Muv-Luv Alternative ~鋼鉄の孤狼~   作:北洋

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第3部 エピローグ 撃ち貫くのみ

 沙霧 尚哉率いる「憂国の烈士」らが巻き起こしたクデータ事件は、12月6日市ヶ谷駐屯地に残る部隊が投降したことにより終息した。

 

 征夷大将軍煌武院 悠陽は武たち第207訓練小隊や、危険を顧みず尽力してくれた面々に礼を述べ、城内省の迎えにより横浜基地を去って行った。

 壮行式のごとく執り行われた将軍の見送り。

 一糸の乱れもなく整列した横浜基地の面々の隅にキョウスケもいた。敬礼をするキョウスケの視界の中で将軍は迎えの輸送船に乗り込んでいく。

 

(色々なことがあった)

 

 ほんの数日の間に起こったことを、キョウスケは遠い昔のことのように思い出していた。

 転移実験で突きつけられた自分の正体、そして感情を制御できなくなっていた自分。

 村田との死闘。

 G・Jやアクセルたちとの出会い。

 その中で武や「A-01」の仲間に迷惑をかけ、ようやくキョウスケは自分を取り戻した。

 キョウスケが見出した答えは至極単純なものだった。

 

(俺は、俺が俺であるために戦う。

 エクセレンが愛してくれたキョウスケ・ナンブ()であり続けるために、俺は俺の生き様を、ただ ──……

 

 

 

 第3部エピローグ 撃ち貫くのみ

 

 

 

【西暦2001年 12月7日 13時09分 国連横浜基地 裏山】

 

 ……── 将軍の見送り終わった翌日、国連横浜基地はまるで師走のような忙しさに見舞われていた。

 

 クーデターでの出撃による損耗の補填、物資の確認や戦術機の整備に追われ、「A-01」専用ハンガー内でも整備兵が慌ただしく走り回り、衛士であるキョウスケたちも自身の機体の整備に明け暮れるうちに早朝から昼までがあっという間に過ぎ去っていた。

 多忙を極める中、「A-01」の中でいち早く休憩にありつけたのキョウスケだった。

 120mm弾の直撃があったものの、アルトアイゼンの装甲には傷跡が残っている程度で交換の必要性はなかった ── と言うよりも、同程度の強度を持つ装甲板が作れないため交換できないのが現状だった。それは仕方ないとしてもキョウスケには不思議に思えることが一つある。正確に測定したわけではないが、オリジナルのアルトアイゼンよりも装甲強度が増している……キョウスケにはそう感じられる。

 アルトアイゼンがオリジナルとは違う何か(・・)に変わっているのでは?

 他人に話せば杞憂だと笑われるであろう疑念だったが、それはキョウスケの頭にこびり付いて剥がれなかった。

 

(……考えても仕方ないのかもしれない……だが)

 

 無視してもいいことではない気がする。

 だからと言ってキョウスケに何かできるわけでもなく、彼は黙々とアルトアイゼンのチェックと整備を行った。

 駆動系にも異常はなし。アヴァランチ・クレイモアのベアリング弾は次の補給の時には、チタン製の物を用意すると夕呼が約束してくれていた。

 UNブルーの不知火たちの中で、メタリックレッドのアルトアイゼンは格納されていても目立つ。

 同様に純白の不知火・白銀がハンガーの最奥で整備 ── いや修復されていた。テスラ・ドライブこそ無事だったものの相当のダメージを負った不知火・白銀だったが、出撃前と同じ状態まで修理は可能なようで、専属衛士である伊隅 みちるもずっと張り付いている。

 あの時意識を失っていたみちるだったが、外傷はなく、すぐに原隊に復帰することができていた。

 ちなみに高原も頭部の裂傷のみで脳に異常は見られなかった。大事に至らなくてよかったと、キョウスケは胸をなで下ろしたのを覚えている。

 

 兎に角、補修の優先度の低かったアルトアイゼンからキョウスケは降り、自由時間を手に入れたのだった ──……

 

 

 ……── キョウスケは横浜基地の裏山へと足を運んでいた。

 

 その手にはPXで京塚にお願いし、作ってもらった人工焼きそばパンが2つ。

 快晴の空の下、外の空気を吸いながら食事を摂るのも悪くないと、思い立っての行動だった。

 しかし目当ての場所には既に先客がいた。

 

「武?」

「あれ、響介さん? どうしたんですか、こんな所に?」

 

 裏山に立つ大木の根元に白銀 武が座っていた。青いBDU姿で、彼も出撃後の機体整備を行っていたことがすぐ分かる。

 武からの質問にキョウスケは答える。

 

「時間ができたからな、ここで昼食にしようと。そうだ、武、お前もどうだ? ちょうど例の焼きそばパンが2つあるんだ」

「え、いいんですか? じゃあ頂きます」

 

 キョウスケは紙袋から取り出した焼きそばパンを武に手渡し、彼の隣に腰かけた。

 さっそく一口頬張る。不味くもないが、特別美味くもない。元の世界にあった焼きそばパンに比べれば……だが、比べることにあまり意味はない。これはこれで良い物だと、キョウスケは思うようになっていた。

 自分と同じようにパンを口にする武にキョスウケは訊いた。

 

「武、お前はどうしてここに?」

「……ちょっと考えごとをしようと思いまして。この間のクーデターで色々経験したから」

「そうか」

 

 武は将軍を救出した207訓練小隊の所属だ。何か思う所があったのだろう。

 

「俺で良ければ話を聞こう。アドバイスできるかは別だがな」

 

 口下手な自分にしてはするりと言葉が飛び出してきたことに、キョウスケは内心少し驚く。

 武はしばらく黙っていたが、実は……と口を開き語ってくれた。

 

 キョウスケたち「A-01」が出発した同じ日、207訓練小隊は箱根にある城へと派遣され、そこで地下坑道を抜けて帝都を脱出した将軍煌武院 悠陽と出会ったのだと言う。

 そこからは将軍を追うクーデター部隊との追撃戦に突入。

 だが衛士強化装備を着込んでいるわけでもない将軍は、重度の加速度病で倒れてしまう。

 その時、将軍を戦術機に乗せていた武は、上官からトリアゾラムを投与するように命令された。しかしトリアゾラムは精神安定剤。混濁した意識の中、戦術機の機動で嘔吐でもしたらそれによる誤嚥、窒息の危険性が増すことも武は理解していた。

 結果、武は将軍にトリアゾラムを投与することができなかった。

 躊躇している間に、追撃を防いでいる米軍部隊が犠牲になっていくことを知りながらも、武にはできなかった。

 

「ウォーケン少佐の言うことは正しいと思っていたのに、俺、できなかった。

 殿下が死ぬかもしれない、と思うと手が震えてできなかったんです……響介さんに偉そうなこと言ったくせに、自分の戦う理由のために、自分で手を下す覚悟が……できてなかった。俺がやらないといけないと分かっていたのに」

 

 武の話は悩みというよりも反省に近いものだった。

 現実としてトリアゾラムを投与せずとも将軍は助かっているが、それは結果論にすぎない。

 リスクを減らし、目的を達成するために、作戦を立てることが時には現場に求められる。武は目的達成のために現場が立てた命令を無視したことになる。

 確かにトリアゾラムを投与すれば、将軍が窒息死していた可能性を否定はできない。それでもやらなければならないことなら、やるしかない。

 勿論、立場や正義によってやり方や考え方は変わってくるだろう。

 だからこそ考えなければならない。

 感じ取らなければならない。

 感じ、考え、悩みんだ末に自分なりの答えを導き出し、行い、その結果と責任を全部背負っていけて初めて一人前と言えるのだ。

 問題の本質はトリアゾラムを投与しなかったことではなく、自分が成すべきことを、責任の重さから拒否して行わなかったこと ── それを武は既に理解している様子だった。

 

「響介さん、俺、今回のクーデターで分かったんだ」

「そうか。聞かせてくれ」

「俺は人類を救うために、自分で手を下すことを恐れずに、俺にしかできないことをやるんだ。3つの世界を知っている唯一の『日本人』として。それが俺が見つけた『立脚点』なんだ」

「そうだな、その通りだ」

 

 武の戦う理由、行動の原点ともなる彼の考え方の根本部分 ── すなわち立脚点。キョウスケもそれをクーデターの中で再び思い出すことができた。

 思い出すことと、気づくことは違う。

 気づく方が思い出すことより遥かに労力が必要で難しい。

 武はたった一人でそれに気づいた。いや色々な人との関わりで気づいたのかもしれない。それでも、その「立脚点」を導き出したのは武自身だ。

 

「凄いな、武は」

「え……? ど、どうしたんですか響介さん?」

「俺は自分の戦う理由を思い出すために、武や他の皆に多くの迷惑を掛けた。だがお前は一人でそれに気づいたんだ。素晴らしいことだと思うよ、俺は」

 

 それは素直なキョウスケの感想だった。

 

「いいか武、俺たちは兵士だ。兵士は敵を撃ち、殺す。敵を撃つのだから、自分もいつか撃たれて殺されることも覚悟しなければならない。

 そして奪った命を背負い、自分の行いに責任を持ち生きていかなければならない。重く、辛い道だ。壊れてしまう者も多い。そうならないためには、自分の戦う理由を持つことが大切だ」

 

 無限に広がる並行世界のどこかには、殺戮者になっている自分がいる世界もあるのかもしれない。そう思いながら、キョウスケは続けた。

 

「俺は、俺が俺であるために戦おう。仲間を守り、決して諦めないそんな男であり続けるために ── 武、ありがとう。戦う理由を見いだせたのは、お前が俺を励ましてくれたおかげだ」

「響介さん……よかった。本当によかったよ」

 

 キョウスケの「立脚点」の答えに、武は微笑みを返してきた。

 キョウスケは心の底で誓った。武やみちる、「A-01」の面々やまりも ── かけがえのない仲間たちを絶対に守ると。

 そして、あることを決意した。

 

「武、あの時の約束だったな。あの転移実験で、俺にあった全ての出来事をお前に話そう」

「……いいんですか?」

「ああ。お前にだけは知っていてもらいたんだ」

 

 転移実験での出来事 ── すべてを語るには、キョウスケがキョウスケ・ナンブの因子集合体だということを説明しなければならない。

 夕呼には口止めされていた。だがそれは、キョウスケではなく、武の正体に関してのことだ。

 目の前の武も、自分と同じ【白銀 武】という人物の因子集合体なのだ。自分と同じ辛い思いを、武もいつか味合わなければならない時がくるだろう。

 その事を明かすのは自分の役目ではないことを、キョウスケは理解していた。

 

(話すのはあくまで俺のことだけ。知っていれば、それだけで大分違う。俺の話が、いつか武が乗り越えるときの助けになることを祈ろう)

 

 大丈夫、きっと武なら乗り越える。これから訪れるであろう苦悩や困難を、共に乗り越えるためにキョスウケは話す。自分にあった全てを。

 シャドウミラーという不安の種がこの世界には芽づいている。

 きっと、近いうちに何かが起こるに違いない。

 

(アクセル、来るなら来い。俺はもう負けん。お前がどんな障害となり立ち塞がろうとも、ただ、撃ち貫くのみ ──)

 

 基地の裏山、2人しかいないその空間で、キョウスケは武に転移の真実を語り始めるのだった ──……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【同時刻 日本近海 深度3000M】

 

 ……── 太陽光の届かない暗い深海をゆく金属製の船があった。潜水艦である。

 

 戦術機搭載型の大きめの潜水艦の中にアクセル・アルマーはいた。人がすし詰め状態になっている操舵室の中で、アクセルは問う。

 

「W17、首尾はどうなっている」

「問題ない。W15、W16共に国連横浜基地への潜入に成功した」

 

 豊満な胸を持つ美女W17がアクセルに答えた。

 アクセルは微笑を浮かべ、自分たちの作戦の第1段階の成功に喜ぶ。

 

「ふん、あれだけの事件のゴタゴタの中だ。クーデターに基地の目が集中し、人の出入りが激しければ潜入も容易いか。で、例の物の場所は判明したのか?」

「地下深く、まだ場所までは断定できていない。データはおそらく女狐の部屋だろう。セキュリティは相当厳しいな」

「なに、時間さえあればセキュリティの解除などあの2人なら造作もないさ。騒動を起こして時間を稼げばいい。

 それよりもG・Jだ。奴が勘付いている以上、決行は繰り上げるべきだな」

「しかしG・JはG・Bの元へ ── 本土へ戻っているのでは?」

「なに、クーデター後で落ち着いていない時の方がやりやすいと言うものだ、これがな」

 

 言い終わると、アクセルはW17を連れて戦術機の格納スペースへと移動した。

 格納スペースにはラプターの改造機、ラプター・ガイストが2機安置されている。シャドウミラーを体現するかのように黒く塗られた機体。到着してすぐに、2人はそれらのメンテナンス作業を開始した。

 作業を開始する前、アクセルとW17の口が動く。

 ボソリと呟いた内容はこうだった。

 

「技術を独占するのは我々 ── 我が国だけでいい」

「BETA大戦後の戦争を管理し、闘争の続く世界を実現するため、俺たちには力が必要なのさ、これがな」

 

 誰にも見えない海の中で、火種は静かにめらめらと燃え始める。その小さな火が燻るだけなのか、それとも燃え盛ることになるのか、それは誰にも分からない……。

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued ──……

 

 

 

 

 




<第3部後書き>

 第3部は一言で言うなら「戦う理由を探す」話でした。
 テーマを意識して書いてみたつもりですが、前半の鬱パートにイライラされた読者さんも多かったかと思います。終盤の展開で前半の鬱憤を挽回しようと画策していましたが、書いてみると鬱部分が長くなりすぎバランスって大切だなぁと思わされました。今後はテンポと描写のバランスに気を配っていきたいと思います。
 さて次の第4部からが本作の中盤になります。本作の4部・5部が原作での「許されざる者」に相当する部分です。やっとここまで来たか、という感じですが、これからも頑張っていこうと思います。
 ではでは、第4部の予告と小ネタを挟んで終わりにしようと思います。良ければ、今後も本作にお付き合いください。





【第4部 予告】

 死は平等だ。
 人間にも、動物にも、BETAにも死はある。
 この世に生まれてきた者は決して逃れ得ない定め。
 死は人生における最終地点、ある意味、人間は死ぬために生まれてくるのかもしれない。
 XM3トライアル ── 影が暗躍し、事件は起こる。

 第4部 許されざる者(前篇) ~Time to come~
          彼は手を伸ばす、彼女の手を掴むために……!





番外 第3部終了時点の原作キャラ状態一覧

 ・白銀 武     生存
 ・香月 夕呼   生存
 ・神宮司 まりも 生存
 ・伊隅 みちる  生存
 ・速瀬 水月   生存
 ・涼宮 遥    生存
 ・宗像 美冴   生存
 ・風間 祷子   生存
 ・涼宮 茜     生存
 ・柏木 晴子   生存
 ・築地 多恵   生存
 ・高原 ひかる  負傷
 ・麻倉 舞     生存

 
 
番外 第3部終了時のアルトアイゼンの状態(スパロボ風)】

・主人公機
  機体名:アルトアイゼン・リーゼ(ver.Alternative)
 【機体性能(第3部終了時)】
  HP:7000/7000
  EN: 150/ 150
  装甲:     1800
  運動:      115
  照準:      155
  移動:        6
  適正:空B 陸A 海B 宇A 
  サイズ:M
  タイプ:陸

 【特殊能力】
 ・ビームコート?(耐レーザー能力)
 ・因子集合体(並行世界のありとあらゆるアルトアイゼン因子の集合体。発現能力、発動条件不明)

 【武器性能(威力・射程・残弾のみ表示)】
  ・5連チェーンガン(36mmHVAP弾)
    威力1800 射程2-4 弾数 15/15  
  ・プラズマホーン
    威力3300 射程1   弾数無制限
  ・リボルビング・バンカー
    威力3800 射程1-3 弾数 6/ 6(交換用弾倉:数個予備あり)
  ・アヴァランチ・クレイモア(チタン製、火薬なしベアリング弾装填)
    威力4000 射程1-4 弾数 12/12  
  ・エリアル・クレイモア
    威力4500 射程1   弾数 1/ 1(使用にはこの武装の弾数および他実弾武装の2割を使用する)
  ・ランページ・ゴースト(相方:不知火・白銀)
    威力5000 射程1-5 

  オプション装備
  ・87式突撃砲(36mm)
    威力1600 射程1-3 弾数30/30
  ・87式突撃砲(120mm)
    威力2600 射程2-6 弾数 6/ 6
 




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