Muv-Luv Alternative ~鋼鉄の孤狼~   作:北洋

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本格的な戦闘は次回からです。


第6話 赤い衝撃 その2

【10時48分 横浜基地 戦術機ハンガー】

 

 ──……ブリーフィング終了後、キョウスケはアルトアイゼンのコクピットで出撃準備を行っていた。

 

 今回の防衛任務は、BETAの足止めを行うことが第一目標になる。

 そのため、現地で部隊を二分して対応することになった。

 隊長である伊隅 みちるをリーダーとしたA小隊、ナンバー2である速瀬 水月をリーダーとしたB小隊に別れ、BETAを漸減しつつ時間を稼ぐ。可能な限り両小隊が連携可能な距離を維持できるのが理想だが、BETAの拡散を防ぐため部隊を散開させて多方向から抑え込む必要があり、あまり現実的ではない。結局、現場での判断は各小隊長に一任された。

 今回はキョウスケを臨時編入したため、小隊編成は5機の変則小隊となっており、彼はみちる率いるA小隊に配置された。

 A小隊のメンバーは伊隅 みちる、風間 祷子、築地 多恵、高原 ひかる、そしてキョウスケ・ナンブの5名で構成され、それぞれ配置は迎撃後衛(ガン・インターセプター)制圧支援(ブラスト・ガード)打撃支援(ラッシュ・ガード)砲撃支援(インパクト・ガード)突撃前衛(ストーム・バンガード)とされた。

 

 あまり時間に余裕はない。本来は戦域周辺まで戦術機を輸送してから起動するのがセオリーだったが、今回は戦術機で戦域周辺まで移動後、推進剤補給を受けそのまま戦闘に参加する手はずになっていた。

 そのためキョウスケは、戦術機ハンガーでアルトアイゼンを起動させ、整備員による誘導が開始されるのを待っている状態だった。

 と、待ち時間を持て余していたキョスウケに通信が入る。秘匿回線だった。

 

『 ── 南部、聞こえてるかしら?』

「香月博士? どうした?」

 

 通信相手は副指令として発令所にいるはずの夕呼だった。

 BETAの新潟再上陸 ── 多忙を極めている筈の夕呼がわざわざ通信を入れてきたのだ。余程の要件に違いない。

 

『そういや、アンタにBETAに関するデータを渡してないと思ってね。突然だったしね、アンタまだ、訓練兵レベルの情報しか持っていないでしょう?』

「そうだな。確かに、BETAの戦闘能力などは詳しくは知らない」

『今更かもしれないけど、アルトアイゼンに各種BETAの戦法や特性を纏めた簡易データを転送しておくわ。余裕があれば目を通しておいて』

「ありがたい、恩にきる」

 

 未知の敵との戦闘程やりにくい物は無い。エアロゲイター、アインスト、インスペクターと前例に事欠かないキョウスケにとって、夕呼の配慮はかなりありがたかった。

 

『あと2,3分なら時間があるわ。聞きたいことがあるなら、今の内に聞いておいて』

「そうだな……」

 

 夕呼の申し出に、キョウスケは以前から気になっていたことを1つ確認することにした。

 

「BETAには再生能力は備わっているのか?」

 

 BETAは炭素系生命 ── 要するに生き物だ。

 人間がそうであるように、生き物である以上再生能力は有しているはず。その程度が人間並みなのか、トカゲ並に欠損箇所すら再生するレベルのモノなのか、気になっていた。

 それと言うのも、キョウスケは元の世界でアインストと何度も戦闘を重ね、再生能力の厄介さを痛感していたからだ。

 

『再生能力? 厳密に言えばあるわね。突撃(デストロイヤー)級の装甲殻の模様は、砲弾でできた弾痕なんかが再生した痕だし』

「いや、俺が知りたいのは再生する速度なのだが……?」

『速度? 戦闘中に回復してしまうか、どうか、ということかしら?』

「ああ。俺のいた世界では、戦闘中に半身が吹き飛ばされようとも、5分もすれば再生する化け物がザラに居たからな」

 

 アインスト……特にレジセイア級の再生能力は非情に厄介だった。休む間を与えずに仲間たちと連続攻撃を仕掛けなければ、撃破することが難しく、その異常な耐久力には何度も頭を悩まされたものだった。

 レジセイア級の再生能力を有している敵なら、1体1体確実にトドメをさしておく必要があった。倒したと思い込み、背後から狙われたのではたまらない。

 BETAには87式突撃砲が通用するため、多少の再生能力を持っていても、何とかなるとは思うのだが……。

 

「だから、BETAにも同レベルの再生能力があるのか確認したいんだ」

『…………呆れた。とんでもないわね、アンタの世界も』

「そうか。その答えだけで十分だ」

 

 極端な再生能力がBETAにないのなら、過剰に弾薬を使って追い打ちをかける必要はなくなる。今回の作戦の目的は時間稼ぎだ。戦闘能力さえ奪ってしまえば、効率よく敵を無力化でき不必要な時間と弾薬を使わなくて済む。

 使える時間が尽きたのか、通信機から夕呼を呼ぶ声が聞こえてきた。

 夕呼は、じゃあね、と前置きを述べ、

 

『南部。絶対に生還しなさい。アルトアイゼンの事はまだまだ調べたりないんだから、特にテスラドライブとか言う慣性制御装置はね』

「なんだ、気づいていたのか?」

 

 アルトアイゼンにはバランサーとしてテスラドライブが搭載されている。

 夕呼はアルトアイゼンのデータベースに記録されていらヴァイスリッターのデータから、不知火・白銀を制作していた。スペックデータに記載されている、テスラドライブの存在に気づいていても不思議はない。

 

『当然よ。解析に時間がかかりそうだったし、装甲素材なんかの比較的やりやすい部分から調べてただけ。難解な新技術より、単純で頑丈な新素材の方が応用の幅も効くしね。

 まだ研究したりないんだから、必ず壊さずに持って帰りなさいよ……もちろん、アンタも無事でね』

「了解した。可能な限り、自重しよう」

『本当かしら? 怪しいもんだわ……とにかく、頼んだわよ』

 

 画面の向こう側で苦笑しながら、夕呼は通信を終了した。夕呼は模擬戦、実射試験とキョウスケとアルトアイゼンの戦法を見ていた。だからこその苦笑い、といった所か。

 アルトアイゼンの長所を活かす戦法を選択すれば、それは必然的に1つに絞られてくる。自重、などという言葉が自らの口から飛び出したことに少し驚きながらも、キョウスケは通信のために止めていた手を動かし始めた。

 

 キョウスケは機体のコンディション、武装の残弾確認を再度行うことにした。

 機体状況を示すボディアイコンは全身黄色に染まっている。実射試験から1週間ちかくが経過していたが、結局、アルトアイゼンの装甲は補修されていないままだった。

 夕呼の開発した新素材でも、アルトアイゼンの装甲を完全に再現はできなかったのだ。電磁投射砲の斉射を受け傷だらけのアルトアイゼンの装甲板を、新素材で作った装甲板に取り換える話も上がっていたらしい。しかし、交換後の強度が著しる低下するとの結果が計算で出たため、装甲の補修は行えないままでいた。

 武装に関しても同様で、爆薬入りの特製チタン製のベアリング弾は言うまでもなく、5連チェーンガンも残弾が半分以上の残っており36mm弾への換装は見送られた。積載量は36mm弾の方が確実に上のため、キョウスケ的には積み替えても構わなかったが、威力を考えるとそのままが良いし、なにより今からでは時間が足りない。

 相当の乱戦が予想され、弾薬消費量が実射試験の比ではないのは火を見るより明らかだ。

 キョウスケは、実射試験で互換性が確認された87式突撃砲を2丁、アルトアイゼンのマニュピュレーターに装備させることにした。

 さらにもう1つ秘密の武装を用意した。

 

(ビームソード……俺が転移した日、アルトアイゼンに装備されていたらしい……あの時、使った覚えはないが、使える物は使わせてもらうとしよう)

 

 あの時 ── インスペクター事件の最終決戦で、キョウスケはビームソードを使用していない。信頼しているアルトアイゼンの固定武装だけで戦い抜いたはずだった。

 どのみち、規格・設計の違う戦術機にはビームソードは扱えない。

 この世界では未知の武器であるため、可能なら使わずに済ませたいが、保険として装備させておくのは悪くないだろう。

 

 

 キョウスケが機体のチェックを終え、BETAに関するデータに軽く目を通した頃、整備員から出撃許可がおりた。

 機体安置用の拘束具が外され、アルトアイゼンがハンガーに解放される。

 歩行してハンガー外へ移動。「A-01」の不知火部隊と合流した。

 

『全機揃ったな! ではこれより、全力跳躍(フルブースト)で戦域へと移動する!』

「ヴァルキリー0、了解」

 

 ヴァイスリッターを模して製造された不知火 ── 不知火・白銀からのみちるの通信に、キョウスケは冷ややかに答えた。

 訳の分からぬ異世界の戦争 ── 介入せぬのが最良だが、巻き込まれてしまった以上最前は尽くす。

 

(エクセレン……俺は必ずお前の元へ帰るぞ)

 

 キョウスケは静寂な湖面のように心を静め、その底でマグマように闘志を燃やした。

 

『ではいくぞ! ヴァルキリーズ、出撃ぃ!!』

 

 みちるの声に全員が応え、跳躍ユニットから火を噴かせ横浜基地から飛び立つ。

 アルトアイゼンは巡航速度で、不知火は最大戦速で加速する。陣形を保ったまま、BETAが足止めされている筈の関東山地周辺の盆地へと向かった ──……

 

 

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 

【11時52分 関東山地周辺 盆地手前20km 仮設補給所】

 

 補給所で推進剤を補充した「A-01」は、今や目前と迫った戦場の音を耳にしていた。

 

 断末魔は聞こえないが、代わりに断続的に銃声が響いて来る。

 BETAの姿は見えない。しかしアルトアイゼンに追加実装された、この世界用のデータリンクが状況を克明に伝えていた。

山を1つ越えた先の盆地が、敵軍を現す赤いマーカーで埋め尽くされている。赤く染まっていない部分を見つけることが困難な程に、盆地内にBETAが密集していた。

 BETA集団を包囲するように、集結した戦術機部隊が円形に広がっていた。しかし赤に比較して青が圧倒的に少ない。各基地からの戦力集結が間に合っていないのは明白だった。

 

『総員、傾注(アテンション)!』

 

 みちるから「A-01」全機に命令が下る。

 

『我が隊はこれよりA小隊、B小隊に別れBETAを足止めする! 遠慮はいらん! BETAのケツに、劣化ウランのデザートをたらふくご馳走してやれ!!』

『『『『『『『『了解ッ!!』』』』』』』』

「了解」

 

 「A-01」は、みちる機をリーダーとしたA小隊と速瀬機をリーダーとしたB小隊に分散し、それぞれ別方向へと匍匐飛行する。

 アルトアイゼンはA小隊の前衛を務め、他機の速度に合わせて先頭を疾走した。

 盆地へと続く山間に作られた道路を進みながら、キョウスケは87式突撃砲の安全装置を解除した。弾種は、BETAのほとんどに有効とされる36mm徹甲弾。

 山間を抜け、視界が開け、盆地の光景がキョウスケの目に飛び込んできた。

 

 

 醜悪で大小様々な肉の塊の化け物が群れていた。

 地面のほとんどは化け物 ── BETAで覆い隠されている。特に小型の赤いBETA ── 戦車(タンク)級は数が多く、地面の色を赤く染めていた。自由に見ることができるモノと言えば空ぐらいのものだが、空へ逃げれば、光線級に攻撃されてしまうだろう。

 逃げることはできない。

 まるで盆地は大量のピラニア飼っている水槽のように、一度足を踏み込めば、BETAとの接触を避ける事ができない戦場と化していた。

 

(……つくづく、俺も化け物に縁があるな)

 

 BETAの外見は、およそほとんどの人が生理的嫌悪感を抱く凶悪なモノだったが、アインストとの対峙で耐性ができているのか、キョウスケが動じることは無かった。

 接敵までまだ時間はある。

 刻々と変化する戦域情報に目を通すと、BETAに包囲され孤立している戦術機部隊が近くに存在した。

 

「伊隅大尉ッ」

『ああッ、全機、兵器使用自由! 友軍を援護するぞ!』

『『『了解!』』』

 

 みちるの命令に応えるように、アルトアイゼンの大型ブースターに本格的に火が入った。

 突撃砲を構えたまま、アルトアイゼンはBETA群へと突撃していく ──……

 

 

 

 




その3に続きます。
ここまで長かった……次回からBETA戦です。
ちなみに高原の名前はねつ造です(wikiに載っていませんでした、扱いカワイソす)。名前の由来は「UFOロボ グレンなんちゃら」のヒロインから。原作でもパロった冥夜の師匠とか出るからいいかなと……本名知っている方がいたら教えていただけるとありがたいです。
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