「これはなかなかいい収穫だったな。」
迷宮区での『コボルド・アイアン』との戦闘でポップしたレアアイテム『ロングソード』をすぐさま装備する。ぶっちゃけ、はじまりの街で無料配布されている支給品ソードじゃ追い付かなかったのでラッキーだった。
オレ自身、現実世界では体一つで戦ってきたがこのSAOではそれがちと厳しい。一応ベータの時に《体術》というエクストラスキルを発見し苦難の末修得したが途中で投げ出した。
なぜかって?そりゃオレも初めは自分に一番しっくりくるスキルだと思ったさ、技一つ一つの威力も強かったしな。だが…こいつには致命的な弱点があった……それは、遠距離攻撃にめっぽう弱いことだ。…アインクラッド3層迷宮区前にポップする『ハニー・ホーネット』と戦闘した時の出来事だ。いつものようにステップインからの連打で仕留めようとしたとき『ハニー・ホーネット』が毒針を連射してきたのだ。勿論躱した…が、その周りには無数の『ハニー・ホーネット』の群れがいたのだ。そして集中砲火。毒針自体はてんで大したことない威力で数秒麻痺状態となりスタンするだけである。しかしその近くには当たれば一発即死の猪型モンスターが―――――あとは…ねぇ…?察してくれよ?
まぁこんな経緯から体術は捨てて片手剣に転職したのだ。
「このクソゲーがッ!!なんて言っていた自分が恥ずかしいな。ネトゲ神の名が廃るぜ…」
そう…オレは過去『二階堂麗華』というユーザー名でネトゲ環境を支配していたのだ。ちなみに二階堂麗華ってのは過去、ボディーガードをしていた時のプリンシパル(警護対象者)である。
あれからもう一年は経つが今でも麗華、彩、のことはたまに思い出す。決して未練があるわけじゃない、ただ印象に残ってる女っつーか……。
「やめだやめだ、今はレベリングに集中しねーと。」
ヒュン―――
「ん?」
今、何メートルか先で光が見えたような…
ヒュン―――
まただ…また光った…それに機械染みた動物の呻き声もする…。
「誰か、モンスターと戦っている…?こんな時間に?」
今、現実世界では深夜3時を廻ったところだ。こんな時間まで狩りを続けるなんてよっぽどのネトゲオタか……いや、その可能性はないな。このデスゲームと化したSAOでそんな奴はいない。あ、オレは除外な。
「行ってみるか…もしかしたら新しいクエストの可能性もある」
そう一人ゴチったオレは一歩、また一歩と近づいていった。
「なんだ…ありゃ……。」
オレは我が目を疑った。頭から腰近くまでを覆うフード付きケープを羽織った(NPC?いや…プレイヤーログが出ている…)剣士が『ルインコボルド・トルーパー』と激闘を繰り広げていたのだ。
「いや、あれは鬼気迫るっつーか…狂気染みてるっつーか……とにかくあぶねぇ。」
コボルドの振り回す斧を紙一重のところで躱し、コボルドのスタン状態を見逃さず、初級細剣スキル『リニアー』を叩き込む。『リニアー』のスピードは凄まじく、システムのモーション・アシスト任せではなくプレイヤー本人の運転命令で速度をブーストしている。SAOには、固定された動きに現実世界の自分の運動能力を+できる隠れ要素が存在する。オレもこのシステムに気付くのに時間は掛かったが、おかげで格上のモンスターとも互角以上の戦闘ができている。
オレが考えに耽っている間にパリィンという効果音が鳴り響き無数のポリゴンが四散するのがみえた。
「見事だな。あっぱれとしか言い様がない」
狂気剣士はHPバーをほぼフルに残した状態で、疲れたのか通路の壁に背中を預け荒い呼吸を整えていた。
向こうはすでに10メートル圏内にいるオレの存在には気付いていないようだ。このまま邪魔するのも何だしさっさと立ち去ろうとしたときだった―――。
『ウギュルルル―――ッ!!』
「!?なぜ…なんてこった……。」
突如、剣士の周りにゾロゾロと集まりだす『ルインコボルド・トルーパー』その数、5体。
(おかしい…ベータの時はこんなことはなかった…)
「あんなに早くモンスターがポップするはずがない…デスゲームと化したことで新たな罠が仕掛けられていた…?」
どうする…
どうする―――
どうす………る?
「オイオイオイ、バカかオレは…。何でオレが見ず知らずの剣士助けなきゃいけねーんだ。」
正義のヒーローかっつーの。どこまでも利己的なオレが人助け?…馬鹿馬鹿しい。これじゃ麗華ん時と同じじゃねーか。また面倒ごとに巻き込まれるぞ…。退屈は嫌いだが自ら飛び込む必要はない。死ぬなら勝手に死ねばいい。罠に気付かなかった自分を恨め運命を恨め。
………………
……………
…………
………
「くくっ、やっぱオレ何も変わってねーや。」
オレは―――――――駆け出していた―――。