Muv-Luv Alternative ~鋼鉄の孤狼~   作:北洋

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第5話 開発、新OS その3

【???】

 

 思考がもやもやとしてまとまらない。

 体の芯もどこかあやふやでぼやけていて、キョウスケは、今、自分が夢の中にいる(・・・・・・)のだと自覚する。

 

「クイ・・ココロセ・・・」

 

 気付けば、キョウスケの周りにパイロットスーツに身を包んだの男たちがつき従っていた。頭部を守るヘルメットの影で表情が分かりづらい。

 キョウスケの歩みにまるで幽鬼のように付いてくる男たち。

 よく見ると全員の目元に、紅い水玉模様のタトゥーが刻まれていた。

 ぼそぼそと、男たちの口が動く。

 

「セセセイジャク・・・・ナル・・セカイ・・・」

「フ、ジュンナル・・セ、イメイ・・」

「クイコロセ・・ショウ、キョ・・・・」

 

 片言の言葉。

 気味の悪い男たちは、次々とPT ── ゲシュペンストに乗り込んでいく。

 身に覚えのない記憶。あまり夢を見ない性質のキョウスケだったが、転移の影響か疲れが貯まっているのか、それで妙な夢を見ているのだろう。

 先頭を行っていた夢の中のキョウスケ。

 彼が何かつぶやき、同時にキョウスケは夢から引き上げられる感覚に襲われた。

 

 

 

 

 

 

 

「全ては静寂なる世界のために」

 

 

 

 

 

 

 

 

 奇妙な夢……所詮は夢だ。だが気味が悪いぐらいに臨場感に溢れた、夢らしくない夢だった。

 しかし気にしても始まらない。キョウスケは布団を畳み、今日の支度を始めるのだった。

 

 

【西暦2001年 11月27日(火) 11時56分 国連横浜基地 教室】

 

 ここ数日のキョウスケは素直にまりもの指示に従いながら、仕事をこなしていた。プロジェクターやシミュレーターの操作にもだいぶ慣れ、まりもの要求する操作を淀みなく行っていた。

 まりもの腕もかなり回復してきている。まりもの腕が完治するまでの仕事だったが、座学などでは学ぶことも多く、キョウスケは有意義に時間を使えていることに少なからず満足していた。

 

 

 その日の午前中の予定はシミュレーター訓練ではなく、教室での座学となっていた。午後はシミュレーター訓練、そして翌日 ── 28日はとうとう実機を用いた市街地訓練が予定されていると、まりもからスケジュールを聞いている。

 キョウスケは、今日もまりもの補佐でプロジェクターを操作していく。

 大学の講義のように、座学の合間に休憩時間が挟まれ、その後残りの講義が行われる。仕事をこなしながら講義を傍聴する内に、あっという間に午前の座学は終了した。

 

「最後に連絡事項が1つある」

 

 まりもからその伝達事項が207訓練小隊に伝えられたのは、昼休憩に入る直前のことだった。

 

「急な話だが、明日、国連事務次官が当基地を視察することになった」

「え!? あ、明日ですか!?」

 

 何故か、武が焦った様子で声を荒げていた。

 

「そうだが、白銀、何か問題でもあるのか?」

「だ、だって、明日は市街地訓練のはずじゃ……?」

「ん……? なぜ貴様がそれを知っている? まだ伝達はしていないはずだが」

 

 市街地演習の件は207訓練小隊の面々はまだ知らない筈だった。座学終了後、まりもから冥夜と榊に伝達する手はずになっていたが、おそらく武は以前にいた世界での情報からその予定を知っていたのだろう。

 訝しみながらも、まりもは武の質問に答える。

 

「貴様たちがシミュレーター訓練を初めて既に数日、さらに納品された『吹雪』の調整作業もあらかた終了したため、従来のスケジュールを繰り上げ、明日から実機を使用した市街地演習を開始する予定だった。

 だが事務次官来訪が急きょ決定したため、明日は全員基地内待機命令が出て、市街地演習は延期になったと言うわけだ」

「な、なるほど」

 

 深刻そうな表情で頷く武。

 横浜基地は国連所属の筈だから、国連事務次官というと相当な高官であり上官に当たるのは間違いない。しかし視察に来る事務次官が、武のような一介の訓練兵を相手するとは思えない。

 キョウスケには武が焦っている理由が皆目見当もつかなった。

 

「日頃の訓練の成果を見るいい機会だったが、こればかりは仕方がない。伝達事項は以上だ。各自、午後のシミュレーター訓練に遅れないように ── 解散」

「敬礼!」

 

 榊の号令で起立する207訓練小隊の面々。

 着席する彼らを尻目に、キョウスケはプロジェクターの片づけを始めようとしたが、その手を誰かにつかまれた。

 振り返ると、武がキョウスケの手を握っていた。

 

「響介さん! 一緒に来てください!」

「……どうした? 血相変えて」

「いいから! 夕呼先生に呼ばれてるんです!」

 

 武の表情には鬼気迫るものがある。余程の事態が起こっていると見て、間違いなさそうだった。

 その事態にまったく覚えのないキョウスケだったが、まりもに重たい物などは後で必ず整理するから置いておいてくれ、と断りを入れ夕呼の研究室へと急ぐことになった。

 

 

 

      ●

 

 

 

【12時23分 B19 香月 夕呼の研究室】 

 

「先生! 明日、この基地が吹き飛ぶかもしれません!」

「「はぁ?」」

 

 研究室についた途端、武が口にした文字通りの爆弾発言に、キョウスケと夕呼は首を傾げた。

 横浜基地が吹き飛ぶ。

 かなり広大な敷地を誇る横浜基地を制圧するなら兎も角、吹き飛ばすとなると、MAPW級の広範囲高攻撃力が必要になるのでないだろうか? 

 そもそも爆弾で吹き飛ばす以前に、国連所属の基地が狙われる理由があるのだろうか? BETAのような共通の外敵が居ても、人類が一枚岩のように団結することは難しい。実際、キョウスケの世界でもそうだった。

 横浜基地が何らかの理由で狙われる可能性はゼロでないとしても、この世界の情勢にまだまだ疎いキョウスケには実感が沸かない。

 

(テスラ研じゃあるまいに、軍事施設がそうそう襲撃にあってたまるものか)

 

 キョスウケがそんな事を考えている内に、武は猛然と説明し始めた。

 

「俺、覚えてるんです! 視察が終わった頃、HSST(再突入型駆逐艦)がこの基地目がけて落ちて来るんです! しかも再突入後、加速するようにプラグラムされ、カーゴに爆薬を満載したヤツがですよ!」

「どうしてよ?」

「理由は……分かりませんけど、仕組まれたくさい感じでした」

「……なるほどね」

 

 夕呼は武の説明に理解を示していたが、キョウスケにはいま一つ理解できなかった。おそらく、横浜基地に敵対する組織が取った攻撃手段、と言った所だろう。その程度しか把握できなかった。

 夕呼に被害予測を尋ねられ、武はこう答えた。

 

「搭載された爆薬の威力で、地下4階まで地上施設ごと吹き飛ばされると聞きました。それで防衛基準態勢2が発令されて……でも207訓練小隊にはタマがいたから」

「なるほど。そこで1200mmOTHキャノンの出番、と言う訳ね。白銀が覚えてるってことは、無事にHSSTは撃墜できたようね……面白そうじゃない、ちょっと様子みてみましょうか?」

「ダメですッ!!」

 

 喉笛を噛み切りそうな勢いで武が叫んでいた。

 

 

 2人の話を聞きながら、キョウスケは状況を頭で整理していた。

 武が経験した未来時間では、事務次官視察時に何者かによって爆薬満載のHSSTが横浜基地に投下された。

その時は撃墜に成功して事なきを得た。

 そして、現在も同様の事象が起ころうとしているが、問題はその発生日時にずれが生じている事らしい。

 人類が敗北する未来を変えるため、未来の記憶を使い世界に干渉する白銀 武。武は良い方向に未来を変えるよう行動してきたのだろう。なら、HSSTが降下して来る未来を知っているからこそ、どうにかして問題を未然に防ぎたいと言う訳だ。

 しかし未来を変える事が必ずしもいい結果に繋がるとは限らない。

 特に大きな事件を未然に帳消しすれば、その歪みが何処か余所にしわ寄せとして現れる可能性もある。夕呼はその事を懸念していたようだが、結局、武の説得に折れた。

 

「ま、いいわ。予防できるように根回しはしてみるとしましょう……それにしても不思議よねー、どうしてそんなに急いだのかしら? 

 ……ここを潰して計画の成果物を消せば、予備計画に移る可能性が高くなるのは分かるけど、いよいよ玉砕覚悟で喀什(カシュガル)を攻める決定でもしたのかもね?」

「喀什を攻める……?」

 

 夕呼の言葉に武が首を傾げる。当然、初耳の単語にキョウスケもそれが何を指しているのか理解できない。

 そんなキョウスケたちを見かねたのか、夕呼は研究室のパソコンにある画像を表示した。世界地図に01から22までの番号の付いた赤い点が振られている。その大半がユーラシア大陸にあり、日本にも21と22と書かれた点があった。

 夕呼は、その中でも一際大きい光点を指さした。大きく「01」と書かれている。

 

「ほらここ、喀什には『甲1号目標』 ── 国連名称『オリジナルハイヴ』があるでしょ?」

「なるほど。敵の本丸を攻める、という訳か」

 

 まりもの講義にも出てきた。月から「初めて」地球に降下してきたBETAが作った前線基地 ── ハイヴが喀什にあり、そこを攻めようと言うのだ。

 しかし、それと横浜基地にHSSTを落とすことに何の関係があるのか、キョウスケの中では中々1本の線で繋がらなかった。

 

「だがそれなら横浜基地など攻撃せずに、さっさと敵基地を叩けばいい……おおかた、狙われる理由でもあるのだろう?」

「何よ、人を悪人みたいに。まぁ、あるけどね」

 

 しれっと答える夕呼。

 理由を問い詰めたところで、のらりくらりと躱されるのがオチなので敢えて深くは訊かない。知ったところで、キョウスケにできる事は無いだろう。キョウスケの力が役立つ事例なら、夕呼はとうの昔に情報を開示しているに違いないからだ。

 それはそうと、キョウスケには気になった点が一つあった。

 

「……ところで香月博士、この22番のハイヴだが、この横浜基地から随分と近いな」

「そりゃあそうでしょ。だってここ(・・)ですもの」

「ここ……? ああ、そういうことか」

「ど、どういうことだってばよ?」

 

 察しが悪いのか、理解できないあまり口調が変になる武。とはいえ、キョウスケは元の世界で似たようなケースを経験しているから分かるだけで、気づかない事の方が普通とも言える。

 

「敵の施設を接収、拠点として使いながら敵の情報を研究する……俺たちの世界でもホワイトスターと言う実例があったが、この横浜基地は『22番』のハイヴを改修して使っているという訳か」

「あら、そっちの世界でも似たようなことやっているのね」

「ハイヴ? え、ここが? またまた~、先生も冗談が上手いだから~」

(・・)ハイヴよ。今でもいくつかの機能は生きているわ」

 

 敵のテクノロジーを研究するために、前線基地の機能を完全に停止させる訳にはいかない。夕呼の言っていることは本当だろう。

 夕呼は悪戯好きの子どものような笑みを武に向ける。

 

「寝起きしてた場所が元BETAの巣だって知って、ビックリした?」

「え、ええ、まぁ」

「でも安心して。この基地は安全だし、その基地をむざむざ破壊されたりはしないわ。HSSTの落下も必ず阻止して見せるから、アンタは今まで通り励んでくれればいいの」

「はい! 夕呼先生、よろしくお願いします!」

 

 HSSTの落下 ── 未然に防ぐに越したことはない。

 だが一介の訓練生や兵士ではどうしようもない。結局は夕呼頼みだった。

 後の事は全て夕呼に任せることにして、キョウスケと武は敬礼をして部屋を出ようとする。

 

「あ、南部」

 

 その時、夕呼がキョウスケに声をかけてきた。

 

「午後の仕事が終わってからでいいから、戦術機ハンガーに顔を出してもらえるかしら?」

「ああ、了解した。だが一体何の用だ?」

「ま、ちょっとしたサプライズって奴かしら」

 

 サプライズなら俺に言ってはダメだろう。と内心ツッコミを入れてしまったキョウスケだったが、話し込んで昼休憩の時間を大分使ってしまったため、まりもの元へ急いで戻ることにした。

 午後のシミュレーター訓練も滞りなく終了し、武は207訓練小隊の仲間と共にPXへ、キョウスケは仕事の整理を終わらせて戦術機ハンガーへと向かうのだった。

 

  

 

      ●

 

 

 

【20時34分 国連横浜基地 戦術機ハンガー 最奥部】

 

 夕呼が待っていると整備員に案内され、キョウスケは戦術機ハンガーの最奥へと通された。

 

 そこは不知火やアルトアイゼンが格納されているスペースからかなり離れており、周囲には戦術機の影はなかった。代わりに多くの整備員と、物資運搬用や作業用の重機が沢山目に入ってくる。

 その最奥スペースは例えるなら工場現場。機体を安置しておくための場所と言うよりは、何かを建造しているような印象を受ける。

 そんなスペースの中央で夕呼は待っていた。何故か、夕呼子飼いの特殊部隊「A-01」の隊長 ── 伊隅 みちるも同席している。

 

「あら、遅かったわね」と夕呼。

「南部、久しぶりだな。元気にしていたか?」とみちる。

「データの整理に時間がかかってしまってな。伊隅大尉も、先日の演習では世話になりました」とキョウスケ。

 

 呼び出しをかけた夕呼は兎も角、みちるがハンガーに居る理由がキョウスケには分からなかった。軽く挨拶を済ませたあと、キョウスケは夕呼に訊く。

 

「俺を呼び出した要件とは一体……?」

「ちょっとね、前々から作ってた物が完成したから、アンタにも見てもらおうと思って」

「完成? ハンガーにあるということは、新型の戦術機ということか?」

「そうよ。ただし、この香月 夕呼印のスペシャル仕様機よ。アルトアイゼンのデータベースや機体から得た技術や新素材も全部詰め込んみた。ちなみに搭乗予定の衛士は、アンタに機体を半壊させられて乗機のなくなった伊隅が勤めるわ」

「お披露目ということで私も呼ばれたんだ」

 

 なるほど、とキョウスケは頷いた。

 専任パイロットが自分の乗機を見に来る。別に珍しい事ではない。

 薄暗いハンガーの最奥部に細身の機影が見えた。シルエットから判断して不知火の系譜のようだが、ただ暗すぎて、微妙な違いが良く分からなかった。

 

「じゃあ、ライトアップ」

 

 夕呼が指を弾くと、待機していた整備員が証明のスイッチを入れた。

 足元から大型のライトの光が伸び、機体の全貌が露わになる。

 

「こ、これは ──」

 

 キョウスケは絶句した。

 倒れぬよう拘束具で固定されている機体……その見た目は確かに戦術機だった。

 ただし激震とは違うシャープなボディーラインをしている。それは不知火の系統の機体である証拠だろうが、相当改修されたのか、外見のイメージは大分変っていた。

 不知火より装甲が削られさらに細くなり、加えて肩部もある程度の装甲を残しながらスラスターノズルが内蔵されていた。また細身に不釣り合いな大型跳躍ユニットが装備され、背部に不知火にはない追加スラスターがあり、機動力を重視した機体であることが見て取れる。

 何より、キョウスケが驚いたのは、その機体の色だった。

 青や灰色のカラーリングが多い戦術機の中で、一際異彩を放つ配色 ── 純白(・・)で全身を染め上げられていた。

 目の前の戦術機と瓜二つの機体を、キョウスケはよく知っていた。

 

「── ヴァイスリッター」

「そう、ヴァイスリッター。アルトアイゼンのデータベースに登録されていたその機体データを元に、最新鋭の技術と新素材を使って再現したわ」

 

 驚いているキョウスケに夕呼が饒舌に話し始めた。

 

「この機体のベースにしたのは不知火壱型丙よ。

 アルトアイゼンの装甲素材を参考に開発した新素材でフレーム、装甲を一新しているから、改修というより最早新造したと言ってもいいわね。新素材の恩恵でフレームと装甲の強度は飛躍的に増したから、その分装甲を削って重量を落としてあるわ。もちろん、最低限の機体強度は確保してあるから、不知火と同等程度の耐久力は持っている。

 さらに機動力を増すために改造した最新鋭の跳躍ユニットに加え、背部スラスター、各部にバーニアを増設してあるわ。量産は効かないけど、推進剤も独自に改良した燃焼効率の良いものに代えてあるから、航続距離や稼働時間も長くなっていて、壱型丙の欠点だった燃費の悪さも、とある計画のデータを流用した電力消費効率の良いパーツに全て交換してある程度解決してるわ。

 またOSはまだ新型ではないけれど、新OSインストール予定の高性能CPUに換装してあるから即応性はかなり向上。

 武装に関しては試作01式電磁投射砲、左腕内臓式の短銃身3連突撃砲を装備。遠距離は電磁投射砲、近接格闘は3連突撃砲の速射力で殲滅力を向上させてあるわ。

 頭部モジュールはまだそのままだけど、その内改造しようかしら?」

 

 早口で語られる夕呼の言葉を要約すると、この世界版ヴァイスリッターを作ってみたということだった。

 今にして思えば、まりもとの実戦演習で出てきた「不知火壱型丙」は、電磁投射砲の試射を兼ねた、この機体開発のためのテストケースだったのかもしれない。

 他にも細々したパーツの解説を続けていたが、じきに満足したのか、夕呼は満面の笑みで宣言する。

 

「これぞ不知火壱型丙香月 夕呼スペシャル改 ── 名付けて、不知火・白銀(しろがね)よ!」

「不知火・白銀か。まるで武の専用機のような名前だな」

「衛士を務めるのは私なんですけどね」

 

 未来時間を生きた武の実力は既に相当なレベルに達しているだろうが、総合力ではまだまだみちるには及ばないだろう。

 それに一介の訓練兵より、特殊部隊の隊長がテストパイロットを務める方が自然だ。みちるが専任衛士に選ばれたのは当然だと、キョウスケには思えた。

 

「しかしヴァイスリッターを模したということは、欠点も同様なのだろうな」

「まぁね。でも加速力が相当上がっているから、他の機体より大分アルトアイゼンに追従して行けると思うわ。2機連携(エレメント)を取れる機体が1機もいないんじゃ、戦場での運用がしにくいでしょう」

「香月博士、まさかそのつもりでコイツを……?」

「そうよ。でも加速力が上がった影響で衛士への負担が倍増しちゃうのよねぇ。開発期間が短いからアラはこれから沢山出てくるでしょうけど、ま、耐G対策も合わせておいおい考えていくわ」

 

 問題はまだまだ山積みね、と呟く夕呼だったが、達成感はあるのか良い顔で笑っている。

 不知火・白銀は、ヴァイスリッターとまったく同じカラーリングを施されている。遠目に見れば本物と見間違えそうな程に瓜二つだった。ただ実物を身近で見続けてきたキョウスケには、まだまだ装甲が厚すぎる印象を受けた。

 しかし不知火・白銀も、87式突撃砲で容易に貫通できそうなレベルで装甲は薄い。こうして考えると、ヴァイスリッターが異常だったのだとよく分かる。

 

「さてと、じゃあお披露目はこの位にしましょうか?」

 

 夕呼が手を叩いて、仕切り直す。

 

「今後の予定を伝えるわ。もう大分まりもの怪我も良くなっているみたいだし、南部は明日からアルトアイゼンで不知火・白銀との連携訓練を行ってちょうだい。新OSの仮想敵役をお願いする時は、そっちを優先してお願いね」

「了解した」

「伊隅もA-01の訓練はある程度速瀬に任せて、不知火・白銀の実動データ取りをお願いするわ」

「はっ、了解です」

 

 結局、この日は不知火・白銀を起動することなく、これで解散となった。

 異世界の技術で作られたヴァイスリッター。相方のエクセレンが見たら、どう反応するのだろう? きっとビルトファルケンの時と同じように、新しい妹ができたと言って満面の笑みで喜ぶのだろう。

 郷愁の念を覚えながら、キョウスケは自室に戻り休むことにしたのだった ──……

 

 

 

 




その4で最後で第5話は終了の予定です。


《本作オリジナル戦術機 紹介》

名称:不知火壱型丙香月 夕呼スペシャル改 ── 通称「不知火・白銀」
   アルトアイゼンのデータベースに登録されていた「ヴァイスリッター」を再現し、得たデータから今後の技術革新につなげる目的で香月 夕呼が建造。ちなみにキョウスケが転移してきた翌日から、データベースを閲覧した夕呼の指示で建造が開始されている。今後、アルトアイゼンを運用する際のエレメントが必要と考えた結果でもある。
主機:不知火壱型丙と同種の物を改良し使用
跳躍ユニットエンジンおよび推進機材:ジネラルエレクトロニクス製F-140エンジンの改造型。また背部の兵装担架システムは完全排除し、背部大型スラスターを装備(ウェポンラックは一応ある)、機体各所に姿勢制御用のスラスターも数か所増設している。肩部に不知火・弐型と同様のスラスターノズルを装備。
装甲・フレーム素材:アルトアイゼンの装甲材を解析し再現した新素材を使用。完全な解析はできなかったため、強度面ではオリジナルにかなり劣るが、不知火に使用されている従来品より比重に対する強度が高い。
OS:開発中の新OSをインストール予定の高性能CPUを搭載。現在のOSはまだ従来品を使用。
その他パーツ:夕呼が秘密裏に入手したXFJ計画のデータから、不知火・弐型と同様の電力消費の少ないパーツを入手し使用。
武装:
 ・試作01式電磁投射砲
   不知火壱型丙香月 夕呼スペシャルが使用した物と同じ。交換用砲塔カードリッジ、交換用弾倉あり。機体同様、新素材を使用しているため軽量ながら強度はかなり高く、一応殴打武器としても使用可能だが、良い子はこれでBETAを殴ったりしてはいけない。
 ・左腕内蔵型3連突撃砲
   内蔵された3つの砲門から、36mm徹甲弾を87式突撃砲同様に撃ち出す。砲身が3倍に増えているため速射力・殲滅力は87式突撃砲より高いが、弾切れ時の補充は整備を受けなければ行えないことが欠点。試作01式電磁投射砲の取り回しが考慮し、ヴァイスリッター同様右腕部に装備されていない。
欠点:開発期間が短くマシントラブルが起こる可能性が非常に高い。
   耐久力は決して高くなく、不知火と同程度かそれ以下。
   機動力・加速力は大幅に向上したが、その分衛士にかかる負担も増加している。加速度病対策に衛士に投薬が必要ではないかとも考慮されている。 
   ワンオフ機であり、整備性は不知火より圧倒的に劣る。
   とても高価(実はキョウスケの借金はこれの開発費に当てられていたりする)

機体名候補は「不知火・白騎士」とか「不知火・白夜叉」とか考えてましたが、響きが良いので「不知火・白銀」に決定。
響きは良いんだけど、「不知火・白銀」と書くのが正しいのか、「不知火白銀」と書くのが正しいのか微妙。たぶん「不知火・白銀」と書いて間違いないとは思いますが。


安西先生……BETAさんが書きたいです。

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