Muv-Luv Alternative ~鋼鉄の孤狼~   作:北洋

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半年間放置してましたが、この章だけは前々からのストックを使って完結させようと思います。
これまで対応してなかったので、新しい感想にも返信はしません。
本作を楽しんでいただければ幸いです。


第32話 決死

 銃弾が通路内を飛び交っていた。

 

『敵機撃墜ッ!』

 

 ホワイトスター内部、PT処か特機すら運搬できる大きさの通路。M90アサルトマシンガンを連射で敵機 ── レストジェミラという人型機 ── を撃破したアラドの事が聞こえてきた。

 

「よし、残りの敵機は?」

『全機掃討完了! どうやらホワイトスター内の巡回部隊だったみたいだぜ!』

 

 タスクがキョウスケに応えた。

 クロガネがホワイトスターに突入し、キョウスケたちベーオウルブズが出撃して既に十数分が経過しようとしている。

 ホワイトスター内部 ── 主にその外殻はさながら迷宮のように複雑であった。中世の城のように、敵機が内部へ侵入するを妨害するためにワザと入り組ませて作ったのだ。キョウスケたちが迷わず進めるのは、事前に持っていた全体図のデータの恩恵と言っても過言ではない。

 ゲシュペンストMk-Ⅲを先頭にホワイトスター内部を突き進んだ。

 目指すは防衛兵器の制御室……敵に遭遇しなければ十数分で到達できる距離ではあったが、内部を巡回する無人機がそれを許してくれなかった。

 レストジェミラ3機に遭遇。無論、無人機に後れを取るキョウスケたちではない。1分も経たぬ内に、彼らの足元には敵機の残骸が出来上がっていた。

 

『チッ、仲間を呼ばれたかもしれねえな』

 

 通信越しにタスクが毒づいていた。所詮、相手は無人機。1機1機は敵ではないだろう。しかし、応援を呼ばれ数が揃えば言うまでもなく脅威となる。

 

『どうする、キョウスケさん?』

「愚問だな」

 

 タスクにキョウスケが答えた。

 

「俺たちに後退の二文字はない。ならば、相手よりも早く懐に潜り込むまで……そうだろう?」

『へっ、ちげえねぇや!』

 

 アラドが納得したのか意気揚々と声を上げた。

 

『見つかっちまった以上は先手必勝だぜ!』

「発見された時点で既に後手だがな」

『構うもんか! 俺たちゃ男だ、突っ込むのは慣れているぜ!!』

 

 アラドが意味不明な啖呵を切っていた。

 直後、ゲシュペンストMk-Ⅱ改がアフターバーナーを噴かせて先行する。

 

「続くぞ、タスク」

『了解!』

 

 アラドの後を、キョウスケのMk-Ⅲ、タスクのMk-Ⅱ改が追走し始めた。

 キョウスケのMk-Ⅲは搭載された大型ブースターの恩恵で推進力は非常に高い。あっという間にアラド機に追いつき並走し、その後ろをタスク機が続く構図になる。

 

 幸いなことに敵と遭遇することはなかった。

 地球がホワイトスターを管理していた際の全体図を頼りに、迷宮のような通路を進んでいく。事前に伝えられている情報では、制御室はPTでも自由自在に動き回れる広い空間にあるらしい。制御盤にPTの端末を接続すればコックピット内で作業もできる。ウィルスも制御盤に接続するだけで、後は自動でプログラムの書き換えを行ってくれるとの事だった……

 

 

── しかし、妙だな……

 

 

 敵との遭遇率が少なすぎる。

 ホワストスターの防衛兵器は拠点防衛の要だ。落とされればホワイトスター陥落に繋がりかねないはずなのに、キョウスケたちが敵と遭遇したのは先の1回だけだった。

 しかも1度会敵してしまった以上、キョウスケたちの侵入は知られていると考えるのが妥当だ。

 だからキョウスケたちは最大戦速で制御室に向かっている。しかし敵影はレーダーにも映らず、気配すら感じられない。

 

 

── 誘い込まれている……?

 

 

 懸念が脳裏をかすめた。

 まさか、な。敵と遭遇しないのは迷路のようなホワイトスター内部の構造と、単純に運が良いからだ。そう、キョウスケは思いたかった。

 

『行き止まりだ!』

 

 アラドが機体の前進を止めた。

 正面モニターに映る巨大な隔壁を確認できる。キョウスケもMk-Ⅲのブースターを停止させた。全体図ではこの先に巨大な空間があり、その少し先に制御室があるはずだが。

 Mk-Ⅲを一時停止させ、隔壁を観察する。

 隔壁の脇の壁に制御盤らしき物があった。既にタスクのMk-Ⅱがアクセスして操作している。

 

『チッ、ロックが掛かってやがる……!』

 

 タスクが毒づいていた。

 タスクは有能だ。時間さえかければ隔壁のロックも解除できるだろうが、どれだけの時間が必要か分からない。

 キョウスケは敵との遭遇率の低さが気にかかっていた。戦力を温存し、キョウスケたちが隔壁前に到着するのを故意に待っていたのだとしたら……?

 隔壁が開かなければまさに袋の鼠。

 次々に投入される物量差の前に蹂躙されるのは目に見えている。

 

「アラド、退け」

『キョウスケさん……?』

 

 隔壁前で立ち尽くしていたアラド機をキョウスケは押しのけていた。

 

「お前たち、下がっていろ」

『っ……! な、何するつもりっすか!?』

『まさか……! おいアラド、下がれ!』

 

 タスクが何か察したのか、アラド機の肩を掴んで後退した。

 キョウスケは操縦桿を動かしてMk-Ⅲを隔壁へと近づけた。Mk-Ⅲの腕部を伸ばせば届くか届かないかの距離。そこでMk-Ⅲの腰を低くし、重心を安定させる。

 すぐにコンソールを操作して、武装を選択した。

 Mk-Ⅲの両肩部に装備されたコンテナのハッチが解放された。

 

「アヴァランチクレイモア……! これで抜けぬ装甲など、ない!」

 

 ゲシュペンストMk-Ⅲの両肩部に装備された特殊兵装の名称だ。コンテナに内蔵された指向性地雷による爆圧で、火薬入りの特殊チタン弾「M180A3」を散弾のようにばら撒いて敵を破砕する。

 物理的に敵を撃ち抜いてから、チタン弾内の火薬が炸裂するのだから、威力はMk-Ⅲの固定武装の中で最も高い代物だった。

 キョウスケがロックオンサイトを正面隔壁に抜けると、コックピット内にアラート音が木霊し始める。PTのコンピューターは動態反応などを頼りにターゲットを補足するのだが、ただの隔壁ではロックオンもできない上、Mk-Ⅲが隔壁に近過ぎるため警告音を鳴らしていた。

 

 

── 知るかッ……俺たちには、退路も時間も残されていない……!

 

 

 キョウスケは一息にトリガーを引いた。

 アラートを鳴らしながらもMk-Ⅲは従順にコンテナからチタン弾を吐き出した。チタン弾が隔壁を小さな穴を蜂の巣のように空ける。直後に衝撃でチタン弾内の火薬が着火して隔壁を吹き飛ばした。

 

「ぐっ……!」

 

 衝撃がキョウスケを襲った。ダメージメッセージあり。至近距離での爆圧にMk-Ⅲは巻き込まれ、表面装甲が少々焼かれていた。だが厚い装甲があるため大事には至らず、作戦行動に支障がでるレベルではない。

 アヴァランチクレイモアで、隔壁には大きな風穴が空いていた。

 

『キョウスケさん、大丈夫っすか!?』

『たくっ、無茶するんだから!』

 

 アラドとタスクが回線越しに怒鳴ってきた。

 

『一緒に爆発でもしたらどうするつもりだったんですか!?』

「Mk-Ⅲの装甲は特機並だ。問題ない」

『っ……! たくっ、無事だったから良かったものの……!』

 

 タスクがブツブツと文句を言っていた。キョウスケはため息を漏らしそうになったが、タスクの心配は尤もなものだとも分かっていた。

もし開放状態のコンテナ内に残っているチタン弾に引火でもした大惨事になっていただろう。最悪、Mk-Ⅲごと爆散……任務は失敗。結果オーライ、の一言では済まされないのも確かだった。

 

「心配をかけてすまなかった。だが、これで道はひらけた」

『こじ開けたの間違いでしょ?』

 

 違いない。アラドの言う通りだが、前に進めるようになったのも事実。

 

「今の爆発で敵が集まってくるだろう。その前に事を済ませるぞ」

『了解。制御室まではこの先の空間を抜けて、あと少しだ』

『ここまでくりゃ、もう楽勝っすね!』

 

 アラドがモニター越しに笑っていた。

 だと良いが……敵との遭遇率が低かったのも隔壁前にキョウスケたちを追い詰めるためだったのか、それとも本隊やアクセルたちの陽動が上手くいっているためか……どちらせよ杞憂であれば良いが……兎に角、今は前へとキョウスケは操縦桿を握りこんだ。

 

「行くぞ、お前たち」

『『了解ッ』』

 

 キョウスケたちは隔壁に空いた穴から内部へと突入していく。

 

 

 

 

 

 隔壁を抜けた先には巨大な空間が広がっていた。

 上下左右に約1km程のスペースが目の前にある。PTと特機の混成大部隊を展開することだって容易にできるだろう。ホワイトスターの巨大さならば、この程度の空間を用意するのは難しくはない。

 だが ──

 

『な、なんだこりゃあ……?』

 

 ── アラドが驚きの声を上げた理由が、キョウスケのモニターにも映し出されていた。

 

 荒野が広がっていた。

 

 ホワイトスターという人工物の中に、土でできた地面とささくれ立った岩石、そして丘が見える。閑散として距離は空いている樹木の姿も確認できた。キョウスケたちが通過してきた通路の無機質さとは違う……しかし生物が息づいている気配もしない奇妙な空間だった。

 

「なんだここは?」

『制御室前にある空間のはずですけど……』

 

 タスクがデータを確認しながら答えた。

 

「こういう場所なのか?」

『そういう情報は貰ってないけど……』

「……インスペクターに奪われてから建造された……とうことか?」

 

 腑に落ちない。キョウスケは敵の意図を推察する。……分からない、こんなことをするメリットがインスペクターにあるのだろうか? 地球の自然環境を保存・再現するなんて殊勝なマネを、あの侵略者たちがするとも思えない……と。

 キョウスケはある事を思い出した。

 モニターには荒野が表示されているし、キョウスケの目にもそれは間違いなく映り込んでいる。

 だが違和感が残る。

 目の前に、荒野が、本当にあるのか? いや、ある。確かに荒野は目の前に存在している……だが奇妙な感覚が心に残っている。

 

「……まさか」

 

 キョウスケは「L5戦役」でも似たような経験をしていた。

 それは、人間の深層意識に干渉して、見えているもの感じているものを誤認させる。「L5戦役」時のホワイトスター攻略作戦で、キョウスケたちは苦戦させられたものだった。

 それに認識を操作された結果、それまで倒してきた難敵や強敵……味方に至るまで敵として目の前に現れたのだから ──

 

「もしや、トラウマシャドウか……?」

 

 キョウスケが呟くと、

 

 

『その通りさ!』

 

 

 聞き慣れない少年の声が返ってきた。回線越しではなく、空間を反響する声をMk-Ⅲの集音マイクが拾っていた。

 

『ッ……! なんだ!?』

『何処にいやがる!?』

 

 すぐにタスク機とアラド機がそれぞれアサルトマシンガンを構えた。Mk-Ⅲのマシンガンも銃口を上げ、3機背中合わせになって周囲を警戒する。

 レーダーに反応なし。敵影も確認もできない。

 声の主の姿は何処にも見当たらなかった。

 

『よく来たね。僕の名前はウェンドロ。インスペクターの総司令官さ』

「なんだと?」

 

 インスペクターの司令官……本隊のターゲットだ。

 総司令官ならばクロガネ隊との戦闘の指揮をとらなければならない。つまりこの空間に総司令官 ── ウェンドロはいない。おそらく遠隔カメラでキョウスケたちを見て、マイクで話しかけているにすぎないのだろう。

 

『地球人 ── 幼稚な野蛮人どもめ。よくもまぁ、単身で本拠地に突入できるもんだね。

後先考えていないのか、それともニッポンとかいう島国の『カミカゼトッコウ』という精神なのかな?』

「……この声、子どもか?」

『ふふふ、子ども、か。だから幼稚なんだよ、君たちは』

 

 顔は見えないが、声変わり前の子どもの声のようにキョウスケは感じられた。尤も、異星人であるインスペクターに、地球人の成長過程が適用できるかは不明だが。

 ウェンドロは冷たい声で言う。

 

『我々の星系では能力さえあれば年齢なんて関係ないのさ……子どもだから、なんて侮っていると……死ぬよ』

 

 キョウスケはウェンドロの言葉を聞きながら、周囲を確認した。敵影はなく、見えるのは荒野だけだ。迷彩を施したスナイパーが潜んでいるのなら見つけられないかもしれないが、敵の総司令官がこそこそと隠れるような真似をするとは考えにくい。

 やはりウェンドロはこの空間にはいない、キョウスケは確信する。

 

『君たちが、少数で防衛兵器の機能を潰しに来るのは予想済みだった。ここには面白い機能も備わっているみただし、君たちを潰すついでにテストしようと思ってね』

「やはり、トラウマシャドウか」

『そうだ。どうだい? 君たちには、きっと機械惑星の内部には見えていないだろう? 僕には金属製の演習スペースにしか見えていないけどね』

 

 荒野はトラウマシャドウの作用が見せている幻らしい。ウェンドロの言葉から実際は演習場だと分かる。荒野にそびえる丘は、おそらく演習用の障害物か何かだろう。

 

「俺たちをどうするつもりだ?」

 

 返答は容易に想像できたが、あえてキョウスケは質問した。

 

『もちろん、死んでもらうよ』

 

 予想通りの答えだ。

 

『ただし、面白可笑しく、有意義に死んでもらうとしよう』

 

 ウェンドロは笑いながら答えた。冷たい印象を受ける笑い声。きっと地球人の命はゴミ程度にしか思っていないのだろう。いや、もしかすると自分の仲間の命ですら……

 キョウスケは傍受されないよう周波数を変え、タスクとアラドへ回線を開いた。

 

「タスク、アラド、そちらから敵機は確認できるか?」

『いいや、こっちは見えねえぜ』

『こっちもだ。レーダーにも敵影はなしだ』

「よし」

 

 2人の答えを聞いてキョウスケは決断する。

 見られている以上キョウスケたちは既に後手に回っていた。素直にウェンドロの話を聞き続けてやる義理などない。意表を突く。どんな伏兵を用意していようと関係ない。制御室まで最大戦速で突っ切るのだ。

 

「突っ込むぞ、奴らより速く!」

『『了解ッ!!』』

 

 キョウスケはMk-Ⅲの大型ブースターの出力を上げた。フルスロットルだ。途端に強烈なGが体にかかってシートに体が押し付けられる感覚を味わうが、それに見合った急加速でMk-Ⅲは走り始めた。

 空間内を横断して、最短ルートで制御室を目指す。タスク、アラドの2機も追従してきていた。

 

『おやおや、必死だね』

 

 ウィンドロのほくそ笑む声が聞こえた。

 だが無視する。3機は空間の中央に躍り出て、そのまま前進した。

 ウェンドロもお構いなしに続けた。

 

『そんな君たちにプレゼントだ。ありがたく受け取ってくれたまえ』

「なっ……!」

 

 刹那、レーダーに機影が映し出された。

 Mk-Ⅲに隣接するほど近くに反応がある。しかし敵機は確認できない。となると ──

 

「直上か!?」

 

 キョウスケはMk-Ⅲのカメラを直上に向ける。

 敵がいた。

 黒い甲冑のような装甲の巨大ロボット ── まるで鎧武者のような外見をした特機が、その巨大な身の丈ほどもあろうかという大剣を振り上げている。

 今にも大剣は振り下ろされようとしていた。

 

「敵機直上! 回避しろ!」

『なっ……! あれは……!』

『ダ、ダイゼンガー!?』

 

 2人は驚愕しながらも回避行動に移る。3機のゲシュペンストはそれぞれ別の咆哮に散開した。

 直後、ダイゼンガーと呼ばれたロボットが無言のまま大剣を振り下ろす。

 爆弾が爆発したような音を轟かせて大剣が地面に叩きつけられる。巨大な質量の剣が剣風を巻き起こしてMk-Ⅲを揺らし、巨大な斬撃の跡が地面に刻み込まれた。

 

『喜んでもらえたかな?』

 

 ウェンドロが訊いてきた。

 

『ウィガジのガルガウが敗れた機体と言うから興味があってね。地球人は野蛮な猿だが、兵器を作らせれば天下一品だ。データを集めて、研究させてもらったよ。

 その過程で再現してみたのさ。どうだい? インスペクター製のダイゼンガーの力は?』

「インスペクター製、だと?」

 

 キョウスケはMk-Ⅲの体勢を立て直し、アサルトマシンガンの銃口をダイゼンガーに向けた。

 

 

── まがい物だと?

 

 

 瓜二つ。外見はキョウスケの良く知るダイゼンガーそのものだ。手持ち武器の参式斬艦刀の威力もさっきの攻撃を見る限り、本物に勝るとも劣っていなかった。

 さらにダイゼンガーから浴びせられる威圧感も、まるで中に操縦者が乗っているように感じられた。

 

「この威圧感……ちッ、トラウマシャドウか」

『恐ろしいかな? 認識を操作できるというのは便利だね。限られた空間でしか使えないのが残念でならないよ、ふふふ』

 

 トラウマシャドウ ── 厄介極まりない機能だ。

 ウェンドロが笑いながら言った。

 

『さようなら。ここが君たちの墓場となるのさ……精々、頑張ってくれたまえ。ハハハハハ ────』

 

 高笑いを響かせてウェンドロの声は途切れた。ダイゼンガーというワイルドカードを出して勝利を確信したのだろう。見くびられたものだ、とキョウスケは思う。

 ダイゼンガーは1機、対してこちらは3機。

 PTと特機。保有している戦力は五分五分か、ダイゼンガーの方が少し上と言った所だろう。しかしキョウスケは敗ける気がしなかった。敵のダイゼンガーになくて、キョウスケたちだけが持っているものがあったからだ。

 ダイゼンガーの武装、戦闘方法、弱点 ── 共に戦ってきた仲間だから知っているコトがある。

 威圧感をトラウマシャドウで再現しようとも無駄だ。

 真の兵士はそんなものに屈したりはしない。マシンガンを発射できるように、トリガーに指をかけた。

 

「お前たち、やるぞ」

『待ってくれ、キョウスケさん』

 

 タスクが言った。

 

『ここは俺たちに任せてくれないか?』

「なんだと? 本気か?」

 

 相手はダイゼンガー。まがい物だとしても一瞬の油断が命取りになる相手だ。しかしモニターに映るタスクの目に迷いはなかった。

 

『時間がないんだ。仲間たちが戦っている、いつまで戦っていられるかも分からない。一刻でも早く作戦を成功させないと……敵がダイゼンガーだけだとしても、全員で相手をして時間を喰えば、その食った分だけ敵機がここに集まってくるはずだ』

『そしたら任務も果たせねえ。皆、ここから帰れなくなるんだ!』

 

 アラドが叫んでいた。その顔に怯えはない。2機でダイゼンガーに立ち向かう。覚悟を決めた男の顔だった。

 

「お前たち……」

『大丈夫さ! 俺たちゃ死なねぇんだ! だから先に行ってくれ、キョウスケさん!!』

『後から必ず追いつく! だから、ここは任せて行ってくれ!!』

 

 時間がない……それは事実だ。

 残って戦いたい……そうも思ったが、2人の言っていることは正しかった。3機で時間を喰うよりも、2機で踏ん張り1機を先行させる方が目的は果たしやすいはずだ。

 キョウスケは苦渋の決断をするしかなかった。

 

「分かった。……死ぬなよ」

『へへ、俺を誰だと思ってやがる! 不死の部隊ベーオウルブズのアラド・バランガだぜ!』

『そうさ! 俺の死に場所は、レオナちゃんの膝の上に予約済みだぜ!』

「……よし。行くぞ、お前たち」

 

 2人の決意を無駄にはできない。

 キョウスケは操縦桿を握り締め、銃口は向けたままでダイゼンガーから距離を取り始めた。

 だがダイゼンガーはキョウスケの動きを察知し、斬艦刀の切っ先をMk-Ⅲに向けてくる。

 

『させるかよ!』 

 

 2機のゲシュペンストがアサルトマシンガンを斉射した。 

 貫通力に優れる徹甲弾が連続で銃口から打ち出され、ダイゼンガーの表面装甲を抉る。戦車すら一撃で撃ち抜く巨大な徹甲弾でも、特機の装甲を貫通することは敵わないのだ。

 特機の装甲を撃ち抜こうとするなら、特殊な金属で処理が施された銃弾が必要になってくる。しかしキョウスケたちが持ち合わせている筈もなかった。

 銃弾を浴びたダイゼンガーは斬艦刀の腹で弾丸を弾き返す。

 

『今のうちだ!』

 

 タスクの声に無言で頷き、キョウスケはMk-Ⅲのブースターを噴かせた。

 数秒で最高速度まで加速し、ダイゼンガーを引き離す。ダイゼンガーには射撃武器は装備されていないため追ってはこれない。

 

「死ぬなよ、2人とも……!」

 

 空間に2人を残して、キョウスケのMk-Ⅲは制御室へと駆けていく ──……

 

 

 

      ●

 

 

 

『さて、どうしたもんかな?』

 

 ゲシュペンストMk-Ⅲを先行させた後、タスク・シングウジはぼやいていた。

 

『なんだタスク、いい案あるんじゃなかったのかよ?』

 

 アラドがタスクに訊いてくる。

 

『ねえよ、そんなもん』

『おいおい、どうすんだよ!? 相手はあのダイゼンガー ── って、うわっ!』

 

 ダイゼンガーの斬艦刀の横薙ぎを、アラドのゲシュペンストMk-Ⅱはバックステップで躱した。そのまま横っ飛びで丘の陰に機体を隠し、タスクの機体もそれに続いた。

 ダイゼンガーは斬艦刀を持ちなおして2人に迫ってくる。

 

『やっぱり斬艦刀は洒落にならんぜ。間合いの外から立ち回るしかねえな』

『ちぇっ、俺、射撃苦手なんだけどなぁ』

 

 アラドが自信なさげに呟いていた。彼の射撃の腕は本当に悪い。相手がPTでは狙った所に命中させるのは難しいかもしれないが、ダイゼンガーは特機だ。

 ゲシュペンストの倍程の体格があるため、アラドでも当てることぐらいできるだろう。

 

『兎に角、やるしかねえか』

『応ッ、偽物なんざさっさと倒してキョウスケさんを追うぜ!』

 

 2人はモニター越しに頷きあった。

 撃ち尽くしたアサルトマシンガンの弾倉を交換し、互いにタイミングを図り合わせて、丘からダイゼンガーの前へと躍り出た。

 

『『こんな所で死ねるかよ!!』』

 

 銃声と剣戟の音が響き渡る ──……

 

 

 


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