Muv-Luv Alternative ~鋼鉄の孤狼~ 作:北洋
鬼に金棒=キョウスケにアルト=まりもに酒。
読む方によっては気分を害されるかもしれませんのでご注意ください。
【21時25分 国連横浜基地 B4 神宮司 まりも 自室】
地下4階にあるまりもの自室まで案内されたキョウスケは、彼女に促されるままベッドの端へと腰かけていた。
「南部中尉、何もないところですけど、ゆっくりしてってくださいね」
「ああ、すまないな」
キョウスケはベッドに腰を預けたまま周囲を見る。
本当に何もない。まりもの言っていた通り、部屋の構造は武のそれと同じだった。
基地共通のベッドが1つと金属製のデスクが1つ、それ以外にはシャワールームと収納スペースであるクローゼットが内蔵されているだけだ。キョウスケの部屋の内装と何一つ変わらなかった。
机の上に花が置かれていたり、壁に好きな男優のポスターが張られている訳でもない。華やかな調度品が置かれている部屋には程遠い、女性の部屋らしくない無機質な部屋。
それがキョウスケの受けた印象だった。
(部屋を飾る物資、それすら不足している。そういうことだろうか?)
武の部屋とは違い整然としているが、女性が好みそうな飾り付けが一切見当たらない。
軍から支給されている部屋だから、軍属であるまりもが律しているのか、それともBETAに土地を追われ、趣味的な内装に割く物資が無いからなのかは分からなかった。
一方、まりもはクローゼットの中を漁っていた。
他に収納スペースになりそうな場所はそこしかなかったし、人工食料が一般化している世界で、人工ではない嗜好品の酒など贅沢品の極みであろうことは想像に難くない。
まりもが自分から手に入れようとしたとは考えにくい。本当に夕呼から貰った、あるいは押し付けられた物なのだろう。
お目当ての物が見つかり、まりもは一升瓶とグラスを持ってキョウスケの隣に腰を下ろした。
「温めたりできませんけど構いません?」
「ああ、ご馳走になる」
まりもがキョウスケのグラスに酒を注いでくる。
艶のある透明の液体がグラス一杯に満たされた。キョウスケもまりもに注ぎ返す。グラスが酒で満たった後、2人はグラスを合わせて乾杯する。
まりもが先に一口飲んだので、キョウスケもそれに続いて一口含む。
日本酒だったのだろう。独特の甘めの飲み口の後、胃の奥に熱と、体が軽く火照るのを感じた。蛇足だが銘柄は「銘酒
「ふぅ、悪くない味だな」
「ふふ、南部中尉は結構強い方なのですか?」
「いや、俺はそれなりだったんだが連れがウワバミでな。付き合う内にある程度は飲めるようになっていたよ」
もう一口飲みながら、元の世界に置いてきたエクセレンの事を思う。
エクセレンは兎に角よく飲む女だった。アメリカ人のくせに何故か日本酒党で、ハガネの前艦長ダイテツ・ミナセ氏と時どき飲んでいたらしい。それ以外でも頻回に飲み会を開き、たびたびキョウスケはそれに付きあわされていたものだ。
(……ん? いや、どうだったか? そうだった気がするのだが……)
それなりの頻度で飲み会があったような気がするのだが、よくよく考えてみると、常に最前線にいたキョウスケたちにそんな機会があっただろうか?
冷静に考えれば、ない、だろう。いつ戦闘になるかも分からないのに、酒など飲んでいる暇などあるはずがないからだ。
だがキョウスケはエクセレンとよく飲んでいたような気がしてならなかった。
理由は分からない。あるとすれば、武の言っていた転移による影響なのかもしれない。
「連れ……ですか?」
まりもがキョウスケの言葉に喰いついてきた。
「その連れの方って……女性の方でしょうか?」
「ああ、そうだが」
一瞬の沈黙の後、
「……お付き合いとかされてるんですか?」
「まぁな。かれこれ1年近い」
まりもの問に答えるキョウスケ。彼はエクセレンとの慣れ染を思い出す。
交際を始めてからの期間は確かその位だ。もっと長い時間連れ添っている気がしてならないのは、きっと実際の初対面はそれよりもずっと前だったからだろう。
キョウスケがまだ士官候補生だったころ、彼が乗っていた飛行機が墜落したことがあった。墜落の原因は当初不明。これは後に分かったことだが、飛行機にアインストが衝突したことが墜落の直接の原因だったらしい。
キョウスケだけでなく、エクセレンもその飛行機に乗り合わせていた。
飛行機に乗っている間にキョウスケはエクセレンに会っていない。
エクセレンとの出会い ── その瞬間は炎と血、肉の焦げる臭い、そして瀕死の重傷を負っていたエクセレンの姿が、強烈な記憶として刻み込まれていた。
その飛行機墜落事故の生存者はたった2人。キョウスケ・ナンブとエクセレン・ブロウニング、要するにもう1人の生存者が今のキョウスケの恋人になったわけだ。
(エクセレンはその時致命傷を負っていて、アインストの力で生き返ったんだったな……)
エクセレンを巡る複雑な事情が引き起こした戦いはまだ記憶に新しい。
「そうですか……彼女さんいらっしゃるんですね」
顔を伏せたまりもが残念そうに呟いていていた。
さらに何故か、直後、まりもは一気にグラスの酒を煽る。飲み終えた後、ぷはぁ、と息を着いた。
「おいおい、そんなに飲んで大丈夫か?」
「大丈夫です、問題ありません! こう見えて、私、お酒強いんです!」
少々大きすぎるトーンで、はきはきと返事をするまりも。酔ってはいなさそうだ。
強いと自称している位だから、わきまえた飲みかたをするのだろう……と、思った矢先、まりもはグラスに手酌 ── 目一杯に注いだ日本酒を一気飲みした。
酒臭い息を吐き出す神宮司 まりも。強いと豪語していた割には、一瞬で頬がうっすらと赤らんでいた。あれ? この様子誰かに似てないか? そんな
(…………ああ、一升瓶を抱えて離さない時の
両名に失礼なことを思い描きながら、負けじとキョウスケも酒をもう一口。美味い。しかしお摘み的な何かが欲しい所である。
とか思っている内に、まりもはもうグラス一杯分の酒を飲み干していた。
「おい、本当に大丈夫か?」
「大丈夫だ! 問題ない!」
まりもの口調が変わっていた。
キョウスケの第六感が告げている。ここで飲むべきじゃないんじゃない? と……何だか嫌な予感がし、背筋をシャクトリムシでも這っているような奇妙な感覚。
キョウスケの勘はめっぽう当たる。
ことギャンブル以外の事に関しては……そんなことを考えている内に、もう一杯分の酒が、まりもの口を通して腹の中に消えて行った。
「ちょっとー、なんぶ きょーすけちゅういー! てじゃくなんてさびしいー、ついでくださいよー!」
「あ、ああ」
命じられるまま、キョウスケは一升瓶を傾けて酒を注いだ。
とぷとぷと、酒がグラスに満たっていく。
しかしキョウスケが床に一升瓶を置いた一瞬 ── 本当にほんの数秒で、まりもの手の中のグラスは空になっていた。
(……なんだこの感じは……? まるでポーカー開始早々、相手がファイブカードを揃えてきたかのような……?)
キョウスケの勘は本当によく当たる。金の掛かったギャンブルを除いては、だが。
今回もキョウスケの勘は的中したようだ。
まりもがキョウスケにむけてグラスを突き出してくる。
「おかわり」
まりもの目はスワっていた。
「うふふ」
意味も無くキョウスケの方を見つめてくる。
まりもは酒気を帯びた吐息がかかる程に、ほんのり桃色がかった端正な顔立ちをキョウスケに近づけ、
「わたし、むかしがっこうのせんせいになりたかったんですよー」
唐突に自分語りを始めた。
こちらに話す間を与えずに自分の欲求をぶちまける……そしておそらく、キョウスケの言葉は届かない…………まりもは社会一般に言われる「よっぱらい」と言われる状態で間違いないだろう。
「ほらー、きょうすけちゅういものみなさいよー」
「あ、あぁ ── ふごっ」
まりもが自分のグラスを、キョウスケの口へと押しつけてきた。
まりもが使っていたグラスから熱い液体が口の中に流れ込んでくる。
つい、口の中の液体を飲み込んでしまうキョウスケ。しかしまりもがグラスを加減知らずに押し付けてくるので、飲んだ端から酒が口の中に入ってきた。
口の端から酒が洩れ出しそうになるのを我慢して飲み込み、まりもの手を握ってグラスを口から離した。
「ぐ、軍曹ッ、やめてくれ……ッ」
「わたしー、こうこうのせんせいになりたかったんですよー」
「そ、そうか……」
まったくもって聞いちゃいないまりも。
「こどもたちからまりもちゃんってよばれてみたかったりとかー、したかったりーしなかったりー」
「どっちだよ」
昔の夢を饒舌に語るまりもは、キョウスケの口に押し付けていたグラスに残っていた酒を一気にあおる。
関節キッス、そんな中学生じみた言葉が頭に過ったが、目の前に突き出されたグラスと言葉でキョウスケの思考は寸断された。
「おかはり」
「おい、呂律、回ってないんじゃないか?」
「おかわり!」
「あ、ああ……」
語気と雰囲気に気圧されて、ついつい一升瓶から酒を注いでしまうキョウスケ。
注いで気づく……まりもにこれ以上酒を飲ますのは危険だと……そんな考えにキョウスケが至った瞬間、まりもはキョウスケの首に腕を回してきた。
それこそ、まるで酔っ払いの親父が後輩に絡むときのように力強く、キョウスケにまりもは絡んでくる。
「あとねー、しあわせなかていをねー、わたしはきづきたかったのよー。でもよのなかひどいありさまでしょー、わたしがけっこんできないのもー、ぜーんぶBETAのせいなのよー」
「……そうか」
なんと言えばいいか、キョウスケはまりもの言葉に相槌を打つしかできなかった。
「BETAさえいなければぁ、わたしはがっこうのせんせいになれたかもしれないしー、けっこんもできてたかもしれないのー」
「……」
「……なのに……なのになぜわたしはこんなところで、こどもたちをころすてつだいをしてるの……? もういや……たすけてよ、きょうすけちゅうい」
瞳が潤むまりもを見て、キョウスケはすぐに何も答えることができなかった。
泣き上戸か。それで済めば笑い話だろうに、酔っていてもまりもの言葉には一々悲しみが重く圧し掛かっている。
夢が潰えた事だけでなく今感じている悲しみも、まりもの心の奥底に深く刻み込まれているのだろう。
育てれば育てる程、BETAという人外との戦いに近づいていく教え子たち。
しかしまりもは子どもたちの前では教官でなければならない。教え込んだ技術を活かさないで、静かに平和に生きてくれとは口が裂けても言えない……そんな立場にまりもはいる。教え子たちを取り巻く状況も決してそれを許さない。
置かれた環境には適応する。それは人間が生まれ持っている能力だろう。
しかし置かれた場所に従いながらも、疑問抱き、尚且つそれを自分の中で殺し続けるのは悲しく、辛い物だ。
(やはり優しい女だ……だが同時に不器用でもある)
自分に嘘を付き、いつかまりもが変わってしまっても、きっと誰も彼女のことを責めたりしないだろう。
(だが……俺に何かを言う資格はない……)
キョウスケはこの世界の人間ではない。
明日 ── 12月3、キョウスケは元の世界に戻るのだ。
もちろん、帰れる保証はどこにもない。しかしキョウスケはこの世界から去るつもりでいた。慰めの言葉をかけるのは簡単だが、そんな心持ちの人間が、真剣に悩んでいる彼女に適当な言葉をかけるなんてどうしてできるだろうか?
「ちょっとー、なんかいいなさいよー」
涙目のまま笑いながら、まりもはグラスをキョウスケの頬に押し付けてきた。
行動は完全に酔っ払いのそれだったが、先ほど漏れた言葉は彼女の本音で間違いないだろう。
「……軍曹、その……俺の分の酒はここにあるから……」
「あらそーぉ、じゃあいただきます ───── おかはり」
「飲み過ぎだ。もう注がんぞ」
「えー、きょーすけのけちんぼー! いいわよ、ひとりでのむからー」
完全に出来上がってしまったまりもはグラスを手放した手で、床に置いてあった一升瓶をつかみ上げた。
あろうことかそのまま酒をラッパ飲みする。いきなりの行動にキョウスケは目を白黒させ、固まってしまった。
少なくとも、結婚適齢期の女性が男の前で見せる行動ではない。
まりもの飲み方は「酒乱」にカテゴライズされるソレだろう。キョウスケの経験上、この手の飲み方をする人間は翌日には大抵記憶を失くしていて……、おそらく上官であるキョウスケを呼び捨てにしていることも忘れいるに違いない。
(おっと、そんな事を考えている場合じゃないな)
幾ら明日が非番だからと言って飲み過ぎは体に毒だ。
万が一、出撃要請が無いとも限らない。酒を飲むなとは言わないが、飲まれてはいけないのだ。
「軍曹、その辺りで止めておこうか?」
「やっ」
そっぽを向いたまりもは一升瓶を抱え込んでしまった。
昔、エクセレンも似たような姿勢で抵抗してきたことがあった。もっとも彼女の場合はいくら飲んでも酔わないので、
兎に角、飲み口がまりもの豊満の胸に埋もれてしまっていて、キョウスケには非常に手が出しづらい状況になっていた。
「うまいこといってー、だいじなもの、うばうつもりでしょー」
「たかが一升瓶じゃないか」
「とるつもりでしょー? うばうつもりでしょー? BETAみたいにー?」
「BETAって……宿敵が酒と同じ扱いとは……」
呆れてため息が出そうになるが、酔っ払いに理屈が通用しないのは世の常だ。
説得するのは骨が折れそうだ、と一瞬目を伏せて逡巡したキョウスケ。
「あっ」
その隙にまりもは、一升瓶を持ち上げてラッパ飲みの体勢に入っていた。
「こら、もう止さないか」
聞く耳持たずなまりも。彼女がこれ以上酒を飲むのを防ぐため、キョウスケは一升瓶を掴んだ。
「いやー、はなしてー! きょうすけのえっち! せくしゃるー!」
「ハラスメント? ……って、何故そうなる?」
キョウスケはまりもの体には触っていない。持っているのはあくまで一升瓶だけだ。
「軍曹ッ、離さないか!」
「いーやー!」
「くっ、意外と力が強いな……!」
一升瓶を引き離そうとするキョウスケに、まりもは必死に抵抗した。
軍人として鍛えているためか、キョウスケがそれなりに力を入れてもビクともしない。引き剥がそうとする力を強くすると、逆にさらに力が加わって引き戻される有様だった。
酒を飲んで動いているせいか体が熱くなり、キョウスケの頭がぼんやりとしてきた。
段々腹が立ってくる。
どうして、まりもは聞き入れてくれないのか、と。
軽い怒りを覚え、思考が鈍っているのをキョウスケは自覚した。
さっさとこの下らない、本当に下らない争いにケリを付けて、布団に包まって寝たいとも思い始める。
同時に頭痛がし始めた。
ずきずき。
ずきずき、と。
瞬間、目の前が真っ白になる ──……
……── 気づくと、薄暗い部屋にいるキョウスケを彼は見下ろしていた。
牢や営倉ではない。キョウスケが居るのは、軍で割り振られる各兵士の生活スペースだった。
しかし照明を消し、窓は閉め切っている。カーテン越しに光が差し込んでいるので、今が夜ではないことが分かった。
「…………」
キョウスケは無言のまま備え付けの机に座っていた。
その片手には大きめにカチ割った氷が入ったグラス。反対の手にはウィスキーと思われるガラス製の容器が握られていた。
どぉぼんどぉぼん、とグラスに酒を注ぐ音だけが部屋に響き渡る。
「…………」
キョウスケが無言で酒を煽った。
その顔は頬がこけ、無精髭が伸び、精彩を欠いている。まるで死人のような瞳は真っ直ぐ壁に向けられ、何処も見ていなかった。
部屋にはキョウスケしかいない。
キョウスケが呼吸する音しか聞こえない。
どぉぼんどぉぼん、と酒が注がれる音だけが部屋に響いている ──……
「……── きゃ!?」
キョウスケの意識を引き戻したのは、まりもの小さな悲鳴だった。
キョウスケの目の前にまりもはいた。
次の瞬間、潤んでいる彼女の瞳があまりに近い距離にあることに気付く。握っていた筈の一升瓶は既になく、キョウスケの手はベッドについていて、まりもに覆いかぶさろうとしている自分の体重を支えていた。
キョウスケの体の下で、まりもがベッドに横になっている。
男が女を押し倒している。俗にそう呼ばれる状況に2人は置かれていた。一升瓶はカラコロと床に転がっていて、どちらかがそれを離した拍子に体勢が崩れ、今の状態に陥ったように思えた。
「……きょうすけぇ」
甘ったるい声がまりもの口から漂ってきた。まるでキョウスケを誘っている……そう錯覚してしまいそうになる。鼻をくすぐる彼女の良い匂いも、キョウスケの心に掛かった施錠を一つ一つ解いていった。
(……彼女は酔っているんだ……)
醒めれば忘れる泡沫の夢、そんな物に何の意味がある? 酔った勢いでなど決してあってはいけない。
キョウスケはまりもから離れることにした。
だが頭がまた痛み始める。
先ほど感じたそれと同じだった。
痛みが最高潮に達し、再び視界が切り替わる ──……
……── どぉぼんどぉぼん、と酒が波打つ音だけが響いていた。
部屋はやはり暗く、いるのキョウスケ1人だけ。
先ほどよりもさらにやつれた感のある彼が、1人きりで酒を飲んでいる。
キョウスケは付き合いで酒を口にすることはあっても、自分から進んで飲むことはない。酒は脳細胞を破壊する、パイロットを長く続けたければ避けるべきだ。誰か受け売りかは忘れたが、キョウスケはなるだけその教えを守ってきた。
「…………」
そのキョウスケが酒に溺れている。
白昼夢にしか思えない光景が目の前に広がっていた。
「……─────がいない……世界など……」
キョウスケの口が動く。
小声の独り言であるため、所々聞き取ることができなかった。
しかし彼はぶつぶつと口を動かしている。
何かを言っていた。
彼の口の動きから何を言っているのか、キョウスケには理解することができた ──……
オ レ ハ イ ラ ナ イ
……── 気づくと、目の前で寝息を立てているまりもの横顔があった。
穏やかに眠るまりもの横でキョウスケは倒れていた。
いつの間にか眠っていたらしい。2人は布団も被らずに、着の身着のままで仰向けでベッドの上にいた。どれだけの時間眠っていたのか分からないが、キョウスケの体はすっかり冷えてしまっていた。
体を起こすと頭痛の余韻が残っている。
まるで二日酔いのような感覚……酔って寝てしまっただけなのなら、先ほど見た光景もただの夢のように思えてならない。
しかし夢らしくない夢だったと、キョウスケは感じていた。
夢のようで夢ではない、まるで昔見た光景がフラッシュバックしているかのような臨場感。果たして、ただの夢で片づけていいのだろうか? 考えた所で結論はでなかった。
「……帰るか」
明日は12月3日、キョウスケが元の世界に帰る日だ。100%安全な実験ではない。なら体調には万全を期すべきだろう。
キョウスケは寝ているまりもに布団を掛け、電気を消し、彼女の部屋を後にした。
翌日、まりもが二日酔いになっていたことは言うまでもなかった……
次話が第2部最終話予定です。