魔法少女は動かない   作:鷹売りのタカさん

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奪われた力

なのは達が胸騒ぎを感じてから更に速度を上げたこともあって、目的のビルとの距離は目と鼻の先というところまできていた。

 

はやては依然変わらず、シグナム達に念話を送っていたが一向に反応はなかった。

 

先頭に立って飛んでいたなのははビルに目を向けると、驚愕に目を見開き、ビルの屋上を指差しながら言った。

 

「フェイトちゃん、はやてちゃん! あ、あれ!!」

 

フェイトとはやてとリインがなのはの指差す先に見た光景は、結界を張った張本人と思わしき魔道師と、その周りに傷だらけの仲間が倒れているという惨状だった。

 

「シグナムッ! みんなッ!!」

 

はやては動揺しながら叫んだ。はやてにとって、シグナム達は単なる仲間ではなく家族同然の存在だってので、その同様はなのはやフェイトの比ではなかった。

 

はやての叫びが聞こえたのだろうか。倒れていたシグナムが呻きながら起き上がった。それを見てなのは達は少し安堵した。

 

シグナムは激痛に呻き、辺りを見回す。そしてはやての姿を捉えると、声を絞り出すように言った。

 

「あ、主はや、て・・・お逃げ、ください・・・これは・・・この敵は、見えな――――」

 

 

 

「うるせぇよ」

 

 

どこから現れたのか分からなかった。

 

ほんの一瞬の内に、シグナムの背後に男が現れたのだ。全身黒色の革ジャンの上にエジプト衣装を着た奇妙な男――――アフムド・アブドゥルが、音もなく出現したのだ。

 

シグナムは驚きながら振り返り、アフムドに自身の剣型のアームドデバイス、レヴァンティンを構えると、傷による激痛を無視して斬りかかった。

 

しかし、それよりはやくアフムドがシグナムに手を向ける。

 

 

「やれ――――『アングラ』」

 

 

アフムドの呟きがシグナムの耳に届いた瞬間、突然シグナムは吹き飛んだ。

 

 

まるで『姿の見えない何か』に殴られたかのように。

 

 

そして不可解なことに、吹き飛び()()()シグナムは酷い火傷を負っていた。

 

そのままシグナムはビルの屋上の端まで飛ばされた。

 

(なぜだ・・・なぜ見えない・・・? 焼かれている感触はある。しかし、見えない・・・見えない炎・・・魔法とは違う、別の力・・・それに一瞬だけ聞こえた、『アングラ』・・・この力の名称か・・・・?)

 

シグナムの心は疑問で一杯だった。魔力を炎熱に変換するスキルを所持しているシグナムにとって、炎はなによりも馴染み深いものであった。ゆえに並大抵の炎熱攻撃には耐性があるはずだが、この敵の見えない炎はそれを無視してシグナムの身を焼いた。

 

「シグナムッ!!」

 

目の前でシグナムが重症を負わされるのを見て、はやては黙っていられなかった。

 

はやてとリインはアフムドを全員に傷を負わせた張本人と断定し、デバイスを向けた。

 

 

しかし、魔法が放たれることはなかった。

 

 

なぜなら、はやての背後には全身に塩基配列の描かれた包帯状のラインが走る存在――――『ホワイトスネイク』が浮かんでおり、その手がはやての頭を触れており、ディスクを抜き取りかけていたからである。

 

 

「なんで・・・魔法が、出ぇへんの・・・?」

 

はやての言葉に答えることなく、ホワイトスネイクははやての頭から1枚のディスクを抜き取った。それと同時に、はやてのバリアジャケットは解除され、そのデバイス、シュベルトクロイツは杖としての形を失い、待機状態である剣十字の紋章の形になってしまった。

 

なのはやフェイトにとっては、はやてがいきなりバリアジャケットを解除したように見えた。またはやてにとっては、突然魔法を維持できなくなったことに疑問を抱いていた。

 

「八神はやて・・・おまえの魔法が、一番厄介だ。そこの融合騎にも、眠ってもらう」

 

ホワイトスネイクの声は、誰の耳にも届くことはなかった。

 

はやてのもう一つのデバイス、リインフォースⅡは、その色が薄れ、徐々に透明になっていく。

 

「これは・・・マイスターはやて・・・魔法が・・・!」

 

「リ、イン・・・?」

 

はやてはリインに向って手を伸ばすが、その手に触れる前に、リインの姿は消えてしまった。

 

飛行魔法も維持できなくなったはやては、重力にしたがい、そのまま地面に向って落ちていった。

 

「はやてちゃんッ!?」

 

「はやてッ!?」

 

なのはとフェイトは落下していくはやてを見て悲鳴を挙げた。

 

はやては必死に剣十字の紋章に呼びかけるが、一切反応しない。

 

「なんで・・・なんで起動できんの? リインフォース、リインフォース!!」

 

いくら呼びかけても一切反応しない。そうしている間にも、地面との距離は迫っている。なのはとフェイトははやての異変に気付くのが遅れ、助けに行くのが間にあわない。

 

はやてが地面に激突するかと思われたその時、地面とはやての間に網が出現し、落下するはやてを優しく受け止めた。

 

「こ、これは・・・?」

 

「ホールディングネット・・・間に合ったようだな」

 

「く、クロノ君!?」

 

はやてを救った人物はクロノだった。

 

『レディオ・ガ・ガ』の話を聞いて地球に向かい、到着した後すぐになのは達を探し、やってきたのだ。

 

「まさかこっちについて最初に見たのが、落下している君だなんてね。驚いたよ」

 

「ありがとう、クロノ君!」

 

はやては満面の笑みを浮かべてクロノに感謝した。

 

そして、それをビルの屋上からアフムドは見下ろしていた。アフムドは「ヒューッ」と口笛を吹き、にやにやと笑みを浮かべながら楽しそうに見ていた。

 

「ほへー、かっこいいねぇ。王子様登場っ、つーやつか?」

 

そういうアフムドの体に、突然バインドが絡みついた。アフムドは突然の拘束に「お?」と間の抜けた声を挙げながら振り返った。

 

「へぇ、こっちもお出ましかい・・・」

 

アフムドの視線の先には、ユーノがいた。アフムドを拘束したのはユーノだった。

 

アフムドは結界を張っていた人物、ピッツァ・モッツァレラの方を見ると、彼女も同様にバインドで拘束されていた。

 

「君達が犯人か・・・? なのは達の後ろにいる、あの変なヤツも仲間なのか?」

 

「!! そうか・・・おまえも『スタンド』が見えるのか・・・こいつぁ、面白くなってきたぜ」

 

アフムドは気色悪い笑みを浮かべながら舌なめずりをした。

 

ユーノはアフムドの言っている意味が分からなかったが、とにかく尋問を後回しにして、この2人を拘束することを優先した。

 

 

一方のクロノは、はやてに落下していた原因を聞いていた。

 

「いったい何があった? 何故飛行魔法を使わなかったんだ?」

 

クロノの言葉を聞いてはやては表情を曇らせた。

 

「それが・・・突然使えんくなったんや。リインも、いくら呼んでも反応してくれん・・・」

 

「なんだって?」

 

原因ははやて自身も分からない。それどころか、はやて自身が一番知りたいのだ。

 

クロノは周囲を見回すと、上空のなのは達の背後に不気味な存在が浮かんでいるのを見つけた。

 

「アイツか! なのは達は気付いていないのかッ!? あんなに近くにいるのに」

 

「・・・クロノ君、何をゆっとるん? ビルの屋上におった人の他に、なのはちゃん達の傍になんかおるん?」

 

クロノは驚愕した。なのは達の近くに謎の男がいるのは確かだ。しかしその姿を、なのは、フェイト、はやては捉えることはできていない。クロノはこれと同じ状況を数分前に見ていた。すなわち、なのはとフェイトの傍にいる男は自身の部下を殺した犯人『レディオ・ガ・ガ』と同じ、『スタンド』と呼ばれる謎の存在。

 

クロノは、凄まじい敵意をもってホワイトスネイクを睨みつけた。はやては、そのクロノの様子に恐怖していた。

 

 

ホワイトスネイクは、ユーノとクロノが明らかに自身の姿を捉えているのが分かると、にやっと口の端をつり上げた。

 

「クロノ・ハラオウン、ユーノ・スクライアはスタンドが視認できるのか・・・ほんのちょっぴりだが、予想外だったぞ。・・・さて、役者は揃った。高町なのは、フェイト・T・ハラオウンからも、ディスクを抜いておこう・・・」

 

そう言うとホワイトスネイクは、2人の頭に手をかけた。

 

なのはとフェイトは、はやてがクロノによって助けられ、結界を張った女とシグナム達を倒した男がユーノによって拘束されているのを見て事件が終わったと思い、完全に気を緩めていた。彼女達はホワイトスネイクが見えない。ユーノとクロノが怖いくらいの形相でこちらを見ているのは理解できたが、その理由までは分からなかった。彼女達は知らなかったのだ。ユーノとクロノは自分達の背後にいる『敵』を見ていたということを。

 

「なのは、危ない!!」

 

「フェイト、今すぐ逃げろ!!!」

 

ユーノとクロノはホワイトスネイクが動き出したのを見て、必死になのはとフェイトにその場を離れるよう呼びかける。

 

しかし――――既に遅かった。

 

 

「真の恐怖とは『触れられないもの』、未知のものに遭遇することだ・・・。頂くぞ、おまえ達の力を、『魔法を扱う能力』をッ!!」

 

 

ホワイトスネイクは2人の頭からディスクを抜き取った。そして、なのはとフェイトははやてと同様に、バリアジャケットが解除され、デバイスも待機状態になり、地面へと落下していった。

 

「な、なんで・・・!? 急に魔法が・・・!?」

 

「魔力を、感じ取れないッ!?」

 

「くっ・・・ホールディングネット!」

 

クロノは、落下する2人をはやてと同様に網状の魔法で受け止めた。

 

「く、クロノ君・・・ありがとう」

 

「クロノ、魔法が・・・魔力が感じ取れない・・・!」

 

「君達もか・・・リンカーコアに変化があるわけではない・・・どういうことだ・・・?」

 

クロノはなのはとフェイトを調べるが、特に変化を見つけられない。しかし、なのは、フェイト、はやては魔法を使えないと言う。クロノは必死に考えるが、何も手がかりがない状況で、考え出すのは不可能だった。

 

ホワイトスネイクはその様子を見て不気味に笑うと、ビルの屋上でユーノに拘束されているアフムドとピッツァに目を向けた。

 

そして、そのままビルに向って飛び、屋上に降り立った。

 

「くっ・・・チェーンバインド!!」

 

ユーノはホワイトスネイクに鎖状のバインドを飛ばすが、ホワイトスネイクは少し体を横に反らすだけでそれを避け、一瞬でユーノに接近した。

 

「は、速いッ!!」

 

「違う・・・おまえが遅いのだ、ユーノ・スクライア!!」

 

ユーノはホワイトスネイクに殴り飛ばされ、ビルの端まで吹き飛んでいった。しかし、意識は失わず、アフムドとピッツァを拘束を解くことはしなかった。

 

「ほう、なかなか頑丈じゃあないか。このホワイトスネイクの拳を受けて、意識を失わず、さらに拘束も解かないとは・・・。アフムド、ピッツァ、いつまで遊んでいる。さっさとバインドを外せ。それぐらい自力で外せるだろう」

 

「せっかくだから見てたんですよ。中々楽しめたぜぇ・・・『アングラ』、この鎖を引きちぎれ」

 

その時ユーノは見た。

 

アフムドの体がぶれ、そこから炎を纏った像が発現するのを。まるでニ枚重ねた紙から一枚を取るように、アフムドに重なっていたかのようにその像が姿を現したのだ。

 

(な、なんだアレは・・・! 炎を纏った・・・人? いや、人じゃあない・・・これがあいつ等の持つ力?)

 

スタンドのことを何も知らないユーノが、アフムドのもつ力についていくら考えたところで、一切理解できるわけがない。

 

アフムドのスタンド『アングラ』は、アフムドを縛るバインドを掴み、そのまま引きちぎった。そして『アングラ』はピッツァの方に向かい、ピッツァのバインドもアフムド同様、引きちぎった。

 

「よし、やるべきことは終わった。撤退するぞ」

 

「その手に持ったディスクはよぉ・・・一体何のディスクだ?」

 

ホワイトスネイク達がビルの屋上から立ち去ろうとした時だった。背後から男の声が聞こえた。

 

その声を聞き、ホワイトスネイクはゆっくりと振り返る。

 

 

「・・・そうだ。もう一つやるべきことがあったな――――『空条ジョシュア』」

 

 

振り返った先にいたのは、ジョシュアだった。なのは達と違い、走ってやってきたジョシュアは、少し息切れしていた。

 

 

「そいつは、誰のスタンドだ? ホワイトスネイク・・・!」

 

「これはスタンドではない。高町なのは達の『魔法を扱う才能』のディスクだ」

 

「なに・・・? 情報と違うな。確かホワイトスネイクの能力は相手の心を溶かす、もしくは触れて、スタンドと記憶をディスク化して抜き取るという能力だったはずだ」

 

「私が成長させたのだ。成長したホワイトスネイクは記憶やスタンドとは別に相手の才能や能力を細分化して奪うことができる」

 

「なるほど・・・しかし随分と自分の能力をペラペラと喋ってくれるじゃあないか・・・」

 

「この程度はすぐに知られること・・・教えたところで、何も問題はない」

 

「ならよぉ、本題に入らせてもらう・・・母さんと父さんのスタンドを返せ、ホワイトスネイク・・・!!」

 

「奪ってみせろ、空条ジョシュア・・・ちょうどいい、1対1の決闘だ」

 

相対したジョシュアとホワイトスネイク。先に動いたのはホワイトスネイクだった。

 

「時間をかけるつもりはない・・・手短に決着をつけるぞ」

 

そう言ってホワイトスネイクが取り出したのは2枚のディスクだった。

 

「そ、それは・・・!」

 

「分かるか、空条ジョシュア。そう、空条徐倫とナルシソ・アナスイのスタンドのディスクだ」

 

そして、ホワイトスネイクは2枚のディスクを、ジョシュアの前に放り投げた。

 

ジョシュアは慌てて、ディスクを拾い、前に向き直った。しかし、そこにホワイトスネイクはいなかった。

 

ホワイトスネイクは、ジョシュアがディスクを拾っているうちに背後に回りこんでいた。

 

「『一手』遅かったな。所詮はおまえもジョースターの血統。空条徐倫の弱点がおまえや空条承太郎であるように、おまえの弱点もまた、自身の血縁、空条徐倫とナルシソ・アナスイだ。実にたやすいぞ――――」

 

 

「実にたやすいぞ、背中を見せた人間からディスクを抜き取るのは、か?」

 

 

「背中を見せた人間からディスクを抜き取るのは・・・ハッ!」

 

 

ジョシュアの頭に伸ばしかけていたホワイトスネイクの手を、何かが掴んだ。ホワイトスネイクの腕を掴んだそれは、地面から伸びている腕だった。

 

 

「こ、これは・・・ダイバー・・・ダウン、か?」

 

「こっちはよぉ、テメェのやりかたをこの目で見てる上に、おじいさんから散々テメェのことを聞かされてんだ、このタコ・・・自分の能力をペラペラと喋りやがって、余裕かましてよぉ・・・俺はまだテメェに、俺の『スタンド』を見せちゃあいないんだぜ!!」

 

ホワイトスネイクを掴んでいる腕とは別に地面から3本の腕がホワイトスネイクに向って伸び、その体を殴った。

 

「グゥウッ!! ・・・これは・・・この威力はつ、強い」

 

「龍脈を知っているか? 東洋人によると、地球全体流れるエネルギーの通り道ってことらしい。中国(チャイナ)ではこのエネルギーの進む方角を知って、そこに住むと、その一族は繁栄するとか言われているらしいな。よく覚えてないが・・・俺のスタンドはそれにほんの少し似ている」

 

地面から伸びていた腕がホワイトスネイクの四肢を掴み、完全に固定した。今度は地面から人型の(ヴィジョン)が現れた。大きな腕輪が特徴の機械の様な像。それは、ジョシュアのスタンドだ。

 

 

「『ストーン・フリー』と『ダイバー・ダウン』のディスクは取り返した。後は、ホワイトスネイク・・・テメェをぶちのめすだけだ」

 

 

ジョシュアの声に呼応するように、傍に立つ像は拳を構える。

 

 

「ぶちかませ『龍の力(ドラゴン・フォース)』・・・! オラァァーッ!!!」

 

 

大砲の如く放たれた『ドラゴン・フォース』の拳は、ホワイトスネイクの顔面を捉え、そのまま殴りぬいた。

 

 

「ぐ、グァアアアァアアア!!!」

 

 

腕を掴まれたホワイトスネイクは防御することもできず、その拳をまともに喰らい、吹き飛ばされた。そのまま屋上から落ちそうになったが、ビルの端に手をかけ、落下は免れた。

 

ジョシュアとそのスタンド『ドラゴン・フォース』はホワイトスネイクを指差しながら言った。

 

 

 

「やれやれだぜ・・・ホワイトスネイク」

 

 

 




スタンド『アングラ』:ブラジルサンパウロのバンド『Angra』より抜粋
スタンド『ドラゴン・フォース』:イギリスのバンド『DragonForce』より抜粋


スタンド名―ドラゴン・フォース
本体名―ジョシュア・空条・アナスイ
破壊力―A スピード―A 射程距離―C
持続力―C 精密動作性―B 成長性―C
能力―地面や建物などの物質に同化し、その範囲を流れるエネルギーとなって支配する能力。
同化した範囲の形状を自由に変えることができ、そのまま同化を解除すると、変化した形状はそのまま固定される。本体であるジョシュアに同化すれば、体に穴を開ける、腕を伸ばすなどのことができる。他人に同化すると拒絶反応が起き、ジョシュアと、同化された人物は重症を負う。

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