青春をつかむまで   作:slave

11 / 17
新たな絆

 のどかな空気が流れる放課後の中庭。いつ来ても人はあまりいないため僕にとっては落ち着きたい時に来る場所だ。そして今日は落ち着いて読書でもしたい気分だったので中庭に来ていた。練習は屋上でやるそうだからそれが始まるまでの間だけだが。

 

 本を携えて中庭にある樹木のベンチに座ろうと近づいていくと、中庭の雰囲気に似つかわしくない声が聞こえてくる。

 

「どうして西木野さんが凛とかよちんの話に入ってくるの!?」

「別に、歌うならそっちのほうが良いって言っただけ!」

「かよちんはいつも迷ってばかりだからパッと決めてあげたほうが良いの!」

「そう? 昨日話した感じじゃ……」

 

熱くなりかけていた様子の西木野さんと目が合う。それに釣られるように星空さん、小泉さんもこちらを見てくる。

 

「あっ! 渡辺さん! 丁度良い所に! かよちんをμ'sの人達のところに連れて行ってあげてください!」

「だからまだ……」

「もう! 西木野さんはかよちんがアイドルになるのを邪魔するの!?」

「そういう訳じゃないわよ! まだ早いってだけで応援はしてあげるわよ!」

「まあまあ、事情はなんとなくつかめたけど二人とも落ち着いて。小泉さんが困ってるよ」

「あぅ……」

 

自分の事で言い争っている二人を困り果てた目で見つめていた小泉さん。そんな小泉さんを見たことで二人とも頭を冷やすことが出来たようだ。

 

「……ごめんなさい。かよちんの事が心配で凛つい……」

「……私の方こそ。ちょっと言い過ぎたわ」

「じゃあ、お互い落ち着いたところで……小泉さんはアイドルになる決心を固めたの?」

「わ、私はまだ……」

「いつまで迷ってるの!? 絶対やったほうがいいの!」

「それには賛成! やってみたい気持ちがあるならやってみたほうが良いわ! それに、さっきも言ったでしょ? 声出すなんて簡単! あなただったら出来るわ」

「凛知ってるよ? かよちんがずっとずっとアイドルになりたいって思ってたこと!」

「凛ちゃん……」

 

言い争っていた二人だが小泉さんにアイドルをやってもらいたいという気持ちは一致しているようだ。その気持ちに呼応するように小泉さんの顔に決意が浮かんだが、それはほんの一瞬のことですぐに弱気な表情に戻ってしまう。

 

「小泉さん。ここで考えるだけじゃあ進展は無いよ。今μ'sの三人は屋上にいるはずだからとりあえず向かってみようよ。その途中でどうしてもやりたくなくなったら、屋上の扉を開く前に僕が尋ねるからその時に言ってよ」

「は、はい……」

 

ひとまず小泉さんに考える時間を持ってもらうことにした。僕自身はやってくれると信じているけれど、小泉さんの意志を尊重したいからだ。いくら本心ではやりたいと思っていても半ば流されるようにμ'sに加わったのでは後々後悔するかもしれないし。はっきりと自分から入りたいと言えると良いのだけれど……

 

 扉についているすりガラスから太陽の光が入り、階段の踊り場を明るくする。もし小泉さんがこの扉を開けば、彼女にとっては新しい自分の扉を開ける事にもなるのだろう。

 

「それじゃあ、小泉さん。決心はついたかな? 君の気持ちを教えてほしい。もしやってくれるなら……この扉を開けて屋上に入ろうか」

「私の気持ち……」

 

静かな水面のような静寂が訪れるが、小泉さんがその水面に水滴を落とす。

 

「開けて、ください」

「……分かった。扉を開けた後は君が気持ちを三人に頑張って伝えて。僕は手助けできないよ」

 

小泉さんは頷き、一呼吸を置いてからドアノブに手をかけて扉をゆっくりと開く。それと同時に踊り場が明るくなっていった。

 

「あ、あの!」

「ん? 花陽ちゃん?」

「と、突然でごめんなさい! あの、その、私……」

 

緊張で声が小さくなっていき、俯きかけてしまうが、その瞬間後ろからそっと近づいてきていた星空さんと西木野さんが背中を押す。

押されたことにより一歩前に出る小泉さん。小泉さんは驚いたのか星空さんと西木野さんの顔を交互に見るが、二人は何も言わず微笑みを浮かべて頷くのみだ。

 

そんな二人の顔を見てから向き直る小泉さん。小泉さんの後ろの方から見ているため表情は窺い知れなくなってしまったけれど、もう俯いてはいなかったし、背筋も伸びていた。

 

「私、小泉花陽といいます! 一年生で、背も小さくて、声も小さくて……人見知りで……得意なものも何もないです。でも……でも、アイドルへの想いは誰にも負けないつもりです! だから……μ'sのメンバーにしてください!」

「……こちらこそ! よろしく!」

 

穂乃果が手を差し出し、その手を小泉さんがしっかりと握る。

 

「うぅ……かよちん、偉いよ……」

「何泣いてるのよ……」

「だって……って西木野さんも泣いてる?」

「だ、誰が! 泣いてなんかないわよ!」

 

結局二人とも小泉さんのことが心配でしょうがなかったらしい。二人とも目のあたりに指を当ててるから、涙を拭わなくちゃならない程泣いているのだろうか。

 

「それで? 二人は? 二人はどうするの?」

『え? どうするって……えぇっ!?』

「まだまだメンバーは募集中ですよ!」

 

ことりと海未が二人に対して手を差し出す。直後二人は視線を交わし、笑顔になる。

 

差し出された手を二人がどうしたのかは言うまでもない。一つ言うとするなら……二人も素直になれていなかったということだけだ。

 

 屋上で踊る三人を見つめる八つの瞳。そのうちの二つは僕。残りは新たにμ'sに加わった三人だ。今日は三人とも運動着を持ってきていないということで見学だ。本格的な参加は明日の朝練からにするらしい。

 

「はぁぁ……すごいですぅ……」

 

元々アイドルへの強い憧れがあった小泉さんは恍惚とした表情で三人の踊りを眺めている。

 

「君もあんな風に踊るんだよ。もちろん歌も歌うし」

「な、なんだか想像できないです……」

「まあ、まだ入ったばかりだからね。自分がどんなアイドルになるのかは小泉さん次第だよ」

「は、はい。頑張ります」

 

先ほどまでの決意はどこへやら。また不安げな表情に戻ってしまっている。この辺は活動していく中で少しずつ改善していくしかないかなあ。

 

「大丈夫だよかよちん! かよちんはこんなにかわいいんだから!」

「り、凛ちゃん。そんなことないよぉ……凛ちゃんの方が可愛いよ」

「凛が? 凛は全然可愛くなんかないよ! 前も言ったけど髪だってこんなに短いんだから!」

「僕はショートカットの女の子も良いと思うけどなあ。それに、星空さんは十分アイドルやっていける位可愛いよ。勿論小泉さんもね」

「うえっ!? り、凛はほんとにかわいくなんか……」

 

褒めたつもりだったのだが落ち込ませてしまったようだ。何か自分の容姿に自信が持てない理由があるのだろうか? 今はあまり触れないほうが賢明かな。

 

「まあ、アイドルをやっていく中で少しずつ自分と向き合えるようになっていこうよ。今は出来なくてもさ」

「あなた……物腰は柔らかいけれど実は手が早いってやつなのかしら?」

 

西木野さんが怪訝そうな顔で見つめてくる。今まで彼女が一人も出来たことが無い僕に手が早いとは……遠まわしに皮肉を言われてるのだろうか。

 

「手が早いだなんてそんなことは無いよ。それに僕は一回も彼女とかは出来たことないしね。そもそも女友達もほとんどいないし……」

「本当かしら? まあ、今は信じてあげる」

 

この一連の会話を皮切りに四人で話が盛り上がっていく。幼馴染だという小泉さんと星空さんは別として僕達四人はお互い知らないことの方が圧倒的に多いから話す内容も尽きない。星空さんの陸上の話とか、西木野さんの音楽の話とか……小泉さんにアイドルの話を振ったら止まらなくなってしばらく小泉さんが一人で語っていたけれど。

 

「今日はこの辺で終わりにしましょうか」

 

四人で話込んでいる間に気付けば空は赤く染まっていた。勿論、ちゃんと穂乃果達の練習風景を眺めながら話していたが。

 

「やっと終わったー! もう足動かないー!」

「疲れたぁ……」

 

穂乃果とことりが屋上のコンクリートに倒れこむ。途中休憩は挟んでいたが長時間踊り続けていたから当然と言えば当然か。汗はかいていても割と平然としている海未は凄いな。日頃の習い事や弓道部での活動の成果といったところか。

 

「お疲れ様。大分動きに迷いがなくなって来て滑らかに動けるようになってきたね」

「ほんと!? 練習の成果が出てきたのかな!」

「確かに以前に比べて動きは良くなりましたが……まだまだ改善すべき部分は多いです。くれぐれも油断はしないように! 特に穂乃果は」

「もー! ちょっとくらい褒めてくれても良いじゃん!」

「穂乃果は褒めるとすぐに油断するから駄目です!」

「そんなぁ! じゃあきょーくん褒めてー!」

 

急に穂乃果が僕を指名してくる。そこはことりじゃないのか、とも思ったが穂乃果は気分屋なところもあるからその辺を考えても無駄かな。

 

「よ、よくできました?」

 

女の子の褒め方なんて全く分からないのでとりあえず頭を撫でながら褒めてみる。

 

「えへへ……ありがと!」

「むぅ……きょーくんそういうこと簡単にやっちゃ駄目だよ?」

「恭介君……本当、手が早いんですね」

「やっぱりあなた手が早いんじゃない。やっぱり信じられないわね」

「これがたらしってやつなのかにゃー?」

「あわわ……」

「ちょ、ちょっと待ってよ。そんなにまずいことしたかな?」

『……』

 

僕の身に降りかかる無言の圧力。人数が増えた分圧力も倍増だ。

 

「私は褒めてもらってうれしかったけど……きょーくん、皆にこういうことやりそうだからなあ……複雑……」

「恭介君の優しい所は長所だと思いますが……なんだかそれが大きな欠点を生み出してるような気もしますね」

「きょーくんは何回お仕置きしても懲りないからなぁ……気付くまで私はやめないからね?」

「ああ、あなたそういう種類の……一番厄介ね。こんな人がアイドルグループに関わってて大丈夫かしら?」

「凛もさっき体験したにゃー!」

「わ、渡辺さんってそういう人だったんですね……意外です」

 

皆に口々に非難される。いまいち理由が分からないけど微妙に傷つくなあ……

 

 そのまま理由を教えてもらえることなく今日は解散となった。μ'sに新たなメンバーが加わったのは嬉しいけど釈然としない。若干の疑問を残しつつ僕達は帰路に着くのだった。

 

 




今回さらに文章量が少なくなってしまいました。
もうちょっと増やしたかったんですがきりの良い所で終わらせたかったので……なにはともあれ一年生組無事加入です!

次は三年生組ですね! 早く全員揃えたいです!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。