Muv-Luv Alternative ~鋼鉄の孤狼~ 作:北洋
私はコメディを書くときは擬音を使いまくります。あと少しキャラ崩壊しているかもしれません。ご了承ください。
【西暦2001年 12月 6日 23時30分 国連横浜基地】
沙霧 尚哉率いる「憂国の烈士」による武装蜂起が収束した当日。
横浜基地の地下4階にある伊隅 みちるの自室にて、
「── よし、完成だ」
部屋の持ち主である彼女は一人満足気に呟いていた。
殺風景な部屋の中にはシングルサイズのベッドと一人用のデスク、衣服を収納するためのクローゼットがあるだけだ。
みちるはデスクの前に座り、何か作業をしていた。
デスクの上にはカセットコンロが置かれ、その上には鍋……床には飲料水は入っていたと思われる250ml大の紙パックが大量に転がり、みちるの手元からはもうもうと煙が上がっている。
煙の色は心なしか薄い紫色。
軽く鼻を刺す刺激臭が下手に立ち込めていたが、部屋の中に籠りっぱなしのみちるの嗅覚は既に麻痺してしまっていた。
「後は一晩寝かせればいいだろう。明日が楽しみだ」
そう言うと、みちるは電気を消し床についた。
明日からも機体の修理と整備、訓練と「A-01」に休む暇はない。
これからに備えて、体力をつける必要があった。
そのために、みちるは夜なべしてアレを作っていたのだ。
「……私たちの戦いはこれからだ……」
寝言を呟くみちるを余所に、あっという間に日付けは跨ぎ、朝を迎えるのだった。
●
【12月7日 15時30分 国連横浜基地 「A-01」専用ハンガー】
「A-01」の面々は、早朝からクーデター事件で損傷した機体の修理と整備に勤しんでいた。
BETAが相手ではない、人間相手の初めての実戦 ── 殺し合い。
その爪痕は深く、大破こそしていないが各々の機体の損耗は激しく、整備兵と共に長時間の作業に取り掛かっている。
修理が粗方済んだ機体は、持ち主の衛士によって機体のフィッティグ作業に移る。新OSと修理した機体との同期を確認するためだった。
いち早く機体の修理が完了 ── というより、装甲板等の取り換えを行うと強度が落ちてしまうため、あまり修理を行えなかったアルトアイゼンのフィッティング作業を終えたキョウスケがコクピットから外へと出てきた。
やるべき仕事を終えてしまったキョウスケ。
しかし1人では訓練も行えない。
かと言って、午前中に休憩を貰っているため、ここで休むのもはばかられる。
「他のを手伝うか」
戦術機の調整作業の経験がそこまでないため、どの程度役に立つかは分からないが、キョウスケは他の隊員の作業を手伝うことにした。
機体の胸部付近の高さに設置された、移動用の通路を歩いて手の入りそうな面々を探す。
しばらく歩いて、ふと気づいた。
あれだけ騒がしかったハンガー内が静まり返っている。
「……妙だな」
誰にも出会わないことに、キョウスケは違和感を覚えた。
もしかすると、整備兵たちは一時作業を中断して休憩に入っているのかもしれない。
しかし「A-01」の面々は各自休憩を取るようになっているので、一斉に姿を消すという事はまずありえないはずだが……不審に思いながら、キョウスケは人を探し続ける。
そして見つけた。
通路に人が ── よく見ると部隊のNo.2速瀬 水月……が、床に前のめりに突っ伏している姿を。
「……おい、何をやっているんだ?」
「…………」
返事が無い、ただの屍のようだ。
これはいけない。もしかすると、心臓発作を起こして倒れてしまったのかもしれない。まぁ、速瀬はまだ若いのだが。
兎に角 ── こういう場合はまず意識を確認し、呼吸と脈を測定、必要な大声で人を呼び心臓マッサージと人工呼吸を始めるべきだ。まぁ、心臓マッサージをして、何すんのよキョウスケさんのエッチッ、と平手打ちを喰らうかもしれないが気にしてはいけない。人命最優先なのだ。
キョウスケは速瀬の肩を揺すりながら声を掛ける。
「おい、俺の声が聞こえるか?」
「う……南部……中尉、か……?」
幸い、意識はあるようだ。
キョウスケは速瀬を仰向けに寝かせると、頬が桜色に染まり、何と言うか血色がとてもよろしかった。
しかし息は絶え絶え、まるで昏睡直前の重症患者のようで、矛盾したよく分からない体調具合となっている。
「どうした、何があった?」
大したことなさそうだが、とりあえずキョウスケは速瀬に訊いた。
「に……逃げろ……早く……」
「逃げる? 一体何から逃げろと言うんだ?」
今にも息絶えそうな速瀬の声にキョウスケは再び質問した。
「た、隊長が……来る……進撃してくるぞ、早く退避するんだ……」
「伊隅大尉が?」
まったく、速瀬が行っている言葉の意味がキョウスケには理解できなかった。
大方、速瀬は疲労が貯まって倒れ、妙な事を言っているに違いない。
(仕方ない、医務室まで連れて行くか……?)
速瀬は歩けそうにないので、移動するならキョウスケが抱き上げるがおぶる必要がある。まぁ、抱き上げると、何すんのよキョウスケさんのエッチ ── 以下略。
ため息をつきながら、キョウスケは速瀬を抱き起そうとする。
すると──
「なんだ、南部。こんな所にいたのか、探したぞ」
「伊隅大尉、お疲れ様です」
── 背後からみちるの声が聞こえ、キョウスケは立ちあがり敬礼を返した。
みちるはいつもの制服姿だったが、大き目のショルダーバッグを肩から掛けている。中に何が入っているのか外からは分からなかった。
キョウスケの足元に転がる速瀬にみちるの視線が向く。
「ん? どうした速瀬? 疲れて休むのは結構だが、床で寝るのはどうかと思うぞ」
「ああ、相当疲れているみたいで、今から医務室に運ぼうと思いまして」
「そうか、仕方のない奴だ。速瀬には特別に
「ヒィ……!」
みちるがショルダーバックの中を漁ると、速瀬が小さな悲鳴を上げた。
キョウスケには聞こえたが、おそらくみちるには聞こえていないのか、喜々としてバックの中からある物を取りだし速瀬の目の前に置いた。
それは飲料水の入ったごく普通のプラスチック製の容器だった ───── 中身が紫色をしていることを除けば、だが。
紫色のそれを目の前に置かれた速瀬は、プルプルと体を小刻みに震わせ助けを懇願するような目をキョウスケに向けてきた。まるでチワワのようなそれを、キョウスケは微笑ましくスルーした後、みちるに訊いた。
「大尉、これは?」
「私特製の栄養ドリンクだ。性がつくぞ」
ピシィ、と空間に亀裂が奔ったような感覚に襲われるキョウスケ。
「クーデターでの激戦もあり、これからのシャドウミラーと対峙することになるだろう。皆に疲労が貯まっている。せめと思って、体力回復のために、有効成分たっぷりの栄養ドリンクを作ったのだ」
「……大尉、一つ質問いいでしょうか?」
「なんだ、中尉。言ってみろ」
「そのドリンク、中には何が入っているのでしょうか?」
キョウスケの問にみちるは顔を輝かせた。
「よくぞ訊いてくれた。これは私が愛飲している栄養ドリンクをベースに人工ローヤルゼリー、人工セイヨウサンザシ、人工グレープフルーツ、人工ドクダミ、人工梅干し、人工セロリ、人工ウナギ、人工イモリの黒焼き、人工ムカデ、人工マムシ、人工マグロの目玉 ──」
「大尉、もういいです」
「そうか。要するにこれら栄養豊富なものを使って作った栄養ドリンクだ。効くぞ」
だろうな、とキョウスケも思った。
笑うしかない。オリジナルキョウスケの世界にも似たような代物があったからだ。
それは確かに効果は抜群で、戦場に立つ際体力気力が充実した状態にしてくれる物だった、その効能を全て帳消しする副作用があった。
超絶的に不味い。
その代物の通称は製作者の名前を取り、畏怖の念を込めてこう呼ばれていた。
クスハ汁、と。
(……心なしか色も似ている気がする)
キョウスケの直感が告げる。
「では、俺はこれで失礼しま ──」
「まぁ待て。1つ飲んで行け、沢山あるから」
ぐわぁし、とみちるの魔の手がキョウスケの肩を掴んでいた。
(……終わった)
蛇に睨まれた蛙とはこのことか……と諦めて振り返ると、眼前に例のプラスチック容器が突きつけられていた。中身は紫色、よく見るよボコボコと泡が沸いている……炭酸でも入っているのだろうか?
「まぁ飲め。ぐいっと、一気にな」
「……つかぬ事をお聞きしますが、大尉は味見はされましたか?」
「いいや、していない」
「……飲まれてみますか?」
「いらぬ気遣いだぞ、中尉。隊長たる者、部下の健康状態には常に気を配らなければならない。私は、私よりもお前たちに早く元気になってもらいたいんだ」
言っていることは最もだが、相手に投げつけているのが気遣いではなく爆弾だとみちるは気づいていない。
言うべきか?
言わざるべきか?
みちるにしては珍しく満面の笑みを浮かべていた。
苦労して作った栄養ドリンクがクソマズイと指摘されれば、きっとみちるの笑顔は曇ってしまうだろう。
速瀬にはきっとそれができなかったのだろう。
勿論、キョウスケもそうだ。
「……では、いただきます」
「どうぞどうぞ」
笑顔で進めるみちるを見て、キョウスケは意を決してドリンクの入った容器の蓋を開けた。すると、キョウスケの鼻を奇妙な刺激臭が突いてくる。中身も相当ドロドロしていて、スポーツドリンクには程遠く喉の通りが悪そうに見える。
キョウスケは容器に口を付け、ドリンクを飲む。
瞬間、キョウスケの体を電流が奔り、腹の底から炎が沸き上がった。
筆舌に尽くしがたい味!
身体が、舌が吼える。飲むな! 飲むんじゃないと!
脳がそれを制御しようとする。飲め! 早く飲み込んでしまえと!
結局、本能より意思が勝ち、キョウスケはドリンクを一気飲みした。異常に腹に貯まる満腹感と刺激が、キョウスケの意識を刈り取ろうとするが気合と根性でそれを保ち、みちるに言った。
「オ……オイジイデス」
「そうか、それは良かった。では、私は用があるのでこれで失礼する。作業が終わったら、しっかり休むんだぞ」
「リョ、リョウカイ……!」
去って行くみちるの背中に、キョウスケは震える手で敬礼をし……彼女の姿が見えなくなった所で膝をついた。
「い……いったか……うぐ……!」
気が抜けた瞬間、意識が遠のいていく。
脳裏に、クスハ汁の製作者の顔と、それを愛飲させられていた金髪の好青年の姿が浮かび、消えて行った。
「ブリット……お前は凄いな……」
キョウスケの意識はそこで途切れる。
こうして「A-01」ハンガーで、動く者の姿がどこにもなくなったのだった ──……
●
………………
…………
……
「── という話を考えてみたの、どう?」「なにそれ、怖いよ」「そ、そうだよ」
横浜基地内に病院施設にて、クーデターで頭部を強打した高原 ひかるが麻倉 舞と築地 多恵に笑いながら話しかけていた。
検査入院している高原だが、頭部CT等の精密検査の結果は特に問題なく、休憩時間を使って見舞いに来ている麻倉と多恵に、暇つぶしに考えた話を聞かせていた。
話のタイトルは「恐怖のみちる汁」。
隊長である伊隅 みちるに聞かれたら、消えろブッ飛ばされんうちにな、と御叱りを受けそうな内容だったが、下の人間が上の人間を使った遊びを内々でするのは良くある話である。
「最初は速瀬中尉がやられて」「次に南部中尉で」「わ、私たちは無事に生還する」
と、バカな話を続ける高原らの姿は年相応で、なんと言おうか、もう3バカと呼んでいいような気がする。
盛り上がる3バカのいる高原の病室 ── その扉がノックされ、高原が了承すると扉を叩いた人物が病室に入ってきた。
伊隅 みちるだった。肩にショルダーバックを下げている。
「元気そうで何よりだ。ほら、差し入れを持ってきたぞ」
この後、みちるが取り出した物体に、3馬鹿は絶句することになる ──……
しばらくして、「A-01」ハンガーで倒れている速瀬 水月と南部 響介が発見され、医務室に運ばれた。過労だったそうだが、起きた後は非常に血色がよく元気になっていたそうだ。検査入院していた高原も体力全開で原隊復帰する。
だが同時に心にトラウマを負ったような気がしてならない、と口にしていた。
みちるの作った栄養ドリンク飲んだ者は、それを畏怖の念を込め口を揃えてこう呼んだ。
「みちる汁」
その名は「A-01」部隊内で、後世まで語り継がれることになるのだった ──……
<強化パーツ>
名称:みちる汁
効果:使用後3ターン行動不能になるが、その後気力150になり、SPが全回復する。
副作用:トラウマが植えつけられる。
第4部の再開はまだもう少し先になりそうです(2013/10/05時点)