毒の華、そして悪意の花~Fleur de Poison et de fleurs malveillants, 作:おわる美砂
蛭間家にようやっく到着だよお
都内某所、多世帯住宅。
その一階の、広いリビング。
ローテーブルの上には色とりどりの折り紙が広げられ、それを艶のある黒髪をツーサイドアップにした少女が一心不乱に折っている。
主に折っているのは鶴のようだが、時折ウサギや蝶など別なものも折っている。
「雪路。」
少女はその声に振り向く。
その視線の先には、穏やかに微笑みつつ、大きなお腹を抱えつつ立つ女性が一人。
「お母さん。」
「そろそろお休みの時間でしょ?…さ、歯磨きして寝ましょ。」
「んー……。」
「……その前にお父さんに電話?」
「うん!」
にこっと笑いながら携帯を取り出した母に、少女は同じように笑って大きく頷いた。
此処は蛭間家。
首相、蛭間一郎の妹弟のうちの数人や彼の妻子が暮らす家。
母から携帯を受け取った娘は、短縮ダイヤルで父のプライベートな携帯へ電話をかける。
案の定留守電だが、娘はその留守電に「お父さん、おやすみなさい!」と元気に告げ、そして切る。
これは彼女が、小学校に上がってからの日課のようなものだ。
父は忙しく、一緒に過ごす時間など殆どない、それゆえにこうしたちょっとしたつながりも大事なのだ。
「さ、寝る準備をしてらっしゃい。」
「はーい。」
雪路が洗面所に駆け込んでいったのと、玄関の呼び鈴がなったのが丁度同時だった。
「…はい?あら。」
「こんばんは、義姉さん。」
カレンがチェーンが掛かったままの扉を開けて外を確認すれば、そこに立っていたのは義弟の七星。
「ちょっと待って」と言うと、一度扉を閉じてチェーンを外す。
「どうしたんですかぁ…?こんな時間に…。」
「兄ちゃんから頼まれてた…義姉さんの護衛の件で。」
「ああ!…本当に一郎は過保護なんですから。」
クスクスと笑う義姉を見てから、七星が一度脇にそれる。
彼の背後にはメイド服に長身の金髪女性と、頭巾を被った僧侶姿の女性。
少しちぐはぐな2人が、ぺこりとカレンに向かって小さく頭を下げた。
カレンもそれに釣られるように頭を下げる。
「この2人が、今日から義姉さんの側につくから…。」
「はあ…分かりました。」
「…挨拶をしたらどうだ?」
「はいはい。…Piacere.奥様、本日から護衛をさせていただきますマリア・マリアと申しますわ、よろしくお願い致します。」
「初めまして、水無瀬月慈と申します。蛭間夫人にお会いできて光栄です…彼女と一緒に、護衛の任務につかせていただきます。」
七星に促されると二人はそれぞれ挨拶をし、そして握手を交わす。
「それじゃあ、俺は戻るよ。」
「お仕事ですか?…一郎もそうですけど、七星さんも無理しちゃダメですよ?」
「わかってるよ。…じゃあ……あ。」
義姉にそう告げて立ち去ろうとした七星だが、一度立ち止まってぐいとマリアのことを引き寄せて耳元で言う。
「義姉さんは『なんにも』知らないんだから、うっかり妙なことを言わないように。」
「分かってますよう、信用ないなあ。」
「まあいい……それじゃあ義姉さん、身体には気を付けて。」
「はいはい。…おやすみなさい。」
「おやすみ。」
彼を見送った後、カレンは護衛としてやってきた2人を伴って家の中へ戻る。
雪路は既に私室に戻ったのか、リビングの灯りは消えていた。
「私が奥様の寝室で、月慈さんが一階でそれぞれ護衛を行いますので。」
「あら、お二人一緒ではないんです?」
「まさかということもありますから…。」
マリアがそう説明しつつ、にこっと笑って月慈に目配せする。
薄く笑いながら、月慈もそれに応えるように頷く。
「それでは奥様、寝室に参りましょうか。」
「はい。」
マリアは恭しくカレンの手を取り、カレンはそれにくすくすと笑いながらもそれに合わせて階段を上がっていく。
「………さて。」
2人を見送った月慈は、すっと頭巾を外す。
剃り上げられたきれいな形の頭が、薄闇の中に浮かぶ。
「……仕事を始めましょう。」
終わり(!)
マリアさんの言ってるあれはイタリア語で「初めまして」って意味だよ。読み方は自分で調べてほしいよ(作者の屑)
月慈さんが下なのは能力的なあれです…
次は…なにかあるかも?(笑)