ARIA The STRANGER   作:空日

1 / 5
時系列的には、灯里がマンホームから来る前日です。


『AQUA』

 

耳元でさざ波の音が響く。

 

さわさわ、ざざざっ、と絶え間なく続くその音は、なんとなく心が落ち着く。

 

もしかしたら、海が人間の故郷だからなのだろうか。

 

「―――ぁ……そ……―――」

 

いつまでも微睡んでいたい。

 

そう願いながら深い眠りに―――――

 

 

 

「―――あの、大丈夫ですか?」

 

 

 

かちり、と意識が繋がった。

うすぼんやりとしていた世界の音がとたんに身近になり、俺はゆっくりと目を開いた。

最初に目に入ったのは、綺麗な蒼穹と浮かぶ島。

そしてそれを遮るように影を作るのは、金と白の妖精じみた女性だった。

心配そうに眉を下げて此方を見下ろす女性は、見慣れぬながらも清涼な、水と初夏の風を思わせるような、白と青を身にまとっている。

綺麗な人だな、と純粋に思ってしまった。

 

「具合が悪いんですか? う~ん、動かしても大丈夫なのかしら」

 

「……いや、大丈夫です」

 

「……あら?」

 

むくり、と唐突に身体を起こした俺をみて、女性はぱちくりと大きな瞳を瞬かせた。

手を付いた感触に下を見てみるに、俺は硬い石畳の上で寝ていたらしい。

こんな予定ではなかったのに、と立ち上がって身体を大きく伸ばす。

しかし良く寝たなぁ、と大きなあくびを漏らしてから、ハッと女性に視線を戻す。

 

「あらあら。どうやらお昼寝の邪魔しちゃったみたいね」

 

「い、いやいや。起こしてくれて助かりました。まだ夕方は肌寒い季節ですから、寝過ごさなくて良かったです」

 

優しく笑う女性に慌てて言って、たしか今は四月初旬………いや、『AQUA』では八月か、と思い出す。

春めいた日はあっても、黄昏の運ぶ風はやっぱり少し冷たい。

まぁ今は昼だから、この女性も俺も、涼しげな半そでだけど。

 

「うふふ、じゃあ私も仕事に戻ろうかしら」

 

「え、仕事中だったんですか!? も、申し訳ない……」

 

「大丈夫ですよ、ほら、すぐそこですから」

 

そう言って女性の指差す方を見ると、シンプルなパリーナ(ゴンドラを結ぶ杭)に繋がれた、一艘のゴンドラがある。

……もしかしなくても、わざわざ陸に上がってまで見に来てくれたのだろう。

その事実にますます落ち込む俺に微笑と挨拶を残して、女性は去って行った。

 

「はぁ………さっそく失敗したなぁ」

 

俺が『AQUA』に降り立って、二時間もしないうちの出来事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――さて、こうして異世界から落ちてきた俺の導入は終わった。

 

 

――――訳のわからないまま『AQUA』に来てしまったのだけど。

 

 

―――あぁして良い人もいる、この美しい星ならば。

 

 

――俺もきっと、優しい時間を生きていけるだろう。

 

 

ーそう確信できる、温かい出会いだった。

 

 

 




アリシアさんの口癖って思った以上に入れづらい。

ともあれ、これで本格的に始動です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。