Muv-Luv Alternative ~鋼鉄の孤狼~   作:北洋

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第3話 邂逅、2人の異邦人 1

【???】

 

 温かい羽毛の柔らかな感触がキョウスケを包み込んでいる。

 思考が霧の中にいるようぼやけてにはっきりとしない。深々と冷えた空気から逃げるように、キョウスケは温かい温もりの中で体を丸めた。羽毛に ── ベッドに包まれて、ずっとこのままで居たいという気にすらなってくる。

 窓の外からは小鳥のさえずりが聞こえてくる、朝だ。

 今日は非番だったか、待機任務を割り振られていたか……低血圧と言う訳でもないが、朝一番のせいか頭が回らず瞼が重い。宙を浮くような心地よい虚脱感にキョウスケは身を委ね、堕ちて行ってしまいたい錯覚に囚われた。

 

「あなたー、朝よー。起きなさーい」

 

 聞き慣れた声がキョウスケが寝ている部屋の外から聞こえてきた。

 女性の声。

 アインストとの戦いでキョウスケが命を賭け金(チップ)に取り戻した、彼にとっての幸運の女神の声だった。

 部屋の扉の開く音と、女性の足音がキョウスケに近づいてくる。

 

「キョウスケー、朝ごはんできたわよ。今日は目玉焼き黒焦げにならずにできたんだから」

(エクセレン……そうか、俺たちは結婚したのだったな)

 

 アインストとの決着の後、エクセレンはキョウスケと結婚し寿退役した……ような気する。今ではキョウスケが帰ってきた時には自慢の料理の腕を振るってくれ……俗に言う飯マズ嫁という役割を演じてくれている……ような気がする。

 何しろ思考があやふやで考えが纏まらない。確かに結婚していたような気がするが、目も開かないため妻であろうエクセレンの顔を見ることができなかった。

 

「マイダーリン、ウェイクアップ♡」

 

 ゆさゆさ。

 エクセレンが羽毛布団に包まったキョウスケの体を揺すってきた。 

 ああ、分かっている……でも、あと5分だけ。気怠すぎて声も出せないキョウスケは、布団を頭まで被って抵抗した。

 

「ウェイクアップ。今日の朝ごはんは目玉焼きとーお汁粉とーチャーハンよ♡ だから早くお・き・て」

(また朝からヘビーなモノを……どうせお汁粉はしょっぱかったりするのだろうな……)

 

 朝のメニューでキョウスケの起きる気力は一気にそがれる。

 ゆさゆさ。エクセレンはキョウスケの体を揺するのを止めない。

 ゆさゆさ、ゆさゆさゆさ、ゆさゆさゆさゆさ ── 揺すられる頻度は多くなっていく。遠慮がちだが慣れた手つき、霞がかった頭の中が徐々にハッキリしてきて ──

 

「起きてください」

 

 ── 聞き慣れぬ少女の声で、キョウスケは目を覚ますことになった。

 

 

 

 Muv-Luv Alternative~鋼鉄の孤狼~

 第3話 邂逅、2人の異邦人

 

 

 

【西暦2001年 11月21日 国連横浜基地 B4 キョウスケ自室】

 

「……おはようございます」

「……ああ、おはよう」

 

 銀髪の少女 ── 社 霞がキョウスケの目の前に立っていた。

 先ほどとは打って変わって安物のマットレスの上でキョウスケは目覚めた。羽織っているのは羽毛布団ではなく、薄いタオルケットと煎餅みたいな掛布団1枚だけ。枕ももれなく低反発なんて高級品ではなかった。

 眠気がまだ残っている。どうやら、寝ているところを起こされたらしい。誰に……と考えて、やはり朝で頭が回っていないことにキョウスケは気づいた。

 下手人は目の前にいる社 霞しかいないだろう。

 

「……今は何時だ?」

「……11時です」

 

 片言で返事をする霞。 

 キョウスケも軍属生活が長いため生活は規則正しい方なのだが、えらく寝坊してしまったものだと内心焦った。別世界に来てまだ日が浅いため、体内の時間感覚が狂い体が不調なのかもしれない。

 

「わざわざ起こしに来てくれたのか。ありがとう」

「…………いえ」

 

 短い返事の後、霞には目を背けられてしまった。

 社 霞 ── 昨日、香月 夕呼の部屋で出会った小さな女の子だが、彼女には初対面のときからキョウスケを何処か避けている節がある。もっとも、ただの人見知りなだけかもしれないが。

 だがそんな人見知りをする女の子が、わざわざキョウスケを起こしにくるだろうか? ふと疑問に思ったキョウスケだったが、

 

「これです」

 

 霞は絶妙なタイミングで、部屋を訪ねた理由らしき紙切れと1枚のカードを手渡してきた。

 紙には「1800、B19の研究室に来るように。時間厳守。それまでは自由。香月 夕呼」と書かれており、カードには「Ⅳ」と開錠可能なセキュリティレベルが記されいた。要するに霞はこの紙を手渡しに来たメッセンジャーで、しかし部屋の中のキョウスケは眠っていたので仕方なく起こした、という経緯のようだった。

 紙切れ……昨日の悪夢がキョウスケの脳裏に蘇る。借金。どうしたものかとも思うが、今のキョウスケにはやりようが無いので考えないことにした。

 キョウスケは紙切れとカードを上着の中にしまう。

 

「了解した。時間通りに行くと香月博士に伝えてくれ」

「…………ばいばい」

 

 霞は小さく手を振って、部屋を出て行ってしまった。

 キョウスケの言葉に返事はなかったが、小さく頷いていた気がするので大丈夫だろう。

 

「……夢か」

 

 夢で聞いたエクセレンの声がまだ耳に残っているような気がする。夢の中でキョウスエケとエクセレンは籍を入れ、連れ添っていたようだ。頭が冴えてきて、少し気恥ずかしく感じるキョウスケだったが、別段悪い気はしない。

 元の世界に戻れば、そういう未来の可能性もあるということだ。エクセレンとはあの大気圏突入時の戦闘以来会っていない。彼女のことだ、無事だとは思うが……思いを馳せながらキョウスケは腰を上げた。

 いつの間にか寝かされていたベッド ── 上着のまま寝かされたらしく、皺のできた上着とシーツのそれを伸ばす。布団とタオルケットも折りたたんでベッドの隅に置いた。

 

「さて、どうする?」

 

 国連横浜基地 ── キョウスケにとっては未知の領域である。

 営倉から尋問室、地下24階に戦術機ハンガーと、イベントは盛りだくさんな道のりを経験してはいたが、他にどのような設備があるのかは検討がつかない。

 かといって、夕呼に呼び出された時間まで引き籠っている気も毛頭なかった。

 悩むキョウスケの気も知らずに、腹の虫がざわめきだした。

 

「とりあえず、飯にするか」

 

 どんな基地にでも食堂的な場所は存在するものだ。

 横浜基地がどれだけ広大な敷地を持っていても、スタッフが寝泊まりする部屋からそう離れているとは考えにくい。それに案内掲示板ぐらいは用意されているはずだ。

 キョウスケは備え付けのシャワーを浴びた後、愛用の赤のジャケットを羽織り、食堂を目指し部屋を出て行った。

 

 

 

 




第3話です。
場面が切り替わるか、分量が長くなったら更新します。
あと、12/11に取り組んでいる研究の方針が決まる+年末大勢のため、更新速度は遅くなります。ご了承ください。
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