Muv-Luv Alternative ~鋼鉄の孤狼~   作:北洋

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独白【伊隅 みちるの場合】

【西暦2001年 12月1日(土) 国連横浜基地 A-01連隊専用ハンガー】 

 

 伊隅 みちるは考えていた。

 

 場所はA-01専用のハンガー内、改修作業を受けている不知火・白銀の周辺。現在施されている改修内容が記されたマニュアルに目を通しながら、心の底では別の事を考えていた。

 

(南部 響介)

 

 1回目のBETA新潟上陸時に、みちるが発見し保護したあの男。

 香月 夕呼博士の命令で、特務部隊「A-01」に臨時編成されたあの男。

 彼は一体何者なのか?

 そんな疑念がみちるの頭の中で渦巻いていた。

 マニュアルに記されている改修内容を頭に叩き込んでいる最中だったが、それでも尚、南部 響介に対する不信感は拭いきれない。

 

(あの香月博士が起用したぐらいだ、出自や経歴は洗ったうえでの決定なのだろう……)

 

 南部 響介 ── 日本人、階級は中尉、近接戦闘のスペシャリスト……その腕前が肩書きだけでない事を、みちるは身をもって理解していた。

 戦績はと言うと、2回目のBETA新潟上陸において、全ての光線級BETA群を単機で撃破するという前代未聞の快挙を成し遂げている。確かに命令違反を犯してはいたが、彼の行動が戦況の趨勢を決めることになったのは疑う余地はなかった。

 実力に疑いはない。

 しかしみちるは説明されていなかった。

 

(何故、あの時、南部は新潟にいた?)

 

 香月 夕呼博士からも、本人からも理由は聞かされていない。出撃前という状況だったから省略した。それだけだろうか? いやこの先もずっと、説明される機会は訪れない気がしてみちるはならなかった。

 まぁ、それはいい。

 脛に傷持つ人間は何処にでもいるものだ。

 NEED TO KNOW ── 部隊運用の上で知る必要がない場合、例え前線指揮官であっても情報は開示されない。軍隊ではよくあること、そう考えればみちるは納得できた。

 しかしみちるの南部 響介に対する不信感を決定づけていたのは、彼の出自や経歴ではなかった。

 それは2回目のBETA新潟上陸、その最後の局面のことだった。

 

(……あれは……本当に南部だったのか?)

 

 みちるはMRLS砲撃で焦土と化した大地に立っていたアルトアイゼンを思い返す。

 外見には何の問題もなかった。しかし違っていたのだ。非科学的な物言いになってしまうが、雰囲気や気配とでも言えばいいのだろうか、とにかく身に纏っている何かが違っていた。

 それは酷くどす黒いナニカ。

 確かに、みちるにはそう感じられた。

 根拠はない。だがあれほど強く、勘が警鐘を鳴らしたのはいつぶりだっただろうか? しかし間違いなく衛士の勘……いや、みちるの底に眠る野生の勘が告げていた。

 近づくな、と。

 その直後、アルトアイゼンは速瀬の不知火に対し暴挙に出た。衝撃的で、新しい鮮明な記憶だ

 

(……あれでは、まるで獣だ……)

 

 肉食獣が獲物を食いちぎるように、アルトアイゼンは不知火の頭部を潰し、腕を捥いでいった。

 常軌を逸した光景だった。あれに乗っていたのは、本当に南部 響介だったのか? そう疑いたくなる程に。

 結果的に南部 響介は乗っていた訳だが、いや乗っていたからこそ、みちるの彼に対する不信感は強くなる。

 南部 響介は何者なのか? と。

 マニュアルを流し読みしながら、みちるはそんな事を考えていた。「テスラドライブ」と聞き慣れない言葉が書かれている。新概念だろうか?

 

「隊長」

「ん? 速瀬、どうした?」

 

 「A-01」の副隊長、速瀬 水月がみちるに声を掛けてきた。彼女は修理中の不知火の代わりに支給された撃震の調整作業を行っていたはずだ。

 

「お客さんが来てますよ」

「客? 私にか?」

 

 みちるに伝達も無ければ、誰かと会う約束をした覚えもなかった。

 突然の訪問者。速瀬の後ろから、その訪問者は姿を現した。

 

「……南部中尉?」

 

 赤いジャケットを羽織った男性 ── みちるの疑念のど真ん中にいる男、南部 響介がそこに居た。

 

 

 


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