Muv-Luv Alternative ~鋼鉄の孤狼~ 作:北洋
さぁ、みんなで叫ぼう(後書きへ続く)
命令を受けてすぐに、キョウスケは冷川に向けアルトアイゼンを出発させていた。
目的は将軍を奪還しようとするクーデター部隊 ── その裏で暗躍している真の敵「シャドウミラー」の撃破。
因縁浅からぬ名の登場に、キョウスケが肝を冷やしたのは言うまでもない。
オリジナルキョウスケの世界にもシャドウミラーという名の組織は存在し、そこでの連中は異世界から転移してきた侵略者だった。ただ純粋にオリジナルの世界を侵略しに来たわけではなく、転移先の戦力を吸収することで軍事力を拡大し、いつか元の世界に戻るつもりのようだったが、やっていることは侵略者と大差なかった。
だがオリジナル世界に侵攻してきたシャドウミラーは、首領であるヴィンデル・マウザーが生死不明になったことで壊滅した。
自分たちの仲間となったラミア・ラヴレス、大気圏での戦闘で散ったアクセル・アルマー……まだ新しい記憶として、キョウスケは彼らの事を覚えている。
(……アクセル……お前もこちら側にいるのか……?)
数日前に見た悪夢がキョウスケの頭の中でフラッシュバックする。
キョウスケを構成する
【── なんなら、俺が起こしてやってもいい、これがな ──】
夢の中でアクセルは戦争を起こしてやると確かに言っていて、キョウスケは激しい怒りを抱いていた。
嫌な予感 ── 胸騒ぎがした。キョウスケの勘はよく当たる、賭け事以外の特に悪いことに関しては尚更だ。
村田 以蔵という並行世界の同一人物がいたように、この世界にもほぼ間違いなくアクセル・アルマーは居るだろう。それが大気圏の戦闘で散った筈のアクセルなのか、それともこの世界に生きるアクセルなのかは分からないが、だ。
(……考えても仕方のないこと、か……)
今の自分に与えられた任務は、暗躍するシャドウミラーが次の行動に移るのを防ぐことだった。
高速で移動するアルトアイゼン。その後ろを付いてくる
戦闘時の直進速度には遠く及ばないが、巡航速度のアルトアイゼンに追走できるだけ不知火・白銀は大したものだ。並の戦術機なら置いていかれるのがオチだろう。
(テスラ・ドライブ搭載機は伊達ではない、ということか)
改めてテスラ・ドライブの有効性を認識しつつも、キョウスケには不安材料が1つ残っていた。
それは伊隅 みちるの事だ。
改造した不知火・白銀による初戦闘、初のテスラ・ドライブの運用、長時間の戦闘 ── みちるの疲労度はピークに達しているに違いない。
「伊隅大尉、大丈夫ですか?」
『……誰に向かって物を言っている? 私の心配など無用だ。それよりも今は時間が惜しい、もっと速度を上げられるか?』
「ええ、いけます」
『よし、急ぐぞ』
命令に従い移動速度を上げるキョウスケとアルトアイゼン。追走するみちるの表情は任務に対する気負いからか、それとも疲労をごまかすためか、心なしか少々険しく見えた。
キョウスケの手前強がっているが、相当の疲れが貯まっているとしかキョウスケには思えなかった。
(あまり、時間はかけられそうにないな……)
キョスウケとみちるは、シャドウミラーの潜伏する冷川へと道を急ぐ ──……
●
【4時58分 国連横浜基地 裏山】
まだ太陽の欠片も見えず、まん丸いお月様が夜空を支配している時間帯。冬の早朝 ── 吐く息が白く染まる冷たい空気の中、G・Jは横浜基地の裏手にある小山の上に佇んでいた。
【人目につかず、基地の外に出れる場所を教えてもらいたい】
それが南部 響介との通信後、G・Jが夕呼に出した要求だった。
【いいけど、どうするの?】
【いえ、心配なので俺も現場に向かおうと思いましてね。どの道、連中の正確な位置は俺でなければ分かりませんから】
【そう、悪いわね。移動用の車の手配は……要らないわよね?】
【ええ、
それが5分ほど前に交わした夕呼との最後の会話だった。
G・Jは素早く移動し、横浜基地を包囲している帝国軍の監視の目をすり抜け裏山に辿りついていた。
裏山に生えている大木の傍で、G・Jは眼前に広がる廃墟を見下ろしている。
「……何度見ても、切なくなる光景だな」
G・Jの呟きは冬の夜空に吸い込まれ、消えていった。眼下に広がる廃墟は、BETAに蹂躙される前には柊町という名の住宅街だったと彼は聞いている。
月光の助けもあって、早朝の暗さの中でも、G・Jには廃墟の様子がよく見えた。
崩落したビルの1つがG・Jに昔の記憶を思い出させる。
崩壊するビル、泣き崩れる少女、クマの人形 ── 幼い命を救ったあの日が自分にとっての運命の日だったことを、3人の仲間と共に正義のために戦った日々のことを、G・Jは決して忘れることはない。
そして
(過ちの償いをするためにも、俺は必ず元の世界へと戻る。だが ──)
この世界に来て早2年。その間に見たG・Jが見た予知が脳裏に蘇ってくる。
G・Jには予知能力があり、何らかの拍子で未来を知ることがある。
彼が垣間見た地球は変わり果てていた。
戦争で地形の変わった地球 ── 陸地だった場所が海に沈み、海だった場所は干上がり塩の大地と化していた。生き残っている人類もごく僅かなのに、BETAとの戦争は相変わらず続いている。地球を脱出した同胞を待ち受ける運命を知る由もなく、ただただ生き延びるための争いを続けるしかない人間たち……。
G・Jの未来予知は万能ではない。だが最も起こり得る身近な未来を見ることができた。つまり、このまま何もしなければ地球は破壊されてしまうのだ。
この世界がG・Jにとって鳥が羽を休める止まり木のようなモノだとしても、黙って見過ごすことなどできるはずがなかった
(── かつて未来が俺を狂わせた。今度こそ、間違えたりはしない。この世界を救い、元の世界で贖罪の道を歩むをためにも……!)
G・Jは風にたなびいていたコートを脱ぎ捨て、右手を天高く突き上げ叫ぶ。
「コールッ、ゲシュペンスト!!」
冷たい空気をG・Jの熱い声が切り裂いた ── その時、不思議なことが起こる。
太陽のような眩い光がG・Jの身体を包み込んだ。
光に包まれたG・Jは空中に浮き上がり、その身体に変化が起こり始めた。何処からともなく現れた鋼鉄の手足、胴体、頭が次々とG・Jの身体に装着されていく。眩い光とは対照的に、鋼のパーツで身を包んでいくG・Jの姿は黒く際立って見える。
光が収束した時、G・Jが居た場所に2m超の黒い鋼の巨人が立っていた。
唐突だが、説明しよう!
G・Jは異世界から転移してきた人間である。
彼は
元の世界で過ちを犯した彼は、最後の戦いの敗れ、あるシステムの暴走で偶然この世界に転移してきた。それがちょうど約2年前のことだ。それからというもの、彼は本当の名前を捨て、人類のために戦い続けてきた。
戦場でBETAを薙ぎ払う姿は正に英雄。彼の正体を知る者はほとんどいなかったが、戦い続けるうちに彼は風の噂でこう呼ばれるようになっていた。
地上最強の歩兵、あるいは
「── G・J、見参ッ!!」
お約束の名乗りを上げ、PS【ゲシュペンスト】のカメラアイに赤い光が宿る。これまでの激戦の名残か、ゲシュペンストの装甲表面には大小様々な傷が残っていた。
「
もう1つおまけに説明しよう!
XNサーチとは、G・Jがこの世界に転移する原因となったとあるシステムのちょっとした応用で、次元の力を用いて周囲の情報を探る特殊能力である。XNサーチにかかれば、ステルスなどへのツッパリにもなりはしない。レーダーに映らなくても、光学迷彩で視覚で追えなくても、3次元にいる限り対象が無くなることはないのだから。
G・Jの虎の子 ── そのシステムの修復がまだ30%程しか終わっていない状況でも、シャドウミラーの居場所を見つける程度、彼には造作もないことだった。
ちなみにこのシステム、元々次元転移を行う機能も付いており、夕呼の転移装置はこのシステムを参考に作られていたりする。
「……疲れが貯まっているようだな、妙な幻聴が聞こえる気がする」
まぁ、気のせいに違いないと自分を納得させ、G・Jは自分に気合を入れ直す。
XNサーチでターゲットを補足。シャドウミラーは将軍が倒れてからは潜伏したまま、移動はしていないようだ。アルトアイゼンと不知火・白銀は、G・Jが指定したそのポイントに向かっている。
「では俺も行くか ── とうっ!!」
地面を蹴り、G・Jが跳躍する。ただのジャンプが跳躍ユニットを使った戦術機よりも速く、一瞬で一度に200-300m近い距離を移動している。跳躍によって目まぐるしく変わる景色 ── 瞬間移動に見えなくもない動きだったがG・Jにとっては慣れたものだ。
廃墟ビルの屋上を連続でジャンプしながら、G・Jはあっという間に横浜基地から離れて行くのだった ──……
ついでに本作もよろしく!
《以下、補足》
G・Jは英雄戦記直後、マブラヴ世界に転移してきた設定で書いていきます。時系列的には英雄戦記⇒マブラヴ世界⇒紆余曲折⇒スパロボ世界⇒ジ・インスペクター、のつもりです。並行世界を彷徨う定めをしょっているらしいので、マブラヴ世界に転移していても不思議じゃないですよね? 多分。