Muv-Luv Alternative ~鋼鉄の孤狼~   作:北洋

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第15話 俺が、俺であるために

【4時23分 旧小田原インターチェンジ跡】

 

 増援接近の報せを受けてから約10分後 ──

 

『── 全機、そのまま陣形を維持! 機動性を活かしてかく乱するんだ!』

 

 ── 後衛に陣取っている不知火・白銀のみちるから、「A-01」全機に指示が飛ばされた。

 遥の言っていた通り、クーデター部隊の増援は全て不知火で、数でも「A-01」のそれを上回っている。動きも良い。キョウスケの見立てでは、先ほどと同様に、クーデター部隊の中核をなす本土防衛軍の精鋭を集めてぶつけてきたようだ。

 跳躍ユニットの噴射音と銃声が辺りに吹き荒れる。

 短距離跳躍、着地、水平噴射跳躍(ホライゾナルブースト)……鉄の巨人たちが両軍入り乱れ、様々な機動で敵を追い詰めようと動き回っている。

 

「……来い……!」

 

 キョウスケも撃震を駆り、銃弾の中へと飛び出していく。

 多目的装甲で銃弾を弾きながら突撃砲で迎撃、時折飛んでくる120mm弾や散弾は確実に躱し、砲撃の隙をついて不知火・白銀の電磁投射砲が1機ずつ確実に敵不知火を落としていく。

 新型OSを搭載している分、機動性では「A-01」の不知火に分があり、2度目の戦闘と同じように徐々にクーデター部隊を押しつつあった。

 状況は優勢だ。この調子なら片がつくまで左程時間はかからないだろう。

 

(……だが何故だ? 嫌な予感がする……)

 

 仮にも敵は日本を守る防衛軍の精鋭たちだ。

 新型OSで不知火の機動性が格段に上昇したとはいえ、いつまでも劣勢でいることを良しとする訳がない。必ず逆襲に打って出るはずだと、経験からキョウスケは感じていた。

 キョウスケは囮役をこなしながら、クーデター部隊の動きを注意深く観察した。練度は全機高かったが、中でも特別動きの良い不知火が1機いることにすぐ気付く。

 

(……指揮官はあいつか……アルトがいれば強硬突破を図るんだがな……)

 

 頭を落とせば士気が落ち、連携は乱れる。

 指揮官を叩くことは戦場におけるセオリーではあったが、実行可能かどうかとなると話は別だ。敵の不知火の中を撃震で潜り抜け、指揮官を落とすのは流石に無謀と言えた。

 キョウスケは不知火・白銀のみちるに声をかける。

 

「……伊隅大尉、おそらくアレが敵の指揮官機です」

 

 データリンクでマーキングされた敵指揮官機の座標が共有され、それを見たみちるは答える。

 

『なるほど、確かに動きが良い。指揮官機と断定するには材料不足だが、やってみる価値はあるな。南部、引きずり出せるか?』

「……やってみます」

 

 指揮官機を墜とせれば、敵部隊に与える影響は大きい。

 キョウスケは指揮官機と思われる不知火をロックオンし、撃震の歩を進めた。敵の砲撃は全て回避、あるいは多目的装甲でいなし、射程の長い120mm徹甲弾で指揮官機に狙いを定めた ──……

 

 

 

 Muv-Luv Alternative~鋼鉄の孤狼~

 第15話 俺が、俺であるために

 

 

 

 クーデター部隊の指揮官 ── 駒木 咲代子は、自機が撃震に狙われていることは百も承知で、機体を危険に曝していた。

 

 激震とはまだ相当な距離の開きがある。使ってくるとすれば長射程の120mm弾種か誘導ミサイルだが、来ると分かっているものに当たってやるほど咲代子はお人よしではない。

 戦闘が開始されてからこれまで、咲代子は冷静に敵の動きの観察に時間を費やしていた。

 

(この国連軍部隊、我らの戦術機と明らかに動きが違う。早い、技量が違う……そういう問題ではない……これまでの戦術機にできなかった動きをやってのけている……根本的な部分で我らの機体とは違っている……?)

 

 機動に翻弄され、咲代子率いる部隊は劣勢を強いられている。先に送られた増援部隊も国連部隊の機動性にかく乱され、立て直しが間に合わず、やられてしまったに違いなかった。

 そうでもなければ、高性能の不知火ばかりの戦場で撃震1機が残っていられる筈がない。明らかに従来機より動きの良い激震からの砲撃を回避しつつ、咲代子は考え続ける。

 動きが予測できない。つまり防衛軍で行い、体に染みついた対人用演習がアテにできない。それが自軍を劣勢に追い込んでいる要因の1つだと、咲代子は分析した。

 

「総員! 敵の動きに惑わされるな!!」

 

 咲代子は部隊員に向けて檄を飛ばした。

 

「敵の不知火は明らかに調整されている ── 演習は忘れろ! そして思い出せ! 動きの予測できない化け物との戦いこそ、我々の本領のはずだ!!」

『動きの予測できない ── BETA!?』

 

 1人の隊員の声に咲代子は合わせる。

 

「そうだ! 将軍殿下を連れ去ろうとしている逆賊どもなど最早同胞ではない! 奴らはBETAも同然だ!」

 

 将軍と国民を引き離す奸臣たち、極東での復権を望み暗躍する者たち、そのどれもが日本を滅亡の危機へと追いやる可能性のある侵略者のようなもの。ならば、BETAと何が違うと言うのか? 

 結局、自分たちの未来は自分で守り、掴んで行く必要があるのだ。

 咲代子は吠える。

 

「敵の指揮官機 ── あの白いのは私が押さえる! 総員、奮起せよ! 殿下をお迎えに上がるため、我らは必ず勝つのだ!! 憂国の烈士の意地を見せよ!!」

『『『おうっ!!』』』

 

 咲代子の部下たちの士気が、彼女の言葉に呼応して跳ね上がるのが伝わってきた。国連軍部隊の動きに翻弄され欠いていた精彩が戻ってくる。敵の動きが読み切れない、予測できない ── そんなことは、BETAとの戦いでは日常茶飯事なのだ。

 咲代子たちの本分は国土をBETAから守り抜くこと。負けられない戦いしか経験してきていない。

 

「沙霧大尉……! 見ていてください!!」

 

 咲代子は決意を新たに、これまで回避に専念させていた不知火を吶喊させる。狙いは敵の大将首 ── 改造型の白い不知火と、その進路を邪魔するように砲撃を続けてくる動きの良い撃震。

 2丁の突撃砲を手に、咲代子の不知火は36mm徹甲弾をばら撒いていく ──……

 

 

 

      ●

 

 

 

『な、なにっ、こいつら急に動きが……!?』

『は、早く!? いや思い切りが良く ──── ッ!?』

 

 開放回線(オープンチャンネル)を通じた速瀬と茜の声はキョウスケの耳にも届いていた。

 キョウスケも感じている。先ほどまで新OSによる機動に翻弄されていたクーデター部隊の動きに、急にキレが出始めていた。「A-01」の動きに対応しようと躍起になるのを止め、意を決して攻勢へと打って出てきているのが分かる。

 クーデター部隊は機体の地力の差を、意地と経験と技量で埋めるつもりのようだ。

 

(……やられる前にやる、そう腹を括ったか……こうなると一筋縄ではいかんな……ッ)

 

 激しくなる攻撃の中を、ロックオンしていた敵指揮官機が接近してきた。

 連続した短距離跳躍でキョウスケの射撃を回避しつつ、両手の銃口から36mm弾を撃ってくる。キョウスケも主脚によるサイドステップで射線をずらすが、二門の突撃砲はそれぞれ別の個所を狙っていて、片方を避けた先にもう一方の銃弾が飛んできた。

 

「くっ……!」

 

 回避できたのではなく、させられた。キョウスケがその事に気付いた時、撃震を銃弾の衝撃が襲っていた。

 左腕に保持した多目的装甲が削れる。120mm砲弾ではないため装甲こそ抜けなかったが、盾を装備していなければ間違いなく直撃していた。背中に奔った冷たいものを振り払うように応戦したが、キョウスケの射撃は指揮官機にいとも容易く躱される。

 距離を詰めながらの射撃が、指揮官機から向かってくる。格闘戦を仕掛けようにも、撃震では根本的な機動性が不知火と違い過ぎるため、懐へ踏み込むの容易ではなかった。

 

「……射撃は苦手なんだがな、四の五の言っていられんか……!」

 

 跳躍ユニット全開にし、高機動状態での射撃戦が指揮官機と繰り広げられる。

 しかしキョウスケの攻撃は当たらない。逆に敵の攻撃はキョウスケの生命線 ──92式多目的追加装甲の耐久度を着実に奪っていく。

 ジリ貧、そんな言葉が脳裏を掠めた瞬間、

 

『南部、下がれ!』

 

 後衛を務めていたみちるから通信が入る。

 直後、後方より電磁投射砲の大口径弾が撃震の脇を抜けて行った。味方であるキョウスケすら虚を突かれた完璧なタイミングの一撃。だがみちるにも注意を向けていたのか、敵指揮官機は首の皮1枚でそれを躱していた。

 

『そいつの相手は撃震では無理だ! 私がやる! 貴様は退がり、味方の援護に専念しろ!!』

「……くっ」

『復唱はどうした!?』

「……ヴァルキリー0、これより友軍の援護に回る……!」

 

 命令を承諾したキョウスケは逆噴射制動(スラストリバース)で撃震を後退させる。

 敵指揮官機から離れる撃震のすぐ横を不知火・白銀が猛スピードですり抜けて行った。不知火・白銀は電磁投射砲の小口径弾モード ── 36mm徹甲弾の嵐を巻き起こしながら肉薄、テスラ・ドライブがあって初めて実現する急制動・急加速を活かして、指揮官機の頭上を跳躍し背後を取ろうと動いた。

 だが敵指揮官機も相当の手練れ。

 攻撃を躱しながら、不知火・白銀が視界から消えないように立ち回り反撃をしている。いくら新OSを搭載しているとはいえ、キョウスケの撃震ではあの攻防の中に立ち入ることは難しく、下手な援護はみちるの邪魔になるだけなのは明白だった。

 キョウスケは自分を納得させて友軍の援護に向かう。

 

『── いける!』

 

 そんな時だった。意気揚々とした少女の声が耳に届いたのは。

 声の主は高原 ひかる少尉だった。

 出撃前の横浜基地で、築地 多恵と麻倉 舞の2人と行動を共にしていた少女だ。キョウスケが高原に意識を回すと、モジュールが脳電流を感知して彼女の様子を網膜上に投射した。

 画面の上の高原は荒い息を吐き出し、顔がやや紅潮している。

 

『私だってやれるんだ! この新型OSさえあれば、帝国の精鋭とでも渡り合える……!!』

 

 高原の不知火の直近に最少戦闘単位(エレメント)の相方の姿が見えない、おそらく乱戦の最中ではぐれたのだろう。高原は人間相手の戦闘で興奮し、状況認識に問題が出ているのが一目瞭然だった。

 キョウスケの脳裏にある一文字が神風の如く突き抜けて行く。

 死。

 

「……高原少尉……ッ!」

 

 高原も伊達に「A-01」に所属している訳ではない。訓練された上等の動きで敵をかき乱した。ただしジリジリと敵陣の中で孤立し始めてもいた。

 その事に高原が気づいている様子はない。

 

「……高原少尉、後退だ。そのままでは敵に飲み込まれるぞ……!」

『うわああああぁぁぁっ!!』

「……駄目だ、聞こえていないか……ッ」

 

 冷静さを欠き、目の前の敵に全神経を手中させている高原にキョウスケの声は届かない。

 このままでは、高原は間違いなく力尽き、敵の餌食となるだろう。

 経験の浅い少年兵らが戦場から戻らなくなる。別に珍しい話ではない。死の8分という言葉があるくらいに新米衛士の生存確率は低く、高原が帰らぬ人となったとしても、それはそれで有り触れた話でしかないのだ。

 敵は本土防衛軍の精鋭 ── 最少戦闘単位の相方はもちろん、他の「A-01」も自分の仕事以外に手を回す余裕はない。動けるのは、不知火・白銀から離れたキョウスケの撃震だけだった。

 

(……やれるのか? 今の俺に?)

 

 キョウスケは機体状況を確認する。

 指揮官機との戦いで推進剤は相当消耗し、直撃こそなかったが多目的装甲はデッドウェイト寸前の状態で、それを持つ左腕のダメージはイエローゾーンに突入している。

 機体コンディションはすこぶる悪い。しかも自分は戦術機に乗り始めてまだ日が浅い。やれるはずがない。助けられるはずがない。言い訳がキョウスケの頭の中を埋め尽くそうとする。

 

(……違う……)

 

 昨日、みちるに言われた言葉が蘇ってきた。

 

(……なにをすべきか、じゃない……俺はどうしたいんだ……?)

 

 キョウスケは思考時間にして1秒に満たない ── 脊髄反射のように答えを導き出していた。まるで魂に刻まれていたかのように、正答はそれしかないのだと直感する。

 

(……俺は高原少尉を助けたい……! 仲間を守りたい! そうだ……俺は ── キョウスケ・ナンブは決して仲間見捨てたりはしなかった!)

 

 例え自分が本物のキョウスケ・ナンブではないのだとしても、この感情だけは嘘ではない。

 キョウスケは跳躍ユニット全開で、撃震を敵陣の中へと突撃させた。

 

『このぉぉぉ ─── ッ!?』

 

 不意に、高原の不知火が持つ突撃砲が沈黙した。弾切れだ。マガジンを交換すれば射撃を再開できるのだろうが、その隙を見逃す敵精鋭部隊ではなかった。

 1機の敵不知火が長刀を振り上げて高原に肉薄した。

 

「させん……ッ!!」

 

 キョウスケの撃震が敵の前に躍り出る。

 敵の不知火からすればキョウスケは邪魔者以外の何者でもない。相手はたかが撃震。敵不知火は高原を仕留める前にキョウスケを屠ろうと、振り上げていた長刀をまっすぐに振り下ろしてきた。

 

「くらえっ!!」

 

 キョウスケは左腕の多目的装甲を敵の長刀に叩きつけ、手を離した。装甲表面に設置された指向性爆薬が長刀との接触で発火する。爆圧で多目的追加装甲は敵の長刀と共に吹き飛ばされた。

 多目的装甲の爆圧で敵の不知火の手が跳ね上がり、体勢がよろめく。

 キョウスケは突撃砲を投棄、空手になった撃震にブレードマウントの長刀を握らせた。長刀を固定していたボルトが炸裂し、撃震が加速がついた刀身で敵不知火を袈裟に斬って捨てる。

 不意を突かれた不知火は一刀の元に爆散した。

 

「無事か、高原少尉……!」

『な、南部中尉!? どうしてここに!?』

 

 合流したキョウスケの撃震の中に、高原の驚いた声が木霊する。

 

「見てられなかったからな。いいか高原少尉、戦場では冷静さを欠いた者から死んでいく。覚えておくんだ」

『は、はい……!』

「よし。では最少戦闘単位構成を臨時で変更する。俺が前衛、少尉が後衛だ。援護を頼むぞ?」

『ヴァルキリー9、了解!!』

 

 高原がキョウスケの声に応えた。先ほどまで絶叫していた彼女とは違う。自分のやるべき事を再認識できたのか、少し落ち着きを取り戻せていた。

 

(さて)

 

 キョウスケは撃震に長刀を構えさせ、敵を見据えた。

 敵は全て機動力が売りの第三世代戦術機の不知火だ。対してキョウスケは旧式の撃震。命綱だった多目的追加装甲も今はなく、武装は長刀が残っているのみ。撃震の装甲がいかに不知火より厚いとは言え、直撃弾に何発も耐えられるほど頑強だとは思えない。

 不利。圧倒的不利。

 しかし管制ユニットの中でキョウスケは鼻を鳴らしていた。

 

(キョウスケ・ナンブは決して諦めない男だった。それは俺も同じこと)

 

 本物のキョウスケ・ナンブだ? 偽物のキョウスケ・ナンブだ? そんなことは戦場では無意味だ。キョウスケは思い出す。戦場では最後まで立っていた者にだけ生きることが許される。

 死は当事者に何の意味も残さない。

 ここに来て、キョウスケは生き残ることを強く誓っていた。

 隣で戦う仲間のため、そして自分が何者であるのか見定めるために ──

 

「来い……どんな運命(さだめ)だろうと撃ち貫いてみせる」

『ほぅ、面白い奴がいるようだな』

 

 ── 耳に覚えのある声が聞こえてきたは、正にその時だった。

 

 唐突に、野太い男の声。

 声は通信回線から聞こえてきた。「A-01」の隊員に男は自分以外いない。声は部隊外から全周囲回線(オープンチャンネル)に乗せて運ばれてきていた。

 男の声が聞こえてしばらくして、クーデター部隊の不知火の1機が爆発する。

 何の予兆もなく、急に、クーデター部隊の精鋭の命が1つ散って消えた。

 データリンクが教えてくれる。爆炎の中から男の声は聞こえてきていた。

 

『はーはっはっはっ、雌伏の時は終わりだぁ!!』

「この声……まさか?」

 

 男の声にキョウスケは聞き覚えがあった。

 元の世界 ── 正確にはオリジナルキョウスケのいた世界で、キョウスケは声の主に会ったことがある。その男はPT用斬撃装備「シシオウブレード」を両手に携え、改造型のガーリオンで暴れ回った狂人であった。

 名を「ムラタ」。

 人格は兎も角、技量は超一流の傭兵稼業を営む男。

 爆炎を斬り払い、声の主が姿を現した。

 触れば全てを切り裂く……そんな印象を受ける鋭角なフォルムをした戦術機だった。データベースにある名称は「00式戦術歩行戦闘機 武御雷」。

 

『我が名は村田 以蔵! 俺は今この時を持って、憂国の烈士を抜ける! さぁさぁさぁ、死にたい奴からかかってこい!!』

「やはりムラタか……!」

 

 男の名乗りでキョウスケは確信した。

 キョウスケが転移する羽目になったインスペクターとの最終決戦にムラタの姿はなかった。転移に巻き込まれたとは考えにくい。既に故人だがこの世界にも「南部 響介」という男がいたように、並行世界の同一人物がいても何の不思議もない。

 「村田」はこの世界における「ムラタ」なのだ。

 村田の乗る武御雷は2本の長刀を携えている。この世界でも剣戟戦闘が得意なのは間違いなさそうだ。

 

『誰も来ぬのなら、こちらから往くぞぉ! 最初の獲物は貴様だ、そこの撃震!!』

「ちっ……!」

 

 村田の武御雷がキョウスケに向かってきた。

 速い。不知火よりも機敏な動きで間合いを詰め、長刀を振り下ろしてきた。

 キョウスケも斬撃を受け止めようと長刀を構える。

 瞬間、全身を悪寒が奔った。

 

(駄目だ! あれをまとも受けては……!)

 

 鍔迫り合いの要領で攻撃を受け止めるつもりだったキョウスケに直感が告げる。

 頭の命じるまま、キョウスケは長刀が接触した瞬間に剣先を傾け、村田の剣戟を受け流した。

 

『ほう! 我が「獅子王」の切れ味を見抜いたか! 貴様ッ、ますます面白いぞ!!』

 

 「獅子王」の名にキョウスケは寒気を覚えた。

 大量生産のなまくら長刀では、下手をすると一刀両断にされていたかもしれない。

 

『さぁ、存分に死合おうぞ!!』

 

 村田 以蔵の狂刃がキョウスケの命を刈り取らんと迫ってくる ──……

 

 

 

 


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