「ふもっふ」
「ふも……なんやて?」
私――八神はやては困っていた。
朝、私はいつも通りに起きたはずやった。いつも通りに車椅子に乗って、朝ご飯を作って、洗濯物を干して、図書館に行って……そんないつも通りの、代り映えのない日常を過ごすはずやった。
やのに、
「ふもっふ? ふもふもー!」
朝ご飯を作ろうとリビングに向かったら……謎の生物がいた。
見た目は、犬ともネズミとも見て取れる茶色の生き物っぽくて、頭には何故か軍用のヘルメットと……防弾ジャケット? みたいな物を身に着けている。
まぁ、簡単に言うとさっき言った通り、謎な生物の一言で済む。というかそれ以外に表現出来へん。ホンマになんやねん、この生物。泥棒? ……いやいや、こんな奇抜な格好した泥棒おらへんやろ。
「えー……キミ、何なん?」
とりあえず聞いてみる。
「ふもっふ」
ふもっふ。
……いやいやいやいや。
「ふもっふじゃ何も分からへんよ。言葉、ちゃんとした言葉喋ってくれへんか?」
「ふも……」
私がそう言うと、謎の生物さんはその大きな頭を下に向けて俯いてしまった。
あ、ああ! それは言っちゃいけなかったんやろか!? も、もしかして喋れないとか? し、しもうた。私、なんてことを……。
「ご、ごめんな謎の生物さん。私、そんなつもりで言ったんとちゃうんよ」
「……ふもっふ?」
「そ、そやそや! ふもっふや! ふもっふ!」
「……ふも!」
とりあえずふもっふと返してみたら、謎の生物さんも嬉しそうにふもっふと返してくれた。
……今の通じたんやろか、私は全然分からへんねんけど。
「……あ、そや。謎の生物さん、ペン持て……なさそうやな、その手じゃ。しくったなぁ、せめて名前は知りたかったんやけど」
紙に名前書いてもらおうと思ったんやけど……指が無くて丸っこいその手じゃ何も持てへんやろうしな。うーん、謎の生物さんで呼び続けるしかないんか?
「ふも? ……ふも、ふもふもふも……ふもっふ!」
「ふぇ? どうしたんや、謎の生物さん……って、これ!」
私が悩んでいると、謎の生物さんは右手に持った紙を差し出してきた。謎の生物さんの左手にはちゃんとペンが握られており、紙にもちゃんと文字が書かれていた。
す、凄いやんか謎の生物さん! ペン持てたんやな!? そ、それで謎の生物さんの名前は一体……?
「……ボン太くん?」
「ふもっふ!」
私が紙に書かれていた名前を呼ぶと、謎の生物さん―――ボン太くんは元気に返事をした。
――これが、私とボン太くんの出会いやった。