Muv-Luv Alternative ~鋼鉄の孤狼~   作:北洋

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更新速度を上げるため、1話分を数回に分けて(場面変化あたり切る予定)更新していく予定です。


第1部 報いなき栄光 ~The stranger ~
第1話 その女、香月 夕呼 1


【西暦2001年 11月20日(火) 日本 横浜基地 営倉】

 

 肌の熱を吸い取っていく硬い地面の感触が、キョウスケ・ナンブを覚醒させた。

 

 空気が冷たい。冬、とまではいかなくても、秋の終わりも近づいている……そんな感じの深々とした冷気がキョウスケを包み込んでいた。加えてキョウスケが眠っていた場所も、寒さをより強く感じさせる要素を多分に含んでいる。

 四方をコンクリで覆われた小さな部屋の床で、キョウスケは薄い毛布1枚に包まって眠っていた。廊下に面した壁だけが取り払われ代わりに鉄格子が嵌め込まれており、ご丁寧に成人男性では脱出不可能な小さな採光窓にも鉄格子がしっかり設置されている。

 営倉と呼ばれる懲罰房の一種 ── キョウスケのいる場所がそこだった。

 

「……っ」

 

 頬を残る鈍痛に思考がクリアにされていく。キョウスケは、昨日、尋問官に顔面を殴打されたことを思い出した。営倉には鏡がないが、青痣になっているだろうことは感覚的に分かる。ちなみに営倉にある物は、排便用の和式便座が1つあるだけで衛生的な環境だとはお世辞にも言えない。

 昨日 ── 尋問官の口ぶりでは11月19日だったらしいが、キョウスケは見覚えのない軍事施設の医務室で目を覚ました。1週間以上眠り続けていた……これは医務室にいた従軍看護師の証言だ。 

 当然だが、その間の記憶は一切キョウスケには残っていない。

 覚えているのは……【シャドウミラー事件】の際、シャドウミラーとアインストとの決着をつけた後現れた並行世界の自分 ── キョウスケ・ナンブ……奴の駆る並行世界のアルトアイゼンを撃破した瞬間、自分は既に大気圏に突入してしまっていた……と言う事実だけ。

 キョウスケの愛機、アルトアイゼン・リーゼには大気圏突入能力がない。冷静に考えれば……最悪の場合は空中で爆散、運が良くても海面か地面に叩きつけられて大破は免れなかったはず……しかし自分は生きていた……しかも無傷で。

 

(絶体絶命の状況を……運よく乗り越えたのはこれが初めてじゃない。……それはいい、だが、俺が今置かれている状況が腑に落ちん……)

 

 旅客機の墜落事件、ビルトラプターの空中分解、ソウルゲインによるアルトアイゼンの被撃破……思いだせるだけで、キョウスケは3回も死んでもおかしくない事件を生き延びている。墜落後、運よく生存してた所を救助されたと考えれば、医務室で自分が起きたことも納得できる……が。

 問題は、その後有無をを言わさず尋問室に連行され、1時間近い尋問の後にここ ── 営倉にぶち込まれたことだった。

 

(……敵対組織……例えばノイエDCの残党に捕縛された……? そう考えれば納得できるが、説明はつかない点が多すぎる)

 

 キョウスケは軍人だ。自分が置かれている状況も把握せず、尋問されたからと言って自軍の情報を相手も漏らすほど愚かではなかった。名前や年齢程度の事しか口にしないキョウスケに、ついに痺れを切らした尋問官の鉄拳が顔面に降ってきたが、その程度で済むのであれば幾らでも殴られてやる思っている自分がいた……問題は今後、自白剤の類の薬を使われる可能性がなくは無い……ということだ。

 キョウスケが捕縛された組織が人道的とは限らない。

 

(今の状況ではどうしようもない、か……口を閉じることだけが今の俺にできる精一杯の抵抗……せめて、現状の把握だけでもしておきたい所だが……)

 

 目覚めてからキョウスケが得た情報は少なすぎて、何も分からないのが現状だった。

 

(しかし妙だ。あの尋問官はしきりに「日本帝国軍」、「国連軍」と口にしていた……地球連邦軍の間違いではないのか……? それに日本は帝国主義ではない。アメリカは分かるが「ソ連」などと既に解体した国の名も口にしていたが……ロシアの間違いではないのか? 戦術機という聞いたことのない単語も耳にしたが……いったい、ここは何処(・・・・・)なんだ?)

 

 考えれば考える程に生まれてくる疑問。

 湧き上がる違和感。

 しかしそれらを解決する手段を今のキョウスケは持ち合わせていなかった。

 

「エクセレン……お前は無事なのか……?」

 

 恋人の名前が自然と口から洩れ出ていた。彼女はあの大気圏戦闘の最後の瞬間まで一緒にいた。敵機に吶喊(とっかん)したキョウスケと違い、エクセレンのライン・ヴァイスリッターなら余裕をもって重力圏外へと脱出は可能だろう。

 しかし、今の自分のように不測の事態が起こらないとも限らない。

 懸念が水底に落ち積もるゴミのようにどんどん貯まっていくキョウスケの思考、だが、それを遮る音が廊下から響いてきた。

 カツンカツンと乾いた革靴の音がキョウスケの営倉の方に近づいてくるのが分かる。足音はやはりキョウスケの営倉前で止まった。

 顔を上げると、昨日キョウスケの殴った尋問官が、小銃を携えた護衛を2人連れて立っていた。

 

「出ろ。お楽しみの時間だ」

「…………」

 

 頬の傷が疼き、悪態をつきたい気分に駆られたが抑える。抵抗のまなざしを向けても無為に相手の反感を買うだけだろう……はじめから、重い腰を上げるしかキョウスケに選択肢は用意されていなかった。

 

 

 

      

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