不完全えふぇくと   作:ゼン(リア充駆逐艦)

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第三話『孤独の闇』

北守七瀬。

差出人の名は確かにそう記されていた。

北を守ると書いてキタガミと読む、その少し珍しい読み方を家名に持つ少女を、わたしはたったひとり知っている。わたしはしっかりと覚えている。

沢山の思い出に彩られたその懐かしい名前を。

長らく目にしていなかったその名前に邂逅した刹那、まるで七年前のあの頃に戻ってきたような、そんな錯覚を覚えた。過去を振り返っての興奮からか、それともこの状況に対する戸惑いからか。心臓はドクンドクンと早鐘の如く鼓動を刻み、まるでわたしに『早く屋上へ向かえ』と急かしているようだ。

無論、それに従わない理由はない。

その先に、助けを求めている人がいるならば尚更というもの。

まずは、今の自分自身に出来ることを精一杯やる。今し方そう決めたばかりなのだから。

 

手紙をスカートのポケットに仕舞うと、わたしは水甲さんと歩いてきた廊下を急ぎ戻り、屋上へと向かう階段を駆け足で上っていく。すでに紅色に染まりきった校内は幻想的、というよりも、どこか不気味さを感じさせると共に、孤独という寂しさを運んでくる。

闇が溶け出したような深い赤色は、とても七年ぶりの再会を歓迎しているようには見えず、寧ろ、わたしを深い闇の奥底へ誘っているようで正直気味が悪かった。

お世辞にも、詠嘆など感じることはできそうにない。

わたしが暗闇に思うのは恐怖だけ。 怪談や幽霊、そういった非現実が怖いわけではないが、やはりこの暗闇はどこか恐い。 具体的に言うならば、そう。

 

暗闇は孤独を思わせる。

わたしは孤独が嫌いで、恐いのだ。

何でもかんでも単身で熟してしまう、自力で解決してしまう水甲さんとは違う。

だから今も、孤独から抜け出すために、こうやって屋上を目指しているのかもしれない。懐かしい友人に会うためではなく、自らが孤独から逃れるために。

 

しかし。

しかしである。

ここでひとつ言及を。説明を少し加えなくてはならないだろう。

言うまでもなく、今から登場するであろう彼女、他でもない手紙の差出人であるところの『北守七瀬』について、である。

そもそも一体全体、北守七瀬とは何者なのか?

仮にそう問われたならば、わたしはしばらく頭を抱えた後、歯切れ悪く『元親友』という関係を挙げることだろう。そして、我ながら曖昧すぎる表現に苦笑いしつつも、何度も悩み、悩み抜いた挙げ句に導きだしたその答をきっと覆すことはない。

なにせ、それ以上にしっくりとくる言葉が見当たらないのだ。

 

親友ではなく、元親友。

 

わたし個人として少し気になるのは、この件に関しては北守七瀬との相互の認識の度合いに多少のずれがあるように感じられるということだ。 勿論、前提条件として手紙の差出人が北守七瀬本人であるとした場合の話である。

手紙を見る限り、彼女は今尚、わたしを親友として扱ってくれているという点ではただただ嬉しいの一言に尽きるのだが、一方のわたしはというと、先程の通りだ。 彼女との関係を過去のものとして扱い、完結したつもりでいた。

本当に、全てが終わったのだと思っていた。

わたしという人間、四川彩夏の過去を語る上では絶対に欠くことのできないキーパーソンで、初めての親友であった同時に、共に七年前の黒歴史を築き上げた、かけがえのない元親友。

 

彼女は、勉学が得意なわたしとは対照的に運動神経が抜群、文字通りのスポーツ万能少女であり、絵に描いたような秀才。 その身体能力の高さは七年前の小学生高学年の時点でありながら、100m走を始めとするあらゆる競技で体育教師を負かしたという逸話を持つほどであった。それこそ、校内の有名人といった感じだろう。

体育祭で北守七瀬が白組になれば、白組が優勝するなんてジンクスすら流れたのも懐かしい思い出の一片だ。

まあ、事実だけ言えば間違ってはいないのだけれど……。

ちなみに、余談ではあるが、小学校時代から現在に至るまで、わたしは一度も体育祭で優勝したことがない。

四川彩夏が赤組ならば赤組が負けるのだ。

四川彩夏がいたから赤組が負けたのか、はたまた北守七瀬がいたから白組が勝ったのか。

結論はなく、それでいて不毛な話。

ただ、当時親友であったわたしと北守七瀬が一度も同じクラスになったことがないという事実だけは、念のため示しておくことにしよう。

 

運動は人並みで、勉学にそこそこの覚えがあるわたし。

勉学は得意ではないが、抜群の身体能力を有する北守七瀬――当時は七瀬ちゃんと呼んでいた。

 

互いに無いモノを有し、正反対で真逆なわたし達は、一年間にも渡る暗黒の黒歴史の最中に出会い、友情を深め、――決別した。

 

七年前の黒歴史。

折角の機会、元親友である北守七瀬との再会を喜ぶ前に、そろそろこの過去にも触れておくことにしよう。

あくまで触れる程度。大まかな概要だけをあっさりとだが。

というのも、この黒歴史は前途にも記したように少々特殊なのだ。 毛色が違うというべきか、それとも逸脱しているというべきか、或いは常識外れと言ってしまってもいいかもしれない。 自作の創作小説とか、中二病の副産物とか、そんな痛々しい傷痕が遥か遠くに霞んでしまうほど。

そんな危険物の全容を語り尽くすことはやはり難しく、とてもじゃないが私のお粗末な語彙力では到底表現しきれないだろう。

だから、わたしの口から語れるのは触りの話。

多くも詳しくも語らない。

味見程度の話と思ってくれたほうが私も気が楽というものだ。

その内容は顔から火出るどころの話ではない。 顔の火傷の上からレモンを搾って、さらに垢擦りしたくらい、もはや言葉にすらならない苦悶を上げるほどに恥ずかしく、痛い黒歴史だ。

決して他人に語りふらすようなものではない。 寧ろ、誰の目にも触れないように心の奥底に仕舞ったまま、墓場まで持ち込みたいとさえ思う。

本来ならば、そうするべきことこそが正しく、花丸の模範解答なのだろう。

 

しかし、正解の存在しない問題だってある。

逆に、正解が無数に存在する問題も。

全ては採点者の手に委ねられてしまうものだ。 私の七年前からの頑張りも、努力も、苦悩も、採点者の出した点数には――結論には敵わない。 全ては結果に収束される。

いや、終息して結果が生まれるのかもしれない。 収束が未完全でも、終息さえすれば結果となるのだろう。

経緯がどうであれ、結果は結果。

それでも、わたしは語らなくはならないと思う。

触りだけでも。味見程度でも。 語らなくては、この物語は先へと進むことができないのだから。

まるで嘘のようで、全てが本物の話を。

非現実的な現実の、摩訶不思議で奇々怪々な過去の一件を。

 

七年前。

それはわたしが小学五年生の時の話。

大まかに、そしてざっくりと、結論から言ってしまうと、わたしはその一年間、『魔法少女』として、この街の平和を守っていた。

科学では説明できない『魔法』と呼ばれる力を駆使し、あらゆる悪と対峙し、打ち破り、世界に平和と均衡を齎す『神さま』の使い『魔法少女』として、世の為人の為に戦っていたのだ。

決して他人には口外出来ない。口外しても、頭のおかしな奴と馬鹿にされるだけで、まともにとりあってはもらえない過去。これが私の黒歴史の正体である。

きっと、何を馬鹿なと笑う人が大半だろう。

それでもわたしは構わない。

私は事実だけを簡潔に述べた。それを信じるも、信じないのもこれまた人間一人一人に与えられた自由。 故意に強要するものではないのだから。

誰かに信じて貰えなかったからと言って、事実が偽りになる訳でもない。

突然『魔法少女』に覚醒し、偶然同じ学校に通う北守七瀬という『仲間』と出会い、共に悪と戦ったいう事実は、消えることなく、忘れることなく、わたしの記憶として存在し続けるのだ。

喜びも、悲しみも、そして、別れも。

忘れることなく、わたしは全てを抱えたままこのまま歳を取り、やがて死んでいく。

ならば、ここはこの黒歴史を信じてくれる一握りの人達に向けて話をやや強引にでも進めていくべきだろう。

『魔法少女』

わたしもその全容を事細かに把握している訳ではないが、『魔法少女』というだけあって、魔法を使うことが出来るのは少女に限定される。これは、男性より女性の方が、また大人よりも子供の方が、汚れの無い純粋な存在であり、『神さま』に仕えるに相応しい状態に近いかららしい。言い方は悪いが、要は『魔法少女』は『神さま』の手足のようなものなのである。かといって、『神さま』から直接お告げ等が下る訳ではなく、『天使』と呼ばれる中間者を経て、『魔法少女』は人間界の悪を駆逐するのだ。

やっていることは下っ端の悪役の戦闘員と何ら変わりない。

『神さま』を盲信して、死力を尽くしてあらゆる悪と対峙し、これを駆逐する。

わたしは一年間、これを日常のように行った。

なにも疑問に思わず、絶対的な『正義』を信じて疑わず、『天使』に指示されるがままに、悪という悪を倒し、倒し続けた。

魔物、妖怪、悪霊、怨霊、吸血鬼、怪物、人狼、悪魔、死霊、時には人の道を踏み外した悪人も。

『魔法少女』の使う魔法は、これらの悪を浄化する力を持つ。つまり、誰ひとり人間を殺すことなく、悪に染まった心だけを浄化することが出来るわけだ。なんともご都合主義という気はするが、『天使』の話によれば、これも『神さま』の恩恵の成せる技らしい。

今思えば、わたしの誰かを救いたいという強すぎる感情は、この頃から既に始まっていたのだろう。

まだ人間として未熟過ぎた当時のわたしは、ただただ正義という言葉を愛していた。かっこいいと思っていた。何より、悪を倒して、誰かを救うことに喜びを、快感を覚えていたのだ。その時の感覚を、無意識の内に今なお求めているのかもしれない。

そして、北守七瀬という相棒を得ることでわたしはよりいっそう悪党対峙を効率化していった。作戦の立案と援護をわたしが担当し、接近戦を彼女に任せることで、より強力な悪を確実に処理していくことが可能になり、倒せば倒すほど、わたし達の絆も連携も強固なものへとレベルアップしていったのだ。

同じ境遇ということもあり、わたし達はすぐに意気投合し、『魔法少女』でない時間も共有するようになった。同じクラスでこそなかったが、放課後に勉強したり、休日には遊びに出かけたり。夏休みには海やプール、キャンプに花火も楽しみ、冬にはスキーをした。

悪を退治しながら、それなりに充実した日々を送っていたのだ。

 

果たして、一年間で一体どれだけの悪を消滅させたのか。

その数が五十を超えた頃には、わたしは数えることをやめていた。

 

そして。

『魔法少女』として覚醒してから一年が過ぎた頃。

わたし達は、ひとりの悪党と戦った。

事実、わたしにとっては、この戦いが『魔法少女』としての最期の戦いとなった。

それまで戦ったどの敵よりも強く、わたし達の作戦から戦闘技術に至るまで、全てにおいて上手。二人係だというのに、まるで歯が立たないような敵を相手にして、わたしは初めて死に対する恐怖を知ったのだ。

死になくない。まだ、生きていたい、と。

正義を語ったはずの『魔法少女』は、それ以前に自分がまだまだ非力な子供であることを思い知らされた。それと同時に、自分達がこれまでその恐怖を与え続けてきたこと、正義を掲げて、悪を駆逐してきたこと。それらの全てが一斉にわたしに押し迫り、きつく心を絞めつけたのだ。

その重みに、耐え切れず、わたしはそのまま意識を失い、目を覚ました時にはもう『魔法少女』の資格を失い、『天使』の姿も声も認識出来なくなっていた。

 

当然と言えば当然な話。

 

悪役のことを心配する『魔法少女』は使い物にならない。ましてや、『魔法少女』としての行いを後悔するようならば、邪魔者でしかない。

一方、北守七瀬もこの日以来、その姿を見ることはなくなった。初めは心配もしたが、担任の話によれば急な転校が決まり、すでに街を出てしまったということ話を聞いてからは、不思議とその後を追おうという気持ちも、連絡先を調べようというも気持ちも湧いては来なかった。

それは薄情なことなのかもしれない。

だが、これ以上関わってはいけない世界だと解っていたわたしには、彼女の影を追うことは出来なかったのだ。

 

これが、わたしの抱える黒歴史であり、最高の相方であった北守七瀬との関係である。

 

彼女を抜きにしてはわたしの今は無く、きっと七年前の黒歴史も存在し得なかっただろう。ある意味、わたしの過去は彼女を中心に回っており、わたしは彼女の衛星のような付属物でしかなかったのかもしれない。

そう思えるほどに、北守七瀬という人物はわたしの過去に深く、強く、大きく関わってくるのだ。

 

そう。

裏を返せば、北守七瀬は、わたしの過去にしか登場しない。

 

……筈だった。

 

 

「七瀬ちゃん!!」

 

屋上の扉を勢い良く開け放ち、わたしはその名を叫ぶ。

昔、彼女をそう呼んでいたように。

自分で言うのもなんだが、いつものわたしならきっと、なんで普段は封鎖されているはずの屋上が解放されているのか、と気になるところだが、今はそんなことはただのどうでも良いことでしかなかった。冷静さを欠いていたのだ。

兎に角、扉の先を確かめたくて仕方がなかった。

刹那、紅の風景のなかに佇む人影を見つけると、まるで主人の帰宅を喜ぶ飼い犬のように、一目散に駆け寄る。

背丈は私より低く、少々小柄な少女はその身体を薄手のパーカーとデニムという随分と動きやすそうな服装で、遠目からでも彼女がうちの学生ではないことは瞬時に理解できる。

さらに言えば、土足である。

いくら屋上であっても、上履きではなく土足というのは如何なものだろうか。生徒ならば、まずそんなことにはならないだろう。

なぜなら、生徒であれば私のように校内から上履きのまま屋上に出ればいいのだから。

 

「やあ、久しぶりだね。彩夏」

 

少しずつ冷静になってきた頭に、ハスキーな声音が木霊した。

わたしの呼び声に呼応するように、彼女はこちらをちらりと確認した後にゆっくりと正面に対峙する。

栗色のショートカットと、前髪を留めた大きなヘアピン。

パッチリとした瞳。そして、微笑むと姿を見せる特徴的な愛らしい八重歯。

 

「七年前はアタシの方が背は高かったけど、すっかり抜かれちゃったな。それと、なんだろう、この敗北感」

 

自分の胸の辺りを擦りながら、彼女はそう呟く。

 

「確かに七年で容姿は変化するけど、これはさすがにショックだわ…。いや、分かってはいた! 分かってはいたんだけど! なんというか、現実は直視したくはないものだ…」

 

奥歯を噛み締めながら嘆く彼女。

間近で顔を合わせて確信した。彼女は北守七瀬である。と。

その強気な瞳と、笑うと溢れる八重歯。そして、七年前とまるで変わらない明るく、活発な雰囲気。髪型も昔のまま、余程気に入っているのだろう。

それとも、わたしにわかるように敢えてその髪型を選んだのだろうか?

どちらにしても、彼女はやはり彼女は北守七瀬、七瀬ちゃんだ。

明確な理由がある訳ではない。だが、わたしには彼女が間違いなく七瀬ちゃん自身であると感じ取れた。わたしの女の勘がそう告げていたのだ。

 

「良かった……。元気そうで、本当に良かった……」

 

七年前はわたしより大きかった七瀬ちゃんを、両手でそっと抱きしめる。

身体や顔は成長と共に多少は変化したものの、懐かしい香りは変わらない。

決別したと思っていた元親友。もう二度と関わることはできないと思っていた彼女との再会は、わたしの心を浮き彫りにする。

一体何度忘れようと考えたか。忘れようと思っていても、結局忘れることは出来ず、どうしても頭から離れなかった彼女という存在を、自分がどれだけ大切に思っていたのか改めて思い知らされた気がした。

 

「アタシはいつだって元気だよ。今も昔も、それだけが取り柄みたいなものだからね」

 

「本当に、本当に、良かった……」

 

「まったく。折角の七年ぶりの再会だっていうのに、それしかないの? アタシは話したいことも、一緒に行きたい場所も沢山あるっていうのに」

 

七瀬ちゃんは笑いながら、今にも泣き出しそうなわたしの腕から離れる。

それから更に後ろに半歩下がると、わたしをつま先から頭のてっぺんまでゆっくりと視線を動かし、再び「もうツインテールじゃないんだね? 泣き虫なのは変わってないみたいだけど」と微笑をみせた。

攣られてこちらも微笑が零れる。

 

「さすがに高校三年生になってツインテールをする勇気はないかな。 あと、泣き虫じゃないよ? 一人暮らしもしてるし、友達もそれなりにいるし、人生毎日ハッピーハッピーなんだからさ」

 

あれ?

あれ? あれ?

わたしは何を言っているのだろう。

微笑ながら思いがけずに出た言葉は、自分でも気持ちが悪くなるくらいに嘘で塗り固められたものだった。 まるで、本当のことのように、自然と、さらりと、スムーズに口から嘘が飛び出したのだ。

つい三十分も前に涙を流した泣き虫は、一体どこの誰だろう。

新しく出来た友人に、『もう関わるな』と釘を刺されたのは一体全体どこの誰だっただろう。

 

一方。

わたしの言葉に「なるほど」と、七瀬ちゃんは頷いてから、さらに言葉を続けた。

 

「やっぱり、その勘の鋭さは驚愕の一言に尽きるなあ。 防衛本能ってやつなのかな? それとも反射反応? まるで野生動物のそれみたいだ」

 

「???」

 

彼女が一体何を言っているのか、わたしには理解できなかった。

自分の発言の意図さえ理解できていないのだから、それも致し方ないのかもしれない。いや、それにしても不可解に思えた。悪寒を覚えたと言ってもいい。

七瀬ちゃんの言葉がわたしに向けられたものというのは明らかだったが、それ以上に何か不穏な空気を感じる。

防衛本能? 反射反応? 野生動物の勘?

どれもこれも思い当たる節はないが、ただ、これだけはハッキリ言えた。

七瀬ちゃんは、確実にわたしの嘘を見抜いている。

昔から、モノを考えるのは苦手だった七瀬ちゃんだが、直感だけはやけに鋭かった彼女。それこそ野生動物のように。そういうことに関しては恐ろしく鼻が利く。

 

「あの、七瀬ちゃ…」

 

――♪

 

刹那。私の言葉を遮るように音楽が鳴る。

音楽業界にあまり詳しくないわたしには聞き覚えのない曲、それがわたしの着信音で無いことだけはわかった。

 

「メールだからちょっと待って」と、七瀬ちゃんはパーカーのポケットから携帯電話を取り出すと、メールを確認する。そして、メールを数秒で確認すると、すぐに携帯をまたポケットに仕舞った。

どうやら返信は必要なかったらしい。

 

「ごめんね、彩夏。 もっと話したかったんだけど、ちょっと呼ばれちゃったからアタシは行くね。 あーでも、大丈夫。 明日辺り、アタシこの学校に転入する予定だからさ。それも、三年A組。 彩夏と同じクラスにね」

 

「え?」

 

「だから、詳しいことはまた明日。 あ。そういえば、彩夏の後ろの席って空席だったよね? 先生たちに頼んで、そこの席に座れるようにして貰うことにするよ」

 

――楽しみだなぁ、学校。

 

そう言い残して、七瀬ちゃんはわたしの視界から姿を消す。

 

まるで、『魔法』で瞬間移動でもしたかのように、本当に一瞬で彼女は消失した。

 

 

 

ひとり。

 

また、ひとり。

わたしはひとりで屋上にぽつりと立つ。

 

 

いつしか真っ暗になった空を見上げながら、潤んだ視界の星に問うてみる。

 

 

 

 

「わたしの後ろの席って、水甲さんの席だよね…?」

 


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