毒の華、そして悪意の花~Fleur de Poison et de fleurs malveillants, 作:おわる美砂
―全身が気怠い、いつもの様に薬で眠らされていたようだ。
「姉さん…!」
まだ残る薬のせいで上手く働かない頭を抱えているところに、聞き覚えのある声が響く。
入り口に視線を動かした途端、頭に残っていた重さは吹き飛んだ。
弟が、この世で唯一血を分けた、たった一人の家族である双子の片割れが、血まみれの身体を引きずりながら部屋に入ってくる。
弾かれるように寝台から飛び降り、弟の元へ駆け寄る。
力尽きたように倒れこむその体を、間一髪で抱きとめ強く抱きしめる。
「な…何が…?」
「お母様に盾にされた。」
「……!!?」
「姉さんと…イリス以外の被験体に…強制信号を出して……もうみんな…、」
「もういい!もう喋らないで!死んじゃうわ…!」
泣きそうになりながら、そう言って言葉を遮ろうとする。
しかし、弟の言葉は止まらない。
「U-NASAの職員が来る。」
「いいから…!」
「……姉さんとイリスだけでも…助かって……。」
自分と同じ顔をした弟は、そう言って微笑むと力なく頭を垂れた。
それと同時にU-NASAの職員だろう人物たちが多数雪崩れ込んできた。
生き残りである自分を連れて行こうとする職員たちに、抵抗し続けた。
「いや!離して…アルベルト…アルベルト…!アルベルトぉ!弟の側にいないと……!」
……………
…………
……‥
……
…
「……。」
月慈は短い仮眠から目を覚ました。
夜毎に見る、かつての地獄。
その光景を頭から追いやるように月慈は頭を振ると、手元の端末を手に取りマリアへ仮眠を終えたことを告げる。
そうこうしている間に、外に不審な気配を感じた。
(……来たか。)
月慈はすっと立ち上がる。
月慈は音を立てないように裏口に回り、そっと開く。
相手は一人のようだ。
自分たちの情報がまだ「向こう」には渡っていないのだろう。
妊婦と幼児を拉致するだけだ、そこに男手が殆ど無いなら男一人でも上手くやれると踏んでいるのだろうか?
そんなことを考えながら、その人影を見つめる。
雲間から月が覗き、月光が件の人物を照らしだす。
やはり関係者ではない、刺客だろう。
耳元でかちり、という音がした。
「装置」が動き出す。
こうなったらもう、身体から漏れ出る毒は誰かの命を求めている。
それは本当に一瞬だった。
「な…!!!」
「……。」
一陣の風が吹いたのと同時に、月慈はその袈裟姿からは想像できない素早さで間合いを詰める。
相手は急に出てきた僧侶風の女に驚き、固まっていたが抵抗するように腕を伸ばしてきた。
その腕を掻い潜り、その体を抱きすくめるように取っ付き、月慈はその男の唇を自分の唇で塞いだ。
男は驚いたように目を見開いている。
しかし、直ぐに苦しそうな顔をしてじたばたともがき始める。
そんなことを気にもとめず、月慈は唇を離さない。
次第に男の抵抗が弱々しくなり、そしてついに、その場にどさっと倒れこんだ。
それと同時に、月慈の耳元でかちんと言う、先ほどとは違う音が聞こえた。
別の「装置」が動き出したのを確認すると、再び端末を手にする。
『刺客と思しき人物を一名、排除。』
簡単な文章で送る。
すると直ぐに返信が来る。
『わお、初仕事でもう成果あげちゃうのね。所定の場所にソレ隠しておいてね、あとで片付けるから。』
とても軽いノリだが、今はそれも何処か頼もしい。
月慈は了承の旨を伝えると、毒死した男のからだを引きずり、自分たちが移動するときにと七星達が用意してくれた軽自動車のトランクにその体を押しこみ、そしてシートを被せて隠す。
「…お休みなさい。」
そう言うと、月慈はばたんとトランクの戸を閉めて再び家の中へと戻っていった。
終わり(!)
イリスはマリアンネさんのことです。
次は…どうしよっかな~←