Muv-Luv Alternative ~鋼鉄の孤狼~   作:北洋

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第2話 撃ち抜け、リボルビング・バンカー 3

【2001年 11月20日 国連横浜基地周辺 廃墟ビル群】

 

 アルトアイゼンのコクピット ── 指揮車から回線が開かれ、モニターに夕呼の姿が表示される。

 

『── ルールは説明した説明した通りよ。アンタの実力、見せて頂戴』

「了解した」

 

 模擬戦のルールを簡単に再確認した後、指揮車から模擬戦エリアの情報が転送されてくる。

 廃墟ビル群を正方形のラインで区切った部分の内側がそれで、アルトアイゼンのブースターを使えば端から端まで3分程で行き着ける程度の広さがあった。

 市街地戦の演習に使っていると言っていただけあり、模擬戦エリアは30-40m級の高層ビル跡立ち並び、敵機を目視で確認しにくいコンディションになっている。元々大きな市街地だったのか、片側4車線の道路があるためアルトアイゼンでも移動には困りそうにはなかった。

 とにかく、このエリアの戦域設定はさほど広い方ではなく、キョウスケは経験上この手の演習場のメリットを熟知していた。

 

「こいつらか」

 

 さっそくエリアの狭さの恩恵がキョウスケにもたらされる。

 彼我の直線距離はさほど離れていないため、演習相手の2機の位置情報がレーダーに点々と映し出されていた。ステルス機でもない限り、この広さの戦域の場合は相手の位置情報は筒抜けになることがほとんどだ。無論、自身の位置情報も相手に漏れていることは言うまでもないことだが。

 建築物を遮蔽物とし、レーダーを頼りに相手を追い詰めていくこと ── それがこの類の市街地戦のセオリーだった。

 ただし自分にとってのメリットは相手にとってのメリットでもある……それを理解して、キョウスケは情報を整理する。

 

(相手は2機、俺は1機……障害物の多い市街地戦では相手への接近が難しく、射撃武器は遮蔽物に妨害される。相手に攻撃を命中させる状況を作ることが、この模擬戦において最重要のキーポントだと言えるだろう……その点で俺は圧倒的に不利だな)

 

 レーダー上の2つのマーカーを見て、自分の置かれている状況を再確認するキョウスケ。

 

(相手を追い込めば有利……ということは、2機でなら挟撃など隊形を柔軟に組み替え相手を追い詰めることができるということ……対して俺は1機。追えば当然敵は逃げる。加えて位置情報はお互いにバレバレだ。どうするか?)

 

 キョウスケは考える。

 しかしアルトアイゼン単機でとれる戦法などタカが知れていた。一般的な汎用性をかなぐり捨てて、長所だけをリボルビング・バンカーの鉄針の先の如く鋭利に研ぎ澄まし続けた機体……それがアルトアイゼンだ。

 単機で可能な戦術など、突進、突撃、吶喊(とっかん)ぐらいのものだろう。キョウスケが思考の末に導き出した戦術もやはりそれしかなかった。

 

(……となれば、早々に1機を片づけしかあるまい)

 

 方法を決めた次は、模擬戦のルールを再確認するキョウスケ。

 ペイント弾の被弾箇所は撃破扱いになり、致命箇所に命中するば即撃破となり、格闘兵装は接触判定となる。被弾=即撃破……つまり、現実では銃弾をアルトアイゼンの重装甲で防げるとしても、この模擬戦においてのみ装甲は意味をなさず、過剰な重装甲はデットウェイトに等しいということになる。しかも武装の制限まで課せられている。

 考えれば考えるほど、悉く、アルトアイゼンに不利な状況だった。

 キョウスケは悪意を感じていた……もちろん夕呼のだが。

 

(……まぁ、いい。もしかすると、彼女は窮地を逆転するような戦力を必要としているのかもしれん……単純にサディストなだけかもしれんがな)

『くしゅんっ、誰かが私の噂をしているみたいね。いや、天才は辛いわ』

『どうせ悪評でしょ?』

 

 指揮車の通信機が神宮司 まりも軍曹の声も拾っていた。夕呼は戦闘要員ではないようで、実際の模擬戦の判定等はまりもが行う手筈になっていた。

 2人は呑気に会話を交わしていたが、もう少しで模擬戦が開始となる予定だった。

 キョウスケは模擬戦開始前に確認することにした。

 

「1つだけ確認したい。ペイント弾などの判定以外で、なにか特別な縛りはあるか?」

『いや、特に設定はしていない』

 

 まりもの答えにキョウスケは胸をなで下ろした。

 

「では、設定されているルール ── つまり、敵機に攻撃する際は指定のペイント弾または格闘兵装を使う……これ以外は何でもあり……ということでいいんだな?」

『あぁ、別に構わないが……一体、何をするつもりなんだ?』

『いいじゃないの、まりも。それは始まってかからのお楽しみよ』

 

 モニター上の夕呼がちゃかし、キョウスケを睨みつける。

 

『ただし、何かあっても責任は取らないからね。自分で責任取んなさいよ』

「了解。気を付けよう」

 

 夕呼の言う責任とは、おそらく模擬戦におけるパイロットの戦死を指しているに違いない。

 彼女はアルトアイゼンのバンカーにチタン製のキャップを装着したり、クレイモアを除去したりと可能な限りの安全を確保しようとしていた。キョウスケも模擬戦ごときで相手を殺傷するつもりも、自分の命を落とすつもりもなかった。

 

『総員、傾注(アテンション)

 

 まりもの凛とした声がコクピットに響き、画面上に映し出される。

 

『これより臨時模擬戦を開始する。判定は私、神宮司 まりも軍曹が行う、異論はないか?』

『ヴァルキリー1、了解』

「アサルト1、了解」

 

 相手機からオープン回線による返答が聞こえた。特殊部隊「A-01」の隊長という伊隅 みちるの声だった。

 

『よろしい。ルールは事前に伝えてある通りだ。双方、持てる力の全てを出し、この演習を自身の糧とするように。ではカウントを開始する。カウント0にて模擬戦の開始とする。いいな?』

『こちらヴァルキリー1、こちらはいつでもいい。佐々木 小次郎の真似事はもう飽き飽きだ』

「アサルト1、問題ない」

 

 遅れてきたことに対するみちるの皮肉だったが、キョウスケは関係ないとばかりにコントロールレバーを握り締めた。手にしっくりと馴染む。世界は違うが、自分の居場所に帰ってきた……そんな感覚がキョウスケを包み込む。

 

『ではカウントを開始する。3……』

 

 まりもの声が聞こえてくる。

 キョウスケはコンソールに表示された機体コンディションを最終確認する。機体損傷度を示すボディアイコンは全身ブルー ── 無傷であること表し、ジャネレーターの出力は安定している。

 

『2……』

「ん……?」

 

 心なしか、ジェネレーター出力が上昇しているような錯覚を覚えた。しかしジェネレーターの出力係数はコンピューターから抜き出さないと正確な値は分からない。キョウスケは頭の片隅に疑問は追いやり、正面を見据えた。

 

『1……』

 

 レーダー、敵機ポジション確認。視認領域に敵機はいない。まずは近づく必要があった。

 そのための案は先ほど考え付いている。

 後は実行に移すだけだ。

 

『0、これより模擬戦を開始せよ!』

『ヴァルキリー1、了解!』

「アサルト1、了解!」

 

 まりもに返答を返し、回線の設定先を指揮車のみに変更する。

 キョウスケはレバーを操作し、アルトアイゼンの動きを確認した。右腕、左腕、脚部、スラスターの可動、ロックオンなど……簡易チェックを十秒ほどで済ませ、再度レーダーに目を落とした。

 2点のマーカーは模擬戦開始前の位置からまだ動いていない。

 おそらく、キョウスケを誘っているのだろう。こちらが動けば数の利を活かし射撃戦で応戦し、動かなければ挟撃あたりでキョウスケを追い詰める。そんな所だろう、とキョウスケは想像する。

 

「動かないのであれば、こちらにとっても好都合だ」

 

 キョウスケが選択する戦法はやはり突撃だった。下手の考え休むに似たり。アルトアイゼンの苦手とするものより得意とする戦法で勝負する方が勝ち目は見えるだろうし、キョウスケの性にもあっていた。

 キョウスケはアルトアイゼンを主脚歩行させ、廃墟になった高層ビルに近づく。そしてリボルビング・バンカーの鉄針を軽く叩きつけてみた。風化しているのもあってか、ビルは粘土細工のように崩れボロボロのコンクリ片に姿を変える。

 

「やはりか。これなら問題ない」

 

 キョウスケは武装を選択し、アルトアイゼンの頭部に装備されたブレード部 ── プラズマホーンにエネルギーを通電した。頭部ブレードが帯電し、白熱化する。

 

(この模擬戦、俺とアルトに絶対的に不利に設定されてある。普通に戦闘すれば敗北は免れないだろう。……面白い。なら賭ければいい、この一発で敵を落とせるかどうかをな!)

 

 キョウスケはコンソールを操作しジェネレーターの出力をMAXにまで上げた。原因は分からないがやはり出力が上がっているのか、これまでにない激しい駆動音がキョウスケの耳に届いた。

 ジェネレータの生んだ出力を全て背部スタビライザーとアフターバーナーに回し、TDによる姿勢制御を緻密に行う。

 レーダーの敵座標を再確認……伊隅 みちる率いる敵小隊はまちぶせをしているのか、やはり動いていない。

 

(伸るか反るか、失敗すれば敵の良い的になるだけだ。ふっ、イチバチ上等、分の悪い賭けは嫌いじゃない!)

 

 モニター前方には障害物となる廃墟ビルがそびえている。眼前のビルの先にはさらにビルが幾重に立っており、その直線上にはみちるの小隊のマーカーが示していた位置がある。

 キョウスケはアルトアイゼンの姿勢を前傾気味に制御し、フットペダルを踏み切ってアフターバーナーの火を解放した。

 

「行くぞアルト! 俺たちの戦い方を見せてやろう!」

 

 アルトアイゼンは弾丸のように飛び出していく ──……

 

 

 

      ●

 

 

 

 伊隅 みちるは「94式戦術歩行戦闘機 不知火」のコクピットの中で、データリンクを介して更新される戦域情報に目を通していた。

 敵 ── 南部 響介の駆る謎の赤い戦術機はレーダー上で動き始めていた。

 

『隊長、やっと動き出しましたね。ほんとに巌流島の武蔵かっての』

「そう言うな速瀬。待たされた分、そこら辺に震動センサーを設置しまくってやったじゃない。これで私たちは相手より正確にその位置を把握できる」

 

 振動センサーとは対BETA戦で使用するセンサー類の一種で、地面及び大気の揺れを感知し敵の位置と総数を判定するために使用される。

 狭いエリア内での市街地戦では、障害物に隠れた敵の位置をより正確に把握した方が絶対的に優位に立てる。みちると水月はキョウスケたちが到着するまでの時間で、エリア全域をカバーする数の振動センサーを設置していた。

 

『そうですね。相手には悪いけど、香月博士から何してもいいって許可も下りてますし、待たされた分無様に地べたに這いつくばってもらいましょう』

「そうね ── よし! 水月、これより戦闘態勢にはいる! 全周警戒を厳にしろ! 顔を出した瞬間を蜂の巣にしてやるのよ!」

『アイマム! でもこれペイント弾ですけどね!』

 

 みちるは水月の不知火と背を合わせて、87式突撃砲のセーフティーを解除、弾種類は36mmHVAP弾(劣化ウラン貫通芯入り高速徹甲弾)を武装選択する。水月も同様に指先1つでフルオート斉射が可能な体勢を取り、キョウスケを待ち構えた。

 レーダー上のキョウスケは道路を走行していると思えない速度で、直線的にみちるたちに接近してきていた。

 

「ヴァルキリー2、やっこさんの進撃速度が異常だ(・・・・・・・・)。光線級がいないのをいいことに、上空を全力跳躍(ジャンプ)しているようね」

『ヴァルキリー2了解! たくっ、対BETA戦セオリー無視するにしても、もう少し頭使えないのかしら』

「言ってやるなヴァルキリー2。拾ってきた私が言うのもなんだが、所詮、その程度の男だということさ」

 

 みちるはレーダー上でキョウスケが接近してきている上空に向けて銃口を構えた。水月も同様で、アルトアイゼンを視認すると同時にペイント弾の矢を放つ姿勢だ。

 レーダー上のアルトアイゼンは、尚も直線的にみちるたちに近づいてくる。振動センサーも跳躍(ジャンプ)ユニットからの推進剤噴射による空気振動を拾っており、キョウスケの初期位置とみちるたちの位置の間には幾重にも廃墟ビルがある以上、上空を飛んでこなければ直線的な移動は不可能だった。

 しかし震動センサーは空気振動と共に、まるで突撃(デストロイヤー)級BETAが建築物に突撃している時のような震動波を検出していた。

 

(故障かしら? 後で整備班に診てもらわなくっちゃ)

 

 振動センサーも使い回ししている機械だ。故障したのが実戦でないときで良かったとみちるは思いながら、キョウスケを待ち構える。レーダー上の進路は直進のままで方向転換する気配はない。

 楽勝だと、みちるは安堵して待った。

 そんな時だった。

 不知火の外部集音器が妙な音を拾ったのは。

 ズン、ズン、ズン、ズンドゴ ── 聞き慣れない音にみちるの表情が歪む。

 

(何だ、この音は? 推進剤噴射の音ではない……? まるでコンクリートが何かにぶつかって砕けるような……)

 

 振動センサーに目をやるが、先ほどと同じ空気と地面の振動を感知し続けていた。

 みちるの衛士としての勘が告げる。

 本当に敵は空から来るのか? と。

 レーダー上のアルトアイゼンはもう近接格闘可能な距離にまで迫っている。

 みちるの脳裏にある懸念が奔った。

 

(いやまさか……そんなはずはない。装甲重視の撃震にだって不可能だ。そもそも戦術機でそんなことをする必要性がどこにある? いやしかし……あの赤い戦術機は……いや、そんなはずがない……!)

 

 下らない考えだ。みちるは頭を振ってそれを振りきり、上空に現れるはずのアルトアイゼンに集中した。

 しかし彼女を否定するように、何かが崩れる音が聞こえた。それもすぐ近くで。みちるの背筋に電気が奔った。

 

『さぁ来なさい! 美味しくいただいてあげちゃうから!』

「は、速瀬! 駄目! そこから離れ ── ッ!!」

『え ──── ッ!?』

 

 次の瞬間、意気揚々と上空を狙っていた水月機の正面のビルが、轟音と共に弾けた。コンクリ片が不知火の全身に直撃する。間髪入れずにコンクリが作った煙の中から、巨大な赤い何かが跳びだしてきた。

 キョウスケ・ナンブの機体 ── アルトアイゼン・リーゼだった。

 

『え? きゃ!?』

 

 アルトアイゼンは右腕で水月の不知火の頭部を鷲掴みにすると、廃墟ビルに叩きつけた。回線越しに水月の悲鳴がみちるに届く。しかし思考が停止し体がすぐには動かなかった。

 

(何よこれ!? 逃げて、水月!!)

 

 みちるの思いも虚しく、アルトアイゼンの左腕のチェーンガンが唸りを上げてペイント弾を吐き出し、ものの1秒で不知火がペイント弾の赤に埋まっていく。アルトアイゼンの傍に倒れた水月の不知火……18m級の戦術機がまるで血だまりに沈む少女のように華奢に見えた。

 すぐにアルトアイゼンの双眸がみちるの不知火を捉えた。

 

「くっ……!?」

 

 反射的にみちるは跳躍ユニットから推進剤を噴かせて短距離跳躍 ── 直後、みちるが立っていた場所をペイント弾の嵐が通り抜けていった。

 廃墟ビルを越え、みちるはアルトアイゼンが見えない位置に不知火を着地させた。そして自分が嘲笑してみせた対BETA戦セオリー無視の全力跳躍でアルトアイゼンから距離を取る。

 

「くそっ!? 何なの、あの男は!?」

 

 水月がやられた瞬間がフラッシュバックし、みちるは毒づきながらも機体を操縦し続けた。結局、振動センサーも故障してはいなかったわけだ。アルトアイゼンはただ単純にビルに体当たりをして、鉄骨すら破壊して、自分たちに向かって来ていただけだったのだから。

 みちるは不知火に持たせていた突撃砲を投棄し、ガンマウントに装備していた87式支援突撃砲を装備させる。油断から部下に屈辱を味あわせてしまった自分がみちるは許せなかった。

 

「もう油断はしない。遠くから狙い撃ちにしてやる」

 

 冷たい声を響かせるみちるの耳に、審判であるまりもの声がオープン回線で聞こえてきた ── ヴァルキリー2、頭部、胴体、脚部に致命的損傷、大破とする ── と。

 みちるの不知火は廃墟ビル群の上空に飛行機雲を作りながら、飛んで行った ──……

 

 

 

      ●

 

 

 

「逃がしたか」

 

 アルトアイゼンのコクピットでまりもの宣言を聞きながら、キョウスケはみちるの逃亡先をレーダーで確認していた。

 足元には赤く染まったヴァルキリー2の不知火が転がっている。大破という扱いなので、模擬戦が終わるまでそのままの体勢でいることを強いられているのだ。

 キョウスケの取った戦法とは要するにただの突撃(・・・・・)だった。

 機体を前傾姿勢にして、ビルの鉄骨をプラズマホーンで切り裂きながらビルを突破して敵の眼前まで進む。敵に接近できれば、そこからはアルトアイゼンのフィールドだ。本来ならリボルビング・バンカーを撃ち込むケースではあったが、模擬戦で負傷者を出す訳にはいかない故、至近距離での5連チェーンガンの掃射を選択した。

 結果、不知火は見るも絶えない醜態をさらす羽目になったが、死んでないのだからキョウスケは気にしていなかった。

 続けて、キョウスケはすぐにアルトアイゼンのダメージチェックを行う。コンディションブルー。装甲表面に傷がついた程度で、特に機能不全に至っている箇所はない。

 

「さすがだな、アルト」

 

 キョウスケは相棒の堅牢さに感謝した。

 横浜基地で見た戦術機の装甲や強度では、キョウスケが行った無鉄砲な戦術はおそらく実行不可能だろう。戦術機を見て、そうと踏んだキョウスケは、だからこそこの奇襲は効果があると判断したのだ。

 しかし何故だろう? 扱いなれたアルトアイゼンのはずなのにキョウスケは違和感を覚えていた。装甲が以前より固くなり、機体が心なしか軽くなった印象を受けていた。

 

(だが1機逃してしまったな。欲を言えば、今ので蹴りを付けたかったが……む!?)

 

 その時、ロックオンアラートがキョウスケの耳を劈いた。

 脊椎反射のようにフットペダルを踏込みショートブースト、アルトアイゼンを3身ほど前進させると、音もなく青色のペイント弾が飛来して廃墟ビルを染めていた。そこはついさっきまでアルトアイゼンがいた場所だった。

 

(狙撃か!? やっかいだな!)

 

 キョウスケはアルトアイゼンを廃墟ビルに張り付かせた。実際の狙撃なら、廃墟ビルごと撃ち抜かれているかもしれないが今はペイント弾だ。遮蔽物に身を隠せば、銃撃をしのぐことはできる。

 キョウスケはレーダーを確認する。離れたビルの屋上にみちるの不知火は陣取っていた。道路を疾走すればすぐに狙撃できるような位置だ。

 

「……さて、どうするか」

 

 実際の狙撃銃なら、アルトアイゼンの装甲で耐えることができるのかもしれないが、模擬戦ではペイント弾に被弾すれば撃破扱いになる。先ほどの精密狙撃で分かったが、みちるの練度は相当のものだ。

 下手に姿を曝せば、その瞬間に決着はついてしまうだろう。

 

(ビルを破壊して進む手はおそらくもう使えない……所詮、奇をてらったものだからな……やはり少しずつ進むしかないか……)

 

 しかし進軍速度が遅ければ、みちるの不知火は狙撃ポイントを移動してしまうだろう。ある程度の速度は絶対に必要だった。

 

「となればやはり突撃するしかない。しかし飛び出して、ペイント弾を全て躱すことがアルトにできるか? ……ん? ペイント弾?」

 

 キョウスケは再認識した。この戦闘が模擬戦だと言うことを。

 実践では不可能なことでもこの模擬戦では可能になるし、その逆もまたしかりだ。ペイント弾は当たれば即撃破だが、当たらなければ撃破にはならない。

 キョウスケは思いついた戦法の成功率を頭の中で計算した。

 

(一か八か、いや、イチキュウといった所か? だが動かなければこのままなぶり殺し、あの女の動揺を誘えればあるいは……?)

 

 キョウスケは決心した。

 並行世界に飛ばされ訳も分からぬ内に模擬戦をやらされている身ではあるが、自分が使えるという所をアピールしておかねば、香月 夕呼には切り捨てられる可能性がある。

 はっきり言ってキョウスケは香月 夕呼が苦手だったが、この先、彼女以上にキョウスケが元の世界に戻るために役に立ちそうな人物が現れる保障は何処にもない。

 

(エクセレン……俺は必ず帰るぞ。だから今は俺の全てを賭けて、全力を尽くすのみだ!)

 

 キョウスケはレーダーでみちるの位置を確認した。

 アルトアイゼンのフルブーストなら十数秒で到着できる距離に、今はまだいる。やるなら今しかなかった。

 キョウスケは再びアルトアイゼンのプラズマホーンを起動する。

 

「分の悪い賭けだが……嫌いじゃない!」

 

 アルトアイゼンは廃墟ビルの壁目がけ、ゆっくりとプラズマホーンを振り下ろした ──……

 

 

 

 




もうちょっとだけ続くんじゃ(第2話が)
ドイツ軍は「傾注(アハトウング?)」とか言っていたけど、国連軍は何といっていただろうか? 適当に書いてしまいました。
知っている人がいたら教えていただけるとありがたいです。
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