青春をつかむまで   作:slave

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決断

 園田さんは一日考えさせてくださいと言ってから時間は経ち、放課後となった。まだまだ時間はあるけれど、きっとこの放課後には結論を出してくれるだろう。真面目な園田さんは人を待たせることはあまり好きではないだろうから。

 

しかし僕の予想に反し弓道部へ顔を出すらしくそそくさと部活に行ってしまいすぐに結論を告げることはなかった。

 

というか弓道部に所属していたのか……知り合ったばかりで知らないことがあるのは当然だが、なんだか切なかった。僕はもう園田さんがアイドルになった気分でいるのだろうか。ちょっと気持ちが悪いかな、と誰にも言っていないのに自分で思う。

 

僕は園田さんが結論を出すところを見届けるべきだろうか。見届けることを許されるかは別にしてもここまで関わってきた以上、最後まで見届けたい。なので僕はまだ教室にいた高坂さんと南さんに話しかける。

 

「高坂さん、南さん。弓道部って何時ごろに終わるのかな? きっと部活が終わるころには結論を出してくれると思うから……あくまで僕の予想だけど」

「たしか五時くらいだったかなあ? 意外と短いんだよね、弓道部の部活」

 

南さんが応えてくれる。すると高坂さんが

 

「……渡辺君はどうして海未ちゃんがアイドルやってくれるって思うの?」 

「うーん、うまく説明はできないけど……やっぱ勘としか言えないや」

 

そう言って笑う。誤魔化したのではなく、本当に勘としか言えないのだからとってつけた様な理由を言いたくない。

 

「なにそれ、理由になってないじゃん」

 

高坂さんも笑う。彼女も不安なのだろう。悩みの少ないように見える彼女も一人の少女なのだ。

 

「……でも、ありがとう。弓道場の近くでダンスの練習でもして海未ちゃんを待ってみるよ!」

「私は保健委員会の仕事があるから、終わってから海未ちゃんの所に行ってみるね!」

 

僕は自分から手を差し伸べにいこうとするその二人の姿勢がなんだか微笑ましくて好きだ。

そして僕はその手がつながる瞬間を見たくなってしまう。

 

「そっか。じゃあ僕も迷惑じゃなければその、見届けてもいいかな? ここまできたら最後まで協力したいんだ」

 

そう言うと彼女たちはにっこり笑って言った。

 

『もちろん!』

 

 その後南さんは保健委員会に顔を出しに行き、高坂さんは弓道場近くでダンスの練習をしに行った。僕はすることが無いので屋上で景色を眺めながら読書することにした。

今日は風が無くて快晴だからきっと良い気分で本が読めるだろう。

 

屋上に着いた後、柵に腰掛けながら本を読む。予想した通り良い気分だ。運動場から聞こえてくる部活動の声がなんだか心地良い。

そうして本を読むこと数十分、かすかに音楽が聞こえてきた。屋上にまで聞こえてくるのだから結構な音量だろう。僕は気になったのでその音源を探しに行く。

 

屋上から屋内に入り、音を頼りに音源に近づいていくと音楽室にたどり着いた。誰かがピアノを弾きながら歌っているようだが、とても上手く扉の陰で聴き入ってしまう。

その曲を聴きながら、僕はふとアイドルは曲を歌わなくてはならないことに気付く。当然のことではあるが既存の曲を歌う訳にもいかないだろうし、作曲や作詞をする必要もある。

ピアノを弾けるからといって作曲ができるとも限らないが、もしできるなら是非やってもらいたい。

 

……思い切ってこの扉を開けて話しかけてみようか。迷惑がられやしないだろうか? 

悩み始めた瞬間、この薄い扉が僕にはどんな分厚い鉄の扉より硬質で威圧感のある物に感じられる。

しかし園田さんにやってみることを勧めた以上僕がここで退いてしまうのは無責任じゃあないだろうか。

 

自分が変わらないのに相手に変わることを求めるような人間にはなりたくない。その想いが僕を奮い立たせる。

 

意を決し、曲が終わってから扉の前に立つ。その瞬間初めて奏者の姿を見ると、とても可愛らしい赤い髪の少女だった。微かに見えるリボンから判断するに一年生だろう。

その少女はとても驚いた様子でこちらを見ているが、落ち着くのを待たずに僕は扉を開け、話しかける。

 

「歌とピアノ、とても上手いね。思わず聴き入っちゃたよ」

 

突然作曲をしてくれと言っても受けてくれるはずないだろうからまずは無難に話しかける。まあ警戒されるのは間違いないだろうけど。

すると少女は僕の予想通り警戒した様子で大きな目を少し細めて言葉を発する。

 

「だ、誰よ!?」

「ごめんね突然。僕は二年生の渡辺恭介。音が聞こえたから偶然ここに来て曲を聴いてたんだけど……迷惑だったかな?」

「め、迷惑じゃないけど……急に入って来られたら驚くじゃない!」

 

案外満更でもないようだ。作曲もできるのか聞いてみよう。

 

「あのさ、またまた突然で申し訳ないんだけど君、作曲とかって出来るかな?」

「出来るわよそれくらい。この曲も私が作ったんだし。」

 

落ち着きを取り戻したのか柔らかそうな髪を指で弄びながら少し得意げに答える。

どうやら大当たりだったらしい。断られることを承知で頼もう。

 

「じゃあさ、アイドルの曲の作曲とかも出来るかな? もしよければやってもらいたいんだけど……あ、どうせならアイドルも」

「うえぇ!? そりゃあアイドルの曲だろうと作曲自体は出来るけど、お断りします!」

「そりゃそうだよなあ。でも、考えてみてほしい。」

 

僕の言葉には返事をせず、少女は立ち去ってしまう。名前も聞けなかったが、初対面で頼みごとをした感触としては上出来だろう。

というか今更だが勝手に僕一人でこんなことをして良かったんだろうか。もし高坂さん達がアイドルをやらないと決めたら無駄どころか一年生の子に迷惑をかけただけで終わってしまう。

普段の僕なら絶対に行動する前に思い至っただろう。

 

しかし不思議と悪い気分ではない。僕の心に後悔という暗雲はかからず、むしろ雨上がりの空のような清々しさがあった。

 

 五時になり、僕は弓道場へ向かう。その途中で壁の前で踊っている高坂さんとその横の通路で二人並んで歩きながらこちらの方へ歩いてくる南さんと園田さんを発見する。

 

まだ僕には三人とも気づいていないようだが……あ、南さんと園田さんが踊っている高坂さんを見つけたようだ。

踊っている高坂さんを見て南さんが園田さんに何かを話し、笑いかける。その笑顔の横顔を見た僕は一瞬立ち止まってしまった。この笑顔は自分に向けられてないんだぞ、と自分に言い聞かせ苦笑する。

 

笑顔を向けられた後園田さんはダンスに失敗し転んでしまった高坂さんに手を差し伸べ、何かを話すと高坂さんは感激した様子を見せていたので僕の予想通りアイドルをやるのだろう。

 

……なんだかストーカーみたいになっちゃって登場しにくいな。でも出ていかなかったら本当に覗き見ていただけになってしまうので近付いて話しかける。

 

「園田さん、アイドルやることにしたの?」

「渡辺君!? 見ていたのですか?」

「うん。覗き見てたみたいでちょっと罪悪感があったけどね」

 

僕は苦笑しながらも正直に述べる。すると園田さんは

 

「ま、まあいいです。アイドルはやることにしました。朝は背中を押してくれたのにも関わらずすぐに返答出来なくて申し訳ありませんでした。」

「いいんだよそんなこと。決断するっていうのは難しいことだからね。むしろこんなに早く決断できるなんて凄いよ。」

 

心から思ったことを言う。実際一日くださいと言って半日程度で返答するのは十分早いといえるだろう。

 

「凄くなんてありませんよ……三人がいるから、決断できたんです」

 

少し目を見開いて園田さんは言う。二人ではなく、三人という言葉に僕は嬉しさを感じた。

 

「そっか……」

 

そんな素っ気ない言葉しか口から出てこなかった。

 

「じゃあさ、明日の朝アイドル部の申請書出しに行こうよ!」

「あ、明日ですか!?」

「さすが穂乃果ちゃん、行動が早いっ!」

 

高坂さんの提案をきっかけに話が盛り上がっていく。園田さんは小言を言っているが、どこか嬉しそうだ。南さんは園田さんより露骨に喜んでいる。

そしてそのまま話題が冷めることはなく、帰るために皆で一緒に学校を出る。ある程度歩いたところで高坂さんが

 

「あ、私と海未ちゃんはこっちの方に家があるからここで二人とはお別れだね。また明日!」

「では、また明日学校で会いましょう」

 

そう言って家の方角に二人は歩き出す。すると南さんも別れの言葉を告げる。

 

「穂乃果ちゃん、海未ちゃんまた明日ー!」

「じゃあね高坂さん、園田さん」

 

僕だけ何も言わないのも違和感があるので、僕も別れの言葉を告げると突然高坂さんが振り向いて戻ってくる。

突然戻った高坂さんに驚いた園田さんも一緒に戻ってくる。

僕の近くにまで来た高坂さんは大きめの声で突然

 

「ねえ、渡辺君……いや、きょーくん! 私達のこと名前で呼んでよ! 私達もう友達でしょ?」

「わ、私もですか!?」

「私は賛成かな? 友達なら名前で呼びたいし、呼ばれたいもん!」

 

僕はその言葉に心が躍り、少し興奮して話してしまう。

 

「ありがとう! 穂乃果! 海未! ことり! 名前は呼び捨てで……いいよね?」

 

名前を呼び捨てにした反応は三者三様で、穂乃果は満足げに頷いているし、海未は顔を赤くして少しうつむいている。ことりは思わず頬が緩んだような笑顔を見せている。

 

名前を呼ぶだけでこんなに反応の違う三人も珍しい。名前を呼ぶだけで興奮している僕も十分おかしいんだろうけど。

他人にとってはただ名前を呼び合うようになっただけのこの瞬間。それでも今の気持ちをずっとずっと忘れないでいたい。

 

もう見慣れてしまった通学路の風景を改めて目に焼き付けて願う。

 

 

 

 

この風景を見るたびに今の気持ちを思い出せますように!

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