翔鶴を家族として向かい入れてから、早いもので一ヶ月が経過した。
彼女は何故か私の後をついて来る事が多く、雛鳥の様で可愛い物だ。その一方大和さんからの視線がとてつも無く痛い。艦娘でありながら、翔鶴は余り力仕事に向いていないらしく、私は彼女は畑仕事では無く家事を教えることにした。
ある日、料理を教えて居たら翔鶴が
「まるで奥さんみたいですね」
なんて事を言って来た物だから
「君みたいな美人な奥さんが居たなら、私はとても幸せだろう」
などと返事して見た。
あの時の翔鶴の笑顔はとても美しかった。本当に彼女が奥さんであれば世界一幸せになるのでは無いかと思えてしまった。
彼女はとても物覚えがよく、あっという間に私の手がかからない様になってしまった。嬉しい反面少しだけ淋しく思う。
これで畑仕事に専念出来ると思ったのだが大和さんや妖精に「たまには潮見の作った食事が良いのです」なんて言われてしまったので翔鶴と交代で作ることになった。
何故かは知らないが、私室が豪勢になった。
革張りの椅子に、大袈裟なほど大きなデスク。窓から見える風景がとても美しく、何処のホテルなのかと勘違いしてしまいそうだ。そんな感想を大和さんに告げたら怒られた。ホテルじゃありません!と。彼女にも触れられたく無い闇があるのだろう。そう考えたらとても申し訳なくなってしまった。
そこから大和さんとの関係がギクシャクしてしまった。何度も謝ってはいるのだが、大和さんが余り笑顔を見せなくなった。
このままでは家族関係に亀裂が入る。そう考えた私は提督に相談することにした。
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「ーーと、言うことなのだが。何かいい解決策は無いだろうか」
『ふむ、中々に愉快なことになっているな。余り女性の過去を暴く事はしたくは無いのだが、今回ばかりは教えても罰は当たるまい。』
そこから提督の口から語られたのは、戦艦としての大和の歴史であった。
出撃する機会も少なく、設備の良さからホテル扱いされていた。知らなかったとは言え、彼女には申し訳ないことをしてしまった……
「何か…私が彼女に対してして上げられる事は無いものか……」
『済まないがそれに関しては私は力を貸すことはできない。私の言葉では無く君の言葉で無ければ彼女には届かないであろう』
「……確かにそうだな。すまなかったな提督、今度遊びに来てくれたらご馳走するよ」
電話を切った後、私はすぐさま作業に移った。畑仕事も大分楽になった今、時間は楽に取れる。
この島には樹齢がわからないほど偉大な雰囲気を宿す大樹がある。その樹に話しかけ、枝を一本もらうことに成功した。枝と言ってももはや丸太である。これを削り出し、私だけの手作りアクセを作る。
不恰好だがよくできていると思う。
彼女が喜んでくれたらいいのだが……。
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「大和さん、少し時間宜しいだろうか」
食事を終えて、ゆっくりと過ごしていたら潮見が話しかけて来た。ここ最近個人的な事で軽く避ける様な真似をしていたので、とても気まずい。
「私と会話するのも嫌なのは百も承知なのだが、済まないがちゃんと謝る機会をくれ」
「謝るも何も…、悪いのは私で…」
ただ、嫉妬していただけなのだ。
大人気ない私の嫉妬。
「ホテルなどと言ってしまい大変申し訳なかった。君の過去を知らなかったとはいえ、不用意にあの様な事を言ってしまい恥ずかしく思う!」
「はい?え、潮見落ち着いてください!謝るってそんな事ですか!?」
「む、そんなこととはなんだ。私なりに色々考えて、悩んでいたのだぞ」
「何もホテルの話をしたから怒っていたわけではありません……」
「では何故そんな怒っていたのだ…、家族に嫌われたのでは無いかと思って不安だったぞ…」
しょんぼりとした潮見の姿が、叱られた子犬の様で胸が高鳴ってしまいます。
ただ、なんで怒っていたのかと聞かれても素直に伝えにくく…。
「まぁ、潮見さん。女の子には色々とあるんですよ?」
翔鶴、ナイスフォローです!
タイミングよくお茶を持って来てくれた彼女に感謝を捧げ、この話題も終わるのではないかと思ったが。
「しかしだ翔鶴、私はこのまま家族とギクシャクしたまま過ごしたく無いのだ。もし原因が私にあるのならば直ぐに直そう。だから、大和さん。教えてくれないか……」
そんな上目遣いでこっち見ないで下さいよ!
翔鶴に助けてと視線を送って見たが、顔を横に振られてしまった。
こうなっては、腹を括るしか無いか…。
そうして私は、恥ずかしい話をする羽目になった
「あの…ですね?余り大きな声で言いたく無いのですが、その……翔鶴だけでは無くて……えっと、私のことも『大和』と呼び捨てにして欲しいなと……」
あぁあ顔が熱い!何を言わせてくれてるんですか!
恥ずかしさで顔を背け、俯く。
カチコチカチコチと、時計の音だけが鳴り響く。
「えっと、つまりは呼ばれ方に不満があったと?」
「はい、はい…。翔鶴だけ呼び捨てで、私はさん付けだったので、壁があったと言いますか……」
「そうか、済まなかったな。やはり私はまだ心の機微に疎いらしい。」
そう告げると潮見が私のそばに近づいて来て
「大和」
耳元で優しく、囁いて来た
「ひゃあっ!?」
思わずおかしな声を出して立ち上がってしまう。
「な、なんだ?呼び捨てが気に入らなかったのか?」
「いえいえいえ、そう言うことでは無くてですね!何故、急に、耳元で呼んだのですか!」
「うむ、以前提督が言っていた。女性に気持ちを伝える時には耳元で囁いた方が効果的との事でな」
提督さんありがとうございます。お陰で私は幸せです!
「それで、コレはお詫びとして受け取ってもらえてら嬉しいのだが……」
「これは……」
そう言って渡されたのは、簪だった。
「あの、これって…」
「君は髪留めをよくつけているだろう?だから私が作ってみたのだが、嫌なら捨ててくれて構わん」
「嫌なんてとんでも無い!嬉しいですっ、凄く嬉しいです!」
桜が散りばめられたその簪を、私は胸に抱き締める。
「なら良かった。これからも、よろしく頼むよ大和」
「はいっ、私からもよろしくお願いしますねっ。潮見っ」
貴方と出会えて、本当に良かったです!
やまなしおちなし