目が覚めたら見慣れた天井が見えた。
確か私は鍋に火をかけ、その途中で大和さんが着替えを持っていないことに気づき、置きに行こうと思ったのだが……記憶がない。
「なんだろうか….首が痛い…」
まるで誰かに顔を叩かれた様な痛みを首が訴えている。
湿布を貼ろうと体を起こそうと思ったが、足が動かない。まるで、誰かが乗っかっている様で
「すぅ…すぅ…」
大和さんが寝ていた。その寝姿も美しい。着替えで渡した私の服はサイズが合っていなかったのか、シャツのボタンは殆ど外されており谷間が見えてしまっている。
「見てる場合じゃなかった……!」
慌てて起こそうと思ったが、その安らかな寝顔を崩すのも申し訳なく思えた。
少し寝させておこう。彼女のために私は生き残れたのだ。これぐらいはしてもいいだろう。
そう思い、綺麗な黒髪を優しく撫でる。
「んっ……あれ、私寝て……」
「済まない、起こしてしまったか」
寝ぼけ眼をこすり、彼女は視線を彷徨わせる。
やがてその視線が私で止まり、慌てた様に立ち上がり
ーーゴンッ
盛大な音と共に頭をベット淵に打ち付けていた。
頭を押さえながら蹲る彼女。そんな彼女がイ級を倒した時と違う存在に見えて思わず笑ってしまった。
「わ、笑わないで下さい…。頭本当に痛くて……っ」
プルプル震えている。こんな女性が深海棲艦を倒したのだ!笑わずにはいられない!
「あははは!君は面白いな!一瞬の内に深海棲艦を倒した時は戦女神でも出たのかと思ったが、普通の女性と同じじゃないか!」
久し振りだ、ここまで声を出して笑うのは。提督たちが来た時もここまで笑うことは無かった
「……うふふっ、やっと笑顔になりましたね提督」
「提督では無いと言っているだろう」
「ですが、私は提督意外の呼び名を知らされてはいません……」
確かに、提督とは呼ぶなと言ったが他の呼び名を伝えていない。実際提督なんかでは無いし、ここに訪れる彼の様に仕事ができる人間などではない。
「そうだな、呼び名が無いのは確かに不便だ」
大和さんがどいた事でベットから起き上がることが出来たので、そのまま立ち上がる。
そして彼女の前に立ち手を差し伸べた
「私の名前は『遊佐潮見』短い間だが、よろしく頼む。」
「え、短い間とはどういうことですか…?」
手を取る直前、彼女の動きは固まった。
何故だろうか?不思議に思いながら彼女の目を見ると不安で揺らいでいた
「どういうことも何も、君は艦娘なのだろう?ならば提督の所に所属するべきだろう。幸い知り合いの提督がいる。近い内に彼が訪れた時にでも君を鎮守府に連れてってもらえる様にお願いしてみよう」
艦娘は深海棲艦を滅ぼす存在である。ならばこそ、彼女はここにいないで鎮守府に居るべきだろう。
「で、ですが…私を建造してくれたのは貴方ですっ。」
「私が建造を頼んだわけでは無い。君が生まれてきたのは偶然だ。だが、その偶然にも恐らく意味があるだろう。それは私達弱い人間には成せない事だ。人類を、私では守れない。君達が必要なんだ」
紛れもない事実だ。
深海棲艦には人類が生み出した兵器は効果が無い。物理的な攻撃も、核による爆撃も。奴らは無傷であった。
対抗するには艦娘が持っている装備、それも妖精が作った装備出ないとダメージは与えられない。
「大和さん。君は見た所強いのだろう?」
「大和型は…私の考える大和型は、負けませんっ」
「ならば人類のために、その力を奮ってくれ。こんな小島で燻らないで、世界を救ってくれ」
そう告げると彼女は俯いてしまう。鎮守府で彼女はその力を奮って欲しい。
「ほら、顔を上げてくれ。スープをご馳走しよう、せめて君がいる間美味しいものを作るつもりだ」
「私がいては……駄目ですか?」
涙を流しながら、彼女が聞いてくる。
子供をあやす様に、出来るだけ優しい声を意識しながら告げる。
「艦娘が居るべきだろう場所はここでは無い。先程も言っただろう?」
「私は、偶然であれ貴方の元に生まれましたっ。なら、例え、貴方が提督で無くても、私の守るべき人は貴方です!」
「一を救うよりも多を救え。それが艦娘の役目だ!」
「艦娘である私の役目は確かにそれが正しいのかもしれません!なら、私は艦娘で有ることを放棄します!」
「何を馬鹿なことを!」
「生みの親を放棄する必要があるならば、私は唯の人として過ごします!」
その目は本気だった、その目に思わず後ずさる。
そこまでの覚悟を使うべき時はここでは無いだろう…
ため息を漏らし、大和さんの視線を受け止める。
「唯の人と過ごすのもいいだろう、それはこんな小島でなく本土でも出来るじゃ無いか」
「家族と、一緒に過ごしたいと願うのは間違いですか」
その質問は、ずるいじゃ無いか…
家族を捨てることは出来ない、だが彼女は艦娘だ。
ならば彼女は人として過ごすという。家族としてここで過ごしたいと言う。
私は考える。長年触れ合えなかった家族と触れ合える。
深く考える必要は無い。家族と過ごすだけだ。
ただそれだけなんだ。
「大和さん」
「はいっ」
「まず、泣くのをやめてくれないか?」
「やめようとは、してます!」
「大和型と言うのは、随分と泣き虫なのだな…」
「ち、違います!」
艦娘も泣くのだ。恐らく痛みを感じるし、色々な感情を抱くことも有るのだろう
「大和さん、こんな俺の所でよろしければ、頼む」
「私は、ここにいても、いいのですかっ?」
「頼むと言っただろう。一緒に暮らそう」
「はいっ、よろしくお願いします!」
差し出した手を、彼女はゆっくり握ってくれた。
難産!
大和さんは艦娘を辞めました(白目)
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