「我が名はフェイト! フェイト・テスタロッサ! 我こそは——悪を断つ剣なり!」
「なん、だと……!?」
「ふも、ふも……!?」
黒い斧を高く掲げて、意気揚々と宣言した金髪の女。そして露骨に驚くあたしとボン太くん。
……いや待て、一旦落ち着けあたし。ひとまず状況を整理するんだ。何がどうなってこうなったのか纏めるんだ。今あたしたちの目の前にいる、斧を掲げて斬艦刀とか言っちゃってる
えーっと、あたしたちははやてたちが来るまでアリサの家の庭にいる犬たちと遊ぶことにして「…………ふっ、今のは決まったね」遊ぼうとしたらジュエルSEED取り込んだっぽい犬が「うーん……でもやっぱり迫力が足りないような」出てきて。ジュエルSEED回収しようとしたらいきなりこいつが「よし、もう一回! 黙れ! そして聞け!」…………ブチッ。
「うるせぇ! 少し黙れてめぇ!」
「我が名はフェイ……ひっ!?」
あまりにもうるさいので一喝。そうしたら女はどっかの国の外務大臣みたいな悲鳴を上げて縮みこんだ。
…………。
「なぁ」
「ひっ」
「おい」
「ひっ」
「…………アイゼン」
「ひっ!?」
なんとなくアイゼンをセットアップしたら、女は斧を抱えて更に縮こまってしまった。
いや、登場初期のちょっとだけ親分っぽい態度はなんだったんだよ。めちゃくちゃ扱いに困るんだけど。ていうかひっひっうるせぇ。
「なぁボン太くん。こいつどうしよう……って、ボン太くん?」
「……ふも、ふもふもぉ……」
未だに縮こまっている女をどうするか尋ねるために横を見ると、何故かボン太くんは地面に四つん這いになって落ち込んでいた。
……って、ボン太くんが落ち込んでる!? あのボン太くんが!? いつもふもふも言ってて凄い元気で、最近近くの公園でカシムカシム言いながらブランコ占拠してたおっちゃんを華麗にぶっ飛ばしたボン太くんが!?
「お、おい! 一体どうしたんだよボン太くん!?」
「ふ、ふもふぅ……」
慌ててボン太くんの肩に手を置いて、ボン太くんの言葉を聞き取ろうとするが、何故か今回に限って何も聞き取れない。
普段は
「ボン太くん! なんとか言ってくれよ、ボン太くん!」
「ふも、ふもふもふもっふ……」
「え? 『夢も希望も、ないんだよ』? あ、そうなんだ」
ボン太くんがそう言うんならそうなのかもしれない。
…………って、今聞き取れたぞ!?
「な、なぁ! 少し前に呟いてた内容もう一度……」
「……わ、私はあれぐらいの脅しに負けない! 負けないもん!
こほん。あー、そこの子! その犬に宿った災厄の種を巡って私といざ尋常に——」
「あー、もう! 黙ってろって言っただろ!?」
さっきから色々とうるさいから、女に向けてアイゼンを振るう。だけど女は「ひぅっ!?」と悲鳴を上げながらもアイゼンを避けて、目標を失ったアイゼンは女の足元にいた犬(inジュエルSEED)にぶつかった。クリーンヒットだったのか、犬はどこか悲しげな雄叫びを上げると普通に元の姿に戻って、普通にジュエルSEEDの暴走は止まった。
「「…………」」
「ふも……ふもふもぉ……」
あたしと女の間を気まずい沈黙が流れる。BGMは未だに何かを嘆いているっぽいボン太くんの涙声(?)。
……あれ、これってあたしが悪いのか? むしろ悪くない気がする。経緯はどうであれ、ジュエルSEEDを封印したんだから褒められて然るべきだと思う。けどなんなんだ、この言い表しようのない気まずさは。なんかこう、二人プレイとか出来るゲームで『俺がボスのHPギリギリまで削るから、お前がトドメを刺せよ!』って言っといて、加減を間違えてボスを倒しちゃった感じの雰囲気に似ている気がする。……いや、そんなことしたことないけど。
「…………ふ、ふふふ……」
などとどうでもいいことを考えていたら、突然女が笑い始めた。どうしよう、あたしのせいで更におかしくなっちゃったのか……? と、本格的に心配していたら。
「成程……今理解したよ。
あなたは、私のライバルなんだね!?」
ずびしっ! というセルフ効果音とともにあたしを指差して、勝手にライバルに決定された。
……いやいやいやいや。何勝手にあたしをライバル認定してやがんだ、このやろー。
「おい、お前。ちょっと待っ——」
「つまりあなたは私と同じようにジュエルシー……じゃない、災厄の種を集める使命を悪の組織である『
「いや、小羊じゃなくて犬だったぞ。……って、そうじゃねぇ。だからあたしの話を——」
「だけど! だからと言って私は屈しない! 私は≪
「お前、あたしに何か恨みでもあんのか?」
無駄にキラキラとした笑顔で、身体中がかゆくなるようなことをのたまってくれた女。あたしに恨みがあるとしか思えない。そうでなきゃこんなあたしの心をずぶずぶと抉っていくなんてことを出来るわけがない。正直言ってあたしのHPはもう0だ。というかむしろマイナスだ。
あたしが絶望していると、正義の戦士(笑)はフッと笑いながらあたしに背中を向け。
「その災厄の種は次会う時まで預けておくよ、≪
何故かあたしの通り名に変なルビをつけた後、「ふっ、これは決まった……」と呟いて、ドヤ顔しながら飛んで行った。
正義の戦士(笑)——フェイトが去って行った後に場に残されたのは、まだ嘆き続けているボン太くんと、とりあえず暴走してみたはいいけど何も出来なかったジュエルSEED。そして……さっぱり状況を理解出来ないままライバルにされたあたし。
「…………ヴィータ」
不意に背後からあたしを呼ぶ声。振り向くとそこには、どこか達観したような表情を浮かべているはやて。
あたしが呆然としていると、はやてはスッと両腕を大きく開いて。
「ええんよ」
「え……?」
「泣いてええ……ヴィータは今、泣いてええんや」
その言葉を聞いた瞬間。
あたしは……はやての胸の中で、さめざめと泣いた。
「…………良い話風に終わらせようとしてるとこ悪いんだけど、私にはさっぱり状況が掴めないわ」
「……ヴィータちゃんが今置かれているポジションは、本来なら私の物のような気がするの……くぅ、何故だか無性に悔しいの。ねぇ、なんでだろう≪
「うん、なのははちょっと黙ってなさい」
「ふも、ふもふもっふ……」
「なんで落ち込んでるか知らないけど、ボン太くん今回何かした?」
——とあるマンションの一室にて。
「ただいま、アルフ! ねぇねぇ聞いて! 今日私にライバルが出来たんだよ!」
「お帰りフェイト。そっか、友達が出来たんだね。そりゃ良かった。で、ジュエルシードは……」
「世界の運命をも左右しかねない災厄の種を巡って巻き起こる、私と≪
「……リニス。あんたがどっかから拾ってきた漫画本を読ませさえしなければ、フェイトは、フェイトは…………恨むよ、あんちきしょう」
狼の使い魔は、さめざめと泣いた。