私の名はサビーナ・レフニオ。アマルガムの構成員です。
現在私はウィスパード――千鳥かなめの監視任務のために、日本の海鳴に来ているのですが……、
「……お姉さん。いくらリアル系が運動性が高いと言っても、雑魚敵の攻撃を一度でも喰らったら撃墜される可能性があるの。そんなリスクを背負うぐらいならスーパー系で――」
「……お嬢さん。それは違うわ。愛情を注ぎこめばリアル系は応えてくれる……、でもスーパー系はどう? いくら彼らが装甲が高いと言っても、何回も敵の攻撃を喰らい続ければ終わりよ」
「そのために修理機能を備えた機体がいるんじゃないですか!」
「その修理機体が狙われないなんてことはないでしょう? だったら私は、援護防御を備えたパイロットを隣に据えるわ。万が一彼が狙われたとしても、リアル系だから避けてくれるでしょうしね」
「リアル系で援護防御を備えたパイロットなんて……ハッ! カツ、カツなんですね!? あなたたちリアルロボット厨はいつもそうやってカツを生贄にしてっ!」
「生贄とは随分な言い草ね。彼は自らの身体を盾にして仲間を護ってくれているのよ? 立派だと思わない?」
「同じことです! カツはニュータイプ技能を持っていますが、所詮それはお情けレベル。カツ自身の能力値は、魔法を使えないユーノくんレベル! そんな彼を前線に出すだなんて……鬼畜にも程があります!」
スーパーロボット厨なツインテールの少女と舌戦を繰り広げています。
第二次スーパーロボット大戦Zを買おうとした矢先に出会った少女。まさかこんなところでスーパーロボット厨に出会うなんて……いえ、こんなところだからこそでしょうね。恐るべしは日本、恐るべしは海鳴。来日初日にこんな強敵と出くわすだなんて、正直言って予想外でした。
……ですが、リアルロボット厨とスーパーロボット厨は戦い合う運命! こうなったらとことんまで、互いに相手の信仰を打ち砕くまで戦うしかないんです!
「鬼畜? 面白いことを言いますね。では一つ例を出しましょう、……ボスボロット。あなたは彼をどうしていますか?」
「どうしているって、貴重な補給要員として……」
「貴重な、ですか。修理費たった10の彼を一度たりとも囮として使ったことがないと?」
「ッ! そ、それは……!」
分かり易く狼狽する少女。
ふっ、そうでしょうそうでしょう。ボスボロットを囮にしたことのないスパロボゲーマーなどいません。修理費10……彼ほど囮に徹した機体はいない!
「さぁ、観念しなさい。私は確かにカツを囮にしたことはあるけれど、そのカツにも援護防御要員を隣接させているわ。メガライダーって結構硬いし。
だけれど察するに、あなたは恐らく、ボスボロットを単機で突撃させて時間を稼ぐなんて戦法を実践したことがあるのでしょう? それでスーパーロボット厨を名乗るなんて笑わせ……」
「――それの何が悪いんですか?」
「……開き直りですか」
この少女にはガッカリです。新たに機体にキャラへの愛情を叫ぶでもなく、自らの罪を認めるとは。私に並ぶ何かを感じたのですが、期待はずれだったようですね。
しかし少女は、私の落胆を気にすることなく、
「そうです。何も悪いことは無い」
……まだ言いますか。
「いい加減にしてください。開き直りなどと、見苦しいだけです」
「……私は、ボスボロットを最優先でフル改造しています」
「なん、ですって……!?」
少女の口から紡がれた衝撃の事実に、私は思わず後ずさる。
ぼ、ボスボロットを最優先でフル改造ですって!? そんな、そんなことが……!
「他のスーパー系には資金を回さないと言うんですか!」
「ええ、一銭も」
「そんな馬鹿な! まさかボスボロットだけで最終話までいけると思っているんですか!?」
論説の穴を突けたのか、少女は覇気なく俯く。
……いえ、待ちなさいサビーナ。あの俯きは躊躇いなどからくる俯きではない。あれは、あの俯きは……絶大なる自信からくる俯き!
少女が顔を上げ、私を見る。瞬間、どこからともなく風が吹き、項垂れていたために少女の顔を隠していた髪を吹き去った。
再び明らかになる少女の顔。その時の少女の顔は、――――勝利を確信した顔だった。
「私は第三次αを、ボスボロットだけでクリアしました」
……勝てるわけが、ない……!
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「私の……完敗です……」
意気消沈した様子でそう呟き、私の目の前で四つん這いになっているのは、第二次Zを買う直前に出会ったリアルロボット厨の眼鏡のお姉さん。しかし私と激戦を繰り広げたお姉さんは、私の『第三次αをボスボロットだけでクリアした』という発言により、負けを認めている。
…………まぁ、嘘なんだけど。いくらフル改造したといってもボスボロットだけでクリア出来るはずがないし、そもそもが特定地点を護れ~とかの話だと絶対詰むの。お姉さんはどうやらそのことをど忘れしている様子……お姉さんがそのことに気付く前に私は第二次Zを買う!
「ふふふ……」
詰めが甘かったですねお姉さん。ちょっと魔力漏らして演出として風を吹かせて、ちょっとかっこよく言ったからといって、明らかに嘘だと分かる発言を看破できないようではまだまだ。その程度の力量じゃあ、お兄ちゃんの御神流・エーテルちゃぶ台返しを見切ることはできないの。
まあ、私もできないんだけど…………って、
「あ」
「ん?」
商品棚に陳列されている第二次Zに手を伸ばしたら、またしても別の人と手がぶつかった。
手が伸ばされている方を見てみると、そこには赤髪をショ―トポニーにした高校生ぐらいの女の人がいた。
……まさか、まさかとは思うけれど……、
「あなたも、これを?」
『これ』というのは勿論第二次Zなの。
「あ、うん。そうだけど?」
さもありなんと言った様子で女の人は返す。
くっ、またしても敵! だけど、今の私と戦って勝てるスパロボ厨なんているわけない!
「さぁ、かかってきてください。あなたが何ロボット厨だとしても、今の私の前では――」
「何言ってるの? おじさん! 予約してた第二次Zおねがーい!」
「あいよ……って、ナミちゃん早いなぁ。学校終わったばっかじゃないの?」
「えへへ~。我慢出来なかったから抜け出して来ちゃったわ」
「仕方ないなぁ、ナミちゃんは」
…………予約?
「はいよ、ナミちゃん。いやぁしかし流石はスパロボだね。まだ午前中だってのにもう売り切れちゃったよ」
「へぇ、そうなんだ。その最後のスパロボ買えた人は運が良かったね」
「それがさ、その最後を買ってったお客さんってのが、赤髪の小さな子とボン太くんだったんだよ。ついさっきまでそこのゲームセンターにいたんだけどね」
「ボン太くんって最近よくこの商店街に現れるってやつ? へー、京子が言ってたのって本当だったのねぇ」
予約? 予約以外の分が全滅?
「……で、おじさん。ここで四つん這いになって項垂れてる二人は一体……」
「……さぁ?」
「……お姉さん」
「……何かしら、お嬢さん」
私とお姉さんは四つん這いになったまま互いの視線を合わせる。
――何故だろう、この時この瞬間。私とお姉さん、スーパーロボット厨とリアルロボット厨は……分かり合えた気がした。
「私の家で、スパロボしませんか?」
「……良いわね。是非」
こうして、私にとって唯一無二の親友が一人増えました。
この感動的な瞬間を、近くのスーパーから目撃していた車椅子少女の発言。
「アホや。アホが二人いる」