お父さん、お母さん。はやては今、困っております。
「……これ。口、やよね?」
「ふもぉ……」
ボン太くんのωみたいな口らしき部分を触る。するとボン太くんはくすぐったそうな声を上げおった。
……えぇ? くすぐったいんやったら、やっぱ口なんか?
「いや、でも……ちょおボン太くん。口開けてみてくれへん?」
「ふも? ……ふぅもぉ~……!」
ボン太くんは両手で口(?)をこじ開けようと……タイムタイムタイム!?
「え、何!? そない原始的な方法でないと開かへんの!? そんなんやったら無茶せんでええよ! 仮にそれで開いたとしたら、とんでもない光景になるから止めて!」
「ふも……」
いや、なんでそんな残念だ、みたいな声を……しかし、ホンマにどないしよ。口が開かないんじゃ、何も食べれへんし……。
「……ふもっふ!」
「ふぇ? どうしたん?」
私が悩んでいると、ボン太くんは突然台所にある冷蔵庫に向かって歩いて行って、徐に冷蔵庫の中を漁り始めた。私がその光景を暫く眺めていると、ボン太くんは何かを発見したらしく、その何かを持って私の方へ戻って来た。彼(彼女?)の手に握られているのは、
「魚肉ソーセージ?」
「ふもっ!」
ボン太くんは何故かその平ったい手に魚肉ソーセージを一本持っていた。ボン太くんは左手も活用して、魚肉ソーセージのカバーを外し始める。
その非常にシュールな光景に、私は暫し呆然としてしまったが、ボン太くんが魚肉ソーセージのカバーを全部剥き終わった後にようやっと我に返り、ボン太くんに声を掛ける。
「いやいや、ボン太くん。カバーを外したんは凄いと思うけど、ボン太くん口が無いんやから……」
「ふも、ふもっふふもふも」
「え? 『騙されたと思って見てて』やて? 今の状況自体騙されてるんやないかって思っとるんやけど……まぁ、ええわ。そのソーセージをどうするつもりなん?」
ていうか、どうして私はボン太くんの言っていることが分かるようになっているんやろう。さっきまでなんとなくでしか分からへんかったのに……またしても複雑な気分や。
「ふもっふ〜……もっふる!」
ボン太くんが良く分からない声(多分気合いを入れるためのものやと思う)を上げて、開かないω口(?)に勢い良くソーセージを近づける。
……だからボン太くん。そのω口は開かないことはさっきのやり取りで……なっ!
「なん……やと……? ソーセージが、ない……!?」
「ふもっふ!」
ボン太くんは中身のソーセージがなくなったカバーを私に見せる。確かにその中に先程まで入っていたソーセージは綺麗さっぱり無くなっていた。
ど、どういうこっちゃ! いつの間に……というか、どうやって食べたんや!?
「ちょ、ボン太くん! 今のどうやってやったん? さっきまでω口開かなかったやろ、どっかに放り投げたりしたんちゃうんか!?」
「……ふもふも」
私がそう聞くと、ボン太くんは首を左右に振った後、周りを見渡す。それにつられて私も周りを見渡すと、見た限りではソーセージは見当たらない。
く、くぅ……! 一体どうなってんねん! ハッ、まさか……、
「ボン太くん。身体のどっかでソーセージ潰したんとちゃうん?」
「ふもっ!?」
あ、あからさまなリアクションとりよった! むぅ、そんなズルッこい技(?)を使うなんてセコいで!
「ほれ、どこで潰したんや!? 見してみぃ!」
「ふ、ふもっふふもっふ〜!」
「わっ、抵抗すなや! ここらが年貢の納め時やで!」
「ふも〜!」
ボン太くんに近寄って、ボン太くんの身体中を触って調べる。むっ! ほれ、頭と胴体の間の首らしき部分にソーセージの残骸が……ん?
私は両手で目を擦った後、再びボン太くんの頭と胴体の間を見る。しかし、目に飛び込んでくる光景は変わらない。な、なんやねんこれ……!
「
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「――ということがあったんですよ」
あの後、結局ボン太くんの謎は解けなかった。もしかしたら頭が外せるのかと思って引っ張ってみたけど、全然外れなくて、ボン太くん自身も抵抗したので諦めた。
で、今は病院の診察室にいて、私の主治医である石田先生に今日の朝から今までに起きたことを説明し終えたところや。
「なるほど。つまりはやてちゃんの後ろに立ってるボン太くんが、生き物かと思ったら人が入っている可能性があると……ねぇ、はやてちゃん」
「はい? なんですか?」
私の話を黙って聞いてくれていた石田先生は、私の後ろに立っているボン太くんを見た後、私を見て……言う。
「カメラはどこ?」
「すいません、ドッキリやないんです。ボン太くんなんです」
「ふもっふ?」
キミはどこでも呑気なんやね、ボン太くん。