Muv-Luv Alternative ~鋼鉄の孤狼~   作:北洋

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独白【白銀 武の場合】

【16時47分 国連横浜基地 B19 通路】

 

 約束の時間が近づいている。

 転移実験に協力するために、俺は地下19階にいるであろう夕呼先生の元へと急いでいた。

 

 俺の名前は白銀 武。

 少し前までは、何処にでも平凡な男子高校生をしていた人間だ。

 だけど俺の運命はあの10月22日に捻じ曲げられてた。今の俺は平穏な学園生活など送れるはずもなく、2度目の10月22日を迎え、ただ我武者羅に走り続けて今日に至っていた。

 床を叩く軍靴の音が誰もいない廊下に木霊している。答える物は誰もいない。

 それはまるで、今の俺の状況を世界があざ笑っているようにも思えた。

 

(事情を知っているのは夕呼先生と霞だけだ。だからと言って、置かれている立場とかが違うから、夕呼先生は完全に俺の味方だとは言えないしな)

 

 夕呼先生の目的は、「Alternative4」の完遂 ── そのために必要な00ユニットを完成させるため、ある数式が必要なのだそうだ。そして、その数式は俺のいた元の世界の夕呼先生が完成させていて、俺はその数式を回収するためこの転移実験に協力している。

 転移実験の成功、それは「Alternative4」の成功に他ならない。

 「Alternative4」の完遂、それはつまりこの世界の救済に他ならないはず。とどのつまり夕呼先生は俺の立場で俺を助けるために動いているのではなく、世界を救うために俺を利用し、その結果が俺を助けることに繋がっているだけに過ぎない。

 だから夕呼先生に全幅の信頼を置きすぎるのも危険かなと、俺は考えている。

 だけど俺だってこの世界を救いたい。

 元の世界に戻りたい気持ちと同じ以上に、俺は深く関わりすぎてしまったこの世界を救いたかった。

 「Alternative4」の完成の手助けをしたい。

 その気持ちに嘘はない。だから転移実験に協力している訳だし。

 でも自分のような立場の人間が世界にたった1人だけというのは寂しい……自分勝手な疎外感を時どき覚えることがあった。

 

(……そういえば、今はもう違うんだっけ。今は俺の同じ立場の人間がもう1人いる)

 

 南部 響介中尉。

 奇跡的だと思えた。違う世界とは言え、世界の壁を超えた人間が俺以外にもいたなんて。

 

(……でも、俺、響介さんのことよく知らないんだよなぁ。演習の見学した時ぐらいしかちゃんと接触してないし……あの人は一体どんな世界から来たんだろうか……?)

 

 間違いなく、俺のいた世界より科学技術は発達していたはずだ。

 俺の世界にはロボットはなかったが、響介さんはロボットを自在に操る軍人のようだったし。

 しかも凄腕、なにより度胸が違う。俺が開発している新OSを搭載した戦術機に乗ったとしても、響介さんのような機動はできないだろう。そもそも、まねる必要はないのだが。

 

(けど俺は強くなりたい。この世界を救えるように強くなりたい。でもそのためには、俺はもっと響介さんのことを知る必要があるんじゃないだろうか?)

 

 根拠はない。ただ何となくそう思う。

 

「まぁ、今はできることするかな……ん?」

 

 俺が歩いている場所は横浜基地の地下19階。夕呼先生の研究室もあり、セキュリティーレベルはかなり高めに設定されている。

 要するに地下19階まで来れる人はほとんどいない。

 しかしどうだろう? 通路に響いていた靴の音がいつの間にか増えていた。俺の物の他にもう1つ……夕呼先生や霞は実験の準備をしているはずだから、外には出ないと思うんだけど……気になった俺は立ち止まって確かめることにした。

 

「あれ……響介さん?」

「武か。久しぶりだな」

 

 振り返ると、そこには見慣れた赤いジャケットを羽織った響介さんが立っていた。

 

 

 

 


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