気づけば私は夕焼けの中にいた。
「ここは…?」
私は確か…あの男の人に切られて…。
そうだ、私は斬られたのだ。そしてただ死を待つだけだったはず。
そして私は地下にいたはずなのだ。しかし、目の前に広がるのは夕焼けの空だ。
夕日に照らされ、周りに存在する建物の影が伸びる。
私には昔の記憶はない。でも、この光景は何かとても懐かしさを感じた。
周りを見渡していると私の少し前方、太陽が沈む方向に二つの影を見つけた。
「あれ…は…。」
目を凝らすとその影は少年と少女だとわかった。しかし、それが誰かはわからない。
ゆっくりと足を進める。
ここがなんなのか私は知らない。
彼女達のが誰なのか私は知らない。
知らない、知らない、知らない、知らない。
でもそれが私にとって知らない訳にはいかないものだということを直感で感じていた。そして、その影が誰なのかわかった時にその「知らないこと」を「識ることができる」と思った。
また一歩、歩みを進める。
その影はどんどん大きくなって。それがとても懐かしくて、辛くて。手を伸ばす。
"まだ死なせない"
影に手が届きそうになった。その瞬間、夕焼けは真っ暗な真っ黒なものに覆われてしまった 。どこまでも続く闇の中に私は1人取り残された。そして、それは突然現れたのだ。
真っ白な白銀の長髪で真っ白なドレスを纏った女性。
その白さは闇の中で光のように見えるだろう。
でも、その時私にはその白さが不気味で、白さ故に黒く感じたのだ。
「初めまして。だわよね?器ちゃん?」
女性はほくそ笑む。可愛らしいはずのその笑みが人形のように無機質に感じられた。
「あなたは何なんですか?」
「"誰"、じゃなくて"何"とはまた確信をつくのね。器に成るんだからそれも当然かしらね。まぁ、いいわ。私は"聖杯"よ。正しくは"聖杯の残滓"ね。」
「"聖杯"…"残滓"」
どちらも聞いたことがない単語だった。
いまいち理解できずにいる私を無視し、女性は話を続ける。
「そして、あなたが今話してる私の姿は"アイリスフィール・フォン・アインツベルン"という女性のものよ。」
「アインツベルン…。」
アインツベルン。それは私に魔術を教えた男から聞いたことがある単語だった。魔術師の家の中でも古くから続く名家であるらしい。
それよりも。
「細かいことはどうでもいいです。何故聖杯の残滓何てものが私の前に現れるんですか?」
それを聞いたアイリスフィールという女性の形を持った聖杯が首をかしげる。
「あら、あなた何も覚えてないのかしら?」
「何もって……っ!」
聖杯から指摘された"何も"を思い出そうとすると頭に痛みが走った。
「どうやら記憶が飛んでるようね。まぁ、私が中にいたのだから仕方ないわよね。なら、思い出してあげましょう。」
頭の痛みが段々増していく。気が少しでも緩めば気を失いそうだ。
「あなた、火災で死んでるのよ。」
女性は静かにそういった。
本当にこの娘の名前どうしよう。◾︎◾︎とかどうかな…。でもなぁ。