東方鏡魔暦   作:逆月 燐

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東方の更新はかなり久しぶりな気がする。
ソードアート・オンラインのSSも書き始めたので良ければぜひ。
現実的には東方心綺楼の後に東方輝針城が発売されていますが、幻想郷内での時系列において両者の明確な前後は確定的じゃないはず。
まあ、それでなくても二次創作だからね、仕方ないね。


第2章 2話 約束された戦い

朝、私の家に一つの新聞が届けられていた。

昨日私が数年ぶりに帰って来た時には新聞は届いていなかったというのに。どうしたらそんなに早く気づけたのだろうか。

新聞の右上に『文々。新聞』と書かれている。あぁ、射命丸さんのものか。

新聞を何気なく開こうとして気づいた。

 

 

「……って、住所ばれてる!あと1面に大きく私の写真が写っている!」

 

 

何故なのか。記事にざっと目を通してみたが、まあ、昨日の事件の顛末が簡潔に記されているものだった。所々誇張が過ぎると思われる部分もあったが。

昨日の事件とともに、一つの約束を思い出した。

 

 

魔理沙と戦う、いたってシンプルな約束だ。私は彼女の実力を知らないし、彼女がこんな約束をした意図も知らない。しかし、私は約束を交わした。何故か魔理沙と戦いたくなったのである。

先の戦闘の余韻とは全く違う何かが私を突き動かしたのだ。

それが何だったのかは、今になっては興味がない。

私は魔理沙に勝てるだろうか?

勝った後に何があるのか?

そもそも、何故戦うのか?

そんな些末な疑問は、この湧き上がる高揚感の前ではどうでも良かった。

昨日魔理沙も言っていた。本気で試合をしなければならない、と。そうでなければ観客を魅せることが出来ない、と。

何故観客を魅せる必要があるのか。お金を取っているわけではないし、誰かに強制されているわけでもない。

戦うこと、戦えること以上の理由は要らない。

舞台が整えられている。ならば、踊るだけ。

他の誰でもない、私のために。

 

 

そんな事を考えていたらいつの間にか、今日もまた、焼き八目鰻屋に来ていた。

昨日よりも随分早い時間だ。つまり、約束の時間よりも早い。

戦いの前に適度に腹ごしらえをしておこうと思っていた。それでも時間が余ったら他の店も見ておこうとも思っていた。

 

 

「いらっしゃいませ=!!って、昨日の人じゃないですか焼き鳥屋がないから来たんですか?」

 

 

店主がさらっと変な事を口走ったように聞こえた。

 

 

「その話だと焼き鳥屋がなくなったように聞こえるんだけど、まあ、まだ探してないし、この辺に用事があったから来たんだよ」

 

 

「ん?昨日まであった焼き鳥屋はですね、まあ、閉店してしまったわけですよ。客の少ないおんぼろ屋台でしたからね。経営難でしょうね」

 

 

「なるほどねぇ。とりあえず4つ下さい」

 

 

「はいよ。焼き八目鰻4つ!!」

 

 

店主が店の奥の方に向かって叫ぶ。ここで私はとある変化に気が付いた。

 

 

「今日はスタッフさんが違うんですね」

 

 

店主は笑顔で返す。

 

 

「まあね、アイツはこの仕事に向いてなかったんだよ」

 

 

確かに、氷の妖精には過酷な環境だろう。厨房の中の気温は店の外よりも遥かに高そうで、蛍のような見た目の妖怪が滴り落ちる汗を手拭いで拭きつつ八目鰻を焼いていた。

昨日の氷の妖精と同じように文句を言いながら。

 

 

「何が「アイツはこの仕事に向いてなかった」だよ。ハナからわかっていたことだろうに。大体チルノに夜逃げ同然で逃げられてから私に泣きついてきたんだろ?まあ、親友のよしみで手伝っているけど、チルノに同情しちゃうね」

 

 

この人もかなり店主に反抗的……いや、親友だからこそ対等に、と思っているのだろう。

しかし、その想いは経営者様には届いていないようだ。

 

 

「リグル、君は昆虫食、という言葉を知っているかな?」

 

 

この言葉にリグル、と言われたスタッフは押し黙る。それでなくても虫って鳥に食べられてますし。

ブルジョワジーとプロレタリアートの階級闘争がどこぞの誰かさんが言うようにプロレタリアートの勝利で終わるならば、この屋台ももうすぐ経営の危機を迎えるのかもしれない。

おー恐い恐い。

 

 

出来上がった商品を受け取って振り返ると、空から紅白の巫女が降りて来た。

威圧感溢れる巫女に無意識的に道を譲ってから苦笑する。

これから魔理沙と真剣勝負をするというのに、部外者の巫女さんの圧力に気圧されるとは。

気合い入ってないなぁ。

その巫女さんはつかつかと焼き八目鰻屋に向かって一直線に歩いて行った。

 

 

「いらっしゃい、霊夢。何かご機嫌斜めだね」

 

 

巫女さんはぶっきらぼうに答える。店主とは知り合いのようだ。

 

 

「ええ、そうね。誰かさん達のおかげでね」

 

 

「ハハハ、また魔理沙が何かやらかしたとみえるね」

 

 

この巫女さん、魔理沙の知り合いだったのか。

ふと思い返せば昨日の魔理沙の会話に出ていた気がする。というわけで問題の台詞を振り返ってみよう。

 

 

「かぁ~賽銭をネコババして食べる団子はいつもと一味違って美味いなぁ。まあ、あいつんトコあんまり賽銭無いから2本分しか買えなかったんだよなぁ……大切大切」

 

 

うん。思いっ切り出てる。多分賽銭をネコババされた神社の巫女なのだろう。そして、賽銭があまりない、という残念な情報まで得られた。私も団子貰った。この度はご馳走様です。とりあえず心の中でお礼を言っておく。

 

 

「まあ、私の命綱たるお賽銭を強奪していった魔理沙の処罰は後でするとして、あんたも厄介ごとを持ち込んできてくれたわね、ミスティア・ローレライ」

 

 

私が道を譲った時よりも強いプレッシャーを前にして、しかし、店主の笑顔は小揺るぎもしなかった。

店の裏手から耐えかねたかのようにリグルが出て来る。

 

 

「私が何かしたって?言い掛かりも大概にして欲しいな」

 

 

「そう」

 

 

対照的に巫女さんの表情は随分変わった。

 

 

「立ち話もアレだから、とりあえず7本ぐらい自慢の商品出しなさいよ」

 

 

店主がこちらに向かって叫ぶ。

 

 

「リグル!注文入ったよ」

 

 

よく見ていたな。この店主、只者ではない。

 

 

「注文多いからみすちーも手伝ってね」

 

 

「ハイハイ」

 

 

意外と仲良いな、あの二人。

 

 

「アンタこんな所で働いていたの?意外ね」

 

 

「まあね、昨日まではチルノがやっていたけど」

 

 

このリグルの発言に巫女さんが爆笑する。

 

 

「ほんと馬鹿ね、アイツ。……で?溶けちゃったの?」

 

 

「普通に辞めたよ。まあ、向いてないのはいくら馬鹿でも何日か働けば体が理解するのだろうね」

 

 

昨日出会ったチルノさん馬鹿だったのか。いやはや散々な言われっぷり。

私が1本目を食べ終わる頃に全て焼きあがった。

 

 

「はい。えーと、7本で……」

 

 

お勘定のタイミングで巫女さんは7本の焼き八目鰻を片手でひったくるように奪い、もう片方の手でいつの間にか持っていた大量のお札を店主目掛けて投げつけた。

店主―!!なんということでしょう。私が2日連続でお世話になった店が完全崩壊してしまったではありませんか。

一方、巫女さんは余裕の表情で焼き八目鰻を1本頬張っている。

 

 

「タダで潰すのには惜しい店ね。……まあ、アンタがさんざっぱら営業妨害した焼き鳥屋が再開したらそっちにお世話になるわ。何せ、この私直々に店を再建させたのだから懇意にされないはずがない!」

 

 

一度高笑いを挟んで瓦礫と化した店へ叫ぶ。

 

 

「悔しかったら1日10本うちの神社の神棚にお供えすることね!3年続いたら、まあ、見込みはあるかな、ってぐらいは思ってあげるわ」

 

 

通りの人たちが何事か、とこちらを見てくる。

私は急いで残りの串を食べ、巫女の方に向かって行った。

 

 

「ねぇ、あなた。少しやり過ぎじゃないの?」

 

 

「やり過ぎ?それは息の根を止めるレベルを指すものだと思うけど」

 

 

さらっととんでもないこと言ったよ。この巫女さん。

それでも、2日間お世話になった店主の為に食い下がる。

 

 

「あの人が何をしたのかは知らないけど、不意打ち紛いの攻撃なんて……」

 

 

巫女がニヤリと笑う。

 

 

「面白いわね、あなた。……それはそうと、ねぇ、知ってる?」

 

 

異常なまでのプレッシャーがのしかかってくる。固く絞られた喉から、ようやく返答の声が出る。

 

 

「……何を」

 

 

悠然と食事を続ける巫女。最後の1本を食べながら語る。

 

 

「この幻想郷はね、力で秩序立てられているの。そして、その頂点に立つのは……」

 

 

両手に持っていた串が、一瞬のうちにお祓い棒とお札に入れ替わった。

間髪入れずにお札と言葉が飛んでくる。

 

 

「私よッ!!」

 

 

大きく横に飛んで躱すと、目の前にはもう、巫女がいた。

お祓い棒に手刀を合わせる。

 

 

「頂点にして絶対の力、この世界にありながら、しかし、全ての上に立つ。それが今代の博麗の巫女、博麗霊夢よッ!!」

 

 

「通りすがりの巡礼者、新島白雨」

 

 

そのまま弾幕を放って、霊夢を押し戻す。

名刺代わりの弾幕を交換し終えて、また激突する。

お札を投げる手を払って、自分が射線上に入らないように注意しつつ、もう片方の手のお祓い棒も流していく。少しでも隙を見つければ足技や弾幕を交えてみるが、尽くいなされる。

この巫女、自分であれだけのことを言うだけあってその強さは確実だ。

何度も攻防を続けるうちに、相手の強さが段々と身に染みて来る。

だが、まだ互角に戦えている気がする。

気を抜いてはいけないが、波には乗らなくてはならない。

投げられたお札を即座に掴み取って投げ返す。かなり気合の要る事だったが、効果覿面。慌ててガードに入ったところを攻めて、無理矢理お祓い棒をもぎ取り、空へ投げ、無力化する。

いや、無力化した、と言った方が正しかった。

恐ろしいスピードで空中を舞う霊夢。

余裕でお祓い棒を回収し、距離を保ったまま、弾幕による遠距離攻撃を仕掛けて来る。

追いかけるものの、距離が縮まらないどころか、むしろ離されている。

危険を顧みず、一瞬目を閉じ、そして祈る。

 

 

(墜ちろッ!!)

 

 

目を開けた時、二重の衝撃に襲われた。

まだ悠然と浮いている!

驚愕で動きが止まり、弾幕が直撃して地面に転がる。

 

 

「ふ~ん。それがあなたの能力ね。でも、相性が悪すぎたわ。空を飛ぶことが本業の私には通用しない」

 

 

「ぐっ……そりゃキツイね」

 

 

現状、一番キツイのは地面に叩きつけられた時のダメージであるが。

頭がまだグラグラする。

 

 

「これで終わりにしてあげる。宝具『陰陽飛鳥井』」

 

 

終わりにする、というだけあって恐ろしいエネルギー量の陰陽玉だ。

死にはしないが、これ食らったら魔理沙とのバトルなんて今日は出来ないな。

そんな事を考えながら甘んじて目を閉じ、その時が来るのを待つ。

すまない店主、すまない魔理沙。

目を閉じても流れ込んでくる光の奔流が最高潮に達し、一気に目の前が暗くなった。

1秒、2秒、3秒……もうとっくに当たっていてもおかしくないはずだ。

私の身体は、衝撃ではなく、心地よい人肌の温もりを感じていた。

恐る恐る目を開けてみると、人が立っていて、目が合った。

私より背が高くて、金髪。その髪型は動物の耳を想わせるが、本来の耳にはヘッドホンを付けている。

その人は、私の頭を優しく撫でながら、こう囁いた。

 

 

「もう大丈夫だ、新島白雨さん。あの邪知暴虐の巫女は私が成敗する」

 

 

紫色のマントを翻しながら霊夢の方へと振り向く。

 

 

「フハハ、博麗霊夢!貴様の相手はこの私だ!貴様がこの世界の秩序とは片腹痛い!……秩序とは大勢のバランスの上に成り立つものなのだよ」

 

 

「うげっ、何でアンタがここに……ここは……」

 

 

逃げの姿勢を見てもまだ余裕を崩さない。

 

 

「霊夢、あんまりそっちに行くな。そっちには不埒な破戒僧がいるからな」

 

 

「うわっ、本当にいる……」

 

 

ここからでは、そんな感じの人は見えないのだが……。

つまりこの3人は旧知の仲ということだろう。

遠くから凛とした声が聞こえて来る。

 

 

「よくも言ってくれたわね。まあ、あなたは人気取りに必死になり過ぎて自滅する姿が見えているから相手にするまでもないけど」

 

 

「そもそも何で喧嘩売って来てんのよ、こいつら!」

 

 

二人の声はほぼ同時だったが、聞き取れた。

 

 

「襲われている人を見つけたからな」

 

 

「そこの店にはお世話になっていたからね」

 

 

数秒間、静寂が訪れた。

 

 

「アンタ、食べても良かったっけ?」

 

 

そういえば、お坊さんが動物の肉を食べても良かったのだろうか?

 

 

「ええ、戴きものですし、私が殺めているわけでもありません」

 

 

「い、戴きもの?アイツ、この私に献上せずに何故……それにしても自分がやらなきゃ大丈夫なんて、随分なご都合主義ね」

 

 

「我々生き物は別の生命を戴かなくては生きていけません。草でも肉でも命あるものを食べてはならない、と教えたならば、その教えた者が間接的に最大の殺人者となるでしょう。だからこそ、不要な殺生を減らして慎み深く、感謝の念を持って戴くべきなのです」

 

 

諭すような口ぶりは、しかし、霊夢の神経を逆撫でするものでしかなかった。

 

 

「ああ、もう!前門の虎、後門の狼……ならば!」

 

 

霊夢が動いた方向から、閃光が走り来る。

 

 

「彗星『ブレイジングスター』」

 

 

霊夢が私から少し離れた地面に叩きつけられる。

しかし、受け身は取っていたようで、空を見上げて叫ぶだけの余裕がある。

 

 

「痛いわね。いきなり何するの、魔理沙!」

 

 

魔理沙……まさか。

見上げた先に、もう見慣れた魔法使いがいた。

 

 

「少し早く出たんだが……何か騒ぎがあったみたいで、急いで来ていたら偶然当たっちまったみたいだぜ」

 

 

ひらひらと手を振りながら降りて来る。

その様子を見ていたマントの人が振り返る。

 

 

「む……成程。あの巫女は私が相手するから君は存分に戦いたまえ」

 

 

私の頭を数回ポンポンしてから霊夢の方に歩み寄る。

随分助けて貰ったのにお礼の一つも言っていないことに今更気が付いた。

 

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

「なに、構わんよ。……では、またの機会に」

 

 

逃げる霊夢を追いかけてどこかへ行ってしまった。短絡的で喧嘩早いと思わされたこの里にも、まだあんな人が残っていたのか。

 

 

「いや~何か凄いことになってるな。バトルはちょっと休んでからにしようぜ」

 

 

先程の戦いの疲労もあるし、そうさせてもらった方がいいだろう。

近くの手頃な場所に並んで座る。

 

 

「何か食べようかな……そうだ!ミスティアの店にでも……ん?」

 

 

立ち上がった魔理沙が凝視している視線の先には、瓦礫の山があった。

その近くではリグルが店主の介抱をしている。奇跡的に大きな怪我はなさそうだ。

慌てて駆け寄っていく魔理沙。

 

 

「いや、そこ最初に気付くところじゃないの」

 

 

「霊夢が割と暴れているところしか気にしてなかったぜ……オイ、大丈夫か?こんな酷いこと誰が……」

 

 

結構揺さぶられているが、意識はまだ取り戻していないようだ。

 

 

「リグル、誰にやられたか見ていないか?」

 

 

数瞬の躊躇いを見せた後、恐る恐る口にする。

 

 

「その……霊夢さん、です」

 

 

この返答に盛大な溜め息をつく。

 

 

「ハァ……アイツならやりかねんな。そりゃ、こんな騒動にもなる」

 

 

そこそこの時間、黙り込んでいる魔理沙へ怪訝そうに話しかけるリグル。

 

 

「魔理沙さん、どうかしましたか?」

 

 

「へ?あっ、いや、何でもない。何時にも増して派手だな、と思っただけ。でもまあ、偶にはこのぐらいのこともしていたし、それほど特別なケースじゃないな、うん」

 

 

質問に対する返答と言うより、自分に言い聞かせるための言葉のように聞こえた。

 

 

「魔理沙。お茶と饅頭買って来たよ。まずはゆっくり落ち着こう」

 

 

「サンキュー。これ食べてちょっと休憩したら、いっちょやりますかね」

 

 

「それにしても霊夢さん、強いですよね。私を守ってくれた人もかなり強そうに見えましたが、どっちの方が強いんですかね?」

 

 

「あー、それはな……」

 

 

何かを言いよどむ魔理沙の代わりに、頭上から声と黒い烏の羽が降って来た。

 

 

「それは私が解説しましょう!」

 

 

「わあ、射命丸さん。ちょっと驚きましたよ」

 

 

射命丸さんはニヤニヤと笑っていたが、すぐに真顔に戻った。

 

 

「ふふっ、さっきの表情をカメラに収めておけば良かったですね……っと、それは置いといて、霊夢さんはこの弾幕ごっこという括りの中では間違いなく最強です。それはもうチート級ですね。ただし、やる気が出ないとそんなに力を出しません」

 

 

どこか寂しそうにカメラをさすりながら空を見て話す。やはり、射命丸さんも、弾幕ごっこがある種の競技のようなものである限り、勝ちたいという願望を拭いきれないのだろう。

 

 

「まあでもそれは、あくまで“弾幕ごっこ”というカテゴリーの話ですがね。“本物”ならそんなことはありません。彼女の本質は唯の少女に過ぎません」

 

 

「おい、射命丸」

 

 

魔理沙の少し威圧的な呼びかけで魔理沙の方を向いたかと思うと、また視線を遥かな空へと戻した。

 

 

「でも、そんな霊夢さんが平凡な生活を送れるのはバランスが取れているからです。横暴極まる言動が怒りを招いたとしても、容易には手が出せない。人間一人を殺すのは容易いが、アイツには有力な後見人がいてリターンに見合わないほどのハイリスクだ、ということです。このバランスの中心にいるのが霊夢さんなので、自分こそがこの幻想郷の秩序の中心だと思うわけですね。その自負と自信はありがたいですが、どうも最近は危なっかしく思われますね」

 

 

射命丸さんの言葉に魔理沙も同調する。

 

 

「ああ、それは私も同感だ。だから私はこの人里で起こりつつある異変っぽいものをこの私の手で解決してみせる」

 

 

視線を空から魔理沙へ移す射命丸さん。記者としての勘がネタを見つけた、と言わんばかりに目をキラキラさせて続きを促す。何故幻想郷の住人は異変と聞いただけでこんなに生き生きし始めるのだろうか。――勿論、私も例外ではない。

何だかんだ言って、整理され過ぎた世界に退屈しているのだろう。

 

 

「異変っぽいもの……何ですか?それは」

 

 

「白雨とも話したことだが、今の里の人たちは、ここ最近の戦闘にやたらと興味を持っていてどこか喧嘩早くなっている気がする。戦いの中に何かを見出そうとしているみたいだ。でもちょっと前はこんな感じじゃなくて穏やかな空気が流れていたと思うんだが……」

 

 

「私は里自体久しぶりだから確証はないけどね」

 

 

射命丸さんは頷きながら何かメモしている。

 

 

「まあ同感ですね。その手の記事を載せておくと売上がちょっと上がりましたし。今日は一段と凄かったですね」

 

 

今日の記事って何が……と考えた瞬間、今朝見た私の写真が一面に大きく掲載されている新聞を思い出した。

 

 

「その新聞、家にも届いたけど、お金払った覚えはないよ?」

 

 

売上というより発行部数じゃないか?それなら幾らでも過去最高記録を塗り替えられそうだが……。

 

 

「あ、読んでくれました?良かったです。まあ、売上ってのは路上で販売しているやつのことです。贔屓にしているお客様には配っています」

 

 

嬉しそうな射命丸さんとは対照的に、魔理沙は気だるげだ。

 

 

「あー。それ、うちにも届いてたかも。火を起こすのに便利なんだよなー」

 

 

「普通に読んで下さい!!」

 

 

談笑している内に湯呑の中が空になった。

いい頃合いだろう。そう思って魔理沙を見る。

私の小さな変化に目敏く気付く射命丸さん。流石、記者というだけある。

 

 

「そろそろですか?」

 

 

気付いていたのは魔理沙も同じだった。

残っていたお茶を一息で飲み切り、立ち上がる。

 

 

「やるか!!」

 

 

そう言って、落ちていた箒を蹴り上げてそのまま飛び乗る。

 

 

「そうだね」

 

 

私も続けて空中へ行く。

この迸る闘気、さすがだ。しかし、押し込まれるわけにはいかない。

 

 

「やっぱり、ギャラリーが多いな」

 

 

ギャラリーのことを気にしすぎて負けた、などと言われては困る。

 

 

「魔理沙のスカートの中が気になるんじゃないか?」

 

 

おっ、という表情をして顔をあげる魔理沙。

 

 

「ははっ、やっぱりこういうのが無くっちゃねぇ……っと、スカートの中は見ての通りさ。白雨は……スカートじゃないのか」

 

 

ひらりと捲られたスカートの下には白いドロワーズが見える。

いや、別に捲らなくても見えている……のかスカートに付いているフリルなのかよくわからん。

 

 

「まあ、この距離で見えることはないだろうけど」

 

 

「どうかな?優秀なカメラマンがいるぜ?」

 

 

カメラを構えて手を振っている射命丸さんと目が合った。

 

 

「冗談はさておき、おっぱじめますかね!」

 

 

片手にミニ八卦炉、もう片方の手に2枚のカードを持っている。

ミニ八卦炉が戦闘に先走るように燻り、顔を顰めている。

 

 

「どうも先の一件以来、コイツまで好戦的でいけねぇや……っと、スペルカードは?さっき使って今は2枚しかないが……白雨のは?」

 

 

スペルカード――強力な技を使用回数の制限のなかで使う為に生まれて来たカード。

しかし、ほとんど弾幕と縁のない生活をしてきた私には……。

目に見える形の力の差に心が委縮しかけるが、拳とともに振り払う。

 

 

「そんな御大層なものに縁がないものでな。どこで売っているのかは知らんが……」

 

 

そこで言葉を切って、両拳を打ち合わせる。

 

 

「体ひとつあれば十分だ!」

 

 

戦闘開始が近づいている。明確な合図はないが、高まっていくこの緊張感が物語っている。

 

 

「そりゃそうだ。だが、私のスペルカードは売り物じゃないッ!!」

 

 

もはや殺気の域にまで達している。

それだけスペルカードへの自負とプライドがあるのだろう。

腰を落として、見つめ合う。いや、睨み合っているようなものだ。先に眼を逸らした方が負ける。そう思わせるだけの気迫があった。

そんなに長くない時間のはずだが、どれだけ経ったかもわからなくなるほど引き伸ばされたように感じた。

果たして、動き出したのは同時だった。

突っ込み始める私に対して、魔理沙は箒の上に立ち、初っ端からスペルカードをぶっ放す。

 

 

「恋符『マスタースパーク』」

 

 

滾るエネルギーの奔流が一つの極太レーザーとして襲い来る。

 

 

「爆ぜろッ!!」

 

 

開幕スペルカードにはかなり驚いた。だが、動きを止めるほどではなかった。

避けようと思えば絶対に避けることが出来たはずだった。

しかし、何故避けなかったのだろうか。

 

 

「っつああああぁぁぁ!!」

 

 

全てを焼き尽くすような光の中で、それでも懸命に歩みを進める。

魔理沙自体はもう見えない。しかし、このレーザーが私を導いてくれる。

そうすること暫し、どれだけ時間が経っただろうか。

あれほどの熱量が今や失われかけ、私の視界にも色鮮やかな世界が戻って来る。

濛々と立ち上る煙の中から、ぷすぷすと黒煙を上げるミニ八卦炉が見えた。

私は迷わずその手首を掴む。

 

 

「うわっ、マジで……?」

 

 

驚愕の表情を浮かべる魔理沙に拳と弾幕をお見舞いする。

 

 

「ぐっ、くそっ!」

 

 

何度か繰り返すうちに、振り解かれた。

 

 

「結構タフだね」

 

 

「私のマスタースパークを正面から受け切ってよく言うぜ」

 

 

二人して笑みが零れる。

 

 

「さあ、第二ラウンドだ」

 

 

小細工なしの近距離戦が展開される。

箒を取り合い、弾幕を撃ち、躱し、逸らし、ぶつけ合う。

拳と拳がぶつかり合い、苦悶の表情を浮かべる。

このままではジリ貧だ。それは魔理沙も同感なのだろう。

はやる気持ちが体へと伝わり、乱雑な動きが増えて来る。

私の回し蹴りと、魔理沙の箒が真正面からぶつかり、私は大きく吹き飛ばされた。

対する魔理沙は派手に回転しながら後方へと飛んで行く箒を一瞥して、残り一枚となっていたスペルカードを取り出す。

溢れ出るエネルギーが唸りをあげるミニ八卦炉へと集中されていく。

 

 

「何か変だ……しかし、決めるならここしかない」

 

 

苦悶の表情を笑みに変えながら高らかにスペルカード宣言をする魔理沙を一旦視界から締め出し、祈る。

嘗て見た、聖職者が祈りによって魔術師を墜とす、その姿をイメージする。

霊夢には通用しなかったが……今度は決める!

決意とともに目を開けたのと、ミニ八卦炉が火を噴いたのは同時だった。

 

 

「これで終わりだ!魔砲『ファイナルスパーク』」

 

 

最初に撃ってきたマスタースパークを遥かに凌駕するその火力。

これを受けに行くほど私の判断は鈍ってはいない。

レーザーが私に触れる直前に、その軌道が下へずれる。

 

 

「何っ?いきなり高度が……」

 

 

ちゃんと祈りが届いたらしいが、このまま安心するわけにはいかない。

かなり高度を下げたが、魔理沙はすぐに対応し、レーザーの照準を合わせに来る。

さながら光の剣、と言った感じの極太レーザーをかいくぐり、魔理沙の真上を飛ぶ。

凄まじい音を立てて私のすぐ隣の空を斬ったレーザーは悲鳴とともにそのまま消えていった。

 

 

「しまったああああぁぁぁっ!!」

 

 

あのレベルのエネルギーを放出すれば少なからず自分に反作用がかえって来る。

そこそこ地面に近い場所で真上に放てば、後は言うまでもない。

幾つかの弾幕を背後に携えて魔理沙の近くに降りる。

 

 

「チェックメイト、かな?」

 

 

肯定するように地面へ倒れこむ魔理沙。

 

 

「へへ……まさか自分の技で倒れるとは……修行不足だな」

 

 

「いや、あれで修行不足って……魔理沙の技は凄かったよ」

 

 

魔理沙の動きや弾幕、それにスペルカードには、私のような素人とはレベルの違う技量があった。それを修行不足と言ってのける魔理沙が努力家なのか、もっと強い奴が幻想郷にあふれているのか。前者だと願いたい。

 

 

「ふふ……いい画が撮れましたよ。いや~手に汗握る名勝負でしたね。やっぱりこういうものを見るとテンション上がりますね。ギャラリーの皆さんも満足でしょう」

 

 

戦闘が終わってようやくギャラリーの声が聞こえてくるようになった。

 

 

「凄い活気だな」

 

 

私の言葉に射命丸さんが頷く。

 

 

「そうですねぇ。これを見ていると夜中の里の静けさなんて嘘みたいですね」

 

 

「ん?やっぱりそこに気付くとは流石だな」

 

 

二人の会話にイマイチついていけない。

 

 

「どういうことだ?普通夜中は出歩かないだろう」

 

 

夜中は妖怪が凶暴化するし、人が少なくて助けも求められないから出歩かないのが普通である。

 

 

「まあ、それが普通なんだけど、出歩く奴はまあまあいた。でもここ最近はめっきり減った感じがする」

 

 

「ですよね。私も違和感を感じていました」

 

 

「そうなのか?また見てみるか……今日はもう帰って寝たいけど」

 

 

大きく頷く魔理沙。

 

 

「だよな。結構疲れたぜ」

 

 

射命丸さんはどうする、と聞こうと思って視線を向けると何かを考え込んでいる様子だった。

 

 

「射命丸さん?どうかした?」

 

 

「あっ、いえ……その……」

 

 

何度か視線を左右させ、意を決したように一度深呼吸をする。

 

 

「魔理沙さん!」

 

 

「えっ、私?な、何だ?」

 

 

いきなり大声で呼ばれて狼狽えている。それにしても何だろう。

 

 

「魔理沙さん、私は“最近の霊夢さんは危なっかしい”と言いましたね」

 

 

「あ、ああ」

 

 

妙な気迫に押されている私たち。

 

 

「さっきの戦闘を見ていて、私はその言葉を撤回しなければならないと感じました」

 

 

「霊夢さんは関係ないのに?」

 

 

「ええ。ここ最近霊夢さんだけでなく、魔理沙さんも随分危なっかしいんですよ」

 

 

私は昔の魔理沙を知らないが、思い当たる節がないこともない。

特にスペルカード発動前はエネルギーが暴走していたような気がする。そして、苦悶の表情を浮かべていたはずだ。

 

 

「違う。先の一件からミニ八卦炉の調子がおかしいだけだ。それに、あれぐらい火力がある方が丁度いい」

 

 

こともなさげに返すが、射命丸さんの追及は終わらない。

 

 

「確かにあの一件はまだ終わっていません。あの天邪鬼に先日返り討ちにされましたし。しかし、道具に憑いた力はあの時より随分弱くなっていて、そのせいには出来ませんよ」

 

 

最近も異変があったのだろうか。よくわからないが、ずっと戦いっぱなしなら疲れるのは必然。だが、まだ魔理沙は反論する。

 

 

「それはそうかもしれんが、私をアイツと一緒にするな!私はアイツほど過労気味じゃないし、力の制御だって出来ている!」

 

 

拳を握りしめて、声を若干震わせながら叫ぶ様子は、自分でも違和感を確信していると自ら告白しているようなものだった。

多分、ここで止めなければ修行不足などと言ってまた無暗に戦うのだろう。

しかし、どうやって止めれば……。

その憂いは射命丸さんの一言で断ち切られた。

 

 

「魔理沙さん、多分誰かから何度か言われたと思いますが、このままだと……」

 

 

それ以上を言わせてはならない、と突き出された魔理沙の拳は容易く止められ、地面に組み倒された。

 

 

「とにかく、今は休んで下さい。この里の異変っぽいものを解決しそうな有力候補は沢山いますよ。霊夢さんもそれに気が付けば手を退いて仕事を放り出してゆっくり休むでしょう」

 

 

「ああ、そうだな」

 

 

そう言って、射命丸さんに引き上げられて立ち上がる。

 

 

「この私を負かしたのだから、白雨にはぜひ異変解決をしてもらいたいぜ。まあ、適度にアドバイスでもしようかな。異変解決のエキスパートの助言さ。大切にしてくれよ」

 

 

「ああ、全力を尽くす」

 

 

「とりあえずは明日の新聞を楽しみにしておいてくださいね」

 

 

そして二人と別れた後、家路につく。

その道中、私は始終カリスマ性溢れる謎の視線とプレッシャーを感じていた。

 




跳べるよ!いつだって跳べる!あの頃(現役)みたいに!(受験を頑張らなくて今更後悔が押し寄せる大学生並の感想)

……ん?現役の時に跳んでない人はいつ跳べるの?

まあ、チマチマ更新していきます。
感想、指摘などあれば、ぜひ。
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