「……この上だな」
「ふもっふ……」
神社の場所を聞く為に呼び止めた眼鏡の女、常盤恭子(名前教えてくれた、というか教えてきた)――恭子から教えてもらった神社の場所に到着すると、長い階段があった。家の階段なんか比較にならない程の長い階段だ。
恭子の話によるとこの階段を登り切った先に神社があるらしい。……だけど、神社の場所を教えてくれるだけで良かったのに、どうして恭子の奴は名前だけじゃなくてえっと……電話番号? ってやつも教えてきたんだ? 『また会おうね! 今度はカナちゃんも一緒に!』とか言ってたし。だからカナちゃんって誰なんだよ。
「よしっ! 行こうぜ、ボン太くん!」
「ふもっふぅ!」
まあ、分からないことを何時までも考えていても時間の無駄だ。早速ボン太くんと一緒に足を踏み出し、階段を登り始める。
「ん?」
階段を登ろうと階段に足をかけた瞬間、上の方から大きな魔力を感じ顔を上げる。結構大きな魔力だな……いや、あたしの周りの奴ら(正確には三人)がへっぽこだから大きく感じたってのもあるかもしれないけど。ううん、でもこれは……やっぱりそうだ!
「この魔力は、恭子が言ってた神社の神って奴の魔力だな!?」
絶対そうに違いない! 成る程、これぐらいの魔力があれば神って呼ばれるようになるのか……って、それだったらあたしも神? というかギガ神レベルにまで達してるんじゃ……?
「ふもっふぅ!」
「へ?」
”あたしは神だった説”について考えていたら、ボン太くんが頭を横に振って『違うよ』と言って来た。あたしは神だった説の何が違うってんだ?
「ふも、ふもふも!」
「『本物の神様は、ひょろひょろの気弱そうなサラリーマンだったよ!』? いや、そんなのが神様なわけ……って、ボン太くん神様知ってんの!?」
「ふもっふふもっふ、ふもっふふも」
『気弱だけど優しい人だったよ。サラリーマンみたいだったけど』とボン太くんは言う。
か、神様ってサラリーマンだったのか、知らなかったぜ……あれ、結局ボン太くんがなんで神様知ってるのか分かってない。
「な、なぁボン太くん。なんでボン太くんは神様がいるって知ってるんだ?」
「ふも、ふもふも。ふもふもっふぅ!」
「『企業秘密らしいよ! それより早く上に行こう!』? き、企業秘密? ……って、待てよボン太くん!」
階段を三段跳びで飛び跳ねるボン太くんを必死に追う。
な、なんであの脚であんなこと出来るんだよ! ボン太くんって本当になんなんだよ!?
「おい、ボン太くん! ちょっと待てって……ん?」
「ふもぉ……?」
ボン太くんは階段を登り切ったところにあった赤い門の下みたいな物の前で立ち止まっていた。そのままボン太くんの視線の先を見ると、白い服を着たツインテールの、両手で金色の杖を持った女の姿。その女の目の前には、犬みたいだけど犬とは比べ物にならない大きさの黒いバケモノがいる。
……ま、まさかあれが……!
「あれが、神社の神か!」
「ふぇえ!? ゆ、ユーノくん! 人がい……ボン太くん!?」
「ふも、ふもっふふもっふ!」
「え、いつの間に……いや、あれ人なの!?」
「ち、違くないだろ! あの犬(?)、どことなく神様オーラ出してんじゃん! 大体神様がサラリーマンってのは絶対無い!」
「ぼ、ボン太くんはふもふもランドのそこそこ人気のマスコットキャラクターで……そ、そうじゃなくて! どうするのっ?」
「……ふも。ふもふもふも」
「ど、どうするって言ったって……」
「え? 『……分かった。あの犬が神様じゃないこと証明する』って? あ、待てよボン太くん!」
「というかさっきからふもふもうるさいなのぉ!」
白い服の女が叫ぶと同時、ボン太くんはふもふも足音を立てながら黒いバケモノに向かって駆け出した。
一瞬遅れ、ボン太くんの接近に気付いた黒いバケモノが足の爪を振るいボン太くんを迎撃しようとするが、ボン太くんはそれよりも速く――
「ふぅもっふぅ~!」
「ギャウン!?」
「「えぇ~~~~!?」」
黒いバケモノの顎にアッパーカットを放ち、黒いバケモノを上へと吹き飛ばした。
白い服の女と女の足元にいた細長い何か(多分動物だと思う)が驚きの声を上げるが、ボン太くんは気にせずに、空中から落ちてくる黒いバケモノに追撃を開始する。
「ふもふもふもふもふもふもふもふもぉ……ふもっふぅ!」
「グ、ル、チョ、ヤメ……ガァ!?」
「す、すげぇ……!」
「「…………」」
ボン太くんはまるでガトリングガンのように拳を連続で放ち、黒いバケモノを無理矢理空中に留まらせ、ダメージを蓄積させていく。と言っても、パンチの一発一発がアイゼンのラケーテンハンマー並の……いや、それ以上の威力があるかもしれない。黒いバケモノはもうとっくのとうに瀕死状態だ。ちなみに、白い服の女と細長い何かは何故か呆然としていた。
「ふもぉ!」
あたしたちが見ている間もボン太くんのパンチの連打は続いていたが、ボン太くんは突然連打を止めて、大きく振りかぶった右腕を黒いバケモノの腹へとブチ込み、黒いバケモノを更に空高く打ち上げた。
「ふ、もっふぅ!」
「あ、あれは!?」
ボン太くんは空高く跳び上がり、太陽を背に何やらカッコイイのかそうじゃないのか分からないポーズをとった後、右脚を突き出し、勢いよく落下していく。
ボン太くんが落下する先にいるのは……空高く打ち上げられた黒いバケモノ。
「ふもっふぅ! ふもっふふもふもっふぅ!」
「ギャアアアアア!?」
ボン太くんのキックが黒いバケモノを貫き、灰へと変える。
地上に降り立ったボン太くんはズザザァァァ……と地面を滑り、『ふもぉ……』と満足気な息(?)を吐いた。……い、今のは!
「『究極ぅ! ボン太くんキック!』だって!?」
「「何それ!?」」
「いや、知らねーけど」
「「知らないの!?」」
知ってるわけないじゃん、当たり前だろ。何言ってんだ、この二人(?)。
「ふもっふ……」
「ハッ、ボン太くん……」
「ふもっふふもっふ」
『私の言ってたこと、信じてくれる?』……ぼ、ボン太くん!
「ボン太くん! あたしが悪かったぁ! ごめんなぁ!」
「ふもっふ……ふもっふ!」
「うぅ……ありがとうボン太『パキッ』ん?」
ボン太くんに抱きつこうとしたら、足下から小さな何かが割れたような音がした。
何だろうと思い、足をどかしてみると、
「……青い種みたいなのが割れてるんだけど……何だ? コレ」
「ふもっふふもっふ!」
「『正に種割れだね!』? あはは、上手いこと言っ――」
「「ジュエルシードがぁぁぁぁぁ!?」」
「うわぁ(ふもっふぅ)!?」
あたしとボン太くんがほがらかに談笑していると、白い服の女と細長い何かが突然泡を食ったように絶叫した。
…………ジュエルSEEDって、なんだ?