「はやてちゃん。大人を馬鹿にしちゃ駄目よ? ドッキリよね? ドッキリなのよね? このボン太くんははやてちゃんが連れ去って来た着ぐるみなのよね?」
我が家に突如現れた謎の生物(人間の可能性有り)ボン太くんを石田先生に見せたら、石田先生はえらく必死にボン太くん着ぐるみ説を推し始めた。ど、どうしたんやろ?
「ちょ、石田先生落ち着いてください。ドッキリやありません、ボン太くんです……あれ? というか先生、ボン太くん知ってるんですか?」
「ふも?」
まさかボン太くんは意外とメジャーな生物なんやろうか。図書館大好きッ子(自称)である私は今まで生きてきた八年の人生の中で数多の本を読み漁ってきたと言うのに……そんな私が知らへん生物がいると言うんか? ……いや、いっぱいおるとは思うけど。
「知ってるも何も……ボン太くんって言ったら『ふもふもランド』のマスコットキャラクターじゃないの。地味に人気なのよ? ほら、このシャーペンとかボン太くん仕様よ」
そう言って石田先生は頭がボン太くんのシャーペンを見せてくる。
な、なんやと……? ボン太くんって、そこまで有名やったんか? く、くぅ……やっぱり私は時代遅れなんか? 私って、私って……。
「……ふもっふ」
「ぼ、ボン太くん? 慰めてくれるんか?」
「ふもぉ!」
「あ、ありがとな。ありがとな、ボン太くん。ボン太くんは、私の心の親友(とも)やー!」
「ふもっふー!」
診察室の中で私とボン太くんは抱き合う。
ああ、持つべきモノは友達やね。友達がいるだけで生きていける気がするわぁ。
「……あれ? でもボン太くんがどうして私の家にいたのか解決してへん。石田先生、どうしてでしょう?」
「泣いたり悩んだり……随分と忙しいわね、はやてちゃん。……というか、それを聞く為にここに来たの? 診察が第一目的じゃなくて?」
「はい、ボン太くん(診察)が第一目的です」
「何かが違う気がするわ……まぁ、良いわ。確かそのボン太くんは神様に『キミ、『夢想転生』してきなよ』って言われたって言ってたのよね?」
石田先生の問いに、私とボン太くんは肯定の意味を込めて頷く。
そんな私たちを見た石田先生は、顎に手を当ててじっくりと悩み込む……ことはせず、ゆっくりと口を開いて語り出した。
「私の昔からの友達に警官をやってる人がいるんだけどね? 彼女、学生の頃から問題ばっかり起こして、よく私を振り回してたのよ。散々な毎日だった……けどその毎日の中で、私は彼女から大切なことを学んだの。本能のままに暴れ回って周りに被害を撒き散らす彼女から……『気にしたら負け』、という大切なことをね。だからね、はやてちゃん。ボン太くんがどこから来て、一体誰かだなんて……『気にしたら負け』よ」
「長々と語っといてそんな結論ですか!?」
がっかりや! がっかりやで、先生!
私の心からのツッコミに、石田先生は「いやいやいやいや」と顔の前で手を振り。
「つい愚痴も言ってしまったけど、私には分からないわよ。だって神様よ? この世界に神様なんているわけないじゃない。もしいるとしたら、どうして高校時代に私を陽子の暴走から救ってくれなかったのよ! 神様の馬鹿ヤロー!」
「……帰ろか、ボン太くん」
「……ふも」
そっとしてあげよう。心の底からそう思いました。
暴れ出した石田先生を取り押さえようと看護婦さんたちが慌てているのを視界の端に収めながら、私とボン太くんは診察室を出る。薄情やと思うか? これが人間や、人間ってやつなんや……今私、深いこと言った気がする。
「ふもっふ!」
「『外道の極みだね!』やて? ありがとう、最高の褒め言葉や」
「ふもぉ……?」
ボン太くんの私に対する好感度が下がった気がする。気のせいやとええんやけど。
……しかし、得られた情報は『ボン太くんはふもふもランドの地味に人気なマスコット』『石田先生の旧友の婦警さんは凶暴』『石田先生は実は怖い』だけか。正直最初の情報以外はいらへんかったな……いや、石田先生を怒らしちゃいかんってことが分かったのはある意味僥倖やったけども。
「まぁ、別にボン太くんが居候する分には問題ないんやけどな?」
「ふもっふ?」
ボン太くんが不思議そうに首を傾げる。
ん? 分からへんのかなぁ?
「キミみたいな生物かどうかも分からへんのを、道端に捨ててくわけにはいかんやろ? それに、ボン太くんと一緒にいたら楽しそうやしな!」
「……ふもっふぅ!」
「わっ!? と、突然抱き付いてきたらビックリするやろ?」
「ふもっふふもっふぅ~!」
こうして、私とボン太くんは一緒に暮らすことになり、私とボン太くんの慌ただしいファーストコンタクトは終わった。
……終わったと、思ってたんやけどなぁ。