Muv-Luv Alternative ~鋼鉄の孤狼~ 作:北洋
【西暦2001年 12月9日(日) 国連横浜基地 A-01専用ハンガー】
「T・ドットアレイ?」
ハンガーで香月 夕呼から受けた説明に、伊隅 みちるは首を傾げるしかなかった。
「テスラ・ドライブの効果は主に2つあるわ。それが何だか分かるわよね?」
「はっ、重力制御と慣性制御です。それらにより、不知火・白銀は第三世代戦術機すら凌駕する機動力と空戦能力を獲得しています」
「その通り。でもね、テスラ・ドライブの力にはまだその先があるのよ」
「その先、ですか……?」
夕呼の質問に答えたみちるだったが、新たに彼女の口から飛び出した単語の意味は理解できなかった。
みちるは戦術機の操縦だけでなく頭脳も明晰だったが、いきなり畑違いの物理的な専門用語も持ち出されても専門家である夕呼には付いて行けない。
「もう一度説明するから、良く聞いて」
「はっ」
「テスラ・ドライブには重力制御と慣性制御、2つの機能が備わっているのは理解しているわね。でもそれだけではなく、テスラ・ドライブにはある機能を持ったモジュールが内蔵されているの」
夕呼は続ける。
「このモジュールには、作動することでドットアレイと呼ばれる質量作用点で埋め尽くされたフィールドを発生させる効果がある。本来、1か所にしか存在しない筈の質量作用点をフィールド全体に広げることで、1つだけはなく全体の重力と慣性を制御するものこそがテスラ・ドライブの本質なの。そしてテスラ・ドライブ作動時に発生する質量作用点の総称こそが『T・ドットアレイ』、尚且つ力場である以上ある程度の防御機能も有している」
この説明を聞くのは2度目だが、やはり質量作用点という概念がみちるにはすぐに理解できない。
だが分からないなりに要点は把握できていた。
「つまり速い物をより速く、硬い物をより硬くする……という事でしょうか?」
「大雑把に言ってしまえばそうね。装甲がほとんどない不知火・白銀が不知火並の強度を持っているのは、T・ドットアレイの恩恵なの」
「……なるほど」
「でもね伊隅、さっきも言ったけど、テスラ・ドライブにはまだその先があるのよ」
テスラ・ドライブは戦術機をより速く、より硬くする ── 分かりやすく言えばそれだけだが、勿論テスラ・ドライヴの力はそれだけではない。
しかし難しいことを考えながら戦っても実戦で役に立つとは限らない。現場至上主義のみちるには夕呼の言う、その先のヴィジョンがどうしても見えてこない。
夕呼がみちるを見据えて言う。
「電磁投射砲に使い捨てのある装置を外付けしたわ。機体強度を考えるなら、おそらく使えるのは1度のみ ── 切り札よ。
いい? 使い方はね ──……
Muv-Luv Alternative~鋼鉄の孤狼~
第24話 決着
【西暦2001年 12月10日(月) 13時38分 廃虚ビル群 ポイントX】
……── 不知火・白銀がラプターに向かって、猛スピードで降下していく。
「
爆炎を吐き出す跳躍ユニットのメーターは既に振り切れ、テスラドライブの出力係数がみるみる上昇し ── 真っ赤文字色で100%とみちるの網膜に投影されていた。
しかし数値はそこで止まらない。
スロットルを引き切るみちるに応えるように、105 ── 110 ── 115 ──── 120%とテスラ・ドライブの出力は跳ね上がっていた。
値が限界を越えたその瞬間、不知火・白銀に異変が生じる。
あまりの大出力に見えない筈の力場が、周辺の空間と摩擦によりうっすらと浮かび上がっていた。しかしそれも、目を凝らさなければ分からない程度の小さな物……戦闘中に気付ける程は目立たず、不知火・白銀を操縦しているみちるには当然見えない。
みちるは網膜上のラプターを睨みつける。
虫の複眼のようなカメラアイが、赤い光を灯しながらみちるを見ていた。無機質である戦術機の中でも、特別気味の悪さを演出している複数の瞳ではあったが、みちるに恐怖はなかった。
あるのは敵を倒し、仲間を助けるという一念のみ。
しかし不安要素はある。
(副司令の言う切り札、ぶっつけ本番で使うことになるとはな……!)
武装の特性、内容は理解しているつもりだったが、本当に大丈夫と言い切れる自信もない。
だが一瞬の思考をする時間ももはや無い。
ラプターが両手に持つ突撃砲を不知火・白銀に向け、トリガーしようとしていた。
(分の悪い賭けは嫌いだが……やるしかない!!)
みちるがそう思った瞬間、ラプターの突撃砲から2発の120mm徹甲弾が発射される。
だがほぼ同時、みちるも電磁投射砲に外付けされたある装置を作動させていた。
アサルトライフルに装着する簡易のグレネードガンのように、不知火・白銀の電磁投射砲の下面に小さな装置が増設されていた。夕呼曰く、それは簡易の粒子加速器で、中から加速された金属粒子を前面に噴出するためのモノらしい。
それがどうした、と普通の軍人なら感じるだろう。
金属とは言え噴出するのは細かい粒子だ。銃弾飛び交う戦場でスプレーで戦う阿呆はまさかおるまい。
だがそれは並の戦術機にとっての話であり、まさにこの粒子加速器こそが不知火・白銀の
散布された金属粒子が、T・ドットアレイにより前面に集中された力場に捕まり、固定され ──── 目を凝らさなけ見えなかった力場がくっきりと浮き上がる。弾丸のような形をした白い力場が不知火・白銀の前方に展開されていて、管制ユニットのみちるにもそれがはっきりと見えた。
力場の「盾」を纏った不知火・白銀はさらに加速し、ラプターの120mm砲弾は「盾」に接触するや否やあらぬ方向に弾かれる。
「喰らえッ、ソニック・ブレイカァァァァ ────!!」
●
W17は驚愕していた。
何の脈絡もなく出現した白い不知火の周りのナニカ。
ナニカとしか表現のしようのない ── あるいは戦闘機が音速突破する際に発生するソニックブームのような ── それに、W17の放った徹甲弾が弾かれていた。
理解できなかった。
仕留める筈だった攻撃は空振りに終わり、白い不知火がラプター・ガイスト2に向かって突撃してくる。
(速 ── 避けられない……!?)
W17の操縦にラプター・ガイスト2が反応。
しかしコンマ数秒、敵の方が早かった。
未体験の衝撃がW17を襲う ──……
●
……── 力場の「盾」を纏ったまま、不知火・白銀は電磁投射砲を突きだし、ラプターに体当たりを敢行した。
ラプターの機体が逃げようと反応したが、ほんの一瞬早く、力場の「盾」が敵を捕らえ、接触の衝撃がみちるを降りかかる。
だが躊躇せず、みちるはフットペダルを全開で踏み続けた。
衝突の威力を打ち破り、不知火・白銀の力が地面からラプターの巨体が持ち上げる。
力場の「盾」で弾き飛ばされるよりも速く不知火・白銀は加速し、ラプターを「盾」に張り付けにしたまま廃墟ビルの1つに叩きつけらる。
コンクリートの壁が砕ける。鉄骨が引き裂かれ、ラプターを押し出しながら不知火・白銀は廃墟ビルをブチ破った。
倒壊し始めるビルを背後に、さらに前方にあったビルも突き破る。2件目の倒壊を尻目にもう1つ ── 計3つのビルを破壊した衝撃と力場の「盾」の板挟みのダメージをラプターに叩きつけ、不知火・白銀はアスファルトの地面に主脚を突き立て停止した。
「はぁっ、はぁ……やったか……?」
息を荒げながら確認する。
砕いたコンクリで立ち上がった煙で視界が悪い。すぐにはラプターの位置を目視できなかった。
不知火・白銀は電磁投射砲を杖替わりに巨体を支え、コンディションを示すボディアイコンは全身黄色に染まっており、跳躍ユニットとテスラ・ドライブはオーバーヒートしていた。すぐには戦えない── 一定の休養期間が必要だった。
この一撃で決まっていなければ、みちるは絶対絶命の窮地に陥るだろう。
『── 隊長!』
その時、声が聞こえた。
友軍から通信だった。連絡を入れてきたのはヴァルキリー5 ── 涼宮 茜だ。
『ぶ、無事ですか!? 答えてください! 隊長!!』
通信機能が回復している。必死な茜の声がみちるに確信させた。
立ち込めていた煙が風で流されると、全身から火花を散らせて機能停止しているラプターがみちるの目の前に倒れていた。
みちるは大きく息を吐き出し、吸い込み、茜の通信に返答した。
「こちらヴァルキリー1、問題ない」
『た、隊長! 良かった!』
「賊は撃退した、これより確保する。ヴァルキリー5、貴様はヴァルキリー7を護衛し、必ず副司令を基地までお連れしろ。いいな?」
『ヴァルキリー5、了解!!』
通信を終了しレーダーを確認する。一瞬だけ見えた情報を確認したが、茜と多恵の2機はBETA集団を避けながら、廃墟ビル群郊外へと移動していた。掃討は既に始まっており、残っているBETAの数は少ない。あの2人はもう大丈夫だろう。
「さて」
みちるはナイフシースから出した短刀を不知火・白銀に持たせ、ラプターの管制ユニット周辺の装甲を慎重に切り離す。作業を終え短刀を収納したあと、ラプターの管制ユニットを引きずり出すことに成功した。
中の衛士が生きているかは不明だが、もし無事ならばシャドウミラーの情報源として有用だろう。
「……こいつが居たということは、もう1機の方もおそらく南部の方か…………しかし今の状態で行っても足手まといになるだけか……」
必要だったとは言え、テスラ・ドライブに負荷をかけ過ぎた。
冷却期間を置かなければ、不知火・白銀の機動力は回復しない。しばらく時間が必要だった。
「私は勝ったぞ。次は貴様の番だ、南部」
廃虚ビルのどこかで戦っているであろう南部 響介にみちるはエールを送るのだった ──……
●
【同時刻 廃虚ビル群 ポイントZ】
……── キョウスケとアクセルの死闘は続いていた。
アクセルの放った短刀の突きは、アルトアイゼンの巨体を確実に捉えていた。
狙いは胸部 ── その先にあるキョウスケのいるコクピット。
アルトアイゼンの装甲は堅牢だ。だがそれにアクセルの短刀は傷を容易に付けた。短刀の切れ味は村田の「獅子王」のそれの比ではなく、まるで別世界から流入してきた遺物を使ったEOTのようにさえ思えた。
ラプターの握る小さなナイフには、戦略で屈服させるのではなく、純粋な攻撃力でアルトアイゼンに致命傷を与えうる可能性が持っていた。
(直撃はまずい……!)
反射的にキョウスケは機体を動かしていた。
後先考える余裕もなく、動くアルトアイゼンの左腕でコクピットを庇い ── 短刀は堅固なアルトアイゼンの装甲に深々と切り裂く。
しかし機動性の犠牲にした重装甲は伊達ではなく、紙一重で内部の駆動系やフレームに刃は達していなかった。コクピット周りに直撃してもキョウスケは無事だったかもしれない。かと言って、これ以上短刀の一撃を貰ってやる義理もない。
(死中に活あり……! 踏み込んだな、俺の領域に……!)
2体の巨人の一瞬の交錯 ── 一歩前に踏み出せば、機体同士が接触しそうな超接近戦。それはキョウスケの得意とする距離だった。
だが頼みの綱のリボルビング・バンカーが、アルトアイゼンの右腕が、伝達系を切断されたことで動かない。
(構うものか……!)
覚悟を決める時間などキョウスケには必要なかった。
「クレイモア……!」
『そう来ると思っていた、これがな!』
声を上げたのはほぼ同時だったが、動き始めが早かったのはアクセルのラプターだった。
アヴァランチ・クレイモアのハッチが開き、ベアリング弾が発射されるよりも先に、ラプターは短刀を引き抜き跳躍ユニットを噴かせる。高機動を活かしたサイドステップ ── 瞬く間にモニターからラプターの機影が見切れていく。
(まだ間に合う……!)
トリガーを引くキョウスケ。
アルトアイゼンのコンテナ内部が爆ぜ、その衝撃を全て乗せて前面一体にベアリング弾が放たれた。数えきれない量のチタン製のベアリング弾。無数の銀球は空気を切り裂き、正面にあった廃墟ビルのコンクリを撃ち砕く。
轟音と共にビルが倒壊するが、アクセルのラプターに命中させることはできず、右側面から飛んできた120mm砲弾がアルトアイゼンを直撃した。
機体が激しく揺れる。
「く……!」
『頑丈だな、だが、いつまで持つかな!?』
ラプターは補助腕に保持された突撃砲から、徹甲弾を雨あられのように連射してくる。アルトアイゼンは重いが、来ると分かっていれば対処できる。
キョウスケはアクセルの攻撃を回避した ── が、
(動かなくなった右腕が邪魔だ……!)
力なくだらりと垂れた右腕部が、機体のバランスを微妙に狂わせる。
元々アルトアイゼンはクレイモアコンテナを両肩に装備している影響で重心が高く、バランスが著しく悪い機体だ。そこにマリオン・ラドム女史の手が加わり、攻撃能力を高まった代償に、最早立っていられない程にバランスを損なっている。
根本的な問題は解決しておらず、TDバランサーで誤魔化しているだけなのだ。
重く、巨大なリボルビング・バンカーが、アルトアイゼンの機動に合わせて弧を描く。バンカーの重さに機体が引きずられ、アルトアイゼンの動きが鈍る。
そんな一瞬の隙をアクセルは見逃さず、120mm弾を叩き込んでくる。突撃砲による深刻なダメージはないが、喰らい続けるのは問題だ。
(くっ……牽制を……!)
キョウスケはラプターの動きを制限するため、5連チェーンガンを武装選択する。
そしてトリガー ──── 弾が出ず、モニターに「ERROR」の赤文字が表示された。
「なんだと……!?」
信頼性の高いアルトアイゼンの固定武装が誤作動した。
心当たりはある。ラプターの短刀の一撃を防御したアルトアイゼン左腕部にカメラを向けると、5連チェーンガンの弾倉部分に抉られたような傷痕があった。先ほどの斬撃を防御した際にできた傷だった。
(ダメージを受けて、給弾システムが逝ったか……ぐぅ!?)
マシントラブルで動きの鈍ったアルトアイゼンは、ラプターの120mm弾の2連射に被弾した。
正面からの攻撃だったが、ダメージが蓄積してきたのか機体がグラついていた。
『勝機! キョウスケ・ナンブ、覚悟!』
「舐めるな、アクセル!」
アクセルのラプターが一気に加速し、向かってきた。隻腕の掌には脅威となる短刀がしっかりと握られている。
キョウスケは上体の揺れていたアルトアイゼンを制御し、主脚を開いてスタンスを広く取る。敵は正面から来ている。ならば、どうする? 迎え撃つだけだ。
「クレイモア、抜けられると思うなよ!」
『当たってはやれん、これがな!』
アクセルのラプターはアルトアイゼンの真正面。アヴァランチ・クレイモアは散弾の要領で拡散し、広範囲を破砕する。ラプターとの距離も近く、周囲はビルが囲んでいるため動きも制限される。
撃てば当たる、そんな状況。アクセルのラプターがいくら改造機だとしても、所謂戦術機はアルトアイゼンのようにタフではない ── 命中させれば倒せる。
鈍い音を響かせて、コンテナのハッチが開放された。
だがラプターは回避行動を取ろうとしない。跳躍ユニット全開でアルトアイゼンに突っ込んでくる。不知火よりも確実に速度が出ているラプターの突撃は勇猛にも、無謀にも見えたが、キョウスケにとっては好都合。
キョウスケがトリガーを引く ── コンテナ内の爆圧が上がる ── チタン製のベアリング弾が一気にコンテナから噴き出した。
その名の如く雪崩のように、ベアリング弾がアクセルのラプターへと襲い掛かる ──……
●
……── 奴の ── キョウスケ・ナンブの攻撃が来る。
赤い戦術機の両肩のコンテナハッチが開いた。
あの攻撃はもう見た。
この後、コンテナを起点に散弾が広範囲に発射される。
突撃砲のような直線的な軌道ではない。
広がるから避けにくい。
そして当たれば自分は死ぬ。
分かっている。
(だが、それがいい……!)
アクセルは戦場の緊張感が嫌いではない。
戦って死を身近に感じるからこそ、生を感じることができる。
だが戦って生き残り続ける内、命の危機に曝されることは少なくなった。強くなったからだ。
特に1対1の、タイマンの緊張感を感じられる相手はアクセルにはもはや早々いない。
(キョウスケ・ナンブ、こいつは違う)
そう、初めて会った時からアクセルが感じていたことだ。
(こいつは、きっと俺の
理由はない。ただそう感じる。
(そう、感じる。俺はキョウスケ・ナンブを倒さなけばならない! 今度こそ、
理由などない。ただそう感じるだけだ。
(俺は……やるだけさ、これがな!)
キョウスケ・ナンブの散弾を避けて、ガイストカッターでトドメを刺す。
どうすれば避けられる?
サイドステップは無理だ。廃墟ビルが邪魔をする。
上空に逃げても、上昇するまでに時間がかかり、下手に高度を上げれば光線級に狙い撃ちにされる。
なら、どうする?
アクセルの心は決まっていた。
(分の悪い賭けは嫌いだが、俺はガイスト1の力を信じる! あとは……突っ込むだけだ!)
止める。止めてみせる。あの男の攻勢を。
だから突っ込む。勿論、勝機はある。
赤い戦術機の肩の散弾は、やはり散弾なのだ。
肩のコンテナを起点に広がる。
逆に言えば、広がり始める前は広がっていない。
広がれば避けられないが、広がるまえなら避けられる。
だからアクセルは前に出る。
前へ ── 前へ ── とにかく前へ ──
「キョウスケ・ナンブ ──……
●
……── 勝負だ!』
アクセルの声が聞こえた。
近づいて来る、アクセルのラプターが。
だが既に勝負は付いている。真正面から近づいて来る相手に、アヴァランチ・クレイモアは避けられない。
(この勝負、俺に分がある……!)
勝てる。
どれだけ劣勢に追いやられようとも、チャンスがあれば一瞬で巻き返すこともできる。それが実戦だ。
だからこそ、キョウスケはこの勝負勝てる。確信と共にキョウスケはトリガーを引いていた。
── アルトアイゼンのコンテナからベアリング弾が撃ち出された。
コンテナからチタン製のベアリング弾は発射され、アルトアイゼンの真正面に居たならもはや回避のしようもない。
当たる。そして、撃破。
キョウスケの脳裏に2つの単語がかすめる。
しかしキョウスケがトリガーを引いたその瞬間、ラプターはモニターの視界から消えていて、撃破の爆音の代わりとばかりに声が聞こえる。
『でぃぃぃぃやっ!!』
「っ!?」
同時に下 ── アルトアイゼンの主脚から衝撃が伝わってきた。
衝撃の発生点は足元、発生させる敵がいるとすればアクセルのラプター。モニターからラプターが消えた直後の足元からの衝撃に、キョウスケは一瞬である答えを導き出した。
(スライディング!? タックル!? 兎に角、アクセルは身をかがめてアルトの懐に飛び込んで来た!?)
アクセルの攻撃がキョウスケには見えなかったが、それによりアルトアイゼンの巨体は揺らぎ、背部から転倒した。
ショックアブソーバーでは相殺しきれない衝撃が、パイロットスーツが無いためモロにキョウスケの体を突き抜けて行く。肺から空気が強制的に押し出され、悶絶する。
アヴァランチ・クレイモアを発射するため、スタンスを広く取っていたのが災いした。
おそらくアクセルは、足払いの要領でアルトアイゼンの主脚内側に、加速と全重量を乗せた蹴りを叩きつけたのだろう。普段なら踏ん張れたかもしれないが、右腕部が動かずバランスが悪くなっている今のアルトアイゼンは簡単に転倒した、という訳だ。
(懐……それも弾道の死角に飛び込むことでクレイモアも躱すか! アクセル、やってくれる!)
油断をしていた訳ではない。アクセルがキョウスケの予想を上回ったのだ。
モニターに再びアクセルのラプターが映り込んだ。
手に持った短刀がぎらりと煌めく。
『とったぞ!』
短刀がアルトアイゼンのコクピットに向けて振り下ろされる ──……
●
……── 勝利を確信し、アクセルはガイストカッターによる最後の一撃を繰り出した。
最大加速による主脚への跳び蹴り、それがアクセルの行った攻撃だった。
赤い戦術機の散弾の威力は馬鹿にならない。だが弾道はいわゆる散弾のそれだった。
広がれば避けにくく、広がる前なら小さな範囲に大きなダメージを与える。どちらにせよ当たれば致命傷 ── 回避しきるしか、アクセルに取る道は残されていなかった。
(賭けは俺の勝ちだ!)
赤い戦術機の散弾は肩という高い位置から発射され、足元周辺には弾は届かないと踏んでの蛮行だった。読み違えていれば、ラプター・ガイスト1は戦闘不能状態に陥っていただろう。
だがアクセルは読み勝った。
その結果が、無様に地面に横たわる赤い戦術機の姿だ。
キョウスケ・ナンブは油断ならない男 ── 作り出した好機を逃さないためにも、アクセルはコクピットに向け逆手持ちしたガイストカッターを振り下ろしていた。
(さらばだ! キョウスケ・ナンブ!)
●
走馬灯のように、キョウスケの頭にあの時の情景がフラッシュバックしていた。
「インスペクター事件」の最中、改修前のアルトアイゼンでアクセルのアシュセイヴァー戦い、敗れた時のことを思い出す。
ソードブレイカーで四肢を切り裂かれ、アルトアイゼンは攻撃不能な状態にまで追いやられていた。
それでも繰り出した最後の一撃は回避され、結果、破壊されたアルトアイゼンはマリオン・ラドムの手でアルトアイゼン・リーゼに生まれ変わったのだった。
(アクセル、あの時の俺とアルトだと思うなよ!)
まだ諦めるには早すぎる。
キョウスケは操縦桿を奔らせ、ラプターの振り下ろした短刀に、アルトアイゼンの左腕部を突き出した。
装甲を切り裂く威力の短刀は、アルトアイゼンの掌を見事に貫通する。
鮮血のようにオイルが飛び散りスパークしていたが、アルトアイゼンの掌は残っていた。アルトアイゼンの指が動き、短刀を握っていたラプターの手を捕まえる。
『なに……っ!?』
「ゼロ距離、とったぞ……!」
アルトアイゼンの双眸が煌めき、強く、強く万力のような力でラプターの手を握りしめる。
もう離さないと心に誓い、コンソールを操作してキョウスケはある武装を選択する。
その武装は、例えアルトアイゼンの四肢がもげたとしても使い続けることができ、弾が尽きても最後の最後まで戦い続けるために装備されている固定武装。
プラズマホーン ── 頭頂部のブレードが帯電し、白熱化する。
キョウスケがフットペダルを一気に踏み込む。
背部のメインブースターから爆炎が吹き出し、弾き飛ばされるような勢いでアルトアイゼンの体が持ち上がった。
アルトアイゼンの頭部突きだし ──── 突き抜け、白熱化したブレードがラプターの背中から姿を現した。
しかしアルトアイゼンとキョウスケはそれだけは終わらない。
「止められるものなら、止めてみろ!!」
プラズマホーンを突き立てたままのラプターごと、ブースター全開でアルトアイゼンを廃墟ビルへと吶喊させた。
ビルに接触、貫通、倒壊……一連の流れで、地味で確実な物理ダメージがラプターに襲いかかる。
『ぐふ……っ!』
アクセルの小さな悲鳴が回線を通じて聞こえてくる。
キョウスケは躊躇せずフットペダルを踏み続け、アルトアイゼンは加速しながら2つの目のビルへと体当たり ── 貫通、倒壊……無論それだけでは止まらない。
3つ、4つ、5つ、6つ……両手で数えきれない程のビルを瓦礫の山に変え、やっとアルトアイゼンは停止した。
頭を振るってプラズマホーンからラプターを放り投げる。
ずずんっ、と重い音を響かせ、ラプターは仰向けに倒れた。
隻腕のラプターにもはや動く気配は見られない。
アルトアイゼンはまだ動く左腕で力任せに装甲を剥ぎ、ラプターの管制ユニットを掴み出した。
「俺の、勝ちだ……!」
戦いに勝った実感が込み上げ、思わず言葉がキョウスケの口からこぼれていた……──
──…… 暫くして通信機能が回復し、夕呼を追跡していったもう1機のラプターは、みちるの不知火・白銀によって撃破されたことをキョウスケは知る。
夕呼は戦域外へと脱出し、BETAの残党は1体ずつ確実に処理されていく。程なくしてBETA全滅の報が全軍へと通達された。
陰謀渦巻き、多くの衛士の命を無意味に奪った戦いは終わりを告げたのだった……