雲一つない青空。はやてとなのはがスパロボ友達になってから、シグナムたち――ヴィータ除く――ヴォル……ロリケンリッターが自分たちのため……げふんげふん、世のためユーノのため自分たちのためジュエルシードを集めると決めた日から数日。
彼女たちロリケンリッターはそれはそれは勇ましく……
「紫電――あぅっ」
「シグナム!? くっ、よくもやってくれたわね! 木のツタでシグナムを転ばせるなんて!」
それはもう、勇ましく……。
「ておああああ……ぐあああああ!」
「ザフィーラ!? くっ、やるわね! 木のツタでザフィーラを地面に顔から倒れさせるなんて!」
……それはもう、勇ましく……。
「二人の仇は私が……ああ!? くっ、ここまで木のツタを自由自在に操るなんて……流石はジュエルペットってところね!」
「お前ら転んでるだけじゃねーか。てかジュエルSEEDだから」
「いや、ジュエルシードなんですけど……ジュエルペットってなんですか?」
それはもう勇ましく……転んでいた。
地面に俯せに倒れて土の味を思う存分堪能しているロリ二名にショタ一名。これが大人の状態で倒れていたとしたら激しい激闘の末に敗れたと解釈出来るかもしれないが、悲しいかな、今の彼女たちはロリショタ。転んでいる姿も微笑ましいだけである。というか彼女たち、ジュエルSEEDの暴走体に適当にあしらわれただけである。
不甲斐ない仲間たちを見て、紅いゴスロリ服と言う名のバリアジャケット(はやて様考案)を着ているヴィータは大きな溜息を吐いて、
「馬鹿だろお前ら。魔力が全然ない今のお前らじゃ、こうなることは明らかじゃねーか。あたしとボン太くん、なのはに任せとけばいいんだよ」
「ふもっふふもふも! ふもっふふもぉ!」
訳:これが私の全力全壊! すごいパーンチ!
「バスタービーム! なの!」
「ギャアアアアア!?」
呆れながら話すヴィータの背後では、拳から不可視の何かを飛ばしているボン太くんと、ただのディバインバスターのはずなのにガンでバスターなロボットのように、砲撃で暴走体の木さんを切り裂いているなのはがいた。木さんが悲鳴を上げているのは気のせいだろう、木の精だけに。
「ハッ、何故か分からないけど今凄くイラついたの! ボン太くん、一気に畳みかけるの!」
「ふも! ふもっふ……ふもふも、ふも!」
訳:OK! 忍……間違えた、なのは!
「ギャ、ギャギャア……ギャギャアアアアアア!?」
訳(予想):え、ちょ待っ……俺が何したってんだよぉぉぉぉぉ!?
「……哀れだな、おい」
ヴィータの呟きは、木さんの断末魔に埋もれて消えた。
ボン太くんとスパロボ好き(なのは)にやられた木さんの悲しみ、プライスレス。
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「「「ハァ……」」」
ジュエルSEEDをまた一個集め終わって、なのはにユーノと別れた後、家に帰るまでの道中にシグナムとシャマル、ザフィーラが一斉に溜息を漏らした。
あー、なんだよもう。めんどくせぇなあ。
「もう三回目だぜ? いい加減学習しろよ」
ジュエルSEEDを集め始めてから数日。今日のジュエルSEEDで、あたしたちがジュエルSEED集めに参加してから三個目のジュエルSEEDだ。その全部の収集にこいつらは参加してるんだけど……。
「ふもっふふもふも」
『何故か毎回転んでばっかりだもんね』とボン太くんは言う。
そう、こいつらは毎回毎回何かしらで転ぶ。ジュエルSEEDに邪魔されて転んだり、石に躓いて転んだり、何もないところで転んだり、石に躓いて転んだり……ジュエルSEEDに関係ないことで転ぶ方が多い。その度にあたしがフォローに回らなきゃいけないんだから、面倒なことこの上ない。まぁ、ジュエルSEEDはボン太くんとなのは――本当に魔法知ったばかりかって疑うぐらい強い――が楽勝でどうにかしちゃうから、あたしもいらないんだけどな。
「……気にしてくれるな、ヴィータ。自身のあまりの不甲斐なさに、失望しているだけだ」
「まぁ、レヴァンティンもまともに振れないんじゃなあ」
「……どうせ私なんて、私なんて……」
レヴァンティンで地面に『の』を書き始めた。こんな街中でレヴァンティン出すんじゃねー。
「仕方ないわよ。今のシグナムじゃレヴァンティンは重すぎるわ」
「ふもっふもっふるふもふも」
「『指に填まらないからってクラールヴィントの間にティッシュを入れて無理矢理填める人も大概だよね』って言ってるぞ」
「……私なんて、私なんて……」
シャマルも『の』を書き始めた。おいおい、ボン太くんやめてくれよ。こいつらどうにかするの面倒なんだから。
「ったく……ん? ザフィーラ、何見てんだ?」
「いや、あれは何だと思ってな」
「「あれ/ふも?」」
ボン太くんと一緒にザフィーラが見ている先を見る。なんだか、道路の方が騒がしいみたいだけど……、
「ちょっと! 何すんのよ!」
「大人しくしな嬢ちゃん! 大人しくしてりゃ何もしねぇよ! おい、出せ!」
「へい! 兄貴!」
「離しなさいよー!」
「あら。お一人様追加ですか?」
何故か異様にもみ上げが長い奴らが、はやてと同じぐらいの背の金髪の女を車に押し込んでいた。……あ、車発車した。
…………うーん。
「なぁザフィーラ。何あれ?」
「それは俺が聞きたい。――何故奴らは、あんなにもみ上げが長かったんだ……?」
「そこかよ。ツッコむところそこかよ」
こいつも小さくなってから変わったな、色々と。
そんなことを思っていると、周りがざわつき始めた。『誘拐か?』とか『ヤバくないか?』とか『ハァ、ハァ……お蓮さんどこ行ったのよー!』とか……一気に騒がしくなってきたな。
「そんなに騒ぐんなら誘拐される前にどうにかしようぜ。なぁボン太くん……って、あれ?」
さっきまで隣にいたはずのボン太くんは、いつの間にかいなくなっていた。
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「あー、もう! この縄さっさと外しなさいよ!」
どっかの廃ビルの中の柱に、私は縄で縛られていた。
もうっ! どうしてただ歩いてただけなのにこんなことになるのよ!
「まぁ、大人しくしてな嬢ちゃん。お前さんのパパが金を持ってくるまでの辛抱さ」
何故か異様にもみ上げの長い男が言う。私の家のお金目当てなの……? じゃあこの人も?
私は隣を見る。そこには私と同じように柱に縛りつけられた、黒髪のとっても綺麗な女の人がいた。
女の人はもみ上げの男の言葉を聞いて、ニコリと笑い、
「お金が無いのですか。それは大変でしょうねぇ、もみ上げさん」
「いやぁ、全くだ。調子に乗ったのがいけなかったのかねぇ、ヴェノムを一機盛大に壊しちまってよぉ、クビだよクビ。だが、たまたま辿り着いた日本でバニングスの娘に会えるとはラッキーだった! お前さんも美樹原って言う有名な家の娘なんだろう? 今日の俺はツいてる……もみ上げのおかげかな」
そう言ってもみ上げを弄り始めるもみ上げの男。
私たちはお金と交換するための人質ってわけね……。というかどうしてこの……美樹原って人はこんなに余裕なの? こんな状況なのに笑えるってどういうこと?
「……あの」
「はい? なんですか? あ、私は美樹原蓮と言います」
「あ、私はアリサ・バニングスです……って、そうじゃなくて。どうしてそんなに落ち着いていられるんですか?」
一応私たちは誘拐されて、身代金のための人質にされてるんだけど。
私の質問の意味を察したのか察してないのか分からないけど、美樹原さんは「そういうことなら」と言い、
「何事も落ち着きが大事なんです。確か……そう、明鏡止水というやつです。相良さんによく似た声の方が出てくるアニメで言ってました」
ごっどふぃんがー、でしたっけ? と笑い返してくる美樹原さん。
知らないわよ! 私には分からないわよ、そのアニメもあなたという人も! あああ、言ってることは意味不明だけど無駄に輝いてる美樹原さんは一体何なの!? なんだか無性に崇めたくなってる自分がいる!
「……もういいです。直に警察が来るだろうし――」
「ぐぁっ!?」
「は?」
突然苦悶の声が聞こえたと思ったら、もみ上げの男よりもみ上げが短い男……ややこしい、もみ上げ下っ端1がビルの入口の方から吹っ飛んできた。
「な、なんだ!? 何が起きたんだ!?」
さっきからずっともみ上げを弄っていたもみ上げリーダーを守るように、もみ上げ下っ端2〜10がわらわらと集まってくる。率直に言って、キモい。
「……あら、可愛い」
「美樹原さん!? 気でも狂ったんですか!? もみ上げが可愛いだなんて!」
「いえ、確かにもみ上げもユニークですが……ほら、あそこ」
「あそこって……にゃ?」
美樹原さんが見ている先を見て、私は思わず呆けた声を漏らしてしまった。
だって、それは仕方が無いと思う。私には、この現実離れと称していいのかどうかすら分からない光景を前に、どのような反応をするのが正常なのか分からなかったから。
だって、そこには、
「ふもっふ! ふもふもぉー!」
「ふもふも……ふもっふ」
そこそこ人気な遊園地のふもふもランドの、そこそこ人気なマスコットであるボン太くんと、何故か手に機関銃を持った真っ黒なボン太くんがいたからだ。
…………いや、何あれ?