青春をつかむまで   作:slave

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前途多難

 結局急ぎ足になることのないまま僕たちは歩き、教室にたどり着いた。幸いなことにホームルームに遅れるという事にはならなかった。

 

しかし時間が無いことは間違いないので会話する暇もなくそれぞれの席に戻る。僕たち四人が席に着いてすぐにホームルーム開始の時間を告げるチャイムが鳴り、先生が入ってくる。

 

僕は先生が連絡事項などを話す間どうやって三人を元気づけたものか考える。

部員を集めるためにアイドル部の具体的な活動内容を示そうにも、アイドルという性質上実際に活動をして示すというのは難しい。

 

数だけ集めて活動しようにも、アイドルをやる以上適当な事をやるわけにもいかないし部員を集める段階でそんなことをしていてはこの学校に人を集めるなどということは夢のまた夢だろう。

 

どうにかしてアイドル部としてではなくてもアイドルの活動をする方法は無いものだろうか。

 

アイドル部の活動をするためにアイドルの活動をする必要があって、アイドルの活動をするためにはアイドル部が存在する必要があるなんて酷い矛盾があったものだ。

それでも諦める訳にはいかないし、学校の施設利用について調べてみるか。何か良い方法が見つかるかもしれない。

 

そこまで考えたところで先生の連絡も終わり、ホームルームが終了する。

僕はすぐに学校の施設利用について調べたかったが、何を見れば施設利用について書いてあるのか分からなかったので昼休みに生徒会室に行って聞いてみることにした。

 

正直気乗りはしないが他に方法が無い以上仕方ない。

穂乃果達にも知らせて一緒に行こうかとも思ったが、一人で調べ上げて穂乃果達に報告するほうがなんだか格好良い気がしたので一人で行くことにした。

くだらない見栄だがこんな僕でもたまには女の子相手に格好つけてみたいのだ。

 

穂乃果達に向かって報告する僕と、その報告を聞いて喜んでいる三人を想像し少し気分が良くなった僕だが、直後先生の連絡事項を全く聞いていなかった事に気付き穂乃果達に尋ねるはめになってしまった。

 

別に何か恥ずかしい思いをしたわけではないけれどなんだか複雑な気持ちになり、結局格好つかないのかもなあと思いながら午前の授業を僕は受けることになった。

 

 昼休みになり、穂乃果達がご飯を一緒に食べないかと誘ってくれる。僕はその誘いを用事があるからという理由で断り、生徒会室へ向かう。

僕一人で生徒会室に入るのは初めてなので生徒会室に近づくにつれて緊張が高まる。今日の朝生徒会長にあんなことを言ってしまったし対応もろくにしてくれなかったらどうしようか。

 

生徒会室の前に着く。やっぱり皆で一緒に来れば良かったかなとちょっと後悔している自分もいるが、ここまで来たら最後までやり遂げよう。

そんな小さな決意をした後に生徒会室の扉をノックし部屋に入る。

部屋に入ると生徒会長と副会長が何か話しながら書類仕事をしているところだった。

僕の姿を見ると生徒会長は笑顔を怪訝そうな表情に変え、副会長は笑顔のままだった。

 

「失礼します。お尋ねしたいことがあって来たのですが」

「……何を聞きたいのかしら?」

 

生徒会長は表情を無表情に変えながら答える。会いたくない人間に対しても対応してくれるあたり誠実な生徒会長だということを感じる。

 

「部活としてではなく、生徒として何か施設を利用する方法はないのか探しているので尋ねに来ました。僕はあまり施設利用とかはしたことがないので」

「生徒としての施設利用? そんなのなんのために……」

 

生徒会長がそこまで言ったところで、副会長が遮るように話は始める。

 

「それなら講堂やね。確か生徒なら誰でも使えるはずや。何をするために使うかは知らんけど」

「ちょっと希!」

 

副会長は僕の知りたかったことをあっさり教えてくれた。生徒会長は不服なのか副会長を咎めているが副会長は特に気にしていないようだ。

 

「ありがとうございます! では僕は講堂の使用申請書を先生に貰ってきます!」

 

僕はそう言って生徒会長に余計な事を聞かれる前に生徒会室を出る。別に生徒会長のことが嫌いなわけではないのだけど、なんだか意固地になってアイドル部の活動を止めようとしている気がしてならないからだ。副会長は逆に応援してくれてる気もする。施設を使ってアイドルの活動をするなんてことは朝の出来事があった以上誰にでも分かることだし。

 

 その後僕は教室に戻る前に職員室に寄り講堂の使用申請書を貰ったが先生に部活動関係なく生徒として講堂を使おうとする奴を初めて見たよ、と笑われてしまった。

ついでに生徒会にも講堂の使用申請書の提出が必要だという話も聞いた。なんだかアイドルの活動に否定的な生徒会長を煽りにいっているみたいで少し嫌だな、と心の中で苦笑する僕がいた。

 

 使用申請書の説明を受けた後教室に戻ると、穂乃果達が談笑しているところだったので丁度良いと思い話しかける。

 

「ちょっといいかな?」

「あっ、きょーくん! もう用事は済ませたの?」

「うん。ちょっと生徒会室に行って施設利用について聞いてきたんだ」

「施設利用? きょーくん何かに使うの?」

 

ことりが不思議そうに尋ねてくる。帰宅部の僕が何故施設を使おうとするのか分からないのだろう。

 

「アイドル部じゃなくても場所を借りてアイドルの活動が出来ないかと思ってさ。別に僕が使う訳じゃあないんだけどね」

 

僕は少し気恥ずかしさを覚えながら言う。格好つけるために一人で聞きに言ったはずなんだけど……慣れないことはするもんじゃないな。

三人は喜んでくれるだろうか。元気な穂乃果ならわかりやすく喜んでくれそうだけど……

 

『きょーくん……』

「恭介君……」

 

あれ? なんか反応が思ってたのと違う。迷惑だったのだろうかと思い三人をじっと見てみるとそれもまた違うようだった。

三人とも少し目を見開いて僕のことを見ている。なんだか言葉が出てきていないみたいな様子だ。

 

その状態から真っ先に回復して海未が話し出す。

 

「恭介君……ありがとうございます。私たちのためにそんなに動いてくれるなんて……」

「きょーくんありがとー! よーし! 私もっと頑張っちゃうぞー!」

「えへへ……応援してくれる人がいるとなんだかあったかい気持ちになるね」

 

三人とも素直に嬉しさを伝えてきてなんだか僕まで嬉しくなる。

僕も三人と同じように素直に話す。

 

「な、なんだか照れるね。それでさっき講堂の使用申請書貰って来たから……名前書いてもらっていいかな。あと、いつ講堂を使うかも」

 

僕がそう言うと三人とも笑顔で頷き名前を書き始める。講堂を使用する日は新入生歓迎会の放課後にしたようだ。

すぐに三人とも名前を書き終わったようなので、僕がその紙を手に取って昼休みに生徒会室に出しに行く旨を伝えると三人に止められる。

 

「どうかしたの? 三人とも字は綺麗だし……書き忘れとかも無いと思うけど?」

 

改めて書類に目を通してみるが特に不備はない。

僕が書類を首をかしげながら見ていると海未が少しだけ咎めるように僕に告げる

 

「もう……恭介君も書くんですよ、名前」

「え? でも僕は別にアイドル活動するわけじゃないし……書く必要ないんじゃないかな?」

「いえ、必要です。恭介君も私達の仲間なんですから……そうですよね穂乃果、ことり」

「そうだよー! きょーくんも書かなきゃ駄目だよー!」

「うんうん! それにどんなアイドルだって誰かの助けを借りなきゃ活動は出来ないもん! アイドルだけが仲間じゃないよ!」

 

僕は調律師によって楽器の音色は変わるという話を聞いた時のことを思い出していた。

あの時僕は奏者が奏でやすいように調節するだけが調律師の仕事で、調律師は個性を出してはならないと思っていたので、少々驚いたんだったか。

 

調律師が個性を出すのも悪くないのかも。今の僕にはそう思えて仕方がなかった。

 

 

 

昼休み、僕たちは四人で生徒会室の前に立っていた。

勿論、四人分の名前を書いた申請書を携えて。

 

「それじゃあ、入ろうか」

 

今度は僕が先陣を切って入る。まあ生徒会室に入るのに慣れて緊張しなくなったというだけなんだけど。

生徒会室に入ると生徒会長が朝よりあからさまに怪訝そうな顔をして出迎える。今回はさすがに副会長も苦笑いしながら僕たちを見る。

 

「……またあなた達?」

「すいません……朝来た時にもっと詳しく使用申請書の説明を聞いておくべきでした。まさか生徒会にも提出が必要だとは思わなくて……」

「まったく……なんのために使うのよ?」

 

僕は新入生にスクールアイドルの活動を知ってもらうための活動をします、と比較的無難に答えようとするがそれより先に穂乃果が質問に答えてしまう。

 

「ライブです! 三人でスクールアイドルを結成したのでその初ライブを講堂でやることにしたんです!」

「穂乃果ちゃん、まだ出来ると決まった訳じゃあ……」

「うえぇ!? やるよー!」

「待ってください穂乃果! そもそもまだステージに立ってやるとは……!」

「そんな状態でライブなんて出来るのかしら? 新入生歓迎会は遊びではないのよ?」

 

生徒会長が咎めるように尋ねてくる。

慌てたように穂乃果が大丈夫だとは言っていたが生徒会長は信じてくれないだろう。僕だって生徒会長の立場なら不安になる。

やはり僕が一人で来て無難な回答をしてなんとか許可を貰うべきだったか……?

 

だが助け舟は再び副会長によってもたらされる。

 

「絵里ち、この四人は講堂の使用許可を取りに来ただけやん? うちらが何のために使うのかとやかく聞く権利は無いはずや」

「それは……」

 

生徒会長が言葉に詰まった瞬間を見計らって僕が追い打ちをかけるように話す。

 

「では、講堂の使用許可はいただけるんですね?」

「……ええ。ただし音ノ木坂学院の風紀や伝統が損なわれないような活動を心掛けてください」

「ありがとうございます。それでは失礼します。じゃあ三人とも行こうか」

 

僕は内心慌てながら三人に生徒会室を出るように促してから生徒会室を出る。これ以上いるとどんどんボロが出そうだったからだ。

僕が生徒会室を出た直後に三人も出てきた。

 

「さて……とりあえず教室に戻って話し合おうか。あと一か月くらいしか時間は無いし衣装とか曲とかについて決めなきゃね」

「そうですね。私達にはもう時間がありませんしきちんと計画を立てて行動しましょう」

「だ、大丈夫なのかな……」

「大丈夫だってことりちゃん! 今までの人生なんとかなってきたんだから頑張れば今回もなんとかなる!」

「穂乃果は楽観視しすぎなんですよ! 今回も上手くいく保証はないんですよ!?」

「まあまあ落ち着こうよ海未。もうライブをやることは決まったんだから何とかするしかないんだし……穂乃果の活発さと積極性は良いところなんだからさ」

「それはそうかもしれませんが……」

「えへへ……きょーくんありがと!」

「ただもう少し考えてから発言しようね。いつも上手くいくとは限らないんだしさ」

「はあい……」

 

僕のちょっとした注意に穂乃果は普段より少しだけ赤くなっている頬のまま項垂れるのだった。

 

 教室に戻った後僕たちは改めて話し合いを始める。

まず最低限用意しなくてはいけないものを出してみたところ曲、衣装、それに照明や音響などの切り替えや調整を行ってくれる人が必要だという結論に至った。

そのうち照明や音響についてはありがたいことに同じ学級の女子三人組が手伝ってくれるらしい。

穂乃果がスクールアイドルをやるとその三人に話した時ライブをやるときの音響照明は任せてと三人に言われたらしい。

 

「じゃあ音響照明については解決かな? 次は衣装をどうするか話し合おうか」

 

「衣装についてなんだけど実は……」

 

ことりがそう言いながらスケッチブックを取り出し、僕たちにその中の一枚を見せてくる。

そこには穂乃果らしき女の子が桃色の服を着ている姿が描かれており、その女の子の横にステージ衣装と書かれている。

 

「いつかは衣装とかも必要になるかなーって思って考えてたんだ。こんなに早く必要になると思ってはいなかったけど……」

「へえ! 凄いじゃないか! もしかして衣装制作も出来るの?」

「うん! だから衣装は任せてほしいな!」

「じゃあ衣装はことりに任せるってことでいいよね二人とも?」

 

ことりに向けていた僕の視線を二人に向けながら確認を取る。当然了承してくれるはずだろうと思っていたが海未の様子がなにやらおかしい。

なんだかせわしなく動きながらステージ衣装のデザインを盗み見るように時折見ている。

 

「私は勿論賛成だよ! 海未ちゃんも賛成だよね?」

「ことりが衣装を担当するという事に関しては勿論賛成なのですが……その、このスカートの下にスラーっと伸びているものは……」

「足だよ?」

 

ことりは当然だろうといったように答える。

その答えを受けて海未は何やら自分の足をしきりに確認し始める。

 

「大丈夫だよ海未ちゃん! そんなに足太くないよ!」

「ほ、穂乃果に言われたくありません! そういう穂乃果こそ大丈夫なのですか!?」

「……よし、ダイエットだ!」

 

穂乃果は下を向いて自分の足を触って確認した後にこちらを向いて決意したように言った。

男の僕は制服のスカートで慣れてるんじゃないのかと言いたくなるが、それを言うのは野暮だしやはり衣装となると心持も変わってくるのだろう。

そもそも二人とも足太くないと思うのだけれど……

 

「僕は二人とも足細いと思うしスカート似合いそうなんだけどなあ」

「恭介君! そういうことを何気なく言うのはやめてください……」

「きょーくん意外とさらっと言ってくるよね……」

 

僕がスカートを勧めるのは失敗だったんだろうか。なんだか二人とも複雑そうな表情に変わり落ち着きがなくなってしまった。

少しだけ後悔しながらもこのまま流してことりにこの衣装を作ってもらうことにしよう。

 

「とりあえず衣装担当はことりということで! 次に曲について決めちゃおうか」

「あはは……そうだね。ただきょーくんはもう少し自覚して発言したほうが良いと私は思うな」

 

ことりに苦笑いされながら諭される。正直意味が分からなかったが追及して話を長引かせるのも時間が勿体ないし追及はやめておこう。

 

「と、とにかく三人とも作曲出来そうな人は知らないの?」

「私は知らないなあ。そもそも私達って友達のほとんどが共通の友達だから……三人のうち誰か一人だけの友達っていうのも少ないし」

 

まだ複雑そうな表情が抜けきらない穂乃果と海未に代わってことりが応えてくれる。僕にも作曲出来そうな友人はいないしやはりあの赤毛の女の子に頼み込んでみるしかないのかな。

 

「んー……じゃあ正直見込みは薄いけど一人だけ作曲できる人知ってるから頼んでみるよ。それで駄目なら……既存の曲を歌おうか」

「おお! じゃあきょーくんお願い! なんだかんだどうにかなるもんだねえ」

「穂乃果! まだ練習などもあるんですよ!? それに曲も作っていただけるのか分かりませんしまだどうにもなっていません!」

「それにその……グループ名、まだ決まってないよね? どうするの?」

 

『あっ……』

 

ことりの言葉に他三人が思わず声を上げる。

一瞬海未は心配性が過ぎるんじゃないかとさっきは思ったが僕の考えは間違いだったらしい。

残りの昼休みの時間僕たちはグループ名を必死で考える羽目になるのだった。

 

本当にライブ、大丈夫かなあ……?

 

 

 

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