青春をつかむまで   作:slave

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本音と迷い

 初ライブを終え、余韻を残したまま帰り道を歩く僕達四人。ゆっくりとした足どりは疲れによるものなのか、少しでも長い間語らうためのものなのか。

 

「そういえばライブの歌と踊り誰も間違えなかったよね。通し練習では結構間違えてた気がしたんだけど」

「うん! 私は正直自信なかったけど、本番は上手くできたよ!」

「穂乃果は本番に強いですからね。それに練習もちゃんとやっていましたし成果が出たんでしょう」

「穂乃果ちゃん昔から本番には強いよね。小学校の時だって---」

 

 ことりの昔話を切っ掛けに三人がその話で盛り上がっていく。当然僕はついていけないので静かに聞き役に回る。他人の昔話は聞いているだけでも案外楽しいものだ。

 

「も、もう! 私の話ばっかりじゃん! 恥ずかしいからやめてよー!」

「話聞いてる限り穂乃果が無茶な事言い出したせいで大事になったりしてるよね。だから穂乃果の話ばかりになるのも仕方ないような……」

「そうですよ! 私たちはいつも穂乃果に振り回されてばかりです!」

「海未ちゃんちょっと嬉しそうな顔になってるよ?」

「なっ……!? そ、そんなことはありません! 心底迷惑しています!」

「えー!? 海未ちゃん私の事迷惑だと思ってたのー!?」

「そ、そういう意味で言ったわけでは……」

 

海未がいじられ始める。あたふたしながら誤解を解こうとしているが……そういう反応を見せるからいじられるんじゃないかな。

 

「海未、からかわれてるだけだよ」

「えっ!? そうなんですか!?」

「もー! きょーくんなんでばらしちゃうのー!?」

「海未ちゃんいつもいじられてることに気が付かないもんね」

「わ、分かりにくいいじりかたをしてくるあなた方が悪いんです!」

 

そう言って顔を赤らめながら拗ねてしまう海未。その姿は普段よりも幼く見える。

 

「海未も意外と子供っぽいところあるんだね。ずっと凛とした感じだと思ってたけど」

「ライブの後で泣きそうになってた恭介君に言われたくありません! あなたこそいつも落ち着き払ってるじゃないですか!」

「まあ僕はなるべく落ち着いて行動するように意識してるからね」

「そういうところが大人っぽいんですよ! たまには今日みたいに子供っぽいところも見せてください……」

「えっ? そりゃ僕だってたまにはそういうところ見せると思うけど……」

 

一瞬懇願するような目と口調になった海未に対して思わず戸惑いを伴った返答になってしまう。理由を求めるように穂乃果とことりをちらっと見ると何かを悟ったような悪い笑みを浮かべている。その表情から判断する限り聞いても答えてはくれなさそうだ。

 そして聞くかどうか迷っている間に話題が切り替わって聞く機会を失ってしまう。女の子の会話は話題がめまぐるしく変わるからついていくのが大変だ。

 

わずかに出来る会話の合間を縫って先ほど出来た疑問について考えながらなんとなく足元を見る。すると、夜に同化しかけている僕ら四人の影の距離が学校を出た時よりも近づいている気がした。

 

 翌日の昼休み、僕達は部員勧誘のためにチラシ配りをすることにしたのだが……

 

「はぁ……ふえぇ……」

「ことりちゃん最近毎日来るよねー。アルパカ小屋に」

「急にはまってしまったみたいです」

「ことりちゃん、チラシ配りに行こうよー、時間なくなっちゃうよ?」

「あとちょっとお……」

 

アルパカに夢中なことりは穂乃果の誘いにも生返事をしている。多分放っておくとチラシ配り出来ずに昼休みが終わってしまうだろう。

 

「ことり、確かにアルパカはかわいいと思うけど……昼休みの時間も限られてるしチラシ配り行こうよ。早くアイドル部を設立しなきゃならないしさ」

「そうですよことり。今のところ私たちの活動は学校側から見れば非公式の活動なんですから」

「ていうか、アルパカってかわいいかなあ……?」

「えー!? 私はかわいいと思うけどなあ。首のあたりとかふさふさしてるし……はぁぁ、幸せぇ……」

 

白い毛並を持ったアルパカの首を抱きしめるようにして堪能しているようだ。いくら飼育されてるものとはいえそんなに近づいて良いのだろうか。

 

「ことりちゃん、そんなに近づいたら駄目だよ! 危ないよ?」

「大丈夫だよ……ひゃあぁ!」

 

あまりにも近づきすぎたためかアルパカに顔を舐められてしまったようだ。ことりは驚いたせいで尻もちをついてしまっている。

 

「ことり!? ど、どうすれば……ここはひとつ弓で!」

「駄目だよ!」

「まあ、落ち着きなよ。ただ顔を舐められただけだから大丈夫……ん?」

 

慌てている海未を落ち着かせようとしていると背後から体操服姿の女の子が現れ、アルパカに近づいていく。

 

「よーしよし……」

「君は……小泉さん?」

「あっ……はい。そうです」

「おお! ライブに来てくれた花陽ちゃん!」

 

小泉さんだと分かるやいなや穂乃果が小泉さんの後ろから両肩に手を置き話し始める。

 

「ねえ花陽ちゃん、アイドルやってみない?」

「ええっ!?」

「君は光っている! 大丈夫! 悪いようにはしないから!」

「なんか、凄い悪人に見えますね……」

「でも、少しくらい強引に頑張らないと! あと一人でアイドル部設立できるんだし」

「まあまあ。強引に行き過ぎても相手を困らせちゃうよ。勿論小泉さんがやりたいっていうなら歓迎だけどね」

 

若干の期待も込めて発言する。小泉さんも十分アイドル出来ると思うし。引っ込み思案っぽいから本人が嫌がったら無理強いはできないけれど。

 

「あ、あの……私じゃなくて……」

「ん? ごめんね、もう一回お願いしていい?」

 

消え入りそうな声で何かを伝えようとする小泉さん。僕には後半部分の声が聞こえなかったけれど、それは一番近くにいた穂乃果も同じだったようだ。

 

「西木野さんが良いと思います。凄く歌……上手なんです」

「そうだよね! 私も好きなんだー、西木野さんの歌声」

「だったらスカウトに行けば良いじゃないですか」

「それもそうだね! 今度行ってみる!」

「あー……張り切ってるところごめん、実は作曲を頼むついでに軽く誘ってみたんだけど断られちゃったんだよね」

「えっ……すみません、私余計な事を……」

 

小泉さんが僕の言葉に反応して謝ってくる。小泉さんはとても人に気遣いが出来る性格なようだ。ちょっと気を遣いすぎて自分を出せない印象は受けるけど……少なくとも僕はそういう人が好きだ。

 

「全然大丈夫だよ。むしろきちんと教えてくれてありがとう。それと、西木野さんだけじゃなくて君も絶対アイドルに向いてるよ。だから私じゃなくてだなんて言わないでよ」

「で、でも……私は引っ込み思案で、声も小さくて……」

「かよちーん!」

 

小泉さんの声をかき消すように元気な女の子の声が響く。声の方向を向くと見るたびに小泉さんと一緒にいる女の子が近づいてきていた。

 

「かよちん、体育遅れちゃうよ? 今日は凛たちが体育の準備当番当たってるんだから早く行こ?」

「う、うん。じゃあ私はこれで失礼します」

「そっか。ごめんね時間取らせちゃって。小泉さんのお友達も。結構小泉さんのこと探したでしょ?」

「い、いえ! 全然そんなことないです」

「それなら良いんだけど……あ、よければついでに名前教えてもらえるかな。わざわざライブ見に来てくれた人の名前を知らないっていうのも失礼だし。ちなみに僕は渡辺恭介」

「星空凛っていいます」

「星空さんか。良い名前だね……ってこれ以上話し込んだら体育に遅れちゃうか」

「そうですね。じゃあ今度こそ失礼します」

 

そう言って二人はお辞儀して小走りで去ってしまう。どうせなら二人ともアイドルやってくれれば良いのに。さすがにこれはちょっと厳しい願望かな。

 

「私達もそろそろ戻りましょうか。結局できませんでしたね、チラシ配り」

「あっ……ごめんね。僕が話込んじゃったせいだね」

「いえ、大丈夫ですよ。チラシ配りはまた今度の機会にしましょう」

「むー……海未ちゃん、きょーくんにだけ優しいんじゃない? 私が同じ事やったら叱られちゃいそうなのに……」

「ほ、穂乃果は日頃の行いが悪いんです!」

「本当にそれだけかなあ?」

「こ、ことりまで!」

 

教室に戻るまで海未はいじられ続けていが、その原因は僕のようだったから口を挟めなかった。ちょっとからかわれた程度で顔を赤くする女の子なんて昨今珍しい存在だなあとも思ったが、教室に近づくにつれ顔がどんどん赤くなっていくのを見てさすがに心配になってしまうのだった。

 

 福田明神での放課後練習を終え、アイドル部設立に向けての話し合いという名目で僕達は穂乃果の家にやって来ていた。当の穂乃果は店番をやらないといけないらしいので穂乃果を除いた三人でしばらく部屋に待機することとなったが。

 

「それにしても……なかなか現れないなあ、アイドルやってくれる人」

「うん……廊下にチラシを置いてみたりはしてるんだけど……」

「穂乃果の言ったように多少なりとも強引に勧誘する必要があるのかもしれませんね……他の方の自主性に任せて待つばかりでは解決しないように思えます」

「でもあんまり強引に勧誘するのもなあ。間に合わせで人数だけ揃える、というのは一番やっちゃいけないことだし」

「そうですよね……そこが難しい所です。人数だけ揃えれば良いという訳でもありませんから」

『うーん……』

 

三人とも解決策が思い浮かばず、頭を抱えてしまった瞬間扉が開かれた。

 

「あっ……失礼、します」

「花陽ちゃん! もしかして本当にアイドルやってくれるの?」

「あ、いえ……そういう訳では……偶然このお店に立ち寄ったら先輩が部屋にお誘いしてくれただけです」

「そっかあ……」

 

予想外の人物の登場にことりはアイドル部がついに五人揃ったと言わんばかりに期待を込めた発言をしたようだがそれは違ったようだ。

 

「とりあえず座りなよ小泉さん。立ったままじゃ疲れるでしょ?」

「し、失礼します」

 

鞄を静かに床に置き正座をする小泉さん。動作の一つ一つに儚げなたおやかさを感じさせる。

 

「さて……小泉さんに聞くのもおかしな話だけど、アイドル部に人を……いや、アイドル部を設立するために人を集めなきゃならないんだけど、何か良い方法はあるかな? もう僕達だけじゃあ手詰まりでさ」

「そうですね。アイドルというのは個性が重要ですから。やはりお三方とは違った性格や容姿を持った人に加入してもらう必要があると思います。なのでチラシなどで宣伝して誰か来てくれるのを待つばかりでなく自分たちでアイドルの卵とでもいいましょうか。それを探して勧誘する必要があると思います」

「は、花陽ちゃん?」

「こ、小泉さん……急に変貌しましたね」

 

僕がアイドルについて話した途端饒舌になる小泉さん。目つきも僅かに鋭くなり、揺らがぬ自信が見て取れる。

 

「はっ! す、すみません! 私つい……」

「小泉さん、アイドル好きなの?」

「は、はい……」

 

失礼な事をしてしまったかもしれないという焦りからか先ほどとは打って変わり目線を一点に定められぬままそれを隠すようにうつむいてしまう小泉さん。

 

「大丈夫だよ。それくらいで怒ったりしないから。むしろ意外な一面が見れて嬉しかったな」

「本当にすみません……」

 

ますますしぼんでしまう小泉さん。若干空気が重くなりかけた瞬間今度は勢いよく扉が開く。

 

「おまたせー! 早速ことりちゃんが持ってきてくれたパソコンで私たちのライブの動画見よっか! ほむまんも持ってきたから食べながら!」

 

部屋の空気が一気に弛緩し思わず全員の顔に笑顔が浮かぶ。穂乃果の性格の明るさに感謝しよう。

 

 各々の速さでほむまんを食べつつパソコンでμ'sのファーストライブの動画を見る。ほぼ真正面から動画は撮られていたが別に穂乃果達が誰かに頼んで撮ってもらったという訳ではないらしい。

 

「誰が撮ってくれたのかは分かりませんが……凄い再生数ですね」

「こんなに見てもらってるんだあ……あっ! ここの踊り上手くいったよね!」

「うん! かなり練習したところだったから……決まった瞬間ガッツポーズしそうになっちゃった」

 

自分たちの動画を見ることで場が盛り上がる。しかしそのせいか小泉さんが動画を見ずらい位置にいることに誰も気づかないようだ。

 

「三人とも、そうやって見てたら小泉さんが動画見辛いんじゃない?」

「あっ! ごめんね花陽ちゃん。見辛かったよね?」

「……」

 

穂乃果の問いかけに小泉さんは応えない。先ほどアイドルの話をしていた時のように目つきは真剣なものへと変わり微動だにせず動画に夢中になっている。

 

「……ねえ、花陽ちゃん」

「うえぇっ!? な、なんですか?」

「本気でアイドルやってみない?」

「え……でも、私向いてないですから……」

「私だって人前に出るのは苦手です。ですから私も向いているとは思えません」

「私も歌を忘れちゃったりするし……運動も苦手なんだ」

「私は凄いおっちょこちょいだよ!」

「で、でも……」

 

三人が本気で小泉さんを説得しにかかる。しかし小泉さんはまだ自分がアイドルを出来るとは思えない様子だ。

 

「プロのアイドルなら私達はすぐに失格! でもスクールアイドルなら、やりたいっていう気持ちと自分たちの目標があれば挑戦出来る!」

「それがスクールアイドルだと思います」

「だから、やりたいって思ったらやってみようよ!」

「もっとも、練習は厳しいですが」

「海未ちゃん?」

「す、すみません」

 

ここに来てようやく小泉さんの顔に微笑みが浮かぶ。

 

「ゆっくり考えて答えを聞かせて?」

「私達、いつでも待ってるから!」

「たとえ迷った末にやらないという結論を出しても僕達は絶対に責めたりなんかしないからね。でも僕は迷ったのならやってみることをおすすめするよ。やって駄目そうでも僕がサポートするからさ」

「は、はい!」

 

これは小泉さんが四人目のμ'sになるかもなあ。実際小泉さんが言ってた通り三人には無い個性を持っているし。それにアイドルが元々好きな人間がアイドルをやるというのだからこれほど都合のよい話も無いだろう。

 

「じゃあ、時間も大分遅くなってきたし……そろそろ解散しようか」

 

窓から外を見ると薄暗い風景が目に入って来たのでそう提案する。

 

「そうですね。そろそろ帰りましょうか」

「えー!? もうちょっとだけいてよー!」

「駄目です。それに小泉さんの親御さんもこれ以上帰宅が遅くなったら心配するはずですし」

「そっかあ……じゃあまた明日ね!」

「ばいばい穂乃果ちゃん!」

「ではまた明日」

「お、お邪魔しました」

「じゃあね穂乃果。また明日の朝」

 

一人一人穂乃果に一声かけてから部屋を出て、それほど時間をかけず外に出る。外では涼しい風が穂むらの暖簾をしずかに揺らしている。静かな住宅街の一角にある店の少し先にはその雰囲気に合わせるように光量が抑えられた街灯が立っていて、何気なくその街灯の先の空を見ると明るい星がいくつか瞬いていた。

 

 




アニメ第四話の前半がほぼ終わった感じですかね。
恐らく次の話で一年生組が加入するかと……やっとここまで来たという感じです

あと最近ログインしてなくても感想書けるようにしました。感想増えると嬉しいんですが(期待)
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