Muv-Luv Alternative ~鋼鉄の孤狼~   作:北洋

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第17話 動き出す影 2

 伊隅 みちるは、シャドウミラーと呼ばれる組織の戦術機のラプターを相手にしながら、相方である南部 響介との通信を続けていた。

 

「南部! 応答しろ、南部!」

 

 みちるの声に彼の声は返ってこない。

 だが彼の乗機アルトアイゼンの姿が後衛のみちるには見えていた。アルトアイゼンはもう1機のラプターに接近戦を挑み続けている。撃破はされていない ── にも拘らず通信障害が起き、データリンクにも不調を来していた。

 敵が強力なジャミングを行っている、そうとしか思えなかった。

 

(厄介ね……これでは南部と連携が上手く取れない……!)

 

 敵も戦力を2分させ、アルトアイゼンと不知火・白銀を分断させるように動いている。

 響介と連携が取れぬまま応戦を続け、みちるは彼から引き離され、ラプターとの1対1の構図がいつの間にかできあがっていた。

 敵のラプターの性能は脅威だ。米国の戦術機F-15【イーグル】と100戦して全勝したと、みちるは風の噂で耳にしている。少なくとも「A-01」に支給されている不知火よりは基礎スペックは上だろう。

 乗り手も熟練の衛士とみて間違いない。単純な機動性では不知火・白銀が勝っていたが、ジャミングの影響もありみちるは劣勢を強いられていた。

 

「このっ、当たれ……!」

 

 不知火・白銀が電磁投射砲から大口径弾を連射する ── が、ロックオンマーカーが消え、マニュアルで放った銃弾はラプターに何なく躱されてしまった。

 管制ユニットの中のみちるの息が徐々に荒くなっていく。

 頭に血が上っている訳ではない……慣れないテスラ・ドライブ搭載機での連戦で、みちるに蓄積した疲労は正にピークに達していた。

 

(早く……早く終わらせないと……! 疲れで手元が狂ってしまう前に……!)

 

 不知火・白銀は電磁投射砲から36mm弾を連射後、大口径弾を数発撃つ。しかし機体に慣れていない上にマニュアル操作の射撃が敵に命中する筈もなく ── みちるは機体を高速で移動させながら、空になった大口径弾のカードリッジを交換した。

 その直後だった。機体に異変が起きたのは。

 ピーッという機械音と共にレーダーが回復、網膜上のラプターに真紅のロックオンマーカーが刻まれる。

 

「ジャミングが弱まった……!? 今が好機……!!」

 

 ロックオンしたラプターに銃口を向け、みちるは跳躍ユニット全開で不知火・白銀を加速させた。

 テスラ・ドライブの恩恵で不知火・白銀の初速は、通常の戦術機より段違いに速い。機体は一気に最高速度に達した。

 敵ラプターは動き回りながら迎撃 ── 不知火・白銀はそれを掻い潜りながら接近、大口径弾の銃口の先に敵を捉え、トリガーを引く。

 3発連射された大口径弾の内の1発がラプターの胴体に命中した。直撃弾 ── 感慨にふける間もなくラプターが爆散する。

 身体を構成していたパーツが轟音と共に飛び散った。

 

「やった……!」

 

 思わず悦びの声を上げるみちる。

 レーダーを確認すると響介はもう1機のラプターと交戦中していた。

 

「あと1機! 待っていろ南部、今助けにいくから ── なっ?!」

 

 突然の衝撃がみちるを襲った。

 ダメージ警告が視界に移りこむ。

 網膜に表示される機体状況を確認すると、不知火・白銀の左腕部 ── 3連突撃砲が内蔵される部分に被弾し、武装の使用が不可能になっていた。さらに駆動系も破壊されたのか、左腕部は操作に反応しなくなっていた。

 誰に攻撃されたのか……みちるはレーダーと目の前の光景を確認して、あまりの光景に愕然となる。

 

「な、なにだ、これは……?」

 

 撃破した筈の敵ラプターがこちらに銃口を向け、立っていた。

 爆散した筈の敵が五体満足で自分を狙っている……これだけでも普通は目を疑うのだが、本当にみちるを驚愕させたのは敵機の生存ではなく ── その数だった。

 

 

── 十数機のラプターが不知火・白銀を取り囲み、銃口を向けている。

 

 

 レーダーも自機周辺を赤い光点が包囲し、管制ユニット内ではロックオンアラートが鳴り響いている。疲れのあまり幻覚を見ているのだろうか? いや、そうではない。現に不知火・白銀の左腕は破損し、動かなくなっていた。

 幻覚でないのなら、この目の前に広がっている光景は何なのだろう……みちるは困惑しながらも考える。

 

「分身……いや、そんな非科学的な事があるはずが…………まさか、この感じ……JIVES(ジャイブス)……?」

 

 JIVESとは近代の戦術機のほぼ全てに導入されている仮想訓練プログラムである。

 戦術機の各種センサーとデータリンクを利用して、あらゆる物理現象を再現可能なJIVESは頻繁に新人育成や訓練のために利用される。当然、みちるも何度も利用したことがあった。

 だが戦闘機動中に、独りでにプログラムが立ち上がるなど前代未聞だ。馬鹿げた考えを否定するためにシステムの機動状態を確認するみちる……結果を言えば、JIVESは起動していた。

 しかもこちらの操作を受け付けないロック状態、みちるにはどうする事もできなかった。

 

「……この中から本物を見つけろ……? 冗談じゃない……!」

 

 すぐさまみちるは不知火・白銀を飛び立たせ、右腕部だけで保持した電磁投射砲で大口径弾を発射した。両手で撃つよりも安定性が落ちるが、何とかラプターの1機に命中、爆散させる。

 だがラプターはまだまだいる。この中で実体を持つのは1機だけ、他のラプターはJIVESが生み出した幻影 ── 木を隠すなら森の中、みちるに本物と偽物を区別する術はなかった。

 地上のラプター軍団の一部が跳躍し不知火・白銀に襲いかかる。

 偽物の攻撃で機体に損害が出ることはないが、JIVESはシュミレートした物理的な衝撃を、確実に管制ユニット内へと再現してくるだろう。それは極限までリアリティを追及した訓練プログラムの最大の利点だった。

 しかし今回はそれが仇になる。

 地上から射撃を躱せば空中からの追撃、空中に気を取られれば地上からの銃撃に被弾する……そして中には本物の攻撃も巧みに織り交ぜられている筈だ……ストレスとJIVESの生み出した仮想の衝撃は、機体ではなくみちるに蓄積していく。

 

「くっ……う……ああぁぁ……!」

 

 多勢に無勢 ── 数の暴力に曝されたみちるの苦悶の声が未明の空に木霊した ──……

 

 

 

      ●

 

 

 

 ……── みちるの悲鳴をキョウスケは聞き逃しはしなかった。

 

『……ああぁぁ……!』

「伊隅大尉……! 通信が回復したか!」

 

 みちるの苦しそうな声が聞こえたが、回線が安定していないのかそれ以上彼女の声は届いてこない。それがかえって不安だった。何かあったに違いない、そう感じるには十分な声だったから。

 ジャミングが弱まっているのかいつの間にかレーダーが回復し、モニター上の敵ラプターにロックオンが掛かかっている。

 レーダーにはみちるのマーカーも残っていたが、敵のラプターとの高機動戦が続いているのか光点が忙しなく動いていた。

 

(どうする? 機能が回復した今が敵を討つチャンスではあるが……)

 

 モニター上の敵ラプターを一瞥し、キョウスケは考える。

 ロックオン機能が元に戻っても、ラプターの動きは素早く、気を抜けば一瞬のうちに視界の外に逃げられてしまいそうである。

 

(敵を撃退して速やかに大尉と合流するのがベスト。だが、どうにも一筋縄ではいきそうにない……大尉と連携して撃退するのがベターか……!)

 

 不知火・白銀はヴァイスリッターのデータを元に開発された、武の世界におけるコピーのような存在だ。

 インレンジのアルトアイゼン、アウトレンジの不知火・白銀 ── 2機が連携すれば、ラプターが連携してこようともオリジナル世界のように対処できる筈……キョウスケは敵の撃墜よりも、みちるとの合流を優先することにした。

 機体を反転させる隙を作るため、アルトアイゼンの5連チェーンガンがラプターを狙う。高速移動するモニター上の黒い影に徹甲弾が発射されるが、そう都合よく命中するものではなかった。

 回避され、ラプターの突撃砲から36mm弾が撃ち返される。キョウスケはアルトアイゼンのスラスターを噴かせ銃撃を避ける。

 

(元より当たるとは思っていない……! だが立ち位置さえ逆転できれば……!)

 

 敵はジャミングでレーダーが効かないことを知っている。

 戦闘開始からこれまでの間、ラプターは不知火・白銀がアルトアイゼンの前方に来ないように立ち回っていた。レーダーが効かず通信もできず、有視界戦闘を行うしかない状況に追い込めば、声を掛けあえないキョウスケたちが連携するには互いに目視で確認するしか方法がない。

 しかしそれは立ち位置が変われば、後方にいる不知火・白銀の姿を、アルトアイゼンのメインカメラで捉えることができることを意味していた。

 戦場で敵に背を向けるのは自殺行為。知っている。だからキョウスケは不知火・白銀を前方に目視できる位置に来た瞬間、アルトアイゼンを直進させ、ラプターの攻撃を振り切る腹づもりでいた。

 相変わらずキョウスケの射撃は当たらない。しかしラプターを意図した場所へと誘導することには成功していた。

 モニターに映るたった1つの黒い影。1対多ならいざ知らず、1対1での立ち位置の調整などキョウスケには造作もないことだった ── その時、

 

『── ほう、どうやら奴には俺の姿が見えているようだ、これがな(・・・・)

 

 回線に乗って聞こえてきた声が、鼓膜を越えキョウスケの脳へと突き抜けていく。

 顔の筋肉が強張っているのが分かった。なぜなら回線越しの声は、キョウスケに浅からぬ因縁を持つあの男の声だったから。

 

「……アクセル・アルマー……?」

 

 思わず、キョウスケはその男の名を口にしていた。

 アクセル・アルマー ── オリジナルの世界に侵攻してきたシャドウミラーの隊長を務めていた男。アルトアイゼンがリーゼへと改修される原因を作り、最期の戦いで大気圏からはじき出され宇宙へと消えて行ったあの男 ── アクセルの声をキョウスケが聞き間違えるなどある筈もない。

 

「アクセル、お前なのか……?」

 

 キョウスケの問にラプターに乗っているアクセルは答えなかった。

 敵であるラプターになぜ通信回線が開かれているのか、キョウスケには分からなかった。ジャミングの影響で計器が誤作動したのか、それとも……

 

(まさか……アルト、お前がやったのか……?)

 

 沸き上がるキョウスケの疑問、当然、アルトアイゼンが応える筈もない。

 しばらくダンマリのまま撃ち合いを続けるアルトアイゼンとラプター……先に口を開いたのはアクセルの方だった。

 

『……その見慣れん赤い戦術機、どうやらJIVESを入れていないようだな。でなければ、幻影の中から俺だけを見つけ出すなどできるはずもない』

「アクセル! 俺だ! キョウスケ・ナンブだ、分からないのか!?」

『あいにく、俺は貴様など知らん、これがな……!』

 

 そう言い捨てるとアクセルは一方的に回線を遮断した。

 徹甲弾を撃ち込んでくるラプターに対し、アルトアイゼンはチェーンガンで応戦、地味に立ち位置を調整していく。

 

(……あのアクセルが村田同様に並行世界の同一人物なのか、それとも……いや、今はそれを考えるべき時ではない……!)

 

 キョウスケはアクセルのラプターを振り切り、みちると合流しなくてはならない。集中力を欠いている場合ではなかった。相手があのアクセル・アルマーなら尚更だ。

 ラプターの攻撃を回避し位置を調整し続けること数回 ── 不知火・白銀の姿が見えてくる。

 

「っ! 伊隅大尉!!」

 

 脚部から黒煙を上げて倒れている不知火・白銀の姿が、キョウスケの目に飛び込んできた。

 不知火・白銀の両主脚部が徹甲弾で撃ち抜かれている。左腕も動かないのか、電磁投射砲を持つ右腕部で上体を起こそうとしていた。

 動けなくなった不知火・白銀を、もう1機のラプターの突撃砲が狙っている。

 

「させんぞ……!」

 

 躊躇なくフットペダルを底まで踏み込むキョウスケ。アルトアイゼン背部にある計17基のブースターが一斉に火を噴き、TDバランサーの出力最大で機体が一気に加速した。

 アクセルのラプターから銃弾が飛んできたが、キョウスケは回避せず真っ直ぐに突き進む。120mmが着弾し凄まじい衝撃が機体を襲うが、アルトアイゼンのスピードは更に増していった。

 

「アクセルッ、そこをどけぇ!」

 

 硬くて重くて速ければ、武器を使わずとも機体は十分な凶器となる ── アルトアイゼンの突撃をアクセルのラプターは紙一重で躱していた。

 キョウスケの前に道が開く。不知火・白銀を狙うラプターの指が、今にもトリガーを引きそうに見えた。

 キョウスケは迷う事なく2機の間に割り込み、機体に急制動を掛けた。TDバランサー出力最大で慣性を殺しながら脚部を地面に突き立て減速し、スラスターでバランスを取るという狂気に近い神業 ── ラプターがトリガーを引くその瞬間、アルトアイゼンは既に不知火・白銀の前に立ち塞がっていた。

 突撃砲から発射された36mmが装甲で弾かれ、続けて放たれた120mm弾に機体が揺れた。

 

「硬さが頼りだ、まだいける……!」

 

 5連チェーンガンで応戦するが、敵のラプターには難なくそれを回避された。

 アルトアイゼンにダメージは蓄積しているが、まだまだ戦える。問題はみちると不知火・白銀だった。

 

「伊隅大尉! 無事か、返事をしろ!?」

『── 南部 ──── なぜ来 ──』

 

 物理的な距離が縮じまった影響か、途切れ途切れではあったがみちるの声を聞きとることができた。声に覇気は無い。相当参っているようだった。

 

『── 私に構うな ──── 倒せ ──』

「伊隅大尉、悪いがその命令は聞けない。俺は貴女を見捨てたりはしない。2人で皆の所に帰るんだ……!」

『馬鹿 ────』

 

 みちるの声はぷっつりとそこで途絶えた。再び通信回線が不安定になったのか、それともみちるが気を失ったのか、今のキョウスケにそれを確認する余裕はなかった。

 みちるを狙っていたラプターだけでなく、アクセル機も合流してアルトアイゼンに射撃を再開した。36mm弾に時折混ぜられる120mm弾が、アルトアイゼンの装甲を徐々に削っていく。

 

「この……!」

 

 5連チェーンガンで反撃 ── 自由に動き回っているラプター2機には命中しない。接近戦を仕掛けようにも不知火・白銀の傍を離れれば、アクセルたちはみちるを狙ってくるだろう。

 みちるを庇い動きを制限されるアルトアイゼンを嘲笑うように、2機のラプターは延々とヒットアンドアウェイを繰り返す。爆音と振動がキョウスケを襲う。連戦で疲労は蓄積していたが、長年アルトアイゼンに乗り続けたキョウスケのタフネスは、この程度で根を上げる程なまっちょろいものではない。

 問題は ──

 

(くっ、弾が残り少ない ── ッ!)

 

 ── けん制と反撃に使い続けた5連チェーンガンの残弾が心許ない値に突入し、モニター上に警告が表示されていた。

 転移し、すぐに任務を与えられたキョウスケには、しっかりとアルトアイゼンの武装の準備を行う時間がなかった。今回はBETAの新潟再上陸時のように突撃砲を携えておらず、アルトアイゼンが使えるまともな射撃武器は5連チェーンガンだけだ。

 残る武装はリボルビング・バンカーにプラズマホーン、アヴァランチ・クレイモア……どれも格闘戦でなければ本領を発揮できない武器ばかりである。

 下手に身動きが取れないこの状況下では、どの武器も非常に使い勝手が悪いと言わざるを得ない。

 

(来い……! 近づいて来い!)

 

 そうすれば、跳弾覚悟でクレイモアを叩き込んでやれるのに……しかし遠距離攻撃で圧倒的な優位に立っているアクセルが、危険を冒して接近してくるとは思えない。

 万事休すか、反撃を続けながら唸ったキョウスケに、通信回線を開いてきた者がいた。

 相手はまさかのアクセル・アルマー。

 今まさに撃ち殺そうとしている相手に何を言おうというのか? キョウスケの疑問にアクセルの口が答える。

 

『キョウスケ・ナンブと言ったか? 貴様はここで殺すには惜しい男だ。どうだ? その赤い戦術機と共に俺たちに付けば、生かしておいてやらんこともない』

「……何が目的だ?」

『俺たちには技術力が要るのさ、圧倒的なな。BETAとの戦争が終わった後、俺たちの志を達成するためにな』

 

 アクセルの組織 ── シャドウミラーの立ち上げる題目と言えば「闘争が永遠に続く世界」の実現だ。

 闘争が続けば腐敗や汚職は横行せず、人類の技術は進歩し続けるという実にバカげたその理想論は、首領であるヴィンデル・マウザーの死によって潰えた。この世界のシャドウミラーの志とやらが、それと同じなのかは分からない。

 だがロクでもない野望で間違いないだろうと、キョウスケは直感的に感じていた。

 

「……口が軽くなったな。いいのか? そんな風にペラペラ喋ってしまって」

『構わんさ。俺たちに賛同しなければ殺す。死人に口なし、機体の残骸は俺たちが回収して終わりだ、これがな』

 

 冷たく言い放たれるアクセルの言葉は説得力のある物だ。

 弾が切れ、1対2の接近戦を挑まなければならない状況になれば、圧倒的に不利なのはキョウスケだ。加えて敵には強力なジャミングがある。さらにキョウスケがみちるの傍を離れることはないと、アクセルに見透かされていることに無性に腹が立った。

 しかし怒りに任せて突撃しては、まさに相手の思うつぼ。

 

『さぁどうする? イエスかノーで答えろ』

 

 突撃砲の暗い銃口がアルトアイゼンに突き付けられていたが、

 

「断る」

 

 キョウスケは一縷の迷いもなく言い切った。

 

「生き様を曲げてまで、生き長らえようとは思わん」

『ふん、嫌いじゃないぞ、貴様の考え方』

 

 アクセルのラプターの指がピクリと動いた。あの指でトリガーを引けば、再びアルトアイゼンはアウトレンジから滅多撃ちにされる。

 どうすればいいのかキョウスケは考える。アクセルたちが接近してくるのを貝のように待ち続けるのか? それとも一瞬だけみちるの傍を離れ、速攻でケリをつけるのか? 実現できるなら、どちらもとうの昔に実行している……成功する可能性の低い賭けだった。

 今回の対価(チップ)は自分ではなくみちるの命 ── 迂闊に動けないキョウスケ。

 回線の先でアクセルがあざ笑うように声を漏らした。

 

『死ね ──』

『── 待てィッ!!』

 

 凛とした声がアクセルのそれを遮った。

 アルトアイゼンの集音器が集めたその声は、アクセル同様キョウスケにとって聞き覚えのある男の声。

 

「……なんだ?」

 

 いつの間にか、レーダーに動体を示す反応が1つ増えていることにキョウスケは気付く。しかし増えているマーカーは小さく、戦術機というよりは小型種のBETA程度の大きさであることを示していた。

 マーカーはアルトアイゼンの肩部コンテナ上にあった。

 モニターに映し出される見慣れた人間大(・・・)の機影にキョウスケは驚きを隠せない。

 

 

 ドイツ語で亡霊の名を与えられたPT ── ゲシュペンストが、傷だらけの体躯を月光に照らされて立っていた。

 

 

 だがキョウスケの知るゲシュペンストは全長20m程度の大きさで、眼前のそれは2mは越えているが3mには満たない、大男に毛が生えた程度の鋼の巨人だった。

 小型のゲシュペンストからキョウスケに通信が入る。

 

『待たせたな、南部 響介』

「その声は……ギリアム少佐? それに乗っているのか?」

『……俺はG・Jだ、そこの所は間違えないでもらおうか』

 

 ギリアムにしか聞こえない声の持ち主は、出撃前の会話の時と同じくG・Jと名乗った。兎に角、小型ゲシュペンストに乗る ── というよりは、着込むパワードスーツ的な物を操っているのはG・Jで間違いないようだ。

 ギリアムが何故G・Jと名乗っているのか、問い詰める時間は今のキョウスケにはなかった

 

『南部 響介、これからは俺も君と一緒に戦おう ── とうっ!』

 

 G・Jの掛け声と共にゲシュペンストがコンテナから天高く飛び上がる ── 一瞬で優に20mは飛び上がり、空中で回転して勢いをつけ、ゲシュペンストはみちるを狙っていたラプターへと飛び降りていく。

 

『光太郎、技を借りるぞ! 喰らえ、ゲシュペンストキックッ!!』

 

 加速を付けた小型ゲシュペンストの蹴りが、弾丸のような速さでラプターの体に降り注ぎ ── みちるを狙っていたその機体は、大きく後方へと弾き飛ばされる。

 ラプターが持っていた突撃砲がくの字に圧し折れ、中心部には大きな足形が残っていた。ラプターはゲシュペンストの蹴りをとっさに突撃砲を盾にして防いだらしい。

 使い物にならなくなった突撃砲を投げ捨てるラプター。

 その眼下にG・Jのゲシュペンストが静かに舞い降りた。

 

『……G・J、貴様、なんのつもりだ?』

『この星の明日のために、シャドウミラー、貴様らの好きにはさせんぞ』

 

 押し殺したアクセルの怒声にG・Jが応え、戦いの第2幕が切って落とされる ──……

 

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