Muv-Luv Alternative ~鋼鉄の孤狼~   作:北洋

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第30話 決戦前夜

 万能宇宙戦艦「クロガネ」 ── ブリーフィングルーム。

 

 キョスウケたちベーオウルフズが、ブリーフィングルームで説明されたホワイトスター攻略作戦はこうだ。

 

 

【特攻】

 

 

 クロガネによるホワイトスター吶喊 ──── および機動兵器の内部侵入により敵主力を撃破する。

 

 端的に言えば、それがテツヤから説明された作戦の概要の全てだった。

 

 クロガネの艦首には超巨大な回転衝角 ── 巨大なドリルが装備されている。エネルギーフィールドを展開してインスペクターの攻撃を防御しつつ、ドリルを使って突撃を敢行し、ホワイトスター内部へクロガネを直接突入させる。

 クロガネ艦隊の他の艦の援護を受けながらの突入になるが、おそらく突入後は半壊し使い物にならないクロガネを放棄、特機を中心とした主力部隊を中心部に向かわせてインスペクターの指揮官機を撃破する。

 

「作戦の成功確率は言うまでもなく、生存率自体が極めて低くなるだろう」

 

 艦長代理であるオノデラ・テツヤが説明していた。

 

「なんだと! ふざけんなよ!?」

 

 ブリーフィングルームの中で、テツヤのセリフに軍人らしくない言葉が部下から返ってきた。

 

「死ねだと!? そうだな! 俺たちが帰る場所など、どうせ日本で言う地獄しかありはしないさ!」

 

 歴戦の兵士からの答弁。

 テツヤは表情一つ変えずにそれを聞いていたが、キョウスケにとって、それはありがちな訴えの一つでしかなかった。

 敵に銃口を向け、震える指で引き金を引き……その先に臨むに望むものはなんだ? 

 多くの物にとって……それは平和だ。

 愛する者との平和 ──── それはキョウスケにとって六十億年目のイブ ── エクセレンと未来を勝ち取るために…………それは誰も同じこと。

 誰もが叫ぶ。

 

「俺たちはこれまであんたらの言うなりになってきた! だがそれは死ぬためじゃない!」

「インスペターを倒すためだ!」

「オレの妻はこの戦いのせいで死んだ!」

「俺もだ!」

「俺は息子だ! 分かり切っている! アンタは俺たちに死ねと言っているんだ!!」

「生き残って苦いコーヒーも飲むこともできやしない……それが、艦長代理の言っている作戦じゃないのですか!?」

 

 どんどんと、ブリーフィングに参加していた面々から抗議が沸きあがる。

 当然だろう。

 クロガネが半壊し動けないのなら、行きは良いが帰る手段はないことになる。

 指揮官機を撃破できたとしてもインスペクターが全滅するわけではなく、消耗した所を残存部隊や、ホワイトスターの防衛機構に攻撃されて各個撃破されかねない。

 インスペクターの戦力の大部分を担うバイオロイド兵 ── 彼らを、彼らのボスを倒すことで活動不能にできれば御の字だが、指揮官機を落としたとして果たして上手く事が運ぶとは限らなかった。

 いくら特機が一騎当千のパワーを秘めていても、多勢に無勢では勝敗は目に見えている。

 クロガネ以外の脱出方法または敵戦力の無力化する方法がなければ、作戦が成功しても全滅すらありうる、といういことだ。

 テツヤの話を受けてブリーフィングルームが途端に騒がしくなる。

 誰だって死ぬと分かって戦場へ行きたくなどない……それはキョウスケだって同じだった。

 

「静かにしろ! 手を考えていない訳ではない!」

 

 テツヤの一喝に場は静まり返る。

 彼は咳払いを1つして続けた。

 

「もしクロガネが使い物にならなくなった場合、ホワイトスターからの脱出方法は各自で探してもらうか、各々の機体で宇宙空間に脱出し味方部隊に合流するしかない。

 だがこの時問題になるのがインスペクターの残存部隊と、なによりホワイトスターの拠点防衛兵器だ」

 

 テツヤの言葉に、キョウスケは首を縦に振る。

 ホワイトスターの拠点防衛兵器 ── 対艦用のエネルギー兵器やPT用の機銃やミサイルなど、全てをキョウスケも把握している訳ではないが、それらは確実にキョウスケたちだけを狙って攻撃を仕掛けてくるだろう。

 砲撃を続ける拠点に突撃し、その拠点を奪い取る ── どう考えれば、キョウスケたちが有利でホワイトスターを奪還できると言うのだろうか?

 当然、防衛兵器の攻撃に対処すれば隙ができる。その隙を残存部隊に突かれたのでは堪ったものでもないし、防衛兵器を全て破壊して回るのもホワイトスターが巨大すぎて現実的ではない。

 

「そこでこれを使う」

 

 テツヤがブリーフィングルーム備え付けのモニターを指さした。

 モニターには地球連邦の主力PTゲシュペンストが表示されている。そのゲシュペンストのマニュピレーターの先には手の平大の金属製の筒が握られている。

 2m程の円筒形の外殻には【マ改造】とキョウスケに馴染みのある言葉が描かれていた。

 

「マリオン・ラドム博士が開発した超強力なコンピューターウィルスだ。これを防衛兵器の制御部分に使用し、友軍と敵軍の認識を書き換える」

「……つまり成功すれば、防衛兵器が俺たちでなくインスペクターを攻撃する、ということか?」

「そういうことだ」

 

 キョウスケは頭痛を覚えて頭を押さえた。恐るべきは【マ改造】……いや、マリオン・ラドム博士だと、身に染みていた事実を改めて実感する。短期間でホワイトスター防衛兵器用のウィルスなど良く作れたものだ、と。

 確かにホワイトスターはインスペクターに接収されるまでは地球連邦軍が管理していた。防衛兵器のデータを保有していてもおかしくはない。

 仮にウィルスが有効で兵器の識別が変転するというのなら、防衛兵器ありきとばの認識のインスペクター軍が防衛兵器に攻撃されれば、一時的に大混乱に陥るのは間違いない。そうなれば、現状の把握をされる前に大多数の敵を撃破が可能だろう。

 正に起死回生、一発逆転の一手になり得る。

 

「ただし、ウィルスが利けばの話だがな」

 

 テツヤもキョウスケと同意見のようだった。

 

「ウィルスはインスペクターに占拠される前のホワイトスターのモノを使って作られている。インスペクターが防衛兵器のデータを改変していたり、対策を練っているのなら通用しない可能性の方が高い」

「オールオアナッシング……運否天賦の勝負になりそうだな」

「真に遺憾だが、我々には時間がない。この機を逃せば、敵は本星へと増援を要請する可能性もある。そうなれば我々に未来はない」

 

 確かにそうだと、キョウスケは同意する。

 現状でこそ彼我戦力差は同等か、インスペクター側が少し勝っている程度ではある。しかしインスペクターは地球侵攻の先遣隊のようなものだ。彼らの後ろには本星という強力なバックボーンが存在することを忘れてはならない。

 

「ジョーカーの切り時、それが今のようだな」

 

 キョウスケの呟きが聞こえていたのか、両隣のタスクとアラドが頷いていた。

 多少運任せで強引でもやるしかないのだ。

 だが問題は、誰がその役を担うかだった。

 この役目を担う者たちは少数でなければならない。感づかれれば何らかの対策を練られるだろう。大多数で制御室へ押しかけるなど愚の骨頂なのだ。

 敵の基地内を少人数で攻撃を掻い潜りながら進む……今回の最終決戦で最も成功率・生還率共に低い作戦であることは間違いないだろう。

 

「この作戦の担当を発表する」

 

 テツヤの言葉をブリーフィングルーム中が息を飲んで見守っていた。

 

「特機は論外だ。目立ちすぎるからな。特機は主力部隊として指揮官機の撃破と共に派手に暴れ回り、敵の陽動を行ってもらいたい」

「……となれば、ウィルス運搬役はやはりPTだな」

「ああ。そして、この作戦に失敗は許されん。制御室へ1人でも生存してウィルスを使用してもらわなければならない……となれば、必然的に作戦生存率の高い部隊が必要となるだろう」

 

 テツヤの視線がキョウスケに向けられた。ブリフィーングルーム中の視線がキョウスケと、タスク、アラド ── つまり彼の小隊「ベーオウルブズ」に集中する。

 キョウスケは腕を組み、目を瞑っていた。

 キョウスケ、タスク、アラドの3人は強運の持ち主だ。いや、悪運と言ってもいい。作戦の成否は問わず、彼らは絶対に死なず、生きて帰ってきた。

 異常に作戦生存率の高い3人で構成された特殊部隊。

 それがベーオウルブズ、別名 ──

 

「不死の部隊」

 

 テツヤが言う。

 

「お前たちの評判に俺は賭けてみたい。すまんが……お前たちの命を俺にくれ」

「笑えん冗談だ」

 

 キョウスケは鼻で笑い、目を開いた。

 全員の視線がキョウスケの視界に入ってくる。期待と不安と罪悪感に満ちた視線だ。自分が選ばれなくて良かった、という安堵感が混じったものもあった。

 誰だって死にたくはない。

 キョウスケだってそうだ。

 ましてや彼には待っている女がいるのだ、死ぬわけにはいかない。

 キョウスケの鋭い眼光がテツヤを射抜いていた。

 

「俺たちは死なん。喩え、インスペクターの血肉を喰らっても生き延びてやる」

「そうだ! 俺たちは死なねぇんだ!!」

 

 アラドが大声を上げていた。

 

「この作戦が終わったら、ゼオラが腹一杯パインサラダ食わせてくれるんだ! 俺の食い意地は半端ないからな、こんな所で死ぬわけねえぜ!!」

「そうだ! 俺もこの作戦が終わったら、レオナちゃんに正式に交際を申し込むんだ!! こんな所で死ねるかよ!!」

 

 タスクもアラドに釣られて絶叫していた。

 キョウスケは思う。こいつらにも死ねない理由があるのだ。大切な人たちがいるのだ。ならば、死ねない。愛する者たちの未来を勝ち取るために絶対に負けるわけにはいかない。

 勝利、そして生還。

 キョウスケたちの目的は1つだった。彼らは間違いなくチームなのだ。

 

「ではベーオウルブズ隊長、キョウスケ・ナンブ大尉……この作戦を頼まれてくれるか?」

 

 テツヤが最後の確認を取ってきた。

 答えなど決まっている、キョウスケは口を開く。

 

「受けよう。分の悪い賭けは嫌いじゃない」

 

 どんな相手だろうと、どんな難関だろうと関係ない。

 エクセレンと共に生きる未来のためにキョウスケは引き金を引くのだ。ただ撃ち貫くのみ……そうだ、やるしかないのだ。キョウスケは体に力が入るのを感じていた。

 

「よし! 作戦の決行は明朝10:00! 各自の奮闘と生還を祈る!!」

『イエス、サー!!』

 

 ブリーフィングは終了し、それぞれが部屋から出ていく。

 生き残るための努力するのか、明日に備えて休むのか、友や恋人との時間を大切にするのか……それは人ぞれぞれだ。

 ただキョウスケたちは格納庫へと足を運んでいた。

 生き残るために、機体の最終調整を行うためだった。

 

 時刻は20:00……作戦決行まで、あと14時間 ──……

 

 




……レーツェルの淹れるクロガネのコーヒーは美味い
(第5部は底辺野郎ネタを時々入れていく予定です)
あの男の出会いは次回に延期です。









蛇足。
今更ならながら、本作のキョウスケをイメージソングは、ニコニコ動画でスパロボBGMにオリジナル歌詞をを付けて歌っている方のこの曲です(www.nicovideo.jp/watch/sm2404022) ── かなり好きだったりします。
良かったらみなさんも聞いてみてください。

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