Muv-Luv Alternative ~鋼鉄の孤狼~   作:北洋

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第2話 撃ち抜け、リボルビング・バンカー 2

【西暦2001年 11月 20日 国連横浜基地 戦術機ハンガー】 

 

 捨てられずに確保されていた自前の赤いパイロットスーツに着替えたキョウスケは、横浜基地内の戦術機ハンガーへと足を運んでいた。

 

 多くの戦術機が格納されている戦術機ハンガーの中で、キョウスケの愛機 ── アルトアイゼン・リーゼはそれらから少し離れた場所に安置されていた。

 ほとんどの戦術機が灰色や薄めの青で塗装されている中、アルトアイゼンのメタリックレッドが派手に自己主張していた。また華奢な戦術機とは対照的に、肩幅は広く全高も頭1つか2つ分大きくて離れた場所にあっても嫌でも目に付き ── 戦術機が運動選手で例えるなら長距離走の選手だとすれば、アルトアイゼンはハンマー投げかプロレスリングの選手のような印象を受ける。

 アルトアイゼンまではまだ距離があったため、キョウスケは格納されている戦術機たちに視線を流した。

 長距離走の選手のようと評した華奢な機体と、アルトアイゼンには程遠いが装甲の厚くやや鈍重そうな印象を受ける機体の2種類が置かれている。

 

(これが戦術機……見た分ではPTと大きな違いがあるようには思えんな。華奢な方はヒュッケバイン、装甲の厚い方がゲシュペンスト、といった所か)

 

 キョウスケは流し目のまま、地上15m程の高さにある戦術機搭乗用の通路を夕呼と一緒に歩いていった。

 その道すがら、キョウスケは夕呼が戦術機に対して簡単に説明してくれた。

 

 華奢な方は、日本製の第三世代戦術機「94式戦術歩行戦闘機 不知火」と言う。見た目通りに機動性・運動性を重視した機体で、高コストだが非常に優れた能力を発揮する主力量産機とのことだった。

 装甲の厚い方は、アメリカ製戦術機「F-4 ファントム」を日本でライセンス生産した第一世代「77式戦術歩行戦闘機 撃震」と呼ばれているらしい。旧式ながら生産ラインが確立しているためコストパフォーマンスが非常に高いとのことで、この点でもゲシュペンストシリーズに似ているとキョウスケは感じていた。

 

(アルトはどちらかと言えば、第一世代戦術機に近いのかもしれないな)

 

 物思いにふけって歩いている内に、キョウスケは愛機の元に辿りついた。

 横浜基地で整備でも受けたのか、アルトアイゼンに大気圏での最後の戦闘で受けたダメージの影は見当たらなかった。新品同様の姿をしたアルトアイゼンを見上げて、キョウスケは改めて安堵の表情を浮かべる。

 これまで、数えきれない程の無茶と無謀を繰り返してきたキョウスケとアルトアイゼン。それでも大気圏への単機突入という荒業を敢行したのは今回が初めてだった。不安が無かったと言えば嘘になるが、今はアルトアイゼンの無事を喜びたい……それがキョウスケの素直な気持ちだった。

 

「さて、南部。準備はいいかしら?」

 

 夕呼が振り返って訊いてきた。

 

「この赤い戦術機 ── いえ、パーソナルトルーパーのアルトアイゼン・リーゼだったわね。さっきも言った通り、アンタにはこの機体を使って模擬戦をしてもらうわ。目的は機体の実動データの収集。

 あ、もちろん、それだけじゃなくアンタの実力の程を見るためでもあることを忘れずに」

「ああ、分かっている」

 

 頷くキョウスケに夕呼は模擬戦の説明を続けた。

 

「場所は横浜基地郊外の廃墟ビル群で行うわ。そこでこの基地の特殊部隊の隊長 ── ま、アンタもさっき会ってる伊隅なんだけど、彼女と部隊の副隊長のツートップを相手にしてもらう。ビル群までは私と神宮司 まりも軍曹が指揮車で誘導して、模擬戦のデータをモニターするから」

(神宮司 まりも……この女が研究室で口にしていた女の名だな)

 

 神宮司軍曹とはまだ面識はなかったが、おそらく女性であろうとキョウスケは当たりをつけた。というより、まりもという名で男だったら、名付け親の神経を疑うレベルではあるので神宮寺軍曹は女性で間違いないだろう。

 対して模擬戦の相手には聞き覚えがあった。

 

(伊隅……研究室直前まで付いて来ていたあの女軍人か。俺を発見したのも彼女らしいが、模擬戦の最初の相手とは奇妙な縁もあるものだ)

 

 もう一人の相手 ── 特殊部隊の副隊長はキョウスケにとって完璧に初見の相手になるだろうが、戦場で敵に出会ったと考えれば特に支障はない。

 夕呼の話に再び耳を傾ける。

 

「模擬戦ではペイント弾を使ってもらうわ。着弾した場合、着弾箇所は破損し使用不可になるという設定でね。着弾箇所により戦闘続行不可能と判断した場合、その場で模擬戦は終了よ。

 あと近接格闘武器は接触判定ということにするけど、アルトアイゼンの右腕の杭打機の炸薬は除去させてもらったわ。間違って撃たれでもしたら大変だもの。あと先端部にはとチタン製の防護キャップを装着してもらうから」

「ああ、異論はない」

 

 模擬戦でも死傷者が出ることはあるにはあるが、危険な要素を取り除いておくは当然のことだった。相手は敵兵ではないのだから、誤って死傷させてしまう訳にはいかない。

 キョウスケはハンガーで見た戦術機の姿を思い出す。機動性重視の第三世代戦術機「不知火」と、重装甲の第一世代戦術機「撃震」が横浜基地には配備されていた。

 アルトアイゼンのリボルビング・バンカーが直撃すれば、不知火は言うまでもなく、撃震だろうと軽々と胴体に風穴が空くに違いなかった。夕呼がアルトアイゼンに施した処置はキョウスケも納得できるものだった。

 

「あ~、あとね、両肩のコンテナに満載してた爆薬入りのベアリング弾だけど、あれも危ないから除けさせてもらったわ。模擬戦中は使用できないからそのつもりでね」

「……ペイント弾は搭載できないのか?」

「あのね~、ほとんどの戦術機にはアンタの機体みたいな固定の武装はほとんどないのよ。全部、外付けの装備ばかりなの。理由は簡単。弾を撃ち尽くした銃や刃こぼれした長刀なんてデッドウェイト以外の何者でもないから、すぐに破棄して交換できるようにそうなっているの。

 この機体の左腕のチェーンガンは突撃砲用のペイント弾が偶然装備できたけど、コンテナに搭載しているのは銃弾ではなく特製のベアリング弾なのだから、一般に普及しているペイント弾なんか搭載できるわけないでしょ?」

「……そうか、残念だ」

 

 並行世界の弊害ではあるが、仕方のないことではあった。

 しかしペイント弾ではなく、ロックオンを被弾判定にすればアルトアイゼンのペイント弾の問題は解決するのでは?

 キョウスケの考えを読んだように夕呼が答えた。

 

「ロックオン判定もなしよ。こっちのOSとそっちのOSは概念とか設計が違ってるから、調整するには絶対に時間が必要だわ。たかだが一回の模擬戦のためにそこまでできないわよ」

「確かに、その通りだな。了解した、こちらはその条件で乗ろう」

「突撃砲や長刀は好きに使ってもらっていいわ」

「いや、俺とアルトはこのままで構わない」

 

 誤作動を起こすかもしれない、まだ信用していない並行世界の見知らぬ武器を使う気にはキョウスケはなれなかった。

 あらそう、夕呼は呟くと会話を続けた。

 

「どうでもいいけど、アルトってその機体の愛称?」

「ああ、そうだが」

「アルトアイゼン・リーゼって長いものね、確かにアルトの方が言いやすいわ。

 それにしてもアルトアイゼンってドイツ語よね? 既に地図から消滅した国の言葉が使われてるのも奇妙な話だけど、日本語に直訳すると『古い鉄』でしょ? リーゼは『巨人』、合わせて『古の鉄巨人』ってことかしら? 言い得て妙ね。

 でも日本にいるんだから不振がられないように名前を変えたらどうかしら? 古鉄二式とか虎徹改とか?」

「なるほど。『不知火』などに代表される日本風の名前に変えてみろということか。その方が違和感は抱かれない可能性は高いな ── だが断る」

 

 このキョウスケ・ナンブの最も好きなことの1つは ──── なぜか妙なフレーズが頭の中によぎっていくが、キョウスケの思考はハンガーを駆けて来る靴音によって引き戻された。

 キョウスケたちが歩いてきた道を、軍服を着た女性が走り寄ってくる。腰までかかる美しい茶色のロングヘアーを躍らせながら、軍服を着た美女は夕呼に向かって叫んだ。

 

「ちょっと、夕呼 ── じゃなくて香月博士! いきなり呼びつけるなんて、一体何の用なんでしょうか!? こっちも忙しいのですが!」

「あら~、まりも。遅かったじゃない、待ってたわよ」

「待ってたわよ~、じゃないわよ! いつもいつも、人を好き勝手に呼びつけて……私だって忙しいんですからね!」

 

 キョウスケそっちのけで文句を言う女性だったが、夕呼は微笑を浮かべたまま、そうよね、ごめんね~、と適当な心の籠っていない言葉で流されていた。

 まりも、と呼ばれた軍服の女性の剣幕も夕呼には暖簾に腕押しだった。彼女たちの問答を見ていると、似たような光景が頻繁に繰り返されいる気がしてならない。言っても無駄だと悟ったのか、まりもがキョウスケに視線を向けてきた。

 

「……はぁ……ところで香月博士? こちらの男性はどなたなのです?」

「例の男よ」

「例の……新潟で発見されたと言う……あの……?」

「まりも。アンタも興味あるでしょ? この男と赤い戦術機に?」

 

 アルトアイゼンを見て、PTではなく戦術機と夕呼は言った。事情を知らない人間にPTという単語を使う必要はないという判断だろう。この世界の人間にとって聞き慣れないPTという言葉を使って勘ぐられるよりは、戦術機呼ばわりされる方がキョウスケにとっても都合は良かった。

 この世界の人間と無暗に敵対するつもりはキョウスケにはない。夕呼以外にも協力的な関係の人物を作っておくことは、キョウスケが元の世界に帰るための間接的な手助けとなるかもしれない。

 出会う人間全てに真相を打ち明ける必要はないが、友好な関係を築いておく必要はあった。

 

「俺はキョウスケ・ナンブ、貴女の名前は?」

「申し遅れました。私は国連太平洋方面第11軍、横浜基地衛士訓練学校・第207衛士訓練部隊で教導官をしている、神宮司 まりも軍曹であります……それにしても」

 

 まりもがキョウスケにいぶかしげに見てきた。

 

「キョウスケ・ナンブ……? どう見ても日本人のはずなのに、なぜ姓と名を逆になのるんだ?」

(しまった……! この世界の日本人は姓名の順で名を名乗るのに、つい……下手を踏んだか……?)

 

 世界が違えば当然常識が違う。リュウセイ・ダテしかり、元の世界では名の次に姓を呼ぶのが当たり前で違和感のないキョウスケだったが、この世界の日本人にとっては違うようだ。

 夕呼が鼻で笑いながらフォローを入れた。

 

「ああ、彼ね、長いこと米国でテストパイロットしてたからアメリカにカブレちゃってるのよ。言わせんな恥ずかしい、みたいな? だから名乗り方には触れないであげて」

「テ、テストパイロット!? エリート中のエリートじゃない!? ではあの赤い戦術機は米国の新型試作機か何かなの!?」

「ま、そんなところ。それより、そろそろ移動しましょ? いい加減、伊隅たちも待ちくたびれてるだろうし」

 

 夕呼は興味深げにアルトアイゼンを見上げたまりもの背を押す。指揮車へ移動するつもりのようだ。

 と、夕呼はキョウスケの方を振り返って言った。

 

「廃墟ビル群には私たちが指揮車で案内するわ。くれぐれも、私たちを踏みつぶさないように気・を・付・け・な・さ・い」

「……分かった」

 

 すまない、と口に出そうになる。しかしそれは、今の状況では、絶対に口にしてはいけない言葉だった。夕呼とキョウスケの間に謝罪が必要なやり取りがあったことを、まりもに勘付かれる可能性があるからだ。

 疑惑を持たれる迂闊な発言は控えろ、と暗に夕呼は釘をさしていた。その疑惑を証明する手段はこの世界にないかもしれない……だが疑われることでキョウスケにもたらされるメリットは何もない。

 

「じゃ、またあとでね」

「ああ」

 

 夕呼たちに背を向けて、キョウスケはアルトアイゼンのコクピットに乗り込むのだった ──……

 

 

 

      ●

 

 

 

【同時刻 国連横浜基地周辺 廃墟ビル群】

 

 廃墟となり人が誰も住まなくなった一角が横浜基地の近隣にはあった。かつては商業エリアとして栄えたと思われる30-40m級の高層ビル群がそこにはあるが、かつての絢爛な様子は影も残さず、あるのはかつて行われた戦闘の傷跡が亀裂やコンクリート片として転がっているだけだった。

 ライフラインも完全にストップしているエリアだったが、高層ビルを障害物として活用した戦術機の市街地戦の模擬演習場として今でも使われ続けてはいる。

 栄光の残り香ではなく硝煙の香りが染みついたそのエリアに、伊隅 みちるは待機していた。

 薄い紺で塗装された第三世代戦術機「94式戦術歩行戦闘機 不知火」のコクピット内で目を閉じ、息を殺したまま待ち続けている。

 特殊部隊「A-01」の副隊長「速瀬 水月」を招集し、夕呼の命令通りに模擬戦の準備を完了し、既に1時間が経過していた。迎撃後衛(ガン・インターセプター)であるみちるだが、2機編成小隊の後衛を務めるために普段装備しない87式支援突撃砲を不知火のガンマウントにお収め、加えて87式突撃砲を構えて気合十分……しかし誰も来ない……細かいコンクリ片を巻き上げた風が空しく不知火の表面をなで、去って行く。

 

『……遅いですね』

「……そうね」

 

 結局、夕呼たちが廃墟ビル群に到着したのは、それから30分が経過した後だった ──……

 

 

 

 

 




書いてたら文字数が多くなったので更新しました。
また戦闘シーンまで書けなかった……次回こそ! 次回こそ戦闘シーンを書くぞ!
その3に続きます。
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