東方鏡魔暦   作:逆月 燐

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今更ですが1章、3章はオリジナルの異変、2章、4章はそれぞれ『東方心綺楼』、『弾幕アマノジャク』の二番煎じみたいなものとなっております。オリジナル要素をかなり詰め込んで最終的には原作とは程遠いものとなる予定ですが、それでも一応の流れのようなものは踏襲しているのでネタバレっぽいものが嫌な方は2章、4章を飛ばして頂いて結構です。一応一つ一つの章が独立した一つのストーリーになるようできるだけ努力しますが、何せ同一の時系列なので他の章で起こったことが別の章に影響を与えることがあるので個人的には全て読んで頂きたいです。


あと4章だけはネタ回なので「人格変わってるやん!」とか「原作じゃこんなキャラじゃない!」と言われても対処しかねます。予めご了承ください。(まあ、今回はその苦情は無いかな)


第4章 1話 反逆道

朝だ。随分久しぶりに朝を迎えたような気がする。

目を開けると世界が歪んで見えた。おまけにとても寒いしほとんど動けない。

 

 

ここは……氷の中だ。

目が覚めたら氷の中って、これは夢か?

しかし、背中に伝わるこの冷たさは紛れもなく現実である。

 

 

「つーか、死んじゃう死んじゃう。どうにか出られねーかな?」

 

 

全身に力を込めるが、如何せん動ける場所が限られていて決定打を打てない。

こうなれば……と思っていたら目の前を一人の少女が歩いているのが見えた。

とても小さくだが断片的に声も聞こえてくる。

 

 

「布、傘、カメラ……」

 

 

他にも何かを言っているらしいが聞こえない。

まあいい、こっちも声を出して気づいてもらおう。

 

 

「おーい!!こっちこっちー!!出してくれよー!!」

 

 

考え込んでいるのか聞こえないのか反応がない。

強行突破しかないか。いや、まだ粘ってみるか……そう迷っていたらその少女は突然何かに気づいて走り出した。

ぼんやりとしか見えないが烏天狗っぽい黒い空を飛んでいる奴らに追われているようだ。

彼女がさっきまで立っていたところに何発か弾幕が当たる。

あの子どうして襲われているのだろうか。まあ、縄張りでも荒らしたかあいつらのボスにケンカ売ったか、ってところだろう。

見ているうちに烏天狗の数が増えてきた気がする。

 

 

いや、あの人数にたかられるっつたら相当な事をやらかしてるぜ?あの女の子。

いいねぇ、痺れるねぇ。

朝も久しぶりだが、戦闘も久しぶりだ。不透明ながら見ていて血が滾ってくる。

 

 

「あ~混ざりてぇ。誰か出してよ~。自分から出ちゃうよ~?」

 

 

当然と言えば当然だが、誰も気づかない。

そうこうしているうちに女の子はほとんど逃げ場を失い弾幕の雨をモロに浴びるかに見えた。

 

 

「お?」

 

 

しかし、弾幕が女の子に届く寸前、その女の子が手に持っていた布を一気に被るのを私は見逃さなかった。

あんな布きれでもクッションぐらいにはなるのかね?

……どうやら、そんなちゃちな代物では無かったらしい。

当たるはずだった弾幕が一発も当たらなかったのだ。布をすり抜けたらしい。

 

 

「はああああ!?」

 

 

「クソがあああ!!」

 

 

烏天狗たちの罵声がクリアに聞こえます。

何故なら、すり抜けた弾幕がこの分厚い氷の壁にひびを入れてくれたらしいから。

これで私も参戦できる、というわけである。

氷の壁を思いっ切り蹴破る。

割とデカい音がして烏天狗たちがその音につられてこちらを見た。

 

 

「よおよおアンタら。女の子一人相手にそれは、流石に多勢に無勢が過ぎるんじゃないのかい?」

 

 

烏天狗の一人が進み出た。

 

 

「五月蠅い!大体相手はこの世界をひっくり返そうとした賞金首の天邪鬼だぞ!!賞金目当て……いや、その先には平和がある!我々が正義であり、我々のしていることは正当行為だ!」

 

 

世界をひっくり返そうとした賞金首の天邪鬼?面白いが放って置けないな。

この世界、幻想郷をひっくり返すのはそう簡単なことではない。

古参妖怪とか鬼とか博麗の巫女とか困難な要素は山ほどあるし、何より龍をどうにかしなければならない。アイツにケンカを売りに行くだけでも面倒くさいことだらけだ。

そして何より、龍は強い。桁外れに。

あんなのに勝てるやつが果たしているのだろうか?

っとまあ、今はこいつらを倒す、それだけだ。

確かにこいつらの言っていることは正論だ。だが、私は損得勘定なんてしない。やりたいことをやるだけだ。

 

 

「アンタらの言っていることはよーく分かる。それこそ骨身に染みるほどにな。でも、オレはアンタらと闘う。目覚めたばかりのウォーミングアップには一人と闘うより大人数と闘った方が……」

 

 

そこまで言って言葉を止める。あからさまな挑発だが、乗ってくれた方が嬉しい。

 

 

「あれ?君たちでウォーミングアップになるのかね?いや、なってくれよ~。頼むよ~」

 

 

奴らは血相を変えてこちらに飛んでくる。

 

 

「貴様舐めやがって!!邪魔をするならまずは貴様から死んでもらう!!」

 

 

「さあて、どうかな~?」

 

 

飛んでくる数は十五人。まあまあな数だ。

蹴破った氷の壁の破片を何個か拾い上げる。

 

 

「死ねぇ!!」

 

 

弾幕を容赦なく飛ばしてくる。その速度、威力は「弾幕ごっこ」と呼ばれる次元とは違う、殺すための弾幕だ。

手に持っている得物も全て玩具ではない。

 

 

「ふーん。弾幕ごっことか言ってた温い時代は終わったんだねぇ」

 

 

しみじみと言いながら氷の破片を一個投げる。

氷は銃弾のように回転しながら飛び、烏天狗たちの弾幕を潰しながら一人の天狗の片翼をブチ破った。

 

 

「あ?今何が……」

 

 

烏天狗たちの顔に驚愕の色が浮かぶ。このままではマズい。逃げられる可能性がある。

 

 

「んん?やっぱりウォーミングアップ程度にもならないのかな?」

 

 

「クソがッ!!」

 

 

「うんうん。そうこなくっちゃね」

 

 

そう言いながら手に持っていた氷の破片を一気に投げる。

一石二鳥となったのは一つぐらいか。鈍ったものだ。

そのまま近くの木の枝を一本拝借する。

 

 

「悪いね」

 

 

偉大な自然に軽く詫びつつ迫る烏天狗たちに向き直る。

 

 

「そんな木の枝で何が出来るというのだ!!」

 

 

「一気に畳みかけるぞ!!」

 

 

振りかぶられた剣を木の枝で止める。相手の体まで一瞬止まる。

 

 

「はあ?ありえないだろ!?」

 

 

「チッチッチッ、そんななまくらじゃあ、私はおろか、この木の枝一本だって切れやしないよ」

 

 

「なまくらだと!!これは俺が初任給で買った自慢の剣だぞ!!」

 

 

一瞬力を抜いて瞬時に切り伏せる。

 

 

「もしかして天狗の初任給って安い?」

 

 

近くにいたもう一人に微笑みかける。

 

 

「んなわけねぇだろうが!まあ、俺の刀はアイツの剣より高いブランド物だがなぁ!!」

 

 

「そう?」

 

 

刀の横っ腹に垂直に木の棒をぶつけると、ご自慢の刀はあっさりと折れた。

 

 

「豚に真珠とはまさにこのことだね。素人が高いもの買っても損するだけだよ」

 

 

相手はこれだけで戦意を喪失している。

 

 

「バカな……賞金首を取っ捕まえたら返せるからって親戚中から金を借りて買った刀なのに……」

 

 

戦意喪失どころか泣いていた。重いよ!天狗界の金はシビアだなぁ。

 

 

「ま、悪く思うな。覚悟がないならそもそも来るんじゃない」

 

 

最後の情けで声だけ掛けて斬る。

 

 

「相手は木の枝一本だ!囲め!」

 

 

「分かった!やるぞ!」

 

 

三人の近接武器を持った烏天狗に囲まれる。さらに外側に四人控えている。

 

 

「容赦ないねぇ。まあ、そのぐらいじゃないと味気がないけど」

 

 

「賞金首捕まえるために何でもやっていい、って上から通達があったもんでな」

 

 

三人と軽く遊びながら会話を続ける。

 

 

「じゃあ君たちは殺しの試合に慣れてないってわけだね」

 

 

三人が顔を見合わせる。

 

 

「ま、まあそうなるかな……」

 

 

剣筋に躊躇いが生じる。

 

 

「そうか。平和ボケした奴が相手じゃやっぱりウォーミングアップにはならないね」

 

 

一人を斬り、その時の回転を生かして後ろの奴の剣を蹴り、もう一人の剣にぶつけて防ぐ。

そのまま背後にいた奴に突進する。

 

 

「く、来るなああぁ!」

 

 

思いっ切り振りかぶった相手の後ろに付き、もう一人の方に後押しする。

 

 

「おまっ、何やってんだよ!!」

 

 

何とか仲間の剣を防いだみたいだ。

 

 

「逃がすかっ!」

 

 

近距離組の包囲網から出た私に遠距離組の弾幕が降り注ぐ。

急いでさっき後押しした奴を掴み、掲げる。

 

 

「っと、雨宿り雨宿り」

 

 

「んなっ……貴様卑怯だぞ!!」

 

 

味方を誤射した遠距離組の一人が悲鳴のように叫ぶ。

そいつを睨んで言い返す。

 

 

「古今東西、『卑怯』、『汚い』は弱者の戯言と相場が決まってんだよ」

 

 

そう言いながら隙を突くように近づいてきた最後の剣士の方に今持っている天狗を投げる。

 

 

「糞っ!」

 

 

その天狗を踏み台にしながら最後の剣士の背後にジャンプする。

 

 

「おいおい、仲間ごと斬れないようじゃあ、とてもじゃないが弔い合戦なんて出来ないし、あの世への土産話も作れないぜ?」

 

 

斬ると同時にそいつの持っていた剣を奪い、活躍してくれた木の枝を感謝とともに投げ捨てる。木の枝はそうとう優秀な能力を持っていたようで、遠距離組の一人を冥途の土産に持って行った。

何Vだよ。そもそも私はジャッジじゃないし、木の枝も厳選したわけではない。まあ、そうとう良個体なのだろう。めざパは氷だろうな、うん。

おっと、いけない。昔遊んだ外の世界から流れ着いてきたらしきゲームのことを考えてしまったぜ。

 

 

「これも中々いい剣だな」

 

 

遠距離組の一人は強がるように笑う。

 

 

「残念だったな!それは貴様がさっきなまくらと言った剣よりも安物だ!!」

 

 

その言葉とともに弾幕をこれでもか、と撃ち込んでくる。

避けてもいいが、これはウォーミングアップもどきだ。それでは意味がない。

剣を握る手に力を込めると、刀身が青白く発光する。

 

 

「剣は値段じゃねーよ。使い手だ。それが分からない内は射手として終わっているぜ?……いや始まっていないのか?まあいいや」

 

 

青白く光った刀身が弾幕を尽く弾く。

何発かは相手に当たり、とうとう最後の一人になる。

 

 

「馬鹿な……どうやって……」

 

 

「あん?そうだな……フォースの力とか?いや、冗談だけど。……ま、企業秘密だ」

 

 

羽の動きが変わる。今までの、停滞するためのホバリングの動きではない。

かと言ってこちらに突っ込んで玉砕ための動きでもない。その逆。

 

 

「逃げるなよ。そんなので仲間に顔向け出来るのか?」

 

 

必死に逃げながら烏天狗が叫ぶ。

 

 

「うるせぇ!そもそもあいつらは仲間なんかじゃない!偶々賞金首狩りという目的が一致したから集まっていただけだ!」

 

 

なるほどね。

 

 

「最初から一人では勝てない、という予測を立てていたのにやって来たことは褒めてやる。しかし、そんな奴らの集まりがどうなるか、という結果まで予測できていなかったことは残念だったな」

 

 

「誰が一人では勝てないと言った!お前がイレギュラー過ぎるだけだ!」

 

 

そう叫ぶために止まって振り返った烏天狗の下から弾幕が飛ぶ。

賞金首の天邪鬼に撃ち落された烏天狗のところに歩いていく。まだ息はあるようだ。

 

 

「『貴様』が『お前』に変わっているぞ。冷静さを失ったか?」

 

 

諦めたように笑う烏天狗。

 

 

「そんなの最初から意識してねぇよ」

 

 

烏天狗の鳩尾を一踏みして意識のない烏天狗に語りかける。

 

 

「安心しな。『貴方様』と言われなくて怒るほどオレの心は狭くはない」

 

 

視線を戻すと賞金首の天邪鬼さんが私を見ていた。

 

 

「あの……さっきはありがとうございます」

 

 

こいつが賞金首?しかも幻想郷をひっくり返そうとするほどの?

おまけに、すっと感謝の言葉を言うほど天邪鬼じゃないし。

 

 

「いいってことよ。それよりアンタ、賞金首なんだって?」

 

 

この言葉に天邪鬼さんは距離をとってさっきの布を構える。

私は気軽に剣をポイ捨てしながら答える。

 

 

「まあ、落ち着け。この通りアンタを狙っているわけじゃない。金に困っているわけじゃないし、名声が欲しいわけでもない。オレはただ闘いたくて闘っているだけのただの戦闘狂(バトルマニア)だよ」

 

 

「そ、そうか?ああ、私は……」

 

 

自己紹介はそこで途切れた。否、途切れざるを得なかった。

天狗が三人やって来たからである。

 

 

「また追っ手か……」

 

 

天邪鬼さんが歯噛みする。

二人は烏天狗、もう一人は白狼天狗だ。

烏天狗の片方が元気よく名乗り出る。

 

 

「どーも!文々。新聞の執筆者、射命丸文です!バッチリとらせていただきますからね、その首。……あっ、これお試し版です。なんならあの世まで届けますよ?」

 

 

ものすごい根性だ。さっきまでの天狗たちとは違う、ということが簡単に分かる。

 

 

「いらないよ。そんな退屈なもの」

 

 

天邪鬼さんが、あっち行け、という感じに手をひらひらさせると、逞しいセールス精神を持った射命丸という烏天狗は私にお試し版を渡そうとして止まった。

 

 

「あれ?先客がいましたか。じゃあ私たちはその様子を取材してからにしましょうかね」

 

 

「おいおい、それじゃあオレが君たちより弱いみたいに聞こえるじゃないか。あの世まで届く発言力ならもっと言葉を選んでおくれよ」

 

 

「むっ……新聞記者たる私が言質を取られるとは……とにかく早く始めてさっさと順番を譲って下さい!」

 

 

後ろの二人も射命丸に同調している。

 

 

「大丈夫、もう君たちの順番は来ているし、君たちのお仲間が前座を温めてくれたおかげで客をもてなす準備もできているぜ?」

 

 

私の指差した方向にいる天狗たちを見て、カメラと……何だあれ?何か未来的な道具を構え直す烏天狗二人組。

それに対して白狼天狗は冷ややかである。

 

 

「だからうちの部下を出した方が上手くいくって言ったでしょう?」

 

 

「あんたのところの部下ならとっくに逃げられていたでしょうねっ!!」

 

 

内部分裂か?じりじりと天邪鬼さんが後退しているのが見える。

視界の端でしか見ていない私ですら気づくのだから直接見ている三人が気づかないわけがなかった。

白狼天狗が叫ぶ。

 

 

「逃げるなっ!私は犬走椛、貴様を倒す白狼天狗の名前だ!!」

 

 

続いてもう一人の近代的な道具を持った烏天狗の自己紹介。

 

 

「花果子念報という新聞を書いている姫海棠はたてです。今日はあなたを捕まえて私の新聞の知名度向上に貢献していただきます!」

 

 

射命丸が「あの世まで届ける」と言ったのに対してこちらは「知名度向上」か。そして椛さんだけ新聞を書いていない。複雑だなぁ。

姫海棠さんが近代的な道具を構えながら言う。

 

 

「とりあえず、自己紹介して。……これは取材でもあるから」

 

 

天邪鬼さんが今までの後退が嘘のように自信満々に前へと踏み出す。

 

 

「私は鬼人正邪……不可能を可能にするアマノジャクだッ!!」

 

 

良い気迫だ。世界をひっくり返すならそうでなくては困る。

私も負けじと前へ出る。

 

 

「オレは黒帝龍騎(こくてい りゅうき)」

 

 

カメラのシャッターから顔を離した射命丸が目で「もう一言」といってくる。

 

 

「……幻想郷よ!オレは帰って来た!」

 

 

満足そうに写真を撮りまくる烏天狗。

 

 

「いいですねぇ。では、行きますよ!」

 

 

その言葉とともに三人の手に一枚ずつ光ったカードが出てくる。

あー。何だったっけ、アレ。

 

 

「写真『瞬撮ジャーナリスト』」

 

 

「写真『フルパノラマショット』」

 

 

「牙符『咀嚼玩味』」

 

 

「クソッ、あいつら初っ端からスペルカードって本気すぎだろ」

 

 

あー。知らなかったわ。何で知ってるフリしてたんだろ。無知の知を発見した人はすごいなと思いました。

 

 

「すまねぇけど、スペルカードって何?」

 

 

その答えは聞いた方向とは別の方向から聞こえてきた。白狼天狗の椛さんだ。

解説の間にも弾幕がかなりの量と威力で飛んでくる。

 

 

「導入された経緯から話すと長くなるから今重要なことを教えてあげましょう」

 

 

敵に塩を送るつもりか?まあ、助かるから止めない。意図あってのことだろう。重大な嘘を仕込むとか。

 

 

「弾幕ごっこに関するルールの一つで殺し合いに発展するのを防ぐため、そして美しさを競うためにあるのです」

 

 

「へぇ、でもそれじゃあ賞金首を取っ捕まえるのには向いてないんじゃないか?」

 

 

相手は満足そうに頷く。

 

 

「理解が早くて助かります。本来のスペルカードは良心的で必ずと言って良いほど抜け道、場合によっては安全地帯があります。しかし……」

 

 

そこで彼女は言葉を切った。

私たちの前後に控えた弾幕が一気に襲い掛かる。

そして前後の弾幕が噛み合って消えた。なるほど、名前通りだ。

土煙に包まれた私たちに向かって椛が語りかける。

 

 

「今回は上からの通達で『不可避のスペルカード』を使っても良いと言われましてね。……どうせ聞こえていないでしょうが」

 

 

それに烏天狗二人の声が続く。

 

 

「白狼天狗に出し抜かれるとは……」

 

 

「くっ、白狼天狗の本性はゲス。DNAレベルではっきりわかんだね」

 

 

内輪話とは呑気な奴らだ。

そんな彼女たちに弾幕が当たる。三人の反応はバラバラだ。

 

 

「痛っ!まだ生きているの?」

 

 

「まだ賞金のチャンスはあるってことね」

 

 

「やっぱり椛程度が相手になるレベルじゃなかったみたいね」

 

 

土煙を布が掃う。

そう、前の戦いで見た弾幕がすり抜ける布で正邪は乗り切ったようだ。

あれは一人用らしく私はなんとか隙間を縫って避けた。かなりギリギリだった。

 

 

「残念に思って矯正歯科には通うなよ」

 

 

私の不満の声に正邪が乗っかる。

 

 

「まあ虫歯があったってだけだ。気にすんなって」

 

 

椛は肩を落としているが、烏天狗二人は肩を震わせている。

 

 

「ププッ、散々な言われっぷりじゃないですか」

 

 

「んんwww草不可避ですぞwww」

 

 

もう椛さんが可哀想だ。種族間の溝が深すぎる。椛さんは戦線から離れた場所で体育座りをしている。

さてやりますか、と言って二人の烏天狗が動き始める。

そういえばスペルカードを発動したタイミングは同時だったが、まだ二人の技は見ていない。

はたて、と言われた烏天狗の周囲を取り囲むように何かのゾーンが浮かび上がって来る。

何アレ?でも絶対外に出ておいた方が良さそう。

とりあえずゾーンの範囲外に出る。

次の瞬間、カシャッ、というシャッター音とともに光って消えてまた出てきた。

つまりあのゾーンは撮影できる場所のことなのだろう。

前を見たまま後ろまで撮れるとか、あの機械凄すぎだろ。

 

 

つーか写真に撮られてダメージ受けるって何だよ。写真に撮られてダメージを受けるのは著名人と「絶対写真には写らないぜ」って考えている中学生ぐらいじゃないか?不意に撮られても顔はしっかり隠しているっていう健気さ。

ふと正邪の方を見ると避けきれなさそうな弾幕にカメラを向けている。

どうするんだ、と思っていたら正邪のカメラからもゾーンが出てきてゾーンに入っている弾幕がシャッター音と光とともに切り取られた。しかし正邪の持っているカメラのゾーンは烏天狗たちの持っているカメラのゾーンより一回り小さい。

あー、弾幕消せたら人も妖怪も消し飛ぶわ。納得。

 

 

そういえば射命丸さんが見当たらないな、と思っていたら高速で近づいてきた。

かなり速い。私が今まで見てきた人たちの中でも上の方に入るだろう。

 

 

「いただきっ!」

 

 

高速で割と広いゾーンが出てくる。このカメラは向いている方向しか写せないようだ。

このスピード感の中で周りがやけにゆっくりと感じられる。

周りを見てどこが一番抜けやすいか考える。

そして射命丸さんに飛びついた。

 

 

「あっ、しまった!」

 

 

急いで振り払ってどこかに飛んでいった。また戻って来るだろう。

こんなことを繰り返しても埒が明かないので、弾幕やはたてさんのゾーンを避けつつ打開策を考える。

あの速さでは弾幕を当てることは難しい。若干距離があるので近接格闘に持ち込むことも難しい。

何か範囲技があれば……と思いつつゾーンの有効範囲から出る。

範囲あったじゃん。

 

 

「なあ正邪、そのカメラ貸して」

 

 

一瞬戸惑った顔をしたが貸してくれた。

 

 

「結構使ってて魔力補給しないとあと一回しか使えないよ?」

 

 

そうやって動いていたのか。

 

 

「ちなみに魔力の補給ってどのぐらいかかるの?」

 

 

予想通りぐらいの返事が返って来る。

 

 

「使わずに一日ぐらい」

 

 

「ま、今一回使えたら問題ない」

 

 

正邪から離れた場所で空の彼方を見遣る。

刹那、何かが閃いた時にはもう体が動いていた。さっきよりも加速している。

また世界がゆっくりと感じられる。

 

 

(今度はその手は食いませんよ?)

 

 

口の動きだけで判断する。声がこのスピードについてこれていないらしい。

カメラのゾーンが二つ出てくる。

どちらが早かったのか彼女にも見えたはずだ。

目を大きく開いたのは一瞬、すぐに笑みが零れた。

恐ろしいスピードで失墜していく天狗に一声。

 

 

「いい笑顔!!」

 

 

形勢逆転しもう2対1になっていた。

はたては弾幕を避けたり切り取ったりしていたが二方向からの弾幕に押し切られた。

 

 

かなりの距離を進んでようやく一休みする。

 

 

「なあ、本当に幻想郷をひっくり返せると思うか?」

 

 

自信満々に答える正邪。

 

 

「当たり前だ!前は上手くいきそうだったのに博麗の巫女に邪魔されただけだ」

 

 

やっぱり博麗の巫女が一枚噛んでいたか。しかも前科持ってんのか。

 

 

「ふうん、それにしても何で?」

 

 

事前に答えを用意していたかのようにスラスラと話す。面接系の試験の対策でもしているのか?

 

 

「今の幻想郷は一部の強い奴が牛耳っていて弱い奴は言われるがままだ。さっきの天狗共みたいにな。安定しすぎていて面白くない」

 

 

「そうだね」

 

 

「だからひっくり返さなくちゃならない。既存の出来上がった世界に挑戦状を、疑問を叩きつけなくちゃならない。これでいいのか、って。そして弱者が力を持つ世界を創るんだ」

 

 

理想はしっかりしているが理論は欠陥がある。

 

 

「そうしたら弱者が力を持ったら弱者が強者になるぜ?そしてその弱者様が支配する安定した世界の出来上がりさ」

 

 

ここまでは考えていなかったのか言葉を詰まらせている。

 

 

「じゃあそうならないように適度に勢力を削いで……」

 

 

「勢力の調整をしていることがバレたら今の比じゃないほどの軍勢で潰しに来るぜ?」

 

 

うーん、と唸りながら少し考えて突然考えるのを放棄したように大きく伸びをする。

 

 

「考えても仕方ない!前例がないことだからな。とりあえずやらないとわかんないよ」

 

 

「そうだな」

 

 

ふと正邪の足が止まる。つられて足を止める。

 

 

「こっち人里の方だな。あそこ妖怪も多いから行きたくないなぁ」

 

 

そうか、と答えて別の方向に歩き始めた時、人里から悲鳴が聞こえた。

 

 

振り返ろうかと思ったが妖怪も多い人里ならよくあることなのだろうと思って振り向かなかった。

どうせ博麗の巫女あたりがどうにかするだろう。

博麗の巫女がいるなら話は早いが……。

 

 

正直私はこの幻想郷をひっくり返せるとは思っていない。そもそも幻想郷にある決まった方向があるとも思っていない。

安定は力の拮抗の中で生まれるわけであって弱者がそれに関与していないことはない。

以前博麗の巫女が出てきて何かをしたというのならこれは異変の一部なのだろう。

私は異変解決なんてやったことがないからさっさと博麗の巫女に事後処理を頼みたいのだが……。

 

 

博麗の巫女頼みの思考を顧みて溜め息が出る。

正邪が怪訝な視線を向けてくるが気にしない。

 

 

かつて龍と相見え、そして敗れ去った伝説のドラゴンスレイヤー様が他力本願なんて、ねぇ。

博麗の巫女に引き渡すまでは正邪がやらかしすぎないように、そして他の誰かに殺されないように見守ろう、そう決めた。

 




これであらすじにあった四者が出揃いました。
今回はほぼ無かったがこれから先、「淫夢ネタ」が公然と出てくるので嫌いな方は4章を飛ばして下さい。嫌に思う人がいることは分かっていますが、私の通う大学のせいです。
あの大学の人たちは十割「淫夢ネタ」が通じる(愛と信頼の私調べ)。
あと、「主人公がチート臭い」という苦情もこの章だけは受け付けません。何故なら相手のチートみたいな人たちも本気を出しているので、むしろチートっぽくないと4章の主人公は務まらないからです。
他の章ではそうならないように細心の注意を払っているつもりなので監視していて下さい。

ご意見ご感想よろしくお願いします。

そろそろPS4買うから更新頻度落ちそう。単位と更新頻度は落とさないよう頑張ります。
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