大和さんが家族となった翌日。
私は海に近い丘の上に立っていた。足下には小さな石が積み上がっており、花が添えられている。
「皆、今まで済まなかった…。墓も作ることなく放置していたとは、私自身驚いている」
嵐が過ぎ去り、朝から日差しが強く差し込んだ今日。今まで作ってなかった墓を、簡易ながら作った。
「父さん母さん、今までありがとう。愛情注いで育ててくれてありがとう。名も知らぬ商人の方、こんな私の為に時間を割く様な真似をしてくれてありがとう。私にも大切な家族が出来た。守るべき家族が出来た。こんな時代でも…生きていたいと思える様になった……」
心の内を吐露して、墓に酒を注ぐ。
残り数の少ない嗜好品だが、こう言った時に使うのなら良いだろう。
「安らかに、眠ってくれ……。また報告が会ったらここに来るよ」
家に帰り、飯を作ろう。
今日も一日が始まる…
-----
「しかし、艦娘と言うのはよく食べるのだな…」
五合近く炊いた筈の米が尽き、驚きを言葉に表す。
赤城と言い加賀と言い大和さんと言い…。艦娘は全員大食らいなのだろうか、そうなると鎮守府が食糧難に見舞われるのではないだろうか
「や、大和型は巨大な艦体でしたので…。それに伴い消費する資材も多く…」
「つまり君も大食らいと言うことだろう?何も攻めているわけでは無い、幸い私の畑は五人分近く食べる量が増えたからと言って直ぐに枯れ果てる程やわではない。しかしだ、働かざる者食うべからずと言う。大和さんにも働いてもらうぞ?」
「は、はい!大和型の力を見せて差し上げます!」
艦娘を辞めると言ってた筈なのだが、まだ大和型に拘るのだな。少し可笑しく思い笑ってしまった。
「何を笑っているのですか…。所で、私は何を手伝えば良いのですか?」
食べ終えた物を片付けながら、彼女に手伝ってもらう事を考える。
まずは、この島の生活に慣れてもらう為にも小さな畑でも耕してもらうとしよう。
「大和さん、この服に着替えてくれ。」
「分かりました!」
そうして私が手渡したのはブルマだった。
-----
妖精に頼んだことがあった。
体を動かすに適した服を作れないかと
そうして出来上がったのがジャージとブルマ。当時私しか服を着る人がいなかったためにブルマは提督に押し付けたのだが、何着か妖精さんにジャージを作ってくれと頼むと必ずブルマとセットで出てきた。不思議である。
提督の秘書艦である金剛さんに使い心地を聞いて見たが
『GOOD JOBネ!』
と親指を建てられた。布面積の少ない服なので恥ずかしくはないのか聞いてみたら
『No problem!下着と同じ感覚デース!ブルマを履いて一日過ごしてみましたガ、機動性抜群で絶好調デシタ!』
つまり金剛さんは下着で一日過ごして見るのと同じことをしたんですね。と論破したら頬に大きな紅葉が咲いた。
何てことはあったが機動性抜群の服で有ることには変わり無い。なので今回大和さんに着てもらったのだが
「少し恥ずかしいですが、動きやすくて良いと思います」
とのこと。鎮守府では下着扱いされていることは黙っておこうと思う。知らない方が幸せになれるから…
「それにしてもっ、畑を耕すのは思いのほか体力を使うのですねっ」
「全身の筋肉を動かす必要があるからね。慣れない内は疲れを感じるが、慣れてしまえば楽な物だよ」
彼女には自分専用の畑を耕して貰っている。
そこで好きな物を育てて貰うつもりだ。
「自分が丹精込めて作った物は途轍もないご褒美になる。花は美しいし作物はこの上なく美味い」
「今からでも、楽しみですっ!」
その気持ちがあれば苦になることは少ないだろう。
戦う以外に体を動かすことが少なさそうなので、運動不足解消にももってこいだ。
「どれ、少し早いが私は昼食の準備に取り掛かるとしよう。大和さん、範囲分を耕したら戻ってきてくれ」
「了解、しましたぁっ」
今日はうどんを作るとしよう。量も多めに作らねば成らないのが難点だが…
-----
「今度は何処に向かうのですか?畑とは違った方向に進んでおりますが…」
木々が生い茂る小さな島の森の中を、動物達に話しかけながら進む。
最初こそ会話が成立していることに驚いていた大和さんだったが、今は全てわかってますから。と菩薩の様に優しい笑顔を向けてきている。何時か誤解を解かないといけない
通りがかった鶏に卵を貰いながら彼女の問いに答える。
「簡単な事だ。海釣りだよ、海釣り」
「はぁ…釣りですか?」
「うむ、生憎と魚を長期保存させる術を私は知らんのでな。食べる分は釣って来ないとならぬのだ」
「なるほど…ではなくてですね?昨日の今日で何故海に向かうのですか!深海棲艦がまだいるかもしれないのですよ!」
「なんだ、そんなことを考えていたのか」
「そんなことっ!?」
「君は艦娘を辞めると言ったが、家族が危機に瀕したら助けてくれるのだろう?なら大丈夫だな。私には最高の家族がいるのだから」
「潮見は、結構ズルイですね。そんな事を言われたら止めることは出来ないですよ…」
ズルくて結構。
そう言えばと、名前で呼ばれたのは初めてである。その事に気がつき、少し恥ずかしかった。
「どれ、着いたぞ。色々な物が打ち上がっているなぁ…」
「昨日は凄く海が荒れていましたしね。当然の結果です」
流れ着いた物を横目で見ながら、何時ものポイントに辿り着き彼女にも竿を渡す。餌は特にないが、ここの周囲に外敵がいないのか魚達の警戒心が薄く簡単に食いついて来る
「釣りをするのは、初めてです」
「まぁ当然であるな。これで経験が有ったら驚きで海に落ちてしまう」
昨日生まれた艦娘が経験済みであるなら、本当に驚く。
「やることは簡単だ、ただ針のついた糸を遠くに投げ入れるだけだ。」
「なんとも、のんびりとした物ですね…あっ」
「あっ」
私の真似をして彼女も針を遠くに飛ばそうとしたのだが、竿が手からすっぽ抜けて行った。
「あははは!君は本当に面白いな!」
「か、勝手がわからなかったんです‼︎そこまで笑う必要は無いじゃ無いですか!」
ヒーヒー言いながら笑すぎで痛むお腹を抑える。彼女が本当に艦娘には見えなくて、何処が嬉しい。
「あー死ぬかと思ったぞ。しかし大和さん、竿が無いと釣りは出来ぬぞ?」
「むー…、でしたら私は付近を散策してきます。まだこの島のことは理解して無いですし、ちょうど良い機会です」
「ふむ、それも良いだろう。ならば適当に散策を終えたら戻ってきてくれ。私はそれまでのんびりと過ごすよ」
「分かりました。では潮見、失礼します」
そう言うと彼女は日傘を差し、優雅に去って行った。
あんな仕草も出来ると言うのに、何処か抜けているのだな
「さて、と」
竿を握りながら私は目をつぶる。竿が震えたら目が覚めるので基本的な私の釣りのスタイルは眠って待つことである
直ぐに襲いかかってきた睡魔に身を委ね、私の意識は沈んでいった。
-----
「潮見、潮見!」
体を揺さぶられ、目を覚ます。
「どうしたんだ大和さん、そんなに慌てて」
「仲間がっ、私の仲間がっ!」
仲間?と言うと艦娘のことか?
深呼吸をして落ち着く様に促し、改めて話を聞く。
「お見苦しい所をみせました」
「何、気にするな。それで急いで来た理由はなんだ?」
「はいっ、艦娘が…私と同じ存在が打ち上げられています!」
「ふむ、そうか。息は?」
「それはっ、遠目で確認して直ぐに知らせに来たのでわかりませんっ」
「ならば、確認しに行くとしよう。」
「よ、宜しいのですか?」
何を言っているんだ?と、彼女の顔を確認して見ると、申し訳なさそうにゆがんでいた。
「潮見は、私が来た時は余り良い顔をしていませんでした……」
む?そんな顔をしていたのか私は?
「ですから、今度は放っておけなど言われる可能性も考えていたので……」
「鬼か悪魔か、私は」
確かに私は余り人と関わろうとはしないだろう。だが流石に誰かが倒れているからって放置する程心は腐ってはいないつもりだ
「ほら、案内を頼むよ大和さん。」
「はいっ!承りました!」
-----
「傷が、目立つな」
案内されていた場所にいた女性には、火傷や裂傷など多くの傷が確認された。着ていたであろう服も原型を留めておらず、そこから晒される肌は赤く染まっていた。
「大和さん、君が持って来てくれた鞄を渡してくれ」
「は、はいっ!」
倒れている彼女に申し訳なく思うが、胸元を覆っていた服を破き呼吸をしやすい様にする。
女性の象徴である胸が晒されるが、無事に助かったとしたら存分に謝るから許してくれ。と、心の中で告げる。
胸に耳を付けたが心音は確認出来ない。救命措置を試みる。顎を上げて気道を確保し人工呼吸にて酸素を送り込む。無事に肺の部分が膨らんでいるのを確認し、心臓マッサージに移行する。
それらを繰り返して暫く
「ガハッ、ッハ」
何とか彼女は息を吹き返したが、まだ安心は出来ない。
「お待たせしました!」
待ち望んでいた大和さんの到着。彼女が持ってきた鞄の中から妖精が渡して来た『バケツ』を彼女にぶち撒ける。
これにより妖精の言う通りであれば艦娘の傷は直ぐに癒えるはずだ。
すると傷付いた彼女の体が光だし、光が収まると傷一つない綺麗な体に戻った艦娘がいた。だが
「目を覚まさないな」
「はい、傷は癒えていますし呼吸も自発的におこなっています。ですので目を覚ますのは直ぐだと思うのですが…」
「しょうがない、日も暮れて来てしまっている」
気が付けば太陽は沈みかけで、この場所で夜を迎えるのは得策では無い。
「潮見、彼女を家に連れて帰るのは、ダメでしょうか….」
「家に連れて帰るしか、無いか…」
「すみません潮見、私の我儘を……」
これぐらいの我儘なら可愛い物である。それに人を見捨てる様な真似はしたくない。
倒れている彼女を抱きかかえ、帰路に着く。長く伸びた銀の髪が腕からこぼれ落ちる。
「んっ…私は…」
「っ!大丈夫か、自分に何が起きたのか覚えているか!」
抱きかかえた衝撃で目を覚ました彼女に、慌てて質問を投げかける。
「思い…だせないっ」
「おいおい、まさか…」
「私は、誰?」
その言葉を告げ、彼女はまた意識を失った。
記憶喪失と来たか…
自身の名を思い出せない彼女と大和さんの三人で家に向かう。
また、何かが起きそうな予感がした…
君はー誰だー誰だー誰だー
UA1000突破いえい