Muv-Luv Alternative ~鋼鉄の孤狼~   作:北洋

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第36話 幸福

……── エクセレン、今帰ったぞ」

 

 一軒家の入り口を開けて、男は中へ呼びかけている。

 紅いジャケットを着た日本人男性で、肩には不死の部隊「ベーオウルブズ」のトレードマークである狼が描かれていた。

 俺 ── キョウスケ・ナンブが、ドアを開けて玄関で何かを待っていた。小さな玄関口には女性物の靴が1組の他に、小さな子ども用の靴が見て取れる。

 キョウスケに呼ばれて、家の中から金髪の女性エクセレンが姿を現した。

 

「あら、お帰りダーリン、キラ☆」

 

 超時空とか、シンデレラがいそうな異世界あたりで流行りそうな仕草でウィンクするエクセレン。似合ってはいる。星が目から飛び出して2頭身化し、八重歯が口からのぞきそうな位には似合っていたが、それを見るキョウスケの視線は冷ややかだった。

 白い。と言ってもいい。

 

「今度は何のマネだ?」

「超時空妖精、アップル・ボンバー・歌姫ちゃんの決めポーズよ、キラ☆」

「イラッ、とするな」

「あぁん、キョウスケのいけずぅ~」

 

 キョウスケの言葉に、エクセレンは身をくねらせて反論していた。

 その行動に込められた意味は、もっとかまって、だろう。

 キョウスケは静かに靴を脱ぎ始める。

 靴を脱ぐためにしゃがんだキョウスケ。しかしその時、キョウスケの前に躍り出る一つの陰があった。

 

「おかえりなしゃいパパ、きら☆」

 

 3、4歳程の青い髪をした女の子だった。

 ついさっき、エクセレンがしていた超時~(以下略)の決めポーズをしている。年齢相応の体の小ささも相まって、まるでぬいぐるみのように愛くるしくキョウスケには映った。

 

「ただいまアルフィミィ。どうしたんだ、そのポーズは?」

「うんとねー、ママのまねー」

「ほう、可愛いな」

 

 「キラ☆」のポージングで応える女の子 ── アルフィミィの頭をキョウスケは撫でてやった。

 

「でもママの真似をしちゃダメだと言っただろう? 恥ずかしいから ──」

「きらっ☆」

 

 また「キラ☆」のポーズを取るアルフィミィ。

 小さい娘が好きという嗜好の持ち主なら、鼻血を出して卒倒してもオカシクない愛くるしさだったと断言しよう(断っておくが、俺は断じてロリコンではない)。

 

「── まぁ、いいか。ほら、飴をやろう」

「キィ ──── ッ! キョウスケがデレてる! やっぱり、若い娘の方がいいのね!?」

「自分の娘に嫉妬するな」

「あめふぁまほいしぃー」

「美味しいか、良かったな」

 

 飴玉を舐めるアルフィミィ、それを撫でるキョウスケ、少しジェラシーを感じているエクセレン。

 この小さな一軒家にはキョウスケを含めて3人の家族が住んでいるようだった。

 

 

 

 どうやら俺はオータムの過去から、キョウスケの過去へと戻って来たらしい。

 不思議と俺の心には温かいものが込み上げていた。郷愁に似た感覚で、俺はキョウスケたちを観察する。

 戦いに明け暮れた男の小さな幸せが、目の前には広がっていた ──……

 

 

 

 

 

第36話 幸福

 

 

 

 

 

 時は新西暦193年。

 

 インスペクターの襲来により勃発した戦争は、ホワイトスターでインスペクターの総司令官ウェンドロを討ち取ることにより終結した。

 「インスペクター事件」と呼ばれる戦争が残した被害は大きかった。

 多くの人命が失われただけでなく、建築物や食料にまで被害は当然及び、多くの人々の生活は困窮していた。

 戦争の終結から数年間、地球連邦は復興のために尽力することになる。専門家の予測では、インスペクター事件以前の状態に戻るためには、早くても3年はかかると予想されていた。

 

 しかし、復興は実際には僅か1年足らずで成し遂げられることになる。

 宇宙にあるコロニーの連合が地球連邦へ、全面的な強力を申し出たためだ。

 食料、人材、技術提供が惜しげもなく両組織間で行われた。

 インスペクターという巨大で共通の敵を相手にして、両者の間には絆が生まれていた。そう、キョウスケは思っていた。

 こうして、地球連邦とコロニー連合の間には、横の太いパイプが出来上がる。

 やがて、人材交流と称して、窓際で干されていたような老人が、互いの組織の重職を独占していくようになる。

 

 復興が終わり平穏になると、キョウスケたち兵士にも影響が現れた。

 

 北米のラングレー基地に駐屯していたベーオウルブズは、不死の部隊という戦々恐々とした2つ名のために、各地を転々とさせられる。

 栄転と称して繰り返される異動は体の良い厄介払いに他ならなかった。

 兵士は平和になれば最低限しか必要なくなる。

 戦闘のプロフェッショナルは組織に置いておきたいが、各基地の司令官たちは手元に置きたがらなかった。特に「インスペクター事件」で活躍した、万能宇宙戦艦クロガネの元クルーならなおさらだ。

 理由は簡単。

 扱いにくいから。

 下っ端のように扱えず、かといってある程度に高い給金を与えなければならないキョウスケたちのような存在は、軍の上層部にとっては煙たがられるだけだった。

 だがキョウスケに不満はなかった。

 兵士が不要とされるのは、世間が平和である証拠だと信じていたからだ。

 それに最終的には、隊長であるキョウスケの故郷ということで、ベーオウルブズは日本のとある基地に配属されることになった。

 エクセレンの住む町まではかなり離れているが、それでもアメリカや中国よりは格段に距離が近い。キョウスケはそれなりに満足していた。

 キョウスケたちの日常は血で血を洗う殺し合いの日々から、新兵の訓練や周辺の警備などの安穏とした業務に追われるものに変わっていた ──……

 

 

 そんな、インスペクターとの戦争から5年が経ったある日のことだ。

 

「アルフィミィちゃんの誕生日パーティーやろうぜ!」

 

 全ては、このアラドの一言が切っ掛けだった。

 

 

 そんな、インスペクターとの戦争から5年が経ったある日のことだ。

 暇な時間を潰すため、何時の間にかベーオウルブズの慣習となった賭けポーカーの席で、アラドが提案していた。

 

「だからさ、もうすぐアルフィミィちゃんの誕生日だろ? プレゼント作って、誕生日を祝ってやろうぜ!」

 

 アラドは手持ちのカードを開示しながら言った。役は6のスリーカード。それなりに上々の役だ。

 小さな円卓に向かい合って、キョウスケはアラドとタスクと一緒にポーカーに興じていた。

 「インスペクター事件」の後、キョウスケたちに出動命令がかかることは、ほとんどなくなった。命令が下るとしても、PTを使った災害救助や慈善事業への協力などがほとんどで、当然のように愛機 ── ゲシュペンストMk-Ⅲの出番はない。

 専らの仕事である新兵教育がひと段落つけば、キョウスケたちに回ってくる仕事は少なかった。できることと言えば、緊急時に備えて基地に待機することぐらい。

暇を持て余すたびに、ベーオウルブズはこうして賭けポーカーを開催していた。

 

「お、いいねぇ。休暇も重なってるし、皆でアルフィミィちゃんを祝おうぜ。ほい、ロイヤルストレートフラッシュ」

「ぎゃーー!」

 

 タスクがテーブルに開けた手札に、アラドが奇声を上げてズッコケた。 

銃弾がタスクの前に積まれ、山のように盛り上がっている。キョウスケたちは銃弾を賭け金のチップ代わりに扱っていた。勝負終了後、銃弾の数が最も多い者いに少ない者が食事をご馳走するのがルールだ。

キョウスケとしては少し物足りないが、彼の財布の紐はエクセレンに握られている。一攫千金が可能なギャンブルは今のキョウスケには不可能だった。

キョウスケは自分の手札を見て、テーブルの上に放り投げた。

 

「ブタだ」

「また役なしですか。今日はついてないですね、キョウスケさん」

 

 タスクがニコニコしながら、戦利品である銃弾を手元に引き寄せていた。ちなみにキョウスケの手元に銃弾は1つも転がっていない。本物のギャンブルならオケラと呼ばれる状態だった。

 

「で、キョウスケさん、どうします?」

「ん? どうもこうもないさ」

 

 こんなギャンブル平和なものだ、と思いながらキョウスケは答える。

 

「アルフィミィの誕生日を祝ってくれるのだろう? 俺には断る理由などない。それにあの子も時々お前たちに会いたがっているしな」

 

 タスクたちとアルフィミィは面識がある。というか、日本に転属になってから暇で予定がない時にはキョウスケ宅に足を運んで、アルフィミィと遊んでくれていた。そのため、2人はアルフィミィにはかなり懐かれている。

 

「やあやあ、聞きましたかアラドさん」

 

 タスクが嬉しそうに声を上げた。

 

「えぇえぇ、聞きましたともタスクさん」

「アルフィミィちゃんが俺たちに会いたがっているみたいだぜ?」

「これは行かねばならねえな! 絶対にッ、そうッ、絶対にだ!」

 

 えっ、そこってそんなに強調する所?

 アラドのオーバーリアクションに、キョウスケは微笑を浮かべていた。

 

「さ~て、プレゼントは何にすっかなー?」

 

 と、アラド。

 

「3人でロケットでも手作りしないか? ほら、家族の写真入れたりして、胸にぶら下げるやつ?」

 

 と、タスク。

 タスクが提案しているのは、いわゆるロケットペンダントと呼ばれる物だ。手作りできるものなのかと疑問に思ったが、タスクは手先が器用だから何とかしてしまうかもしれない。 

 だが1つ疑問が出てきて、キョウスケは訊いた。

 

「しかし父親のプレゼントが、お前たちと一緒というのはどうなのだろう。いいものなのか?」

「ジョーブ、ジョーブ!」

「ハラショー、スキヤキー、ハラキリー!」

「意味は分からんが、とりあえず日本語で話さないか?」

 

 結局、キョウスケは2人と一緒にロケットペンダントを作成し、それとは別に人形を買ってプレゼントすることにした。

 ペルゼイン・リカヒィーちゃんとか言う、「キモコワ」系で分類される人形を買うことにした(驚くことにアルフィミィはキモコワ系人形が大好き)。

 娘の将来が少し心配になるキョウスケであった。

 

 

 

 

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