「……ハッ、そういえば何故か以前よりも身体が軽い気が……何故だ?」
「困ったわ……こんな魔力じゃ何も出来やしない……。ああ、何故こんなことに……」
「……ヴィータ。その生物は一体何だ?」
「ふもっふ!」
「『ボン太くん!』って言ってるぜ?」
「そうか。……何故お前は言葉が分かるんだ?」
あかん。回想から戻った後、五分ぐらい現実から目を逸らしてたら更に混沌度合いが上がっとる。
なんや? この場を私がどうにかせなあかんのか? ……まぁ、このまま放っとくわけにもいかんし、しょうがないか。
「ふもっふ、ふもふもふも!」
「『私のふもっふは108式まであるよ!』だって? す、凄いな。何が凄いのか全く分かんねぇけど凄ぇ!」
というかなんでキミは普通に溶け込んでんねん、ボン太くん。
「あー……んっ、ごほんっ! はい、注目! 一旦落ち着きぃ!」
「何故身体が軽いんだ? ……そういえば、特に胸の辺りが軽くなったような」
「ゆ、指が小さ過ぎてクラールヴィントが填められない……」
「ふもっふ、ふもふも」
「『そう、それは私が一人で留守番をしている時だった……』? な、何の前触れもなく昔話を始めんのか! 凄ぇ!」
「何が凄いんだ?」
…………。
「聞けやっ!!!」
『すいませんっ!?』
あまりにうるさいので一喝してやったら、素性不明の四人は見事な正座をして見せた。
そやそや、それでええんや。最初っから素直に従っておけば私かて怒鳴らなくて良かったんやで?
「……ふもっふ」
「『……悪役みたい』? そか、キミも怒鳴られたいんか」
「ふっ、ふもふも!?」
ちょっと脅しをかけたらボン太くんは後ずさって赤髪の女の子の背に隠れた。
……いや、大きさが違い過ぎるから隠れきれてへんのやけど……まあええわ。
「とりあえず。あんたたちはどこの誰様で、どういう事情をお持ちなのか。詳しく話を聞かせてもらおうやないか。
はい、そこのポニ子ちゃん。説明しなさい」
「ぽ、ポニ子?」
「ポニーテールやからポニ子ちゃん。というか名前知らんし……はい、名前も含めてちゃっちゃと説明する!」
「は、はい! ええと、私たちは―――」
私の言葉に促されて、ポニ子ちゃんは説明を始めた。ちなみにボン太くんはまだ赤髪の女の子の背に隠れている。いや、だから隠れられてへんって。
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「――と言うことです」
「ふむ……つまりあんたらは闇の書を護る守護騎士ヴォルケンリッターっちゅー奴で、闇の書はページが全て埋まると主……私の願いを叶えるロストロギアって奴なんやな?」
「はい、その通りです」
「ふも、ふもふもぉ……」
「『その爆発に巻き込まれて私は……』? わ、私は? ボン太くんに何があったんだよ!?」
ポニ子ちゃん、本名シグナムが言うと、シグナムの横に並んで正座していた金髪のショートボブの女の子、通称ボブ――シャマルに、頭に獣耳を生やした男の子、通称……通称……犬ことザフィーラが賛同の意なのかうんうんと頷く。赤髪の女の子――ヴィータは話題の中心人物なくせにボン太くんと遊んでいる。……放っとこう、面倒やから。
「それで、主はやての願いは何でしょうか? 命令さえくだされば我々が今すぐにでも……」
「ちょ、主とか止めてーな。なんか背中が痒くなる。
――というか、や。蒐集って人様に迷惑掛けんのやろ? 駄目やで、人様に迷惑掛けちゃ。大体私、願いとか無いしなぁ」
……あ、そや。
「私の家族になってくれればええよ」
「は? 家族……ですか?」
「そや、家族。私にボン太くんにシグナムたち。立派な家族の完成や。……嫌か?」
「い、いえそんなこと! ですが、やはり蒐集は……」
「む。駄目やって言ったやろ。てか、そのナリでどうするつもりやったん?」
シグナムとシャマル、ザフィーラを見る。三人は私と同じぐらいの背で、とても魔法が飛び交う戦場で戦いをする騎士とは思えない……って、ああ……今更やけど魔法って何やねん。今日は朝からボン太くんやらボン太くんやらボン太くんで色々あったから、魔法なんてもんがあるって聞いても驚けなくなってもーた。これは人間としてどうなんやろ。色々麻痺しとらんかなぁ?
私の言葉にシグナムたちは痛いところを突かれた、と言った風な顔をし。
「そ、それは……私たちはヴィータ以外は元々大人の背丈だったのですが……シャマル。原因は分からないのか?」
シグナムは闇の書を膝の上に置いて調べている――んだろう。なんか緑色の光出してるし――シャマルに尋ねる。
「……どうやらまだ闇の書が不完全な状態だったのに、外部からの干渉で封印が強制的に解かれたみたいね。それで闇の書は全員を不完全な状態にするよりもヴィータちゃんだけでも完全な状態にすることを選んだみたい。それで私たちはこんな姿とこんな魔力に……」
「……つまり、戦いになった場合まともに戦えるのはヴィータだけと言うことか。私たちはいつ戻れるんだ?」
「闇の書が修復を始めているみたいだけど……多分、三ヶ月以上はかかるんじゃないかしら」
「三ヶ月……それまで俺たちはこの姿と言うことか」
シグナムたちが一斉にガクっと肩を落とす。ま、まぁ、元々が大人の姿やってのに子供の姿で三ヶ月過ごせっちゅーのは、確かにキツイかもなあ……。
「…………ん? 外部からの干渉?」
なんとなく引っ掛かった。いや、引っ掛かったっちゅーレベルやなくて、そういえばさっきボン太くん、闇の書に巻き付いてた鎖引き千切ったような……。
「ふもー!」
「『秘技・鎖パンチ!』!? よ、良く分かんねーけど威力はありそうだな、それ!」
ヴィータと遊んでいるボン太くんの右腕には、ついさっきボン太くんが引き千切った鎖が…………。
「な、なぁシャマル。その封印って……あれ?」
「あ、はい。あの鎖です…………?」
「どうしたシャマル…………あ」
あ、シャマルにシグナムが固まった。……あ、レヴァンティンって剣取り出した。
取り出した剣をずるずると引き摺りながら、ボン太くんの方に向かって歩いていくシグナム。シャマルとザフィーラも背後に変なオーラを漂わせながらシグナムの後ろについていく。
え、ちょ、何を――。
「「「お前かぁぁぁぁぁ!」」」
「ふもぉ!?」
「う、うわぁ!? お前らどうしたんだよ!?」
「問答無用! その犬だかネズミだか分からん生物を斬らせろぉ!」
「い、犬じゃねぇ! ボン太くんだ!」
「どっちでもいいわぁ!」
……慌ただしかった一日の次の日は、ご近所さんに謝りに回らなきゃいけなくなったようです。騒音的な意味で。