青春をつかむまで   作:slave

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最初の壁

 名前で呼び合うことに決めた後、穂乃果は満足げに去っていき、海未はちょっと戸惑いを残したように去っていった。

結局穂乃果とことりにはきょーくん、海未には恭介君と呼ばれることになったが……慣れるまで名前を呼ばれるだけで少し頬が緩んでしまいそうだ。

 

「きょーくん、私達も帰ろうか」

「う、うん。帰ろうか」

 

女の子と二人で帰るということに緊張してしまい、笑顔で返答したかったのだがぎこちない笑みになってしまう。

僕の表情を見たことりは僕に気を使ったのだろう、控えめに尋ねてくる。

 

「あっ、嫌だった……かな?」

「そんなことないよ! ちょっと緊張してるんだ。女の子と二人で帰るなんて初めてだからさ」

 

正直に自分の気持ちを伝える。僕に恋愛経験が無いことを言っているようなものなのだから恥ずかしいが、つまらない見栄は張りたくなかった。

僕の返答にことりは正直だね、と言って静かに笑っている。その様子は僕にはなんだかとても大人っぽく見えて余計緊張してしまう。

 

僕は落ち着きを取り戻すことも兼ねてゆっくりと歩き出す。するとそれに呼応してことりも歩き出す。ついて来させているようで少し申し訳ない気持ちになるが、緊張してまともに話せない状態が続くよりはマシだろう。それでもちょっとした罪悪感を消すために僕はことりに話しかけることにした。

 

「そういえばことりはアイドルをやることに悩んだりしなかったの? 割とすぐに賛成してたけど……」

「うん! 穂乃果ちゃんと海未ちゃんと一緒ならやってもいいって思えたの!」

 

ことりはとても二人を信頼しているようだ。少し嫉妬していまいそうな位良い関係だと僕は思う。

 

「それに、小さい頃から穂乃果ちゃんについて行って後悔したことはなかったから。海未ちゃんもきっとそうだと思うよ」

「へえ、そうなんだ。穂乃果はリーダー気質なんだね。見ててなんとなく分かってはいたけど」

「リーダーといえばリーダーなんだけど……なんだかついて行ってあげたい! っていう感じかなあ?」

 

ことりはそう言うと小さい頃の穂乃果と海未との出来事を語り始める。語っている時のことりは普段より少し饒舌で、本当に二人のことが好きなんだなと感じることができた。

僕が聞き手に回って一緒に歩きながら話している間にことりの家に着いた。どうやら僕の通学路上にことりの家はあったらしい。

 

「あれ? もう家に着いちゃった。ちょっと話しすぎちゃったかなあ? ごめんね話してばっかりで」

「僕は聞いてて楽しかった。全然話しすぎなんてことないよ」

「えへへ……ありがとう。じゃあ、また明日ね!」

「また明日!」

 

そう言い合って僕たちは別れる。

まだ時間的に明るいからだろうか、僕は一人で家に帰るまでの道のりを朝散歩しているような爽やかな気持ちで帰ることができた。

 

 翌日の朝、ことりの家は僕の通学路上にあるから朝会えるかもしれないと思いながら準備をしているといつもより早く準備が終わってしまった。どうやら僕は自分が思うより期待していたらしい。

余った時間ですることもないのでそのまま学校へ通学したが、早く出過ぎた結果なのかことりとは出会えず僕は少しだけ寂しい気持ちを抱えたまま登校することになってしまった。

 

 学校に到着後教室に入ると人もまばらだったので自分の席に着いて勉強でもするかなと思い持ち歩いている問題集を開く。別に難関大学を目指すつもりもないのだが、家での勉強時間を少しでも減らすためにやることにした。

 

そうして勉強している間に穂乃果達三人組が着いたようで挨拶しながら教室に入ってくる。

 

「おっはよー! あれ? きょーくん勉強してるの?」

「うん。家であんまり勉強したくないし。」

「偉いなあ……私家でもあんまり勉強しないや」

 

そう言って穂乃果が笑う。すると穂乃果の後ろにいた海未が穂乃果を説教するように話し始めた。

 

「穂乃果もきょ、恭介君を見習ってください! そんなことだからいつもテストで苦労するのですよ!」

「海未ちゃん、顔赤いよ? 具合悪いなら保健室に行く?」

「違うよことりちゃん、海未ちゃんはきょーくんを名前呼びするのがまだ恥ずかしいんだよ!」

「ち、違います! これは……」

 

顔が赤い理由を言おうとしたのだろうが、海未は言い淀んでしまう。その様子を見てさらに穂乃果が海未をいじり出す。きっと説教を逃れたいという目的もあるのだろう。

僕はいじられてさらに慌てている海未を助ける意味も込めて発言する。

 

「それで、今日の朝には生徒会にアイドル部の申請に行くんじゃなかったの?」

「そ、そうですよ穂乃果! 早くしないと時間も無くなりますし行きましょう!」

 

僕の発言に海未は助かったとばかりに反応し、穂乃果の手を引いて歩き出す。

僕とことりはそんな海未の様子を見て苦笑しながらも着いていく。

 

生徒会室へ移動している間ずっと海未は穂乃果の手を引いたままだったが穂乃果も満更ではなさそうだった。僕とことりはその二人の後を追う形で着いていく。きっと僕が三人と知り合う前もこんな感じなのだろう。

 

 生徒会室前に着くと、自然と僕たちから会話が消える。生徒会室の前の雰囲気は厳粛で、校長室に入るときのような緊張感を感じる。

 

「……じゃあ、入ろっか」

 

穂乃果も少し声質を硬くして言う。一番に入ろうとするあたりやはり先導者なんだろうなと僕は思う

ここで一番に入っていくような気概が無いから僕には彼女ができないのかなあとも思ってしまい情けなくなり、もっと男らしくなろうとひそかに決断する。

 

そして一番に入っていった穂乃果に続き僕が二番目に入る。せめて二番目に入って男らしいところを見せたいというちっぽけな見栄によるものだったが、きっと誰にも気付かれないだろうな。

 

「あら、あなた達……何か用かしら?」

 

そう言って生徒会長が出迎える。

 

「はい! これをどうぞ!」

 

そう言って穂乃果はアイドル部の申請書を取り出し生徒会長に渡す。ただ穂乃果、もうちょっと説明しながら渡さないと伝わらないと思うぞ。

生徒会長は穂乃果に手渡されたアイドル部の申請書をじっと見ている。

 

「……これは?」

「アイドル部、設立の申請書です!」

 

穂乃果が元気よく答える。しかし質問に対する答えは生徒会長の求めた答えではなかったらしく冷たく返答する。

 

「そんなことは見ればわかります」

「では、認めていただけますよね?」

 

穂乃果が期待を込めて言う。その穂乃果の期待を込めた言葉も生徒会長にとっては少し苛立ちを感じさせるものであったらしく声がさらに低くしながら話し出す。

 

「いいえ。認めるわけにはいきません。部活や同好会は最低五人以上の部員が必要なので」

「ですが、校内には五人以下の部活もあるはずです!」

 

海未が堪え切れなくなったのだろう、思わず言葉を発してしまったという感じで反論する。

 

「設立時には五人以上いたはずよ」

 

生徒会長はそんな反論も煩わしいと言わんとばかりにして答える。すると突然副会長が一言発する。

 

「……あと一人やな」

 

あと一人ということは僕も含まれているのだろう。というか男がアイドル部に所属していいものなんだろうか。そもそも穂乃果達の書いた申請書に僕の名前はあるのか?

確認するためにちらっと申請書を見ると四人分の名前が書いていることだけは分かった。三人以外にアイドルをやるという人がいる話は聞いていないのできっと僕の名前も書かれているんだろう。

なんだかちょっと仲間になれたみたいで嬉しい。

 

「分かりました。行こう」

 

そう言って穂乃果が立ち去ろうとしたので僕たちもそれに着いていくように立ち去ろうとする。

すると生徒会長が立ち上がって問いかけてくる。

 

「待ちなさい! あなたたち、もう二年生でしょう? なんでこの時期に新しい部活動を始めるの?」

「それは、この学校の廃校を止めたいからです!」

 

穂乃果が間髪入れずに質問に答える。それだけ本気ということなのだろう。しかし生徒会長はその答えに対し眉をひそめて話し始める。

 

「……だったら、五人集めてきても認めるわけにはいかないわ」

「どうしてですか!? スクールアイドルって今凄い人気で……!」

 

穂乃果がさらに反論しようとするも途中で生徒会長は遮ってしまう。

 

「部活は生徒を集めるために行うものじゃないわよ。それに、思い付きで行動したって状況は良くならないわ。そんなことをする暇があったら残りの時間何をすべきか考えることね」

 

そう言ってアイドル部の申請書を突き返してくる。穂乃果は何も言わずにそれを受け取り海未とことりの手を取って無言で生徒会室を出てしまう。

僕だけ取り残される形になったが、これは僕の言いたいことを言うためのチャンスだろう。

 

「あなたも早く出ていきなさい。これ以上何を言っても無駄よ」

「ええ。きっと今は無駄でしょうが……少し言わせてください。」

「何とでも言いなさいよ。私の気持ちは変わらないわ」

「まず最初に……きっと今この学校に必要なのは思い付きだと思います。座して待っていても廃校になるだけなんですし。それに、生徒会長も廃校を止めたいんでしょう? なんとなくですがそんな雰囲気があります」

 

「……」

 

僕のちょっとした問いかけにも生徒会長は無言を貫いている。なので僕は話を続ける。

 

「僕は生徒会長の気持ちもわかります。確かに思い付きでやっても上手くいかない可能性の方が高いし、むしろ評判を落とすかもしれない。あなたは今生徒会長の立場からそう判断しているんでしょう。」

「……そうよ」

一言だけ僕の言葉に返答してくれる。答えてくれるとは思っていなかったので少し手ごたえを感じる。

 

「でも、きっと彼女達はやり遂げてこの学校の評判を上げてくれますよ。上手く表現できませんが……僕はそう感じます」

「何よそれ、まったく理由になってないわ」

「そうですよね。でも、せめて彼女たちに挑戦の機会位はください。そこからの判断はあなたにお任せします。無責任な答えだということは僕も分かっていますが……」

「……考えておくわ。とりあえず今は出て行ってちょうだい」

「ええ。あなたもやってみたいことをやってみてください」

 

僕はその言葉を最後に生徒会室を出る。正直最後の言葉に意味があるかは生徒会長の想い次第なので分からない。最初から最後まで無責任だな、僕は。

それでもあれだけ学校について真剣に考えている生徒会長が何の想いも持っていないとは僕には思えなかった。

 

生徒会室の外で待っていた穂乃果達と共に教室に戻るため歩き始める。行く前に比べ穂乃果達の顔は明らかに暗い。

 

「大丈夫だよ。きっと生徒会長は設立を認めてくれるさ。」

 

僕は気休めにでもなればと言葉をかける。三人は頷くだけで何も答えない。僕もそれ以上の言葉は思い浮かばず無言で歩く。時計を見ればホームルームが始まる寸前だ。

それでもなんだか今は急ぐ気分になれずに窓の外の穏やかに晴れる朝の景色を見ながら時間がゆっくり進んでくれないかなと思うだけだった。

 

 




話暗すぎぃ!
これからちょっとは明るくなると思うんで許してください!
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