔ならば3人と共に始末しろ」
男はその言葉を聞いて、口をにやつかせた。
「えぇ・・・えぇ、分かったわ・・・『ホワイトスネイク』、『レディオ・ガ・ガ』から合図が届きました。あっちは既に終わったそうです」
「よし、準備は整った・・・アフムド・アブドゥルは私と共に来い、ピッツァ・モッツァレラは結界を張れ」
「「OKッ!」」
アフムド・アブドゥルと呼ばれた男と『ホワイトスネイク』はビルから飛び降り、ピッツァ・モッツァレラと呼ばれた女はデバイスを起動し、結界を張った。
*
「ッ!!! これは・・・魔力反応・・・結界ッ!?」
「町全体を覆ってる・・・」
「いったい何者や・・・」
なのは、フェイト、すずかの3人は状況をいち早く察知し、周囲を警戒する。
一方で魔導師でないアリサ、すずかは突然のことに理解できない。
「なのは、これって魔法関係のアレよね・・・前にもあった・・・」
アリサが不安そうな表情になってなのはに言った。
「大丈夫だよアリサちゃん。すずかちゃんと一緒にジョシュアくんを連れて遠くまで逃げて」
「突然、人の気配がなくなった・・・これは、まさか・・・」
ジョシュアは何かを考えるように俯いた。そのジョシュアの行動を見て、不安がっているのだとに思ったなのはは、ジョシュアを気遣うように見た。
「ジョシュアくん、巻き込んじゃってごめんね。あとで説明するから、今はアリサちゃん達と一緒に逃げて!」
「行こう、なのは、はやて」
「「うん!」」
フェイトとなのはとはやては走り去っていった。
「じゃあすずか、私たちも急いで離れよう!」
「うん!」
アリサは、なのはとの約束を守って、ジョシュアを連れて行こうとするが、ジョシュアは動こうとしない。
「ちょっとジョシュア、なにやってるのよ!」
「・・・・こ・・感覚・・・けた・・ほう・・・」
「なにブツブツ言ってるのよ。ここは危ないの! 説明ならちゃんとしてあげるから今はいう事を聞いて!」
「ね、ねぇアリサちゃん・・・ジョシュアくん、様子がおかしいよ」
ジョシュアは動こうとせず、しきりに左肩の付け根の部分を触っている。
「この感覚・・・見つけた・・・これが魔法・・・ここにいるな、『ホワイトスネイク』・・・!」
「な、なにを言ってるの・・・あんた、魔法を知ってるの・・・?」
「いや、話に聞いていただけだ。初めて見る。・・・アリサ、すずかだったな? 先に行ってくれ」
ジョシュアは遠くに見えるビルを睨みながら言った。
「さ、先にって・・・あんたはどうするのよ」
「そうだ、危ないよ」
「俺はヤツを・・・この先にいるヤツをぶちのめしてから行く!」
そう言うと、ジョシュアは走り出した。アリサとすずかが呼び止めるが、ジョシュアはそれを無視して走り続けた。
「『ホワイトスネイク』・・・返してもらうぞ、父さんと母さんの『スタンド』・・・『ストーン・フリー』と『ダイバー・ダウン』の『ディスク』を・・・!」