ボス攻略戦開始日、オレはトールバーナの町外れにある大樹の上で絶賛お昼寝中だ。なぜ、今?と思うかもしれないが…。
「こんないい天気の日に昼寝しないなんて、バチが当たっちまう。」
天気は晴れ、風はそよそよと、こんなぽかぽか日和はそうそうないだろう。現実だろうとバーチャルだろうとオレの、闇の中では眠れない体質は変わらない…。データの塊だろうと日の光を浴びるのは安心する。よって、何人たりともオレの眠りを妨げることは許さん。
「昼寝とはいい気なものダナ、ボス攻略組はもう戦闘中だゾ、カー君」
「………………。」
「こんな時に昼寝してる場合じゃないダロ、バチが当たるゾ。…いや、当たってしまエ。」
「何人たりともオレの眠りを妨げることは許さん!!って地の文で書いてあるだろ…わかったならあっち行け、シッシッ。」
「一体なんのことダ?…ってそうじゃナイ。カー君が戦わないなんて戦略的にまずいダロ。」
「何言ってんだ、第1層のフロアボスなんてオレが居なくても余裕だろ。あんだけプレイヤーがいたんだ、複数のレイドパーティーで殴って終わり、だろ?」
「そうかもしれないが、ただのゲームじゃないダロ?命が掛かってるんダ…何が起こるかわからイ。」
「………………。」
「ボス部屋にたどり着くまでに2千人死んダ…全滅の可能性だってある。それにカー君のカノ…いや、知り合いの細剣使いだっているんダロ?気にならないのカ?」
「別に。オレには関係ないことだ。………………ただ…」
「ただ?」
「茅場は普通のソシャゲを殺し合いのゲームにしちまうような男だ…なにかあるかもしれない。いや…ボスのスキルとか増えてそうだな。コルや経験値も大量に獲得できるかもしれないな、うん。LA(ラストアタック)品も豪華になるかもしれんな、うん。………よし、ちょっと様子みてくるわ。」
大樹から飛び降り、着地と同時に小走り。アルゴに背を向けて。後方から笑い声が聞こえてきたような気がしたが気のせいだろう。トールバーナを出てそこから猛ダッシュ。
人のためではない、自分のためだ。
「初めからそうするつもりだったくせに。変な意地張るのが、カー君のダメなところダナ。」
アスナside―――――
ボスの親衛隊『ルインコボルド・センチネル』の撃破数が5体を越えてもなお、『イルファング・ザ・コボルド・ロード』のHPバーは一ミリたりとも減っていない。
「勝とうぜとは言っていたけれど……本当に勝てるの…?」
四本もあるHPバーは変動したところを未だ見ていない。正確にはダメージはあるはずだが極小すぎて目視することができない。それに……
「なんであの人来てないの…」
内心、あの偉そうな剣士に毒づかずにはいられなかった。自分だけ来ないなんてあり得ない。あの人さえ来てればわたしがあぶれることはなかったのに…。…別に遊びに来てるわけじゃないからいいけど…
「考えたって時間の無駄、わたしだけでもボスにダメージを与えないと…」
何を必死に…と自分でも思うけれど今はいい。誰にもタゲを取っていなかったボス目がけて全力疾走。わたしの接近に気付いたボスはすかさず迎撃しようとするが…
「遅いッ……!!」
やった…!!渾身の『リニアー』が決まった。ボスもカウンター気味にダメージを受けたのでスタン状態、すかさずディアベルさんがスイッチに入ろうとする。これで少しは……。
「うそ……」
ボスは連続でダメージを受けたにも関わらず悠然と構えている。HPバーを見てみれば、四本あるうちの一本が10分の1減った程度…。これがボス…強いってものじゃないわ、ほぼ無敵じゃない…。
『グルァァアアアア!!』
「ッ……!!」
ボスは咆哮と共に右手に持っていた斧で攻撃範囲内にいたわたしとディアベルさんもろとも凪ぎ払った。
今の一撃で5メートルほど吹き飛ばされ、わたしのHPは…三割減少。範囲技で三割ならあの腰に携えている湾刀を抜いたら……
「おい!!あんた逃げろ!!タゲられてるぞ!!」
「えっ……?」
どこからともなく声が聞こえたと思う間もなく、斧を青白く発光させながら、2メートルは越えるであろうボスの巨体が目前に迫っていた。
「……あぁ…」
終わった…何もかも。負けたんだ、わたしは。この世界に……
刹那――――猛烈な速度でボスの懐に飛び込む一つの影が見えた。