*
すー、すー。
安らかな寝息が聞こえてくる。
無邪気なメアリーも、もう疲れてしまったようだ。
一人になってしまった僕は、ゆっくりと部屋の中を見回す。
水槽の中には、しっぽが切れた金魚。実験失敗。失敗作。そんな風に呼ばれているとは知らず、友達が可愛がっている。
いつか、僕たちもああなってしまうのかな。らしくもなく、そんなことを考えていた。 **
「大丈夫か?」
声を掛けてきた軍服の青年に、とりあえずはい、と答える。
「私は、この軍を指揮するものだ。お前、名前は?」
答えようと記憶を手繰り寄せるが、少し目眩がしただけだった。
「疲れているようだな。とりあえずこちらへ来い。」
反抗する様子のない僕を見て、味方と判断したのか、近くの小屋のようなところに連れていってくれた。
「仕事は?」
どうやら、この青年はとても優しいようだった。
仕事、と言われても何も思い出せない僕は、黙って首を横に振った。
*
「うーん、疲れた……」
メアリーが呟いた。
ここでの生活は、何もなくても疲れる。それは最早当たり前すぎて、思い出すこともないほどだった。吸い続けるのは淀んだ空気。僕の世界におしまいが訪れるまで、それは変わらないのだろう。
しかし、本当に眠くなってきた。目を閉じると、何故だか少年の姿が目に浮かんだ。少年と言っても、青年に近い年だ。なぜ…?と考えるうちに、突然意識が傾いた。そして、少年が「グミー!!」
と叫んだような気がしたーーー
**
「仕事…無いのか?」
あるのか無いのかすら、もう思い出せない。
黙っていた僕を見て、青年は肯定と受け取ったようだ。
「なら、傭兵になるという手がある。」
傭兵……。
「とりあえず、今の世で兵力は誰もが欲しがっているし、食べていくことはできるだろう。」「分かりました。」
もう何も考える気が起きなかった僕は、深く考えずに頷いてしまった。
*翌朝。
「うう…寒いよ…」
メアリーは、昨日飲んだ薬のせいか、がたがた震えていた。それを見た僕は、黙って毛布をかける。
「ありがとう…!」
メアリーの顔は笑顔になる…が、それも力ないものだった。
「注射の時間だ。」研究員が言った。「来い。」
メアリーを指差して言う。震えているのは見えないようだ。
注射は嫌い、といつか言っていたメアリーの前に僕は出る。
チク、タク、チク、タクと、鳩時計が鳴る音がやけに響いていた。**
それから、僕は都督のもとで機関銃を持ち働くことにした。
この国は息の詰まるような独裁国家だが、今の僕には働けるだけで十分だ。
そう、思っていた。