純白の服が髪が漆黒へと変化したことをアーチャー、そして俺が確認し、イリヤがその異変にやっと気づく。
「…えっ!?」
イリヤがその異変に気づいた瞬間少女の目がカッと開かれ、イリヤの喉を掴む。
「ぐ…かっ…」
もがくイリヤを気にもとめずに少女は片手で持ち上げる。
「イリヤ!!」
イリヤを軽々と持ち上げた少女のその瞳は元の黒と茶色の色から、鮮やかな血のような赤へと変化していた。
自然と体が動く、苦しむイリヤの姿を見ていられなかった。
俺が一方出たところを見計らうように、漆黒の少女はイリヤをこちらに投げ捨てた。
いったいどれほどの腕力なのか。イリヤは地面に一度もバウンドせずに俺に受け止められる。
「大丈夫か!?イリヤ!」
腕の中でイリヤが軽く咳き込む。
「大丈夫よ…げほっ…でも、いったい何が?」
「わからない…だけど、あの子がさっきとは違うってことは確かだ。」
少女へと視線を戻す。
少女はこちらに丁寧にお辞儀をした後、流暢に語り出した。
「御機嫌よう、衛宮士郎。」
「お前は何者だ。」
「あら、わからない?私は聖杯、いえ、正しくは聖杯の残滓」
「聖杯の…残滓…だと…!?」
聖杯はあの時に完全に破壊されたはず。
あらゆる困難を乗り越え、共に戦った聖剣を携えた少女が、その聖剣で欠片さえ残さずに。
「聖杯は…セイバーが完全に破壊したはずだ。」
「確かに、聖杯は破壊されたわ。欠片さえ残さずにね。でも、その中身はまだ存在していた。しかも、第5次聖杯戦争より前にね。」
「第5次聖杯戦争よりも前だって!?」
遠坂から前の聖杯戦争の話は聞いていた。
その話によると聖杯がまともに出てきたのは第4次聖杯戦争だけだ。なら、今俺の目の前にいるのは…。
「察してくれたようね。そう、私は第4次聖杯戦争の際に発動した聖杯の残り滓。あの火事の主犯と言ってもいいでしょう。」
一瞬、脳裏にあの地獄の景色を思い出す。
あらゆるものは崩れ落ち、燃えつきた。
死肉が焼ける音と嘆き。
「それで、聖杯の残滓が俺に何用があるっていうんだ。」
その問いを聞いた残滓は深い笑みを浮かべ、己の胸へと手を当てる。
「この子の願いを叶えてあげるためよ。この子の肉体は既に死んでいる。ただ足りない部分を私が補うことで魂を保っている。」
それを聞いて衝撃を受けた。
「彼女が死んでる…だって…?!」
いや、心の底ではわかっていた筈だ。
あの災厄の中で生き残れたのは俺だけだったことに。
一瞬、干からびた生きた死体の景色がよぎる。
そう、本当に俺だけが助かってしまった。
「少し、聞いてもよろしいかな。」
アーチャーの言葉で過去から現実に引き戻される。
「なぜ、聖杯の残滓であるお前が衛宮士郎を狙いそして、何も関係がない人々さえも襲う。お前なのだろ?あの偽りの獣を出したのは。」
その質問に残滓は嬉しそうに答える。
「簡単な話よ。衛宮士郎は最後の聖杯戦争での勝者だからよ。衛宮士郎は勝利しながらも完成した聖杯に願いを託さず、聖杯を破壊した。だから願いを叶える権利は未だに衛宮士郎が持ち、それを奪うには衛宮士郎を殺すしかない。」
アーチャーはその回答に納得したように続ける。
「では、人々を襲うには何故だ。彼らは聖杯戦争には関係ないだろう?」
「聖杯の起動には膨大な魔力が必要になるわ。人には魔術を使えなくとも魔力を持っている。たとえ一人一人の量は少なくてもその分殺せばいいじゃない?だからよ。」
「そうか、では…。」
その回答を聞くとアーチャーはつまらなそうに弓を投影し、矢をつがえる。
「私はそれの邪魔をさせてもらおう。」
矢が綺麗な軌跡を描き飛ぶ。
もう少しで少女を穿とうとした瞬間、その矢は黒い影にあっけなく弾き飛ばされた。
「乱暴な人ね。まぁ、いいわ」
少女の姿を借りた残滓はその姿で残酷に微笑む。
「勝者共々、此処で殺してあげる」
士郎のキャラが壊れてきた気がしないでもない。
さて、この数話前に喧嘩してた凛とルヴィアが登場するのはもう少し先の予定です。しっかり絡ませるつもりなので何卒宜しくお願いします