東方鏡魔暦   作:逆月 燐

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ここまで投稿が遅れたのには理由があるんだ。このバーボンはサービスだからまず飲んで落ち着いてほしい。

さて、その理由だけど、ぐるなびのランキングがうどんで埋まるような場所から、腐女子が集まる場所にある、某世界に轟くホモビデオに野球部員が出演したことで果てしなく有名な大学のある街に移動していてネット環境はおろか執筆環境さえ無かった、といえば納得してくれるだろうか。
それなら引っ越し前に書けよ、という指摘には平謝りするしかありません。

心機一転、新しい相棒Surface Pro3ちゃんと頑張るぞ!

大人しく安いノートPCとワコムのペンタブ買えよ!という指摘は気にしない!


第2章 1話 欠けたもの

里を出て世界を歩き回って何年経っただろうか。

 

 

私は見慣れた町の前に立っていた。当て所もなく歩き回っていたので、ここにたどり着いたのは本当に偶然のことなのだろう。

感慨に耽って茫然と町を眺めていた時、一瞬、視界の何かが変わった気がした。あまりに瞬間の出来事だったので気にせずそのまま町に入って行った。

町並みは私の記憶通りだった。いくつかの屋台の前を通り過ぎ、いくつかの路地を曲がって、少し歩くと昔の私の家が見えてきた。

 

 

ノックをして数分待ってみたが、何も物音がしなかったので中に入ってみた。

何も物が無い伽藍堂のような部屋だった。畳が少し白く見えるほど積もった埃が数年の時間の堆積を物語っている。

誰もいないのなら少しの間使わせてもらおう。どうせ元は自分の家だったのだから。

 

 

掌を出して目を閉じ、風をイメージする。開けていた玄関から風が入ってきて、部屋の床を撫で、一点に集中していく。

やがて出来上がった埃の塊は玄関の外に出て行った。

 

 

この魔法のような力は私が旅の中で身に付けたものの内のひとつだ。妖怪に襲われて命を失いかけた時に咄嗟に出るようになったのだ。それ以来、私はこの能力を授けてくれた「カミサマ」に感謝し、勝手に信仰している。

とはいえ、この幻想郷には八百万の神がいるのだが、そのうちの特定の誰か一人を信仰している、と言う訳では無い(まあ、そもそもこの幻想郷に八百万も生命が生息しているかどうかもわからないが)。そんなこの世界の生命の更に上の次元みたいなものを勝手に想像しているだけに過ぎない。言うなれば神の神、みたいなそんな存在だ。

 

 

部屋の中に荷物を置いてしばらく横になって天井を見ていたら、お腹が空いてきた。

そういえば最近ロクなもの食べてないなぁ。と独り言を呟きながら体を起こす。

 

 

里は異様な熱気に包まれていた。久しぶりだから異様に感じるだけかもしれない。

 

 

「一番になる、って言っただろ?幻想郷一になる、って言っただろ!お前昔を思い出せよ!今日からお前は、富士山だ!!」

 

 

見慣れた寺子屋の庭からとても暑苦しい声が聞こえる。どうやら最近流行の庭球なる遊びをやっているらしい。子供たちの指導者らしき熱血漢から発せられる熱気にさすがの慧音先生も苦笑いをしている。ちなみに富士山というものは外の世界で一番高い山らしい。あの寺子屋の教室の壁に外の世界から流れ着いた富士山の絵が貼ってあったはずだ。

それにしても、この熱気は絶対あの漢のせいに違いない。このままでは数年前の“春雪異変”とは真逆の現象が起きるんじゃないだろうかと心配になってくる。

 

 

暦の上では春になってもまだ雪が降っていたのが“春雪異変”だ。どうやらあの異変は異変解決の専門家である博麗の巫女がどうにかしたらしい。いや、あの異変は、というよりも、あの異変も、というべきであるが。

この幻想郷では偶に“異変”が起きる。“異変”を起こすのはたいてい妖怪の類だから私みたいな普通の人間がどうにかできるものではなく、決まって博麗の巫女が妖怪を退治して事を治めるのだ、と教わったものだ。だが、いつ巻き込まれても大丈夫なように心構えと最低限の自衛手段は持っておけ、とも。

 

 

懐かしさに浸りながら歩いていると、屋台の多い通りに出た。この里には妖怪もよく来る。むしろ、そこの焼き八目鰻屋みたいに里で商売をやっている妖怪までいる。昔はそれこそ文字通り「食うか食われるか」の関係だったらしいが、今や経済的に「食うか食われるか」の関係になっている。

よくもまあ貨幣という概念が妖怪にまで浸透したものだ。そこまで考えると、今日は妖怪のつくるものが食べたくなってきた。

屋台に近づくと、店主が地なのか営業スマイルなのかわからないがとにかく笑顔全開で話しかけてきた。どうやらここで長くやっているプロのようだ。

 

 

「いらっしゃいませー!焼き八目鰻おひとついかがですかー!」

 

 

そう叫んでいる鳥の妖怪みたいな店主を見ていると、店主には悪いが焼き鳥を食べたくなってしまった。周りを一周見てみたが焼き鳥屋は見当たらなかった。おそらく別の通りにあるのだろう。ひとつ買ってから聞いてみよう。

 

 

「すいません、焼き八目鰻ひとつください」

 

 

「はいよー。焼き八目鰻ひとつ!」

 

 

店主は店の奥に向かって叫んだ。誰か他のスタッフがいるようだ。

見ればどう見てもこの屋台に相応しくない冷気を放つ妖精が必死に鰻を焼きながら愚痴をこぼしていた。

 

 

「暑い……溶ける~……簡単な仕事で一攫千金とかあんたが言ったからやってるのに仕事は超キツイしお金も全っ然稼げないじゃない、このハイパーブラック音痴ニワトリ野郎!明日には絶対辞めてやるんだからねっ!」

 

 

うわ……滅茶苦茶悪態ついてる。

心配になって店主の顔を見てみたが、意外にも店主は涼しそうな顔をしていた。

 

 

「おやおやチルノ君。君の辞める辞める詐欺は聞き飽きたよ。やっぱり君は鳥頭だね。あと私はニワトリじゃなくて夜雀だよ。それに、音痴でも野郎でもないよ」

 

 

そこまで言って店主の笑顔に凄味が増す。チルノと呼ばれた妖精がたじろぎ二、三歩後退りして、火に近づいたせいで、氷でできた羽みたいなものが溶け始めて炭火の中に落ちて行った。……元からすり減っていたようにも見えたけど。

 

 

「君はこんな言葉を知っているかな?『365日24時間死ぬまで働け』ってね♪」

 

 

ブラック屋台や……。完全に真っ黒やん。とりあえずこの話の流れは私の精神衛生上良くないので助け船を出しておこう。

 

 

「まあまあ。この屋台だって24時間営業じゃないわけだろ?現実的に無理じゃない?」

 

 

完全論破の構えか謎のドヤ顔を浮かべる店主。

 

 

「別に焼いて売るだけがうちの仕事じゃないよ。仕入れとか仕込みとか掃除とか、仕事は腐るほどあるんだよね。ま、とにかく仕事のことを常に考えろ、ってことだよ。人間だろうが妖怪だろうが息をしているだけじゃ生きている内に入らないからね。考えて、考えて考えて、その考えたことを行動して表現できなかったら、それはもう死んでるのと同じだよ。だから折角生きているのなら365日24時間仕事のことを考えなくちゃ本当の意味で生きていると言えなくて損だろう?ってハナシ」

 

 

軽くウインクしてみせた店主の言葉には反論しきれなかった。

店主の長話が終わる頃にチルノが商品を持ってきた。

受け取ってお金を払いながら、少し反撃を試みた。いや、元から聞こうと思っていたことだけど。

 

 

「ありがとう。ところでこの辺に焼き鳥屋って無かったかなぁ?何せここに来るのは久しぶりだからねぇ」

 

 

店主は笑顔を引き攣らせている。どうやらあの笑顔は営業スマイルだったらしい。

店主の横ではチルノが青ざめた顔でこちらを見ている。こいつ正気か、と。

 

 

「ハハハ。そうだなぁ。向こうの通りにあったかもしれないね。まぁ、私個人としては焼き鳥なんて大ッ嫌いだからさっさと消え去って欲しいけどね。むしろ私が消そうかなぁ」

 

 

光が消えた目で付け加えられた最後の方の言葉は聞かなかったことにしておこう。

隣の店でお茶を買い、店の近くに置いてあった長椅子に腰掛ける。私の隣には箒を立て掛けていかにも魔法使い然とした人が団子を食べていた。

 

 

「かぁ~賽銭をネコババして食べる団子はいつもと一味違って美味いなぁ。まあ、あいつんトコあんまり賽銭無いから2本分しか買えなかったんだよなぁ……大切大切」

 

 

……良いのかそれ。とても大事そうにチビチビ食べている。

隣は微笑ましい光景だが、どうやら私の背後はそうでもないらしい。

 

 

「オイ、クソガキ!テメェのせいで俺の大事な一張羅が台無しになっちまったじゃねぇか!どう落とし前つけてくれるんだ?あぁ?」

 

 

「す、すいません」

 

 

振り返って見れば、割とガタイの良い男が幼い女の子に向かって叫んでいた。

男の服には女の子の左手にあるアイスクリームが付いていた。男の言葉とは裏腹にあまり一張羅のようには見えない。

むしろ女の子が着ている背中がバッサリと開いた紫色のドレスの方が遥かに高級そうだ。

 

 

「テメェ、とりあえず金だ!金でチャラにしてやる。札出せ、札」

 

 

服をアイスで汚されただけで激昂するとは、この男、相当な小心者と見た。

ま、そうとう高そうなものを着ているし、金を渡して一件落着だろう。そう考えたがどうもこの騒動はそんなことでは終わりそうにないように見えた。

 

 

「ふーん」

 

 

ふと、隣の人を見てみると、つまらなさそうにまだ1本目の団子を食べていた。まだ串に1個残っている。

この喧騒を見ている人たちもどこか物足りなさそうにしている。

そんなギャラリーたちに応えるかのように、少女は挑発的に答えた。空っぽの財布を振って。

 

 

「生憎見ての通り持ち合わせがありませんの。ごめんなさいね」

 

 

この言葉が引き金に……と言うより、撃鉄を起こすぐらいにはなった。

 

 

「クソガキがッ……」

 

 

男が一歩詰めて周囲の緊張感が増した。

隣にいた魔法使いがやれやれ、といった感じで溜め息を吐き、丸々1本残っていた団子をそっと皿に置いた。

少女が、掛けていた青味が掛かったゴーグルをずらし、また挑発する。今までよりも扇情的に。

 

 

「先ほどから聞いていれば『テメェ』とか『クソガキ』とか同じような言葉ばかり繰り返して、ボキャブラリーが貧相ですわね。それに、『金でチャラにしてやる』ですって?」

 

 

そして少女は楽しそうにせせら笑う。

目の前にあんなガタイの男がいても怯むことなく、いや、むしろ挑発さえするなんてどんな胆力をしているんだ?

 

 

「やれー!やっちまえ!」

 

 

「お前、あんな事言われて情けなくないのか!」

 

 

「もっと言ってやっていいぞ!あいつは俺も好きじゃないからな!」

 

 

周囲のギャラリーは焚き付けるように野次を飛ばしている。

どいつもこいつも狂っている。私が旅に出るまではこんな感じだっただろうか。

私は2人から視線を外して元の様に向き直る。野次の声はまた一際大きくなった。

何かを失った反動のように喧騒に熱狂している観衆たち。

その声援を受けて少女が口を開く。

 

 

私の直感は、これが引き金になると囁いていた。自然と体に力が入る。

 

 

「仮にも妖怪なら、力で解決しようと思わないの?」

 

 

この言葉が私の中で意味を成す頃には、私は横にいた魔法使いが箒を手に取るよりも早く、座っていた場所を思いっ切り蹴って、向きを変えながら少女を飛び越した。

 

 

「死ねぇ!」

 

 

叫びながら少女に突進していた男の顔面に膝がめり込んだ。

予期せぬ人物の参戦に観衆のボルテージが高まる。

 

 

「うおおおおおおお!!」

 

 

「誰だ、アイツ?」

 

 

「もう何でもいい!とにかくやっちまえ!」

 

 

吹っ飛んでいた男が立ち上がり、空を見上げる。

つられて空を見上げると、白昼堂々、月がはっきりと輝いていた。

男の顔に余裕の笑みが浮かぶ。

 

 

「月があれだけ輝いていれば、こんな人間風情に後れを取ることは無い!行くぞ!」

 

 

突進とともに男の姿が変わる。

全身が毛深くなり、爪が伸び、牙が生える。

鋭く黄色い眼が私を捉えて離さない。

 

 

「……狼男か」

 

 

次々と繰り出される手足を捌いていく。

 

 

「フハハ、防戦一方では俺様は倒せないぜ!」

 

 

言葉の終わりとともに強めの一撃を出そうとしたのだろう。大振りになった所を躱して鳩尾に拳を叩き込む。

 

 

「がはっ」

 

 

またもや吹っ飛んでいく狼男。このままだと簡単に終わるだろう。口ほどにもない奴だ。

土煙の中に狼男の影が見える。その影が操り人形の様に、重力に逆らった不自然な立ち上がり方をする。

具体的にはビデオ映像の巻き戻しみたいな。

 

 

「何だ……アイツ……」

 

 

思わず呟きが漏れる。

土煙の中から飛び出してきたソイツは、最早さっき見たアイツでは無かった。

倍程に膨れ上がった体格、体から溢れる気迫、そして何より、赤く光った眼。全てが別人に見えた。

異様なまでの裂帛感を全身に浴び、今までの認識を改めなければならないということに気づかされ、構えを整え直す。

 

 

「死ねッ!」

 

 

野太い、けれども機械的な声とともに振り下ろされた腕を最小限の動きで避け、カウンターの一撃を決める。

 

 

「フン……この程度か……」

 

 

確かに手応えのあった一撃だったが、さほど効いていないようだ。

焦りを隠すための言葉が口をついて出る。

 

 

「おいおい、強がりは大概にしておけよ」

 

 

そして、もう一度距離を詰める。

 

 

「後が辛いからな!」

 

 

私のサマーソルトは確かにアイツの顎を蹴り抜いたはずだ。

しかし、アイツは顎に手を当てて少し首を捻っただけだった。

 

 

「あ~。今のは効いたわ」

 

 

「なっ……」

 

 

狼男は、その赤い眼を一段と光らせ、戸惑ったままの私目がけて飛び掛かってきた。

それを、無意識的に横に大きく飛んで躱す。

 

 

「避けたか……だが、次は逃がさん!」

 

 

狼男は私が横に回避することを防ぐべく、或いは自分の突き進む道を作り出すべく、弾幕をばら撒き迫ってきた。

 

 

しかし、コイツはバカだ。まあ、相当な自信家だと言ってもいい。……自分の前にだけは弾幕を張らなかったからな!

 

 

「ハッ、『逃がさん』のはこちらの台詞だ」

 

 

私は目の前の狼男目掛けてありったけの弾幕をぶつけるように振る舞いつつ、いくつかの弾幕を放った。

 

 

「ご苦労だったな、人間。弾幕を出せることには少々驚いたが隙が大きすぎるぞ」

 

 

その声は予想通り頭上から降ってきた。

その姿を笑顔で見ながら、私は後ろへ大きく跳んだ。アイツの着地点よりも、さらに遠くへ。

そして思い描き、祈る。

アイツが無様にも墜落し、地に這うことを。

誰に、ってそれは「カミサマ」だよ。私が勝手に進行しているやつ。

 

 

「墜ちろ」

 

 

私が言葉を紡いだ時には狼男は地に墜ちていた。

 

 

「な、何だ?体がいきなり……」

 

 

地に伏せた狼男からは先程のような鋭い気迫は感じられなかった。

ギャラリーも居ることだし、何かカッコイイ言葉の一つでも言って終わらせよう、と思って気を抜いた一瞬、狼男が最後っ屁の様に弾幕を一つ飛ばしてきた。

私は簡単に躱したが、運悪くギャラリーの女の子に当たってしまった。

かなりのケガの様でギャラリーも騒然としている。

その女の子を見ているとコイツに掛ける言葉も情けも無いんだと思えてきた。

本当は一発で終わらせようと思っていたが二発オマケしてやった。

この二発は最初襲われかけていた少女と先程ケガを負わされた女の子の分である。

狼男の、気絶して倒れた姿を見ていると、言葉ぐらいは掛けてもいいかもしれないと思えてきた。

 

 

「アンタ最低だな。私なら戦わずに金で解決してやったのに」

 

 

数歩離れて、思い出したように振り返る。

 

 

「ああ、もちろん金を払うのはアンタの方だったけどね」

 

 

その言葉とともにギャラリーが沸き立つ。

 

 

「サイコーだぜ!ねーちゃん」

 

 

「アイツは前から好きじゃなかったからな。ボコボコにされているのを見てスッキリしたぜ」

 

 

「いや~久々に熱いバトルを見たぜ」

 

 

口々に言うギャラリーの中から一人の烏天狗が飛んできた。

 

 

「私、射命丸文と申します!文々。新聞という新聞を発行しているのですが、先程の戦闘について取材してもいいですか?」

 

 

カメラを持ち上げて一言付け足す。

 

 

「バッチリ写真も撮ってありますので!」

 

 

片手をひらひらさせながら応じる。

 

 

 

「あ~。定住してないから新聞読んでないんだよね。どこのやつも」

 

 

「ではお試し版から始めますか?」

 

 

セールス精神旺盛な天狗だ。

 

 

「わーった。折れるよ。でも、先客がいるから後でね」

 

 

「ちょっと!?先客って……」

 

 

天狗記者をあしらいながらケガを負った女の子の方に歩いていく。

泣いている女の子を見ると、弾幕が右のわき腹を掠めたのだろう。抉れる、という程では無かったがかなりの痣ができていた。

隣にいた親らしき人は、当事者の片割れである私を睨んでいる。

軽く一礼しながら女の子に歩み寄って目線を合わす。

 

 

「私のせいで巻き込んじゃってごめんね。いきなりだけど……カミサマって信じる?」

 

 

女の子は一瞬、泣くのも忘れてキョトンとしたが、首を大きく縦に振った。

 

 

「うん……信じてるよ。ついでに、サンタさんも信じてるよ!」

 

 

この答えには親も苦笑している。

女の子の傷口に手を当てながら続ける。

 

 

「うん。それじゃあ、カミサマに祈ってみようか。この傷を治してください、ってね」

 

 

女の子が目を閉じ、小声で呟き始めるとともに、掌から、緑色の光が出て、傷が消え始めた。

女の子の呟きの三回目が終わるころには。完全に傷跡が消えた。

 

 

「あなたの願いがカミサマに届いたみたいだね。これからも信じていたら良いことがあるかもね」

 

 

女の子の頭を数回撫でてから歩き始める。

女の子の「ありがとー」という叫び声を浴びながらやってきたのは、さっきの天狗だった。

 

 

「先客とはあの子のことだったんですねぇ。取材のネタが一つ増えました。あ、あとこれがお試し版です」

 

 

用意するの速いな。

 

 

「どうも。ネタっつてもタネは私も知らないよ。勝手に使えるようになっていたモノだし」

 

 

ふんふんと頷きながらメモを取る射命丸さん。

 

 

「長くなりそうなのでとりあえずここに座りましょう。お茶奢りますよ」

 

 

「そりゃどうも」

 

 

よく見ると戦う前に座っていた椅子の一つ隣の椅子だった。戦いの中で割と動いていたので気づくのが遅れた。

 

 

「じゃあ、私からはこの団子をサービスするぜ」

 

 

団子を差し出した人を見ると、戦う前に隣に座っていた魔法使いっぽい恰好をした人だった。

 

 

「あっ、どうも」

 

 

一口食べてから、感想を述べる。私があなたを覚えているということがわかるように。

 

 

「うん。やっぱり賽銭をネコババして食べる団子は美味いねぇ」

 

 

魔法使いっぽい恰好をした人は満面の笑みで頷く。

 

 

「だろ~。それにしても強いな。あの時私も戦おうとしたけど、先手を取られたぜ」

 

 

そこに射命丸さんがお茶を三つ買って戻ってきた。

 

 

「魔理沙さん!取材の邪魔はしないで下さいよ」

 

 

「わりぃな。ま、私もこの人には興味があるんでね」

 

 

どうやらこの二人は前から面識があるようだ。

ここで射命丸さんの取材が再開される。

 

 

「そうですね……色々聞きたいことがあるのですが、まずは名前からですね。二回目になりますが私は射命丸文と申します。ま、どんな呼び方でもどうぞ」

 

 

その横から魔理沙と呼ばれた魔法使いっぽい恰好の人が身を乗り出す。

 

 

「私は霧雨魔理沙だ。普通の魔法使いだ。魔理沙、でいいぜ」

 

 

「分かった。魔理沙、射命丸さん」

 

 

射命丸さんが眉を顰める。

 

 

「む……少し警戒されてますかね」

 

 

その横腹を魔理沙がつつく。

 

 

「強引なセールスのし過ぎじゃねえの?まあ、あの新聞雨漏りの日とか重宝するぜ」

 

 

「それ読んでないじゃないですか!本来の使い方をして下さいよ!」

 

 

二人を見ながらやれやれと肩を竦める。

 

 

「『射命丸さん』になったのは単純に私の中でそれが一番しっくりしたからですよ。『射命丸』よりも『文』よりも『文さん』よりも、ね」

 

 

ふう、と安堵の溜め息を吐いたのをみてから本題に戻る。

 

 

「私は新島白雨(にいじま はくう)って名前。よろしくね」

 

 

「よろしく」

 

 

「よろしくだぜ」

 

 

二人と軽く握手したが、心なしか魔理沙の手は力が込められているように思えた。

目を合わせると軽い笑みを浮かべていた。真意は読み取れないが、気のせいだろう。

 

 

「では、何故今回戦いに参加したのですか?」

 

 

そう聞かれてざっと振り返ってみたが、特に深い理由は無かった。

 

 

「特に理由らしい理由は無いけど……しいて言うなら、見てられなかったから、ってとこかな。あと、近かったし。あの距離じゃ巻き込まれてたかもしれないから正当防衛に近いね」

 

 

「まあ、理由なんてそんなモンだよな。十分過ぎると思うぜ」

 

 

熱心にメモを取りながら頷く射命丸さん。

 

 

「ははあ、なるほど……って邪魔しないで下さいよ魔理沙さん!」

 

 

魔理沙は悪びれもせずに帽子の上から頭を掻いている。

 

 

「わりぃわりぃ、つい、な」

 

 

「記事を書く時間もありますので、要点だけ絞って質問はあと二つにしますか。私の記者としての勘がまだ取材する機械がある、と囁いていますからね」

 

 

さすがにそれは否定させてもらう。

 

 

「いや、それはないんじゃない?」

 

 

魔理沙もこれに同調する。

 

 

「そうだぜ。ガイアが私にもっと輝けと囁いているってのなら信用したが、物を包む程度しか用途がないような物をつくるやつの勘なんてあてにならないぜ」

 

 

「それは魔理沙さんだけでしょう!ま、一つ目は戦闘後に見せた治癒能力について、です」

 

 

「ああ、アレね。前言ったけど、アレのタネは私も知らないんだよね。まあ、どっかの『カミサマ』があの女の子の祈りを叶えた、って感じに受け止めてるね」

 

 

「ははあ、この辺は追々尋ねていくしかないですね。では最後に改めて自己紹介、お願いします!」

 

 

勢いよく構えられたカメラにたじろぎつつ答える。ていうかそのカメラ録画機能ないだろ。

 

 

「いや、何回尋ねられても分からないと思うけど……えーっと、新島白雨です。この里出身だけど、最近は里の外を旅していたので久しぶりです。まあ、今回のことは偶々のことだと思います……ってこんなのでいいかな?」

 

 

「あー、うん。初めてだし、十分かな。もっと新しい情報も入れて欲しかったけど」

 

 

明日の新聞、楽しみにしてくださいね~、と叫びながらどこかに飛んでいった射命丸さん。

それを見送った後、顔を戻すと、自然と魔理沙と目が合った。

 

 

「なぁ白雨。明日もこの時間ぐらいにここ、来れるか?」

 

 

いきなりのことで真意が掴めず少し黙ったままその瞳を見返していると、言葉が付け加えられた。

 

 

「言い直した方がいいな。明日ここで私とバトル出来るか?」

 

 

唐突すぎた。

 

 

「バトルって……何で?」

 

 

興味アリ、と見たのかニヤリと笑う魔理沙。

 

 

「さっきのバトルを見てさ、気づいたんだよ。ここの里のみんながあのバトルを見て、白雨の知名度が一気に上がった。ああ、過去形で言っちゃったけど、アイツの新聞は割と広いところまで届くから間違いない。上がる。そこで、私はこれを利用する、いや、私だけじゃなさそうだぜ」

 

 

そう言って魔理沙は周囲をチラリと見たが、人が多すぎて具体的に誰を見たのかは分からない。

 

 

「私の感覚ではな……この里は何かがおかしい。私ではその何かが何なのかは分からないが、とにかく喧嘩っ早くなっている気がする。みんなが熱気を求めているというか、騒乱を求めているというか。とにかく、私はこの人気取り争いを勝ち抜くことで何かを見つけて収集をつけられると思っているんだぜ。……ああ、勿論八百長を強要しているわけじゃないぜ。むしろ逆だ。下手な八百長はすぐバレる。バレたら人気も下がっちまうからな」

 

 

意外だった。今日久しぶりに里に帰ってきた私はともかく、普段から里にいるであろう魔理沙も里の様子が少し変なことにきがついているとは。

これは私も何かした方が良さそうだ。

 

 

そして、選択肢は一つだけだ。

 

 

「分かった。全力でやろう。私も里についての違和感を少なからず持っていたから」

 

 

魔理沙は今度こそ笑顔で頷いた。

 

 

「ああ。楽しみにしてるぜ、白雨。じゃあな」

 

 

そう言って箒に乗ってどこかに飛び去ってしまった。

見送った後、あの最初襲われてかけていた少女を探していたが早々と帰ったのだろう、見当たらなかった。まあ、変な人に絡まれた場所にいつまでもいる方が変だ。

どうせ見つけたとしても一声掛ける程度の予定だったので問題ない。

 

 

家に帰る道すがら、路傍に一つのお面を見つけた。

 

 

誰かが落としたのだろう。

そして誰かが気づかずに踏みつけていったのだろう。

そのお面は汚れていた。所々欠けていた。

 

 

泣いているような、笑っているような複雑な表情に見えた。

その表情に最初は引き込まれていたが次第に不気味に思えてきて直視したくなくなってきた。

 

 

不意に、誰かに擦り付けたくなった。

とても重く感じた。私一人には荷が重すぎる、とも思った。

 

 

近くを通る子供を見た。子供に挙げても喜ばれないだろう。

 

 

私はそのお面を力一杯遠くに投げた。

 

 

飛んでいくお面は何を見ているだろうか。どこまで飛ぶだろうか。

 

 

飛ばした方向とは真逆の方向に歩き出してふと、足を止めた。

失って初めて気づいたのである。

 

 

自分は何かとても大切なものを自ら投げ捨てたのではないか、と。

 

 

 




さて、前書きでも触れたと思いますが、今は新生活関係でバタバタしていて安定した投稿ペースを見出せません。ご了承ください。まだ主要な家具家電も届いていないという有様なのです。

ご意見ご指摘があれば遠慮なく申し付け下さい。

前書きで予想された方もいるかもしれませんがもしかしたら挿絵も投稿するかもしれません。
完全デジタルとなると、拙いアナログ時代の絵が更に劣化する可能性さえある(というより劣化する可能性しかない)ので今の所投稿する可能性は低いです。
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