「…あなた、お人好しね…。」
「別に。さっきも言ったが……って何回も言うのメンドくせぇや。これはまぁ…お礼ってことで。」
トールバーナの噴水前広場で二人して横長のベンチに座り、NPCが販売する激安なだけの味気ないパンを頬張る。正直、旨いか不味いかで問われると不味いと答えるレベル。ちなみにお互い、左右の隅っこに座っているため相手の表情は伺えない。
「お礼…?あなたにお礼をされるようなことをした覚えはないんだけど?」
「さっきのあんたの戦闘のことだよ。あの細剣の突き、あんな綺麗なモーションで敵の急所を狙えるやつは初めて見た。」
「そう…。わたしにはよくわからないけど」
言うが早いか、女剣士《Asuna》はスッと立ち上がり背を向けた。
「わたし…もう行くから」
「…行くってどこにだよ」
「迷宮区。」
「また…死ぬために行くのか?」
「違う…この世界に勝つために……怪物に負けても、この世界には負けたくない。」
どうやら少し考えが変わったようだ。先程までは人形みたいだったがいまは違って見える。
「明日の夕方…いや、もう日付変わってるから今日か、この場所で第1層フロアボス攻略会議が開かれるらしい…オレの情報屋の友人によればな。…負けるんだとしても雑魚よりはボスのほうが勲章になるだろ?」
「…………。」
《Asuna》はそのままNPCが運営する宿屋へと姿を消した。恐らく今日はこれで落ち着くだろう。
「あとはあいつ次第だな。オレが干渉する必要はなくなったわけだ」
一応やれるだけの助言はしてやったつもりだ。今日の会議にあいつが来ようが来るまいがあいつの自由。
「カー君が人助けなんて、珍しいこともあるもんだナ」
「アルゴか。人助けするのは善人のオレにとって当たり前だ」
トールバーナに到着したあたりからずっとあとを付けていたのだ。通称《鼠のアルゴ》こいつは情報屋だから隠蔽スキルもなかなかに磨いている(まぁ存在を薄めるだけで気配でバレバレだったが…)
「カー君が善人?にゃハハハ!!…寝言は寝テ言うんダナ」
「善人の申し子とも言われたオレに対してその態度…無礼であるぞ!!」
「プッ。……まぁ大体予想はつくヨ。これ…なんダロ?」
アルゴはまだ幼さを残したしたり顔で小指をピッと突き立てた。…いや、違ぇから。
「お前にはあれが恋人同士の関係に見えたのかよ…冗談はアルゴの存在だけでおなかいっぱい」
「なんだイ、お姉さんをバカにしてるのカ?」
「やかましい。合法ロリが」
このみてくれでオレより年上なんて抜かすんだぜ?オイ神様どうなってる
「まぁそんなことはどうでもイイ…でるんダロ?攻略会議」
「いや、オレは出るつもりはナイ」
「くちグセくちグセ」
「おっと失敬。オレはまぁそこらで見物させてもらうつもりだ。」
「おや、そうなのカ。てっきり隊長宣言でもするものかと」
「オレが隊長ってガラかよ。ほかの連中を引っ張っていくなんてゴメンだ」
「まぁたしかにそうダナ、階段をヨチヨチ上ってるご老人を蹴り飛ばしていくようなヤツだ。期待はしてないさ」
「どっから仕入れんだよそんな情報…」
「女には一つや二つ隠し事があるものさ。……ボス攻略戦、たのんダヨ」
そう言うとアルゴはまだ明けない街の闇の中へ消えていった。
「ボス攻略戦、出るつもりないんだがなぁ。やるなら一人でやりたいもんだ」
―――――――――――。
夕日が差し込む中、トールバーナ噴水広場前ではボス攻略会議が行われようとしていた。
「意外と集まったもんだな」
広場前に集まる総勢43名のプレイヤー達。てっきり臆病者ははじまりの街に閉じこもっているものとばかり思っていたのだが。
「それでも全体の100分の1にも満たないのか…先が思いやられる」
オレ?オレは参加していないぞ。少し離れたところにある木の影にバッチリ隠れている。いや、だってあの女剣士様にあんなデカイこと抜かしておいて自分だけ行かないなんて最低じゃん?…ハイそうですオレのことですごめんなさい。
「噂の剣士様もちゃんと来たんだな。まぁあの怪しいケープのせいで悪い意味で目立っちまってるが…。」
「おーい!みんな集まってくれ、攻略会議始めようぜ!!」
どこからともなく聞こえてきたのは鮮やかな青にウェーブ掛かった髪をしたイケメン片手剣使いだった。まぁオレほどのイケメンではない。
『なんちゃって二枚目ですね』
…まーた幻聴が…無視無視。
「今日はオレの呼びかけに応じてくれてありがとう!!初対面の人が多いから一応自己紹介しておくな!!オレはディアベルっていうんだ、よろしく!!」
青髪剣士が発言を終えるとたちまち周囲がドッと湧いた。……しかしあの顔どっかで…いや、今はいいか。
「今日みんなに集まってもらったのは、まぁ言わなくてもわかると思うけど…昨日オレ達のパーティーが第一層最上階…つまりボス部屋を発見した!!」
「ここまで1ヶ月…長かった。でも、オレ達は救わなければならない!はじまりの街で怯え苦しんでいる人達を!教えてやらなければいけないんだ、このデスゲームはクリア不可能なんかじゃないって!!」
剣士ディアベルに先程よりも大きな歓声が送られる。不覚にも格好いいとさえ思ってしまった。
「ちょぉ待ってんか、ディアベルはん。」
一団が場の雰囲気に酔いしれる中、現れた一つのサボテン。
「なんだありゃ…」
絶句ッ!せずにはいられないッ!!なぜならあのプレイヤーのヘアースタイルがサボテンだからだ。……いやいや、ネタじゃないぞ?わりとガチでびびってる。デスゲームと化したSAO内での自分の容姿は現実世界の自分に限りなく近いのだ。ドロップアイテムなんかで髪の色や型を変えることはできるが、誰が好き好んであんな髪型をチョイスしようか。おそらく現実世界でのヤツの髪型も……
「こん中に、今までに死んでいった2千人のプレイヤー達にワビ入れなアカン奴がおるはずや、出てこいや!!」
「えっと…君、名前は?」
「ワイはキバオウってもんや」
「ではキバオウ君。君の言うワビとは一体…?」
「決まっとるやろが!!クソベーター上がり共のことや!!ヤツらはビギナー達を見捨てて、自分たちだけウマい狩場やクエストを独占したんやぞ!!おかげでこの死者の数や!!ワビ入れてもらわなワイは命を預けられへん!!」
ギャーギャーとうるさい奴だ。まぁ、あのキバオウっていう男の言い分は間違っちゃいないが、その2千人の中には200〜300の、元ベーターテスターが含まれているはずだ。一文にはテスターだけが悪い、とは言いきれない。むしろオレは、簡単に死ぬ方が悪いとさえ思う。弱者を強者が踏み台にしていくのは当たり前なのだ。
「発言、いいか」
そして尚現れる新参。でかい、とにかくでかい。あと、めちゃくちゃ黒い。外人?
「オレの名前はエギルだ。キバオウさん、あんたは元ベーターテスター達に責任を取れと言ってるんだろ?だが、その責任転移は違うとオレは思う。」
「な、なんや…どういうことや」
「あんたの言うとおり金やアイテムはともかく、この鼠マークのガイドブック、あんたも無料で貰ったはずだ。」
「もろたで。それが何や」
「このガイドはどこの村や町に行っても無料で配布されていた。こいつに載ってるモンスターやマップのデータを情報屋に提供したのは、元ベーターテスターたち以外にはあり得ないとオレは、確信をもって言える。情報はあったのにたくさんの人達が死んだ。それは彼らがMMOのベテランプレイヤーだったからだと、オレは思う。ベテランだったからこその傲りだったんだ。今は責任転移の話しじゃなくて、オレ達自身がそうならないために話し合うのがベストなんじゃないか?」
「エギルさんの言う通りだ。キバオウ君、君の言うことも理解できる。でも、今は前を向くべきじゃないか?元テスター達を蔑ろにしてみんな死んじゃったら意味がないんだ。テスター達だからこそ、この攻略戦には必要不可欠なんだ。今は皆で力を合わせよう」
「ええわ……ここはディアベルはんに従っとく。けどな、ボス戦終わったら白黒ハッキリさせてもらうで。」
デカイ男も青髪剣士も饒舌で、あのうるさいサボテン頭の男を宥めてしまった。まぁあんだけ集中攻撃されたら元気のいいサボテンでも萎んでしまうだろう。
「みんな、オレ達はこれから友だ。元テスターとは戦えない…なんて、友を思わない奴は、残念だけど抜けてくれ、必要ない。ボス戦ではチームワークが何より大事だからさ」
場の雰囲気が、テスター死すべし!!からディアベルはんカッケェェ!!になった気がする。…なんだそれ。
「しっかしアルゴの奴がなぁ…。人のこと言えた義理じゃねぇぞあのヒゲ幼女」
またどこかで情報収集をしているであろう鼠に一言毒づきながら、オレはその場をひっそりとあとにしたのだった。