えーっと、まずは情報を整理しよう。
私は、何故かもみ上げが長い集団に連れ去られて、どこかの廃ビルの柱に縄で縛られている。俗に言う人質というやつだ。私の家……バニングス家の財産を狙っているんだと思う。
「あれは……確かボン太くん、でしたか? 実際に見てみると随分と愛らしいですね」
私と同じように柱に縛られながらも、のほほんとした雰囲気を醸し出している黒髪の和風美人、美樹原蓮さん。恐らくだけどこの人も人質として捕まっているんだろう。本人気付いて無さそうだけど。これっぽっちも気付いて無さそうだけど。
「あ、兄貴! ありゃあなんなんですかい! 犬っすか? 熊っすか!?」
「バァァァッキャロウ! ネズミに決まってんだろうが!」
「ネズミって、あのハハッ☆ とか笑う方の―――」
「バァァァァァッキャロォォォォォウ! それ以上言うな、死にたいのかぁ! 奴らはアマルガムにも匹敵する戦力を持ってるってぇ噂だぞぉ!? 今の俺たちなんか一捻りされちまう! 分かったなら今後は奴らに関することを一言も喋るんじゃねぇぞ!
―-ま、俺のもみ上げが長い内は俺たちは安泰さぁぁぁ!」
「「「さっすが兄貴ぃ!」」」
手に『安心安全アマルガム製 ※取扱い注意byミスタ・Ag』とデカデカと書かれている銃らしき物を持ったもみ上げの長い男たちが、その中でも一段ともみ上げの長い兄貴って男を褒め称えている。
あの男たちが私と美樹原さんを誘拐した実行犯のようだ。というかそれ以外考えられない。あのリーダーっぽい兄貴って奴、物凄く悪そうな顔してるもの。誰かを人質にとったのに、ゴミ係兼傘係の人にド派手にやられそうな顔してるもの。
「ふもっふふも?」
「ふもっふ!」
もみ上げが長い男たちの正面では、通常カラー(防弾ジャケットみたいなの着てるけど)のボン太くんの『準備はいい?』という言葉に、黒のボン太くんは両手で持った機関銃を掲げて『当然!』と自慢気に答えていた。……って、どうして私、ボン太くんの言ってることが分かるようになってるの!?
「私、どこかおかしくなってるんじゃ……なんかボン太くん見てると胸がドキドキするし、熱でもあるんでしょうね、うん」
「あらあら、アリサさん。熱があるのですか? でしたら横になった方が良いですよ? 私の膝で良ければ、いくらでも枕にしてください」
さぁ、どうぞ。と膝を手でポンポンと叩いて膝枕をアピールする美樹原さん。いや、柱に縛られてる状態で膝枕も何も―――?
「どうして縄外れてるの!? 私のも外れてるし!」
いつの間にか縄が外れてた! 一体どういうことなの? 大分キツく縛られてたから、私たちの力じゃどうにも出来そうになかったのに!
私の疑問の感情を察したのか、美樹原さんは「それはですね」と言った後、私を……いや、私の後ろを指差し、
「そこのお方が外してくれたんです」
「ふもっふ?」
美樹原さんが指差す先には、私の肩に平ったい手を置いて『大丈夫?』と問い掛けてくるどことなく猫……いや、山猫っぽいボン太くんがいた。
…………。
……あー、えーっと…………こほん。
「増えたぁぁぁぁああああっ!?」
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一方その頃、ボン太くんズともみ上げ団は、未だに睨み合いを続けていた。端から見ても上から見てもどこから見ても怪しい光景だ。最早シュールを通り越した何かだ。
「増えたぁぁぁぁああああっ!?」
「うおっ!? 一体どうし……あ、兄貴! 嬢ちゃんたちの縄が外れて……というかネズミが増えてます!」
「んだとぉ!?」
だが、その睨み合いのようでもみ上げのようなだがしかしふもっふな均衡は、アリサの叫び声によって破られた。
もみ上げ団の注意がアリサたちがいる方向に向いた瞬間、ボン太くん'sが好機とばかりに動き出す。
「ふもっふ!」
訳:今だよ!
「ふもっふ! ふもふもぉ!」
訳:任せろ! ブレイズキャノン!
通常カラー……というかいつものボン太くんの合図で、黒ボン太くんが手に持つ機関銃から弾丸ではなく水色の魔力砲撃を放った。
放たれた砲撃はもみ上げ団に向かって直進し、
「ギャ――――――!?」
「子分どもぉ! チィ……野郎ども、撃てぇぇぇぇぇい!」
もみ上げ団の一部を吹き飛ばした。髪がアフロになるだけで済んでいるのはギャグ(ふもっふ)補正だろう、きっとそうだろう。
愛するもみ上げ子分たちが吹っ飛ばされたことに一瞬もみ上げリーダーは驚くが、すぐさま残ったもみ上げ子分たちに命令を下す。親愛なるもみ上げリーダーの命を受けたもみ上げ子分たちは手に持っていた銃の銃口を黒ボン太くんに向け、引き金を引いた。
「ふもっふもっふる!」
訳:させないよ!
「な、なぁにぃ! 弾丸が潰されただとぅ!?」
しかし、放たれた弾丸は、黒ボン太くんを庇うように前に出たボン太くんに当たる直前に、壁にぶつかったかのように止まり、見えない何かに押し潰された。
もみ上げリーダーは目の前で起きた現象に驚愕した。何故ならば、今目の前で起きた現象は、彼がよく知っている装置によって実現される現象だったからだ。
「馬鹿な! ラムダ・ドライバだとぉう!? あ、有り得ん! 有り得んぞぉぉぉ! ミスリルのラムダ・ドライバは……って、俺は何を言っているんだ?」
驚愕のあまり、あるかもしれない未来に断末魔として言うである台詞を口走ってしまったのも、仕方ないと言えるだろう。うん、仕方ない。
「ふもっふふも!」
訳:ふもっふファントム!
「もっふるふもっふるぅ!」
訳:スティンガーブレイド・ガトリングシフトォ!
「「「「「ぐっはああああああ!?」」」」」
「ハッ!? 子分ども!」
もみ上げリーダーが思考を繰り広げている間に、二人(?)のボン太くんがもみ上げ子分たちを蹂躙していた。ボン太くんは最早幻影とも見て取れるほどの拳の連打で、黒ボン太くんは最早正体隠す気ないよね? と思わずツッコんでしまいそうな感じで、機関銃ならではの魔法(だと思いたい)を繰り出している。正に地獄絵図……間違えた、正にふもっふ絵図。
迫りくるふもっふの脅威にもみ上げリーダーは苦々しい表情を作り、
「子分ども! 逃げるぞぉ!」
「ええっ!? で、ですけど、逃げ切れるんでっ?」
「バッキャロォォォウ! 今日の俺はもみ上げが普段より1㎜長いんだ! 絶対逃げ切れる! ―――俺を信じろ、子分ども!」
「「「あ、兄貴ぃ! 一生ついていきま―――」」」
「ふもっふふもふもぉ~~~~!」
訳:ラムダ・ファントム~~~~!
「「「ぎゃあああああ!?」」」
もみ上げリーダーは逃げるを選んだ!
しかしもみ上げ子分たちはボン太くんに力場を纏ったよく分からないパンチの嵐で殴り飛ばされた!
パンチの嵐がもみ上げリーダーの目の前に迫った!
もみ上げリーダーは自身のもみ上げを触りながら――――
「……ふっ。ちょっと短かぐばぁ」
決め台詞を言おうとしたが失敗した!
もみ上げリーダーは吹っ飛んだ!
もみ上げ団は全滅した!
ボン太くんはレベルが上がっ……既にカンストしていた!
「……ハッ、何が起こったの?」
「凄かったです。何かの出し物だったんですか?」
増えた猫ボン太くんの存在に驚き、トリップしていたアリサはもみ上げ団が忽然といなくなっていたことに再び驚き、最早天然を超越し聖母並の存在になりつつある蓮……いや、お蓮さんはパチパチと拍手をしている。
別々の反応をしている二人に対して、いつの間にかビルの出入り口の近くに移動していた三人(?)のボン太くんは。
「「「ふもっふ!」」」
訳:ふもっふ!
「何を言いたいのか分からないわよ! え、ちょっとそのまま帰っちゃうの? ちょ、納得いかないんだけど――――!?」
「助けてくださってありがとうございました、ボン太くん」
三人(?)のボン太くんは、アリサの心に理解不能なときめき3割、ふもっふを7割残して去って行った。
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「ふもっふふもぉ~」
「ふもっふ!」
「ふもふもー!」
「――おっ、ボン太くんいた……って、うお!? なんか今ボン太くん以外にボン太くんいなかった?」
「ふもっふもっふるふも」
「『天国からの助っ人、もとい派遣社員だよ』? ……助っ人もボン太くんなのか! スゲー、天国! ギガスゲー!」
「いや待て、ヴィータ。ツッコムところが違うだろう。ボン太くん、急にいなくなった理由はなんだ?」
「ふもっふふも」
「『なんかあのもみ上げムカついたから』だってさ」
「……まぁ、確かに私もあのもみ上げを見た瞬間、言い表しようのないイラつきを感じたが……」
「ちょっと待ちなさいシグナム。私は今去って行ったボン太くんたちがとてつもなく気にな――」
「あ、ねぇそこの子たち! ここら辺で綺麗な黒髪の女の人、見なかった!?」
「「誰がチビで小さいガキだ(なのよ)!」」
「言ってないわよ!?」
「……俺には何が起きたかサッパリ分からん」